H14. 4.25 東京地裁 平成13(ワ)14954 特許権 民事訴訟事件

平成13年(ワ)第14954号 損害賠償請求事件
口頭弁論終結の日 平成14年1月28日
           判        決
           原      告    株式会社親和製作所
           訴訟代理人弁護士  松  本  直  樹
           被      告  フルタ電機株式会社
           訴訟代理人弁護士  太  田  耕  治
                 主        文
       1 被告は,原告に対し,4億2109万円及びこれに対するうち1億6853万円については平成11年4月1日から,うち1億9095万円については平成12年4月1日から,うち6161万円については平成13年4月1日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

       2 原告のその余の請求を棄却する。
       3 訴訟費用は被告の負担とする。
       4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
           事実及び理由
第1 原告の請求
 1 被告は,原告に対し,4億2880万2000円及びこれに対するうち1億6855万3000円については平成11年4月1日から,うち1億9525万円については同12年4月1日から,うち6499万9000円については同13年4月1日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 2 訴訟費用は被告の負担とする。
 3 仮執行宣言
第2 事案の概要
     本件は,生海苔の異物分離除去装置に係る特許権を有している原告が,被告に対し,被告の製造販売する海苔異物除去機が原告の特許権を侵害するとして損害賠償の支払を求めている事案である。

 1 当事者間に争いのない事実
   (1) 原告は,次の特許権を有している(以下「本件特許権」といい,この特許権に係る発明を「本件特許発明」という。)。
       特許番号 第2662538号
       発明の名称 生海苔の異物分離除去装置
       出願年月日 平成6年11月24日
       出願番号 特願平6−315896
       登録年月日 平成9年6月20日
   (2) 被告は,別紙物件目録1及び2記載の海苔異物除去機(商品名「ダストール」。以下「被告商品」という。)を製造販売していた。
     原告が損害賠償を請求している期間に当たる平成10年秋から平成13年3月までの間の被告商品の販売台数は,別紙被告商品販売数量年度別一覧表(甲6)記載のとおりであり,合計すると534台となる。
   (3) 原告は,被告商品が本件特許発明の特許請求の範囲に記載された構成要件を文言上充足するか又はこれと均等であることを理由に,その技術的範囲に属すると主張して,本件特許権に基づき製造販売行為の差止め等を求める訴訟(以下,単に「前訴」という。)を提起したところ,東京地方裁判所は,平成12年3月23日,被告商品は本件特許発明と均等の範囲に属するとして,被告商品の製造販売の差止め及び廃棄を命じる旨の判決をした(東京地方裁判所平成10年(ワ)第11453号事件)。

     この判決は,東京高等裁判所の控訴棄却判決(平成12年(ネ)第2147号。平成12年10月26日言渡),最高裁判所の上告不受理決定(平成13年(受)第221号。平成13年4月11日付け)を経て確定した。
     したがって,原告が被告に対し本件特許権の侵害に基づき被告商品の製造販売の差止請求権を有することは,既判力をもって確定されている(なお,本件訴訟においては,被告も,被告商品が本件特許権を侵害すること自体は争っていない。)。
   (4)  原告は,「CF−36」及び「CFW−36」という型番の海苔異物除去機(以下「原告商品」という。)を製造販売している。
 2 争点
   (1) 原告商品は,特許法102条1項本文にいう「特許権者又は専用実施権者がその侵害の行為がなければ販売することができた物」に該当するか。(争点1)

   (2) 本件において,特許権者である原告が「譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を販売することができないとする事情」(特許法102条1項ただし書)が認められるか。(争点2)
   (3) 本件の被告に侵害行為についての過失の推定(特許法103条)を覆す事情が認められるか。(争点3)
   (4)  原告の本訴請求は信義則に反し許されないか。仮にそうでないとしても,信義則を考慮して損害賠償の額を減額すべきか。(争点4)
   (5) 原告の損害額(争点5)
 3 争点に関する当事者の主張
   (1) 争点1(特許法102条1項本文の適用の有無)について
     【原告の主張】
     ア 特許法102条1項について
       特許法102条1項を適用するためには,原告の販売する商品が「特許権者又は専用実施権者がその侵害の行為がなければ販売することができた物」に当たることが必要なのであって,それ自体が実施品である必要はないと解される。被告商品と原告商品は,まさに代替的な品物であって(後記のとおり,被告は,原告商品のOEM供給を受けることの代替として被告商品を開発したものである。),原告商品がここにいう「販売することができた物」に該当することは明白であるが,念のため,実施品であることについても付言すれば,次のとおりである。

