(控訴状は省略。控訴する、というだけの内容のもの。)



平成一二年(ネ)第二一四七号 特許権侵害差止請求控訴事件

第一準備書面   控訴人 フルタ電機株式会社  被控訴人 株式会社親和製作所

 右当事者間の御庁頭書事件につき、控訴人は左記のとおり弁論を準備する。

平成一二年五月二三日

東京高等裁判所第一八民事部御中



 控訴人は本書面において控訴理由を述べる。なお、便宜上、本書面において控訴人を被告、被控訴人を原告と称する。

第一、構成要件充足性

一、原判決は構成要件充足性につき、構成要件Bに関し、被告製品は「環状枠板部の内周縁内に第一回転板を」「クリアランスを介して内嵌めし」という構成を有しないと認定・判断した。

 右認定・判断は正当なもので肯定しうる。

二、しかし、原判決が、被告製品の隙間が、「僅かなクリアランス」に該当し、環状枠板部と第一回転板との位置関係が「略面一の状態である」と認定・判断した点(いずれも構成要件Bに関して)は誤つていると言うべきである。

 その理由は、本件特許発明の作用・効果と被告製品の作用・効果の相違に深く関わるので、後述の均等論成立の要件の「作用効果の同一性」でも触れるが、要点を記すと次のとおり。

1、「僅かなクリアランス」について

 クリアランスとは、原判決が言うような、単に「生海苔が水と共にタンクの外へ流れ出て行くための回転部3の縁部にある幅の狭い開口部」(原判決コ頁)にとどまるものではない。

 言うまでもなく「クリアランス」とは回転板と環状枠板部の間の隙間であるところ、回転板は高速で回転する結果、この回転に伴つて渦とは全く別にクリアランスの延長方向に直線的な水流が発生する。即ち、本件特許発明の明細書図4のような垂直方向のクリアランスの場合は垂直方向に(上方向に)直線的な水流が発生する。これに対し、被告製品のような隙間の場合は(原判決別紙図面参照)、斜め下方に向かつて直線的な水流が発生するのである。

 ところで、本件特許発明が目的とするところは「渦を形成して遠心力により海苔より比重の重い異物を底隅部へ集積させる」点にあるのであるから、回転板の回転によつて海苔より比重の大きい異物を底隅部に集積させるような水の流れを形成する必要があり、かかる水の流れを形成する構造でなければ、本件特許発明の技術的範囲に属しない筈である。

 然るに、被告製品の場合、隙間が斜め下方に向けて形成されているため、回転板の回転により、隙間出口より底板及びタンク底隅部に直接向かう強い水流が発生し、この水流はタンク底隅部の水を上方及びタンク中心部へと逆に送り出す働きをする。

 この結果、被告製品ではタンク全体として水、海苔、異物が完全に混濁した状態で攪拌されていることになり(乙第一号証からもこのことは明らかである)、「比重の大きい異物が底隅部に集積する」ということはおよそあり得ない。

 これに対して、前述の明細書第4図のように垂直方向に隙間がある場合はタンク底隅部へ直接向けられる水流が発生しないため、本件特許発明の作用・効果を奏することが有り得るかもしれないが、それはともかく、右に述べたように被告製品に見られる隙間は比重の大きい異物を底隅部に集積させるような水の流れを妨げるのであるから「クリアランス」に該当しないことは明らかである。

2、「略面一の状態」について

 原判決は「略面一の状態」について「ある程度の高低差があることを妨げるものではなく、環状枠板部と回転板との位置関係が渦の形成を妨げるような構成になつている場合を除外する趣旨であるということができる。」(原判決26頁)としたうえで、被告製品でもタンク内に渦が形成されると認められること等を理由に「略面一の状態」にあると認定・判断している。

 しかしながら、後に均等論に関して述べるとおり、被告製品では水と海苔と異物(比重の大小を問わない)が完全に混濁しており、このことは渦の形成が妨げられたことを意味している。そしてかように渦の形成が妨げられたのは前述した隙間の構造に加えて被告製品の環状枠板部と回転板との位置関係ないし構造が与つて力があつたからに外ならない。

 してみると、原判決の立場に立つとしても被告製品は「略面一の状態」にあるとは言えないことに帰する。

第二、均等論について

一、作用効果の同一性

 原判決は要するに「被告製品は回転により混合液に渦をを形成して、遠心力

により比重の大きい異物は底隅部へ集積させるので本件特許発明と同一の作用効果を奏している」旨説く(原判決36〜38頁)。

 しかし、被告製品は隙間が鉛直方向でなく斜め下方(タンクの底隅部の方向)に向いているため、また回転板と環状枠板部が略面一でないために、渦の形成が妨げられ、水と海苔と異物が完全に混濁した状態になるのである。このことは既に提出した証拠(被告製品作動状況に関するビデオテープ。乙第一号証)により明らかと思われるが、今回新たに被告製品タンク内における異物の分散状態の試験結果を証拠として提出する(乙第二三号証の一乃至四)。

 この実験報告は海水中によく見られる異物を試料として選択し、海苔と共に被告製品タンク内で攪拌し、タンク内部の各箇所における異物の分散状況を統計学的に調べたもので、その結果、タンク内部に万遍なく異物が分散することが判つた(乙第二三号証の一乃至四の内容については追つて証拠説明書で詳しく説明する)。

 このように異物が万遍なくタンク内の混合液内に存在するのは、何より被告製品の隙間が斜め下方を向いており、また回転板と環状枠板部が略面一でないため、タンクの底隅部から中心へ向けて水流が逆流し、渦の形成を妨げる状態が生ずるからに外ならない。