     イ 遠心力分離について
       原告商品においては,遠心力によってすべての異物が除去されるような完全な遠心力分離が達成されているわけではない。ただし,このことは原告商品ばかりでなく,本件特許発明に係る明細書(本判決末尾添付。以下「本件明細書」という。)の実施例でもそうであるし,また被告商品でも同様である。回転流に乱れが生じることなどから,完全に異物を分離できるわけではない。
       しかし,それでも,すべての異物がクリアランスのところまで行くわけではなくある程度は除かれるという点で,遠心力の働きは十分に意義のあるものとなっている。それが本件特許発明の遠心力利用なのであり,原告商品はもちろんこれを行っているから,実施品である。
     ウ 詰まり除去について
       原告商品は,回転板の回転に伴うクリアランス部の横滑りの動きによって,生海苔が詰まりにくくなっているものである。これは本件明細書の説明しているとおりの働きである。

       被告はこれを争い,詰まりが解決されているのは「爪片」の働きによると主張し,またこの爪片は後記の甲の特許の対象だというが,事実に反する。原告商品の相当数に「爪片」が備えられているのは事実であるが(全数がこれを付けているわけではないが,相当数は,回転板の円周近くにクリアランスを横切るような形で,対向部分に接することはなく,爪片状のカッターが備えられている),これは,海苔の一部に厚くなったところのあるものがクリアランスに引っかかった場合に,それを切断するためのものである。爪片状カッターはその場合にだけ働く。基本的にクリアランスを通過させるのは,回転板の回転による横滑りの動きであり,爪片状カッターは無関係である。  
     【被告の主張】
     ア 特許法102条1項について
       原告商品は,遠心力分離の効果がなく,また,回転板の回転によっては詰まり除去の効果を達成することができないので,本件特許の実施品ではなく,特許法102条1項本文にいう「特許権者又は専用実施権者がその侵害の行為がなければ販売することができた物」に該当しない。

     イ 遠心力分離について
       原告商品には遠心力分離の効果,少なくとも産業上機械の特色として認識できるような比重の大きい異物をクリアランス直上から除去できるような効果は認められない。
       遠心力によって比重の大きい異物が外側に集まるということは一見するとありそうなことであるが,事実としては原告商品でも被告商品においても認められない。その理由としては,回転が速いこと,渦の発生源となっている回転板の外側部と混合液タンクの外側との距離が近いため,水流は外壁に当たって跳ね返ること,液中の生海苔がその形状や大小により不安定な動きをし,それによって比重の大きい異物も不安定に動くこと等が考えられる。回転のスピードを極端に遅くし,長時間回転させればあるいは遠心力分離の効果が生じるかもしれないが,原告商品の通常使用回転速度では,渦はむしろ乱流となるのであり,比重の大きい異物をも中心方向に跳ね返すことになる。

       他方,もし遠心力分離の効果が働くのであれば,比重の小さな異物は相対的にクリアランスの内側に集まることになるが,原告商品では,クリアランスを通過できないクリアランスの幅より大きく比重が生海苔よりも小さい異物がクリアランスの内側に集積するという現象も認められない。
     ウ 詰まり除去について
       原告の主張によれば,原告商品は本件特許権を実施しているのであるから,生海苔は詰まりにくいはずであるが,現実にはクリアランスを清掃する別の部材によって詰まりを除去しているのであり,それがなければ詰まりを解決できない。
       原告商品において詰まり除去が達成されているのは,本件特許発明とは関係のない「爪片による強制清掃」の結果である。すなわち,原告商品では,クリアランスに爪が設置されており,その爪片によって詰まった生海苔が除去される仕組みになっている。