 してみると、この実験結果からも被告製品は本件特許発明とは全く異なる作用効果を奏することが判り、作用効果の同一件という要件に欠けることに帰する。

二、本質的部分について

 原判決は、

「本件特許発明の特許出願当時の技術水準に照らすと、生海苔混合液からゴミ、エビ、アミ等の異物を除去するという、従来技術では十分に達成し得なかつた技術的課題を解決するために、タンクの底部に設けた回転板を駆動手段により回転させて、達心力により海苔よりも比重の大きい異物をタンクの底隅部(なお、底隅部の意義については、前記一2(三)参照)に集結させる一方、回転板と環状枠板部との間の円周状のクリアランスから生海苔をタンクの外部に排出するという構成を採つたことが、従来技術に見られない本件特許発明1に特有の解決手段であるということができる。そうすると、本件特許発明1の中核をなす特徴的部分は、駆動手段により回転する回転板をタンク底部の環状枠板部に僅かなクリアランスを介してはめこんたという構成にあると解するのが相当である。そして、構成要件Bのうち、環状枠板部「内周縁内に」回転板が「内嵌め」されているという、環状枠板部と回転板との具体的な位置関係に関する部分(すなわち、被告製品と構成を異にする部分)は、これを他の構成に置き換えても全体として本件特許発明1の技術的思想と別個のもとと評価されるものではないから、本質的部分には当たらない。」

と説示する(原判決43〜44頁)。

 しかし右一で述べたように、被告製品では隙間が斜め下方を向いていて水流が逆流しており、「略面一」でもなく、さらに原判決も認めるとおり「内嵌め」されていないため、比重の大きい異物が底隅部に集積するということもない。

 そして、本件特許発明の中核をなす特徴的部分とは「比重の大きい異物を底隅部に集積させる作用効果を発揮する」構造に外ならないのであるから、仮にある構造が異なることによりかかる作用効果が発揮できなくなるとすれば右構造は当該特許発明の本質的部分に外ならない。

 してみると、特許請求の範囲に記載された構成中の被告製品と異なる右部分は本質的部分ということになる。

三、容易推考について

原判決は、

「しかしながら、右の証拠によれば、被告が公知であつたと主張する装置(フルタ洗浄機SJ‐6M型機)は海苔の洗浄機であつて、回転板に相当するインペラは単に生海苔混合液を攪拌するだけのものであり、インペラと環状枠板部に相当するインペラケースとの間に環状の隙間があつて、生海苔の一部がこの隙間に滑り込んでいくことはあるものの、右の装置においては、隙間から流れ出た生海苔は、汚水とともに流れ出してしまい商品として使用できず無駄になるというのである(乙五参照)。そうすると、右の装置は、回転板の回転により異物と分離された生海苔を回転板の周囲のクリアランスからタンクの外部に排出させて回収するという、生海苔の異物除去装置に関する技術である本件特許発明1とは、技術思想を全く異にするというべきである。」

と説示する(原判決46〜47頁)。

 しかし、原告が自認するところによると、本件特許発明の中核的核術思想は何より「回転板の環状スリツトを用して海苔を通過させる点」にある。

 そして、公知であつた装置(乙第三〜五、一三〜一七、二二号証)には右技術そのものが用いられているのであるから、当業者が容易に推考できたことは明白である。

証拠方法

乙第二三号証のー 試験結果報告書
乙第二三号証の二 試験結果報告書
乙第二三号証の三 試験結果報告書
乙第二三号証の四 試験結果報告書



平成12年(ネ)第2147号 特許権侵害差止請求控訴事件
   控訴人  フルタ電機株式会社
   被控訴人 株式会社親和製作所

控訴答弁書

平成12年6月12日

被控訴人訴訟代理人弁護士  松 本 直 樹
     同補佐人弁理士  野 末 祐 司

東京高等裁判所 第18民事部 御中

控訴の趣旨に対する答弁

一、本件控訴を棄却する。
二、控訴費用は、控訴人の負担とする。

との判決を求める。

控訴理由に対する反論など

一 遠心力利用に関する控訴人の主張に対して

1 控訴人の主張

 控訴人(フルタ電機)の控訴審第一準備書面の第二の二までの主張は、いずれも、控訴人装置では遠心力を利用していない、との主張を前提ないしは根拠としたものである。

 すなわち、第一の二1でのクリアランスについての議論も、同2の略面一についての議論も、いずれも遠心力利用が無いからこれらの要件に該当しない、というものである。また、第二の一の作用効果同一についての議論は正しく遠心力利用を否定する主張であるし、二の本質的部分についての議論も同旨である。

2 乙第23号証について

 控訴人は、遠心力利用の無いことの証明のために、乙第23号証の1から4を提出している。この文書では、控訴人の装置では異物も均等に混ざってしまっているという実験結果が報告されている。

 しかし、この実験で用いられている異物は、「ヒメハマトビムシ(通称「エビ」)や海草の茎など」であり(それぞれの2.3項の記述)、いずれも軽いものばかりである。これでは遠心力によって分離がされないのは当然である。遠心力による分離は、重いものが外側に動いていくということによってなされるのであるから、軽い異物を分離できるわけがない。

 控訴人装置でも、砂粒、貝、貝殻やその破片など、塩水よりも重い異物であれば遠心力利用による異物分離が出来ている。たとえば、海苔の養殖においては、海苔を着生させるための網に小さな(ミリ単位の大きさの)貝が付着して、刈り取った生海苔にそれが混入する場合があるが、こうしたものは、控訴人装置でも(もちろん被控訴人装置でも)、遠心力によって分離され、スリットに引っかかることもない。

 乙第23号証で使われたような異物も、現実の使用場面において存在するものではあるから、この実験が、遠心力利用による異物分離が完全なものではないことを示していることは確かである(なお、こうした軽い異物については、遠心力での分離はなされないが、極めて微細なもの以外は、スリットを通過しないのでそこで分離される)。しかし、それが本件発明における遠心力利用の限界である。軽い異物が遠心力によっては分離されていないからといって、控訴人の装置が遠心力を利用していないということにならないし、本件発明と違うということでもない。

3 水流の方向など

 控訴人は、装置の中の水流について、スリットの延長方向で外側に向かう水流が生ずるなどという説明をしている。すなわち、「回転板は高速で回転する結果、この回転に伴つて渦とは全く別にクリアランスの延長方向に直線的な水流が発生する。即ち、本件特許発明の明細書図4のような垂直方向のクリアランスの場合は垂直方向に(上方向に)直線的な水流が発生する。これに対し、被告製品のような隙間の場合は(原判決別紙図面参照)、斜め下方に向かつて直線的な水流が発生するのである。」(控訴人第一準備書面の第一の二1)と主張している。

 しかし、そんな事実は存在しないし、存在する道理もない。稼働中の控訴人装置では(本件発明の装置もまったく同じであるが)、回転方向の流れがあり、これに加えては(控訴人の主張とはむしろ逆方向に)スリットから流れ出ていく方向(スリットに向かう方向)の流れが僅かにあるのみである(スリットから良品の海苔と塩水との混合液が出ていくので、後者のよう流れが生ずる)。もっとも、スリットに向かう流れは、流れといっても回転方向の流れに比べて遥かに遅いから、水流として実質的に存在しているのは回転方向の流ればかりである。

 そして、混合液に働く力としては、重力と回転による遠心力とが合成された力が働くのであり(方向は下外側)、これによって重い異物は、底の方にそして外側の方に移動していく。説明図6としてこうした様子を概念的に説明したもの添付した。

4 控訴人の事実に反する主張の理由

 控訴人が右引用のような奇妙な主張をしているのは、本件発明と控訴人装置との相違点は、もっぱらスリットの方向にあるところ(控訴人装置では、回転板がスリットの上に載る構造で、スリットがほぼ水平方向となっている)、それを根拠として遠心力利用が無いとの主張をしたいがためであると見られる。

 実際には、スリットの方向が違うからといって、水流の生じ方にも、遠心力利用の事実にも、意味のある違いはまったく生じない。生じるわけもない。

5 結論

 以上の通り、遠心力利用が無いという控訴人の主張は、事実に反しており、この点で非侵害とする議論は失当である。

二 海苔洗浄機についての主張に対して

 控訴人の今一つの主張は、先行技術から容易推考(故に均等侵害でない)との議論であり、先行技術として海苔洗浄機を根拠とする(控訴人第一準備書面の第二の三)。控訴人は、海苔洗浄機がスリットを利用したものであるという主張を、なおも繰り返している。

 しかし、海苔洗浄機は、基本的に生海苔塩水混合液をかき混ぜるだけのものであって、回転板周辺の円周状スリットを通過させることによって異物を分離するという技術を使ったものではない。原審判決は、この点について正確な理解を示している。

 海苔洗浄機は、家庭用の電気洗濯機の場合とまったく同様に、ただかき混ぜるだけなのである。その場合に、底板と回転翼との間にすき間があるとしても、そこを良品海苔が通過して異物は通過せず、そして異物を除く、というような使い方をしてはいないのであるから、本件発明とはまったく違う。

三 早期審理の必要

 原審判決には、仮執行宣言が付されていたが、これに対しては控訴人の申立により執行停止の裁判がなされた。

 しかし幸いにも、現在は本件装置の需要季ではないため(海苔は冬季に収穫されるため、本件の装置はその前の時季に最も多量に売れる)、販売が積極的になされている状況ではない。だが、控訴審判決が遅くなると、また販売がされることにもなりかねない。

 本件の装置は、業務用に使われるものであるから、それを作って販売している控訴人の行為が侵害行為であると言うだけではなく、控訴人装置の各ユーザー(海苔生産者)も侵害行為をしているものである。控訴人装置の販売は、こうしたユーザーに無用の迷惑を引き起こすことになる。是非に早期に判決を下していただきたい。

以上 



平成12年(ネ)第2147号 特許権侵害差止請求控訴事件
   控訴人  フルタ電機株式会社
   被控訴人 株式会社親和製作所

被控訴人準備書面 (1)

平成12年6月20日
     被控訴人訴訟代理人弁護士 松本直樹
     同補佐人弁理士      野末祐司

東京高等裁判所 第18民事部 御中

一 経過

 被控訴人が控訴答弁書を6月12日付けで送付したところ(その中では、乙第23号証の1〜4の実験は、軽い異物ばかりを使っていて不適切である旨を指摘した)、控訴人は期日の直前になって乙第24〜27号証の各試験報告書を提出してきた(6月18日消印の速達郵便によって写しが送付されてきた; その表紙には「内容: 比重の大きい異物追加」と記されていて控訴答弁書での指摘に応えてのもののように見えるが、しかし各報告書の日付は6月1日となっており、いかなる経過によるのかは不明である)。これらについて被控訴人は以下の通り主張する。