   (2) 争点2(特許法102条1項ただし書の事情の有無)について
     【被告の主張】
     ア 原告商品は第三者の有する特許権を侵害すること
       甲は,別紙特許権目録記載の特許権を有しているが,原告商品は甲の特許権(特許番号3032862号。以下「X特許」という。)の請求項1,2及び5,特許権(特許番号3120319号。以下「Y特許」という。)の請求項1,特許権(特許番号2617861号。以下「Z特許」という。)の請求項1を侵害するものであるから,別紙特許権目録記載の警告日ないし登録日以降は,これを製造販売することができなかった。
     イ 原告の製造能力について
       原告と被告との間には後記のとおりOEM供給契約が締結されていたが,平成10年1月,原告は,被告に対し,平成10年のシーズン(同年11月から翌年の3月までの海苔シーズンを指す。以下同じ)については50台しか供給できない旨を通知してきた。この状態は,平成11年,同12年のシーズンについても同じであり,原告は50台分を超えて逸失利益を主張することは許されない。

       なお,原告の平成9年のシーズンにおける原告商品の製造実績は50台以下であり,客観的にも被告の製造台数分を自ら製造する能力はなかった。
     ウ 原告の販売能力について
       原・被告間ではOEM供給契約に先立つ合意により,販売地域について原告は愛知県,被告は九州,四国,東北においてそれぞれ独占的に販売し,競合する地域については話合いをすることとされていた。
       したがって,原告が被告が平成10年のシーズン以降に販売した台数を自ら販売しようとするならば,被告の販売地域である東北地区,瀬戸内地区,九州地区について販売店網を整備しなければならないが,それは簡単なことではないから,原告が被告の販売台数を自ら販売することは困難である。
       特に,異物除去機は海苔の生体としての特殊性により使用上のトラブルの多い機械であるため,販売に際しては後日のメンテナンスを確実に行うことができる人的態勢を確保しなければならないが,原告にはメンテナンス要員が4,5名しかいなかったから,被告の販売分をメンテナンス要員を確保しつつ販売することはできなかった。

     エ 被告商品の方が原告商品よりも優れていること
       被告の販売台数は,被告商品の優秀さに起因するから,原告商品をもっては代替できない。
       すなわち,被告商品の回転板はお椀を伏せた形になっており,ネジの原理を利用し簡単な操作で回転板を上下させることによってクリアランスの幅を広くし,あるいは狭くすることができる。これに対し,原告商品ではクリアランスの幅を変更するためには,直径の異なる回転板を多数枚保有する必要があり,かつ回転板交換の作業を行う必要がある。
       さらに,原告商品の場合,生海苔や異物がクリアランスに詰まって回転板が停止するという事故が発生しやすい。それはクリアランスの幅を簡単に変えられないので,生海苔の性状とクリアランスの幅が合致しないということが起こりやすいからである。これに対し,被告商品では,回転板がお椀を伏せた形になっており,クリアランスが水平方向であるため,生海苔が詰まった場合でも回転板を取り外すことなくこれを取り除くことができて便利である。

       以上のとおり,被告商品は特有の長所に着目して需要者により購入されたものであり,原告商品をもって代替することはできない。
     オ 異物除去機の販路拡大における原告の寄与について
       海苔異物除去機の普及については,被告や渡邊機開工業株式会社の努力が大であり,原告の寄与は極めて少ないものであった。もし,被告や渡邊機開工業が異物除去機の販売に参加していなければ,異物除去機の総販売量そのものが低下していたはずであり,原告が被告の販売した台数を販売できたことにはならないといえる。
     カ  他の競合品の存在について
       平成10年のシーズンにおいて,異物除去機を製造販売していたのは,原告,被告,渡邊機開工業が中心であり,ほかに金丸式,釘崎式,第一製網式,韓国からの輸入品といった商品があった。

       平成9年のシーズンにおける異物除去機の総販売台数は約555台と想定されるが,そのうち原告の販売台数は約50台であり,約9%の割合であった。
       したがって,仮に,被告が平成10年のシーズン以降に異物除去機の製造販売を行わなかったとしても,被告による販売数量は被告を除く他のメーカーによって配分されることになり,原告が販売できた台数もごくわずかな数量にとどまっていたはずである。
     【原告の主張】
     ア 甲の特許との関係について
       被告は,甲の3件の特許権を侵害することを理由に原告商品は販売不能であると主張するが,原告商品はこれらの特許権を侵害しない。
     イ 原告の製造能力について
       原告は,被告に対して50台以上の供給を拒否したことはなく,十分な製造能力を有していた。被告の主張は事実に反する。