二 報告書の内容

 乙第24〜27号証の各試験報告書では、「比重の大きい異物でもすべての領域に満遍なく分散されていた」と結論しているが、しかし、その実験データ(各報告書の末尾2ページの表とグラフ)を見ると、それなりにきちんと分離がなされているように見える。特に、回転速度が速くて水位が標準の場合(それぞれの試験No.4番)については、「内側」の異物数は乙第24〜27号証のいずれでもゼロであり、明確に分離が出来ている(表の一部は水も無くなっているとの趣旨とも見えるが、底まで水が無い場合があったようには説明されていないので(図1の下には「さらに少ない水位の場合は底のみとなる」とだけ説明されている)、試験No.4番の内側が底についても異物ゼロであるのは、異物が無くなっているとの趣旨と見える)。「すべての領域に満遍なく」というのは、一体どこを見ての結論なのか、謎である。

三 不完全である理由およびそれでも本件発明と同じであること

 それでも、重い異物が最外側だけに集まるというような完全な分離がなされているわけではないのは事実である。特に、回転速度が遅い場合などについては、不完全な分離しかなされていないデータである。

 これは、仮にこの実験データが正直なものだとしても、まず、実験の仕方に難しいものがあるので、不完全になることもあり得るということだと思われる。回転している水流の中へ、ポンプで吸引するための管や異物と海苔を取り上げるための網を入れたりすれば、それだけで水流が乱れてしまう。また、回転を始めてからの時間設定などに問題があることも考えられる。

 そして、元々の本件発明でも、遠心力による分離は、そう完全なものではない。控訴人装置での遠心力利用が不完全であるとしても、それで本件発明と同じというだけのことである。本件発明と控訴人装置との違いは、スリットの方向などだけなのであるから、遠心力利用について違いが無いのが当然である(控訴人はこの点について道理に合わない主張をしてはいるが)。

 本件明細書が遠心力利用をかなり強調した書き方をしているのは、従前主張の通り(原審の原告準備書面(6)の二2)、それが従来技術との関係で特徴的な点だからである。従来装置では異物もすべてスリットに行くしかなかったが、それに比べると、実際、完全には分離できないにしても、本件発明において遠心力利用の果たす役割は小さくない。従来装置では、除去異物はすべてスリットに引っかかることになるが、この状態では、スリットの動きで異物が粉砕されてしまうことがあるなど、不都合が非常に大きいのである。

四 侵害の成立

 本件において、原審がクレーム文言から外れるとし、また控訴人が現在問題としている、控訴人装置のクレームからの相異点は、スリットがほぼ水平方向になっていて、その上に回転板が載るような構造になっている、というだけである。

 右の点以外では、控訴人装置は、本件明細書の開示の通りのものである(ポンプの存在など若干の付加的機構はあるが)。右記のような若干の違いがあるにしても、被告装置でも、まったく同じように遠心力利用が出来て良品海苔がスリットを通過していくのであり、本件発明の内容は回転板円周部のスリットを使った生海苔の異物除去機ということ自体であることに鑑みれば、本件発明の実質的な実施という意味では、まったく「同じこと」である。これが侵害とされるのは当然である。

以上



平成一二年(ネ)第二一四七号特許権侵害差止請求控訴事件(次回期日平成一二年九月五日午後一時一五分)

第二準備書面
   控訴人  フルタ電機株式会社
   被控訴人 株式会社親和製作所

 右当事者間の御庁頭書事件につき、控訴人は左記のとおり弁論を準備する。

平成一二年七月三一日
   控訴人代理人 弁護士 高橋譲二
   同補佐人       竹中一宣

 本書面において、控訴人は従前の主張を補充陳述すると共に被控訴人準備書面(1)に対し反論する。

第一、均等論

一、作用効果の同一性

1、実験結果

 乙第一号証及び二三号証の一乃至二七号証から明かなとおり、控訴人製品においては、タンク内で水、海苔、異物が完全に混濁した状態で攪拌されていることが判る。そして、このことは特に比重の大きい異物に着目して行われた実験結果(乙第二四〜二七号証)においても全く同一で、「海苔より比重の大きい異物が底隅部へ集積する」ということは有り得ないのである。

 この実験結果につき被控訴人は、「内側の異物数がゼ口なので明確に分類ができている」などと疑問を投げかけるが(被控訴人準備書面(1))、異物数がゼロになるのは回転部分の内側(中心付近)が水面上に出てほとんどむき出しになつているからであり、こうしたむき出しになつている様子(特に液位が標準のとき)については乙第二四〜二七号証の、3、試験結果、の各写真を参照されたい。

 いずれにせよ、異物は比重の大小を間わず、海水の中で海苔と完全に混合され万遍なく散らばつていることがこれら実験結果より明かで、「海苔より重い異物が底隅部へ集積する」などということにならない。

2、控訴人製品において異物や海苔が混在する理由

 右1のような実験結果が出る理由につき若干補足説明する。

 ひとつには、クリアランスが斜め下方を向いているため円盤の回転力と遠心力の合成力が斜め下方に向かつて働き、これにより強い水流が斜め下方(夕ンクの底隅部)に向かつて発生するからである(乙第二八号証)。この水流はタンクの底隅部に逆した後、一部は底部において再び回転板中心部に向かう流れとなり、一部はタンク外壁をつたつて上部に向かい、水面上部を経て回転部中央部へと逆流する。

 即ち、斜め下方のクリアランスの存在により、遠心力方向とは逆向きにタンク内の水を激しく攪拌する水流が発生するのである。

 もうひとつは、控訴人製品が「略面一」でなく、回転板の外側周縁部が環状枠板部よりかなり高くなつており、断面図で見ると(乙第二八号証2頁の図参照)、段差の部分が生じていることが原因である。