       なお,平成9年のシーズンにおいても,原告は被告へのOEM供給を含めて合計66台の異物除去機を販売していた。
     ウ 原告の販売能力について
         被告は,異物除去機は使用上のトラブルが多いので販売のためには大量のメンテナンス要員の確保が必要となると主張する。確かに,一定の要員を確保することは必要であるが,特別に大量というものではなく,確保は十分に可能である。
       実際にも,原告では,被告が主張するような大変なメンテナンスなどが必要とはなっていない。
     エ 原告商品は被告商品より総合的にみて優秀であること
       被告は,被告商品が大量に売れたのはそれが特に優秀であったためであると主張するが,事実に反する。被告商品は本件特許発明の実施品として当然の能力を有してはいるが,それ以上のものではない。被告商品には,クリアランスの幅の調整ができて一見優れているように見える点があるのは事実であるが,それは同時に幅の不安定をもたらすなどしており,総合的には決して優秀ではない。むしろ,原告商品の方が回転板を取り替えることでずっと簡単にクリアランスの大きさを変更することができる。

     オ 異物除去機の販路拡大と本件特許発明の関係について
       海苔異物除去機は平成4年ころから販売されていたが,平成10年ころまではあまり売れていなかった。それが,平成10年以降急速に普及するようになったが,その普及した商品は実質上すべてが本件特許発明の実施品である。現在では,有力な海苔生産業者の大半は,本件特許発明の実施品(原告商品,被告商品及び渡邊機開工業の商品)のいずれかを既に購入している。これは,本件特許発明が需要者の要望に応えるものであったためである。被告などによる本件特許権の侵害行為によって,より急速に普及したことを全く否定するわけではないが,それは重要な要因ではない。
     カ 競合品の存在しないことについて
       被告は原告商品のほかに競合品があると主張するが,事実ではない。

       まず,渡邊機開工業の商品は,被告商品と同様に侵害品である。この商品に関しては,原告は既に販売製造の差止め等を求めて東京地方裁判所に提訴している(平成12年(ワ)第14499号事件)。
       金丸式,釘崎式及び第一製網式は,スムースな処理ができないもので,本件特許発明の実施品が登場してからは市場から駆逐されたものであって,およそ競合品ではない。また,韓国輸入品といっている商品も,細かい異物を除去することができない構造になっており,回転板式異物除去機の前処理のために用いられるものにすぎない。
   (3) 争点3(特許法103条の過失の推定を覆す事情の有無)について
     【被告の主張】
     被告は,本件の被告商品の販売に先立ち,弁理士2名,弁護士1名に対し,本件特許発明を侵害する可能性について意見を徴したところ,いずれも非侵害の意見であったので,安心して機種を選定したものであり,被告商品の製造販売について,故意はもちろん過失もなかった。

     すなわち,本件特許発明の構成要件と被告商品の構成を対比すると,第1回転板,クリアランス,環状板枠部の配置・構成といった本質的な部分を異にするから,常識的な理解からすれば被告商品は本件特許権を侵害しないという結論が導かれるはずであった。しかるに,前訴の第1審判決は平成10年2月24日最高裁判決を受けて,均等侵害を認めたものであるが,このような判断がされることは平成10年1月の時点では被告を含めた産業人の想到し得るところではなかった。
     【原告の主張】
     被告商品の製造販売について,被告には故意・過失がない旨の主張は争う。
     被告は,複数の専門家の意見を徴したというが,おそらくは全体的な技術状況を十分に説明しないで得た判断であると思われる。生海苔の異物除去機の分野において,回転板式自体が画期的なものであるという本件特許発明の意義を理解せずに,本件特許発明の特許請求の範囲と被告商品の構成とを単純に対比すれば,あるいは非侵害という判断をする者もいるかもしれないが,それは妥当な侵害の成否の判断ではない。こうしたことは,技術の内容を熟知していた被告には本当はよく理解できていたはずである。