 このような段差があると「回転力」が発生する(乙第二八号証)。この回転力と遠心力の合成により遠心力よりはるかに強い合成力が発生し、言わばタンクの外側に向かつて叩きつけられるような水流が生じる(乙第「二、二八号証)。

 この水流はタンク外壁に向かつた後、殆どが外壁に沿つて上昇し、その後、水の表面部を経て回転部中央へと述流する流れとなる(乙第二八号証)。

 以上二種類の水流の作用により達心力による水の流れとは全く逆の水流がタンク内部全体において発生し、水も海苔も異物も攪拌され完全に混在する状況が発生するのである。

 なお、控訴人製品は異物と海苔が完全に混濁した海水の中から海苔を採取するために回転板下方に吸込み用ポンプを設け、回転板と底板との隙間から海水と海苔を強制的に吸い込む手段を採用している(この際、隙間より小さい異物も比重の大小を間わず海苔と共に通り抜けるため、後の製造過程で選別する必要が生ずる。乙第二二号証)。

 そして、前述したように隙間より大きな異物は比重の大小にかかわらずタンク内の海水中を攪拌されながらあちこちに絶えず移動を繰り返しており、底隅部に集積することは一切ない。

 そして、ポンプによる海苔の吸い込み作業が一段落すると、海水中には主に異物のみが残るので(吸い込めなかつた海苔も一部残る)、この段階で初めて排水口を間いて右残つた海水を流すのである。

 つまり、控訴人製品は運続運転することができない。控訴人製品は一定量の海水を溜めて右作業を行い、海苔と海水(それに小さな異物)をひととおり吸い込んだ後、残つた海水を排水口から捨ててひとつの作業サイクルを終える(被控訴人製品も同じである)。排水口を間いたままで、つまり、海水を供給しながら運続運転すると海苔は殆ど排水口から流れ出してしまう。従つて、この点に関する被控訴人代理人の説明(平成一二年六月二〇日口頭弁論期日における発言)は誤つている。

 従つて、控訴人製品は「異物と海苔の比重の違い」によつて異物と海苔と選別する作用効果を些かも営むものではなく、「隙間より大きな異物は隙間を通さない」ことにより大きな異物を排除しようとするもので、従来被術と全く同じ作用効果を営むものである(原審での被告主張、提出証拠も参照されたい)。

3、作用効果は異なる

 右のとおりであるから、控訴人製品の作用効果は本件特許発明のそれと全く異なり、ひいては均等が成立しない。

4、不完全利用発明論に対する反論

(一) 被控訴人は「控訴人製品の作用効果は本件特許発明に比して劣つているに過ぎない」「遠心力を生じさせることが本件特許発明の本質である」旨主張して、例え作用効果が異なつても不完全利用発明に過ぎない旨主張する。

 しかし、被控訴人の右主張は確立された、均等論ないし不完全利用発明に関する判例及び学説に真つ向から反するもので、到底採用に値しない。

(二) まず、「控訴人製品の作用効果が劣つている」という被控訴人主張は全く事実に反する。繰り返し述べたように、控訴人製品の作用効果は「比重の違いを利用して海苔と異物を分け、重い異物を底隅部に集積させる」ものでは断じてない。それとは全く異なり、タンタ内に海苔を一定量溜めて完全に攪拌してしまい、異物と隙間の大きさの違いを利用して異物を分ける作用効果を営むのである(水流の動きについては前述したとおり)。

 従つて、控訴人製品と本件特許発明の作用効果は全くその内容と性質が根本的に異なつており、「本件特許発明と同じ作用効果を挙げようと試みながらそれに届かない」などというものでは断じてない。そもそも比較のしようがなく、劣つている云々を論ずること自体が見当件れと言うべきである。

(三) 次に被控訴人は不完全利用発明の意義を誤つて論じている。

 即ち、不完全利用発明とは省略発明又は改悪発明とも言われ、構成要件の一部を省略又は置換して、効果を充分に発揮できない場合に特許発明と均等であるとするものであるが、これを否定するのが判例の大勢なのである(東京地判昭五八・五・二五無体集一五巻二号三九六頁「ドアヒンジ事件」等。特許法概説第二二版五三二〜五三五頁参照)。

 しかも不完全利用発明の成立の可能性を示唆する判例も、あるいは「重要性の少ない事項を省略し、または有害事項を付加することによつて侵害を免れようとする一態様を指す」(名古屋地決昭五五・七・一六)とし、あるいは「発明の構成に欠くことのできない事項を比較的重要でないとなどと主張することは許されない」(前述「ドアヒンジ事件」)とし、あるいは「主要な作用効果が異なる以上認められない」旨判示するなどして重要な構成要件ないしは作用効果が異なる以上適用はない旨述べている(東京高判昭五九・四・二五「ドアノブ飾り事件」)。

 そして、中山信弘教授も「置換の場合も不完全利用発明の一種として認めてよいが、均等論の要件を満たすことが必要であることは言うまでもない」と述べて(工業所有権法上特許法第二版増補版三九八頁)、作用効果の同一性を要求している。

 然るに本件では、控訴人製品と本件特許発明はその作用効果が本質的に異なるばかりか、かかる作用効果の相違を生み出す本質的な構造、即ち回転板と環状枠板部の構造、位置間係、隙間(クリアランス)の構造も全く異なつているのであるから、およそ不完全利用発明が認められる余地もないと言うべきである。

二、本質的部分

 この点については従前控訴人が主張したとおりであるが、控訴人製品の作用効果が本件特許発明と異なること及びその原因が特許請求の範囲に記載された構成中の控訴人製品と異なる部分にあることが明白になつた以上、控訴人主張の正しさが裏付けられたと言える。

第二、構成要件充足性

一、「僅かなクリアランス」

 「僅かなクリアランス」とは単に回転板と環状枠板部との間の狭い隙間であれば足りるというものではない。

 控訴人製品のように斜め下方に(底隅部に向かつて)隙間が設けられていると、底隅部に向かう強い水流が発生し、渦の形成を妨げ、底隅部に比重の大きい異物が集まるのを妨げて、本件特許発明が目的とする作用効果を到底奏し得ない(乙第「二、二三号証のー〜二七号証)。

 だからこそ、被控訴人も明細書中の図面においてあえてクリアランスの向きを垂直方向としたものである。

 従つて、「僅かなクリアランス」の技術的意義についても右の点を考慮すべきであり、控訴人製品の隙間はこれに該らないことになる。

二、「略面一の状態」

 原判決も認めるとおり、環状枠板部と回転板との位置関係が渦の形成を妨げるような構成は「略面一の状態」から除外されるところ、証拠(乙第三二、二三号証の一〜二八号証)から明らかなように、控訴人製品の回転板の外側周縁部に垂直方向に段差があるために、達心力に加えて回転力が発生し、これらの合成により強い合成力が生じ、これを原因とする強い水流が発生してタンク

外壁に衝突し、上方向、ひいては水の表面部での中心方向への逆向きの水流が発生して、遠心力による渦の形成を妨げ、これにより海苔と異物が比重の大小とは無関係に海水中で混在し混濁しているのである。

 従つて、控訴人製品の環状枠板部と回転板の位置関係は渦の形成を妨げる構造に外ならず、「略面一の伏態」とは言えないことに帰する。

第三、権利無効

 本件特許発明の特許請求の範囲は、その内容がその発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が実施できるように記載されておらず、特許法第三六条四項又は六項に達反してなされた特許で無効理由が有する。

 控訴人は平成一二年七月二七日、右理由により控訴人を審判請求人、被控訴人を審判被請求人とする無効審判を請求し、現在、特許庁において無効審判が係属中である。

証拠方法

乙第二八号証 報告書
乙第二九号証 無効審判請求書



平成一二年(ネ)第二一四七号特許権侵害差止請求控訴事件(次回期日平成一二年九月五日午後一時一五分)

証拠説明書
   控訴人  フルタ電機株式会性
   被控訴人 株式会性親和製作所

 右当事者間の御庁頭書事件につき、控訴人は提出証拠につき左記のとおり説明する。

平成一二年七月三一日

   控訴人代理人 弁護士 高橋譲二
   同補佐人       竹中一宣

東京高等裁判所第一八民事部御中



乙第二八号証 報告書
 作成者  乙第二三号証の一に同じ。
 立証趣旨 乙第二三号証の一に同じ,

乙第二九号証 無効審判請求書
 作成者  控訴人補佐人 弁理士 竹中一宣
 立証趣旨 本件特許発明に無効理由が存する事実。



平成12年(ネ)第2147号 特許権侵害差止請求控訴事件
   控訴人  フルタ電機株式会社
   被控訴人 株式会社親和製作所

被控訴人準備書面 (2)

平成12年8月31日
     被控訴人訴訟代理人弁護士 松本直樹
     同補佐人弁理士      野末祐司

東京高等裁判所 第18民事部 御中

一 遠心力利用分離について

1 控訴人の主張と甲第26号証のビデオ

 控訴人(被告)は、被告装置では、重い異物を含めて「完全に混濁した状態」(控訴人第二準備書面2頁7行目)になるものと主張し、それを示すと称する証拠文書を提出している。

 しかし、そんなことはあり得ない。比重が水と同程度のもの(海藻などの異物や生海苔)については、完全に混濁した状態となるのは当然であるが、重い異物については、底の方に沈みまた回転流に伴う遠心力によって外周部に移動される。この様子は、甲第26号証のビデオを見れば一目瞭然である。

2 乱流はあり得るが...

 被控訴人(原告)も、被告装置(控訴人の装置)において上下方向や半径方向に多少の乱流が生ずることまでも否定するものではない(そうした乱流は、本件明細書の装置でも原告装置でも生じる)。しかし、それはあくまでも乱流という範囲のことであり、主要なのは回転流である。円盤の回転によって生ずる流れなのであるから、これは当然のことである。控訴人の主張のように、「タンクの外側に向かって叩きつけられるような水流」(控訴人第二準備書面4頁11行目)という程のものが生ずることなど、あるわけがない。乙第28号証(前田技術士のレポート)の図1では、スリットから噴流が吹き出しているが、スリットからは良品海苔が出ていくのであり(図の噴流とは逆向きである)、この図のような噴流などあり得ない(添付の被控訴人(原告)説明図7参照)。

 そして、回転流の中では、重い異物は、遠心力によって底の外周部に移動することになる。

3 被告装置も本件発明のとおりの働きをしている

 被告装置も、甲第26号証のビデオに見る通り、重い異物については遠心力利用による分離を行っており、この点でも本件発明の通りの作用効果を成就していることがわかる(回転板円周の動的スリットにより、異物を通過させない狭いスリットであるにもかかわらず、海苔が詰まりにくい、というのが本件発明のより主要な作用効果であるが、被告装置もその点ももちろん成就している)。まったく同様の働きをしているのであり、これが均等侵害とされるのは当然である。

二 吸引ポンプの役割

 甲第26号証のビデオの後半では、被告装置における吸引ポンプの働きについて確認する実験を行った。すなわち、吸引ポンプは補助として働いているものである(作業能率向上のための補助)。基本的には、タンク内に水がたまることにより、タンクの底付近に存在するスリットの部分には圧力がかかることになり、このためにスリットを通過して塩水と海苔が出てくる、というものである(この際に、円盤の回転によりスリットが動的なものとなっているがため、スリットが細いにもかかわらず海苔が詰まりにくいというのが本件発明の特徴である)。

 これが本件明細書で開示されているところであり、また被告装置でも実践されている。甲第26号証のビデオの後半の実験で示されているように、被告装置においては、吸引ポンプが無くても、良品海苔と塩水がスリットを経由して出てくる(タンク中の水位がもっと低ければ、出にくくはなるが、それは当たり前のことである)。被告装置では、これを吸引ポンプで助けており、作業能率を改善している。そのような付加があることは事実であるが、そのために本件発明の技術的範囲から外れることがないのは当然である。

 なお、吸引ポンプを付加することは、被控訴人が原告装置(被控訴人の装置)において既に行っていたことであり、それをOEM供給されていた控訴人が模倣したものである(訴状の八項(9頁)など参照)。

三 運転の仕方

 控訴人は、本件発明の装置の運転について、被告装置の場合を含めて、異物排出の関係では断続的な運転をする旨の説明をしているが(控訴人第二準備書面6頁)、これで正しい。被控訴人代理人も、第1回期日の際に、口頭でこの旨の説明をした。

 ただし、口頭での説明の際には、或る程度連続的な運転をするという言い方をしたのも事実である。それは、次のような意味である(この旨の説明もきちんと補足していたはずである)。スリット経由で下から良品海苔を(塩水とともに)取り出しながら、同時に上からは未処理の海苔塩水混合液(異物を含むもの)を投入する(液面センサーによって投入を制御して、タンク内の量を一定に保つ)。この投入と取り出しは並行して行われ、その限りで処理は連続的になされる(タンク1杯分で処理を必ず中断するというわけではない)。

 この処理の間は、異物排出口は閉じており、異物はタンク内にたまっていくばかりということになる。重い異物は底外周部に(さらには排出口の部分に落ち込んだ形で)たまり、軽い異物はスリットのところにかかる形でたまる。そこで、一定時間処理したところで、たまった異物を廃棄するために異物排出口を開き、タンク内の洗浄および異物廃棄を行う。

 右の「一定時間」(洗浄を行うまでの時間間隔)は、状況により、またユーザーの方針により変わってくる。異物が多い場合には短くせざるを得ない。また特に品質を重視する場合にも短めの運転となる(タンク内に余りたくさん異物がたまった状態では、まれにはスリットを通り抜けてしまうこともあり得るからである)。逆に運転効率を重視する場合には、長めになる。短い場合には2分程度で洗浄運転に入るし、長い場合には10分以上(場合によっては数十分)、連続して処理をすることもあり得る。

四 不完全利用論について

 控訴人は、不完全利用についての議論をしているが、まったく失当である。被控訴人は、不完全利用の主張などしていない(控訴人第二準備書面7頁10行目以下にカギ括弧づけで記載されているような文章は、被控訴人の主張には無い; 控訴人の表記は、基本的なルールに違反している)。

 被控訴人は単に、被告装置における遠心力による異物分離は不完全なものであろうが、そもそも本件発明の遠心力異物分離は不完全なものであり(小さな異物は分離できないなど)、被告装置でも本件クレームの文言通りの装置のとまったく同じように機能している、と主張しているのである。

 控訴人の言うような不完全利用論は、被告装置が本件クレームとの相異点の故に、本件発明の機能を不完全にしか発揮しない、という場合に初めて妥当する。しかし本件では、相異点はスリットの構成の微差にすぎず、本件発明の機能はこれによっていささかも妨げられない。すなわち、被告装置のほぼ水平方向のスリットであっても、遠心力利用での異物分離の点でも、動的であるが故に海苔が詰まりにくいと言う点でも、本件クレームの文言通りのスリットとまったく同様に機能を発揮する(控訴人は、遠心力利用の点について違う主張をするが、事実に反すること、右一で説明したとおりである)。前者については、遠心力と反対向きに良品海苔を取り出すことになるので、むしろ望ましい可能性すらある。したがって、不完全利用論の当てはまる場面ではない。

五 無効主張に対して

 控訴人は、本件特許が無効であるとして、その理由としては「特許請求の範囲」が「実施できるように記載されて」いない、と主張している(控訴人第二準備書面13頁)。

 こんな要件は特許法に無い。まず、控訴人が指摘する特許法36条4項は、「詳細な説明」について、「その実施をすることができる程度に明確かつ十分に、記載しなければならない。」と規定するものである。本件明細書の詳細な説明は、当業者が実施可能な程度に明確かつ十分なものである。

 また、控訴人が今一つ指摘するのは特許法36条6項であるが、本件明細書のクレームは、本件発明を特定するに十分な記載となっており、特許法36条6項に合致したものである。むしろ、クレームの記載としては素直に過ぎたがために、均等侵害論が必要となっている状況である。

 本件特許はもちろん有効である。

六 まとめ

 本件発明は、回転板式の生海苔の異物除去機というところ自体にその実質がある。これに類する先行技術がまったく無いのである。先行技術は、せいぜいローラー式の異物除去機くらいであり、回転板の円周のスリットを利用するという事自体が本件発明の内容なのである。控訴人は、洗浄機を先行技術と主張するが、洗浄機と本件発明とでは、およそ大きな違いがある。

 被告装置は、本件発明を、基本的に本件明細書の通りに実施したものである。ただ、スリットの構成の細部が違っているがために、地裁判決では、クレームの文言どおりではないとされた。しかしそれでも、均等侵害が認められた。本件発明はスリットの構成の細部を以て発明としたものではなくて、もっと根本的なものであり、被告装置は、その「異なる部分」にかかわらず、本件発明の実質内容をそのままに実施しその開示の通りに機能を果たすものであるから、被告装置が侵害にあたるのは当然である。

 地裁の差止判決を維持する控訴審判決を迅速に下していただきたい。

証拠方法

 甲第26号証 被告装置で遠心力利用の異物分離が出来ていることと、吸引ポンプは補助であることを示すビデオ(撮影者は被控訴人従業員の幸田、ナレーションは同役員の窪前孝一、時間はおよそ8分30秒)

 甲第26号証の2 右ビデオのナレーションの録取書(被控訴人代理人・松本直樹)
 右の証拠方法の写しを添付する。 

以上 



平成一二年(ネ)第二一四七号特許権侵害差止請求控訴事件(次回期日平成一二年九月五日午後一時一五分)

第三準備書面

   控訴人  フルタ電機株式会社
   被控訴人 株式会社親和製作所

 右当事者間の御庁頭書事件につき、控訴人は左記のとおり弁論を準備する。

平成一二年九月五日

  控訴人代理人弁選士 高橋譲二(印)
  同補佐人      竹中一宣(代印)
集京高等裁判所第一八民事部御中



一、今回、被控訴人は甲第二六号証を提出して「重い異物が底隅部に集権している」
旨立証しようとしている。しかし、甲第二六号証の証拠価値には以下のような疑問がある。

1、異物は底隅部に集まっていない。

 甲第二六号証を見てもこのような事実は認められない。なるほど、タンク内外周部の水中に赤い異物が多く含まれているかのように見えるが、それは単に外側のほうが内側より水位が深く、それだけ異物の絶対量が多いため赤く見えるというに過ぎない。甲第二六号証では、最初、円盤部分が殆ど露出する程度に水位を低めに設定しているので外周部に異物が多く見えるのはむしろ当然である。

 また、甲第二六号証によると、「異物と異なり海苔は全体的に分散している」とのことであるが、これは海苔と共に海水を追加したため当初の異物のみの状態より水位が上がり、回転盤上方も海水に覆われたために当然海苔も散見されるようになったものである。このとき当然異物も海水中に全体的に分散・混濁しており、被控訴人の言うように、「海苔のみが全体的に分散している」ものではない。

2、甲第二六号証にはデータが報告されていない。

 何より甲第二六号証の証拠価値を疑わせる決定的な事実は、被控訴人が控訴人の実験結果のように、外側と内側における異物の個数を何らサンプル調査しておらず、従って、被控訴人の右主張を裏付けるデータは何ひとつないということである。

 被控訴人としてはあえて甲第二六号証のような実験を行っている以上、一挙手一投足の労を借しまなければ異物の個数に関するデータは得られた筈である。にもかかわらず、データを得ていない(あるいはデータを得たにもかかわらず控訴人と同じ結果となったためにあえて明らかにしていないことも考えられる)事実は控訴人の報告した実験結果(乙第二五号証の一〜乙第二八号証)が正しいことの何よりの証左である。

3、甲第二六号証は控訴人製品の機能を表したものではない。

 乙第三〇号証にあるように、甲第二六号証は「わざと回転散を極端に落として」「通常異物としては考えられない砂を用いて」「生海苔とは全く異なる乾海苔を用いている」ことからして、控訴人製品の作動状況、機能を正確に表してるとは言えないものである。

二、被控訴人反論への再反論

 被控訴人は、甲第二六号証を引用して「遠心力により異物は外側に集まる」旨主張する。しかし、甲第二六号証が被控訴人主張を支える証拠足り得ないことは前述したとおりである。

 また、被控訴人は「隙間の方向に水流は生じない。そうだとすれば隙間を通じて水を吸い込むということと反する」旨述べるが、控訴人主張を完全に誤解・曲解している。控訴人は「円盤の回転により円盤の回転力と遠心力の合成力が斜め下方に働き、これにより水流が発生する」と言っているのであって、「隙間を通じて水がタンク内へ逆流する」などとは言つていない。

 また、控訴人は準備書面中の図を用いて「隙間から底部まで高さはせいぜい一○ミリ」などと言うが、実際は一八ミリある(乙第三〇、三一号証)。しかも底部の幅は三四ミリに過ぎない(乙第三〇、三一号証)。従って、控訴人製品の底部は「狭く、深い」ため、海水を攪拌するような中心部へ向かっての水流が発生するのである。

 さらに吸引ポンプが「補助である」(甲第二六号証の二)との主張も誤っている。そもそも甲第二六号証で用いた微小な乾海苔とは異なり、生海苔が自然落下することは有り得ない。控訴人製品のタンク内の海水中では生海苔も異物も激しく攪拌されていて、吸い込みポンプをなくしては分離させることは不可能なのである。

証拠方法

乙第三〇号証 報告書
乙第三一号証 控訴人製品図面(抜枠)

(控訴審弁論は以上ですべて。)