       前訴の第1審判決は,確かに文言侵害を否定して均等侵害としたものであり,本件特許発明の特許請求の範囲の記載との関係で被告商品に若干の相違があることは認めている。しかし,結論として均等侵害を認めていることからも分かるように,技術内容としては全くの模倣であり,このことは被告も十分承知していたはずである。
   (4) 争点4(原告の行為が信義則に違反するかどうか)について
   【被告の主張】
     ア 原告の本訴損害賠償請求は,以下のとおり信義則に反し許されず,仮にそうでないとしても損害賠償額の算定において減額要素として考慮されるべきである。
     イ 原告と被告の間の契約
       原告と被告は,平成7年8月10日,別紙の内容の「海苔関連機器の製造・販売に関わる業務提携の覚書」(以下「本件覚書」という。乙1参照)と題する契約を締結した。

       本件覚書の中心は,OEM供給契約であり,具体的には,@異物除去機,水切りミンチ,その他原被告が製造販売する製品全般を対象とし,A販売側が製造側から購入した商品は,販売側のブランドで販売する,B被告は,必要に応じて双方協議の上,原告に特許実施料を支払い,原告の特許製品を販売することができる,C原告と被告は,互いに全国を販売地域とするが,両社の販売ルートの競合があるときは調整を図る,調整に際しては,原被告の商品の市場性,市場占有率等を勘案し,いずれか1社が販売することとする,D原告と被告は市場性の高いヒット商品を共同開発することに努力する,といった内容であった。
       被告は,本件覚書に基づき平成7年,同8年の2シーズンにわたって,原告が製造するローラー式異物除去機を「フルタダストール」の商品名で販売した。原告も同じシーズンに同型の商品を「スーパーダスター」の商品名で販売した。

     ウ 原告による一方的な申出
       平成8年のシーズンが終わった平成9年4月,原告と被告の担当者が原告の異物除去機の問題点と対策を協議した際,原告から従前のローラー式の機械は製造を中止し,次のシーズンからは円板式の機械に変更したいとの申入れがあった。
       これに対し,被告からはローラー式は売り始めたばかりであり,突然の製造中止は営業政策上困ることから,平成9年のシーズンは2機種をOEMにより製造してほしいと強く申し入れた。しかるに,原告はその直後にローラー式の製造は中止する旨一方的に連絡してきたほか,被告がローラー式を製造するなら,原告は被告に対し金型の買取りと開発費の支払を請求すると申し入れてきた。
       さらに,平成9年7月に入って,原告から被告に対し,円板式の異物除去機の販売価格の提示があったが,従前のローラー式については標準小売価格の53%が被告に対する仕切価格であったのに,円板式については,仕切価格を標準小売価格の65%とするという大幅な値上げを通告してきた。この価格は,OEMにおける仕切価格ではなく,一般のディーラーないし元売りのディーラーに対する仕切価格であり,本件覚書を無視した不当な提案であった。

     エ 原告による供給拒否
       原告は被告に対して,平成10年1月,平成10年のシーズンについては1ロット50台しか製造供給できないこと,標準小売価格を15%以上値上げすることを通告してきた。仕切価格についても,1ロット50台の場合は60%とするが,それ以下の場合には65%に戻すという線を譲らなかった。
       被告は,平成10年のシーズンについては相当大量の商品の販売が可能であると予測していたので,原告の上記申入れについては本件覚書のOEM供給契約の趣旨に反するとして強く抗議し,もし50台しか製造できないのであれば,被告が原告に特許実施料を支払って製造したい旨を申し入れたが,原告はこの申入れを検討することなく即座に拒否した。
     オ その他の本件覚書の違反
       原告は,平成10年1月19日ころ,被告に対し,九州に原告の営業所を設置する旨を発言したが,これは明らかに本件覚書を無視するものであった。

     カ まとめ
       以上のとおり,原告は次の点において本件覚書に違反した。
       @ 市場性の高いヒット商品を共同開発することに努力するとの約束に違反し,単独で,秘密裏に円板式の異物除去機を開発した。
       A 販売について協議・調整するとの精神に反し,自社の商品の販売を優先し,被告への供給量を1シーズン50台に限定した。
       B 新製品の価格の決定については,市場の把握が重要であり,本件覚書7項(6) においても協議事項とされているのに,被告の立場を無視した一方的な高価格を押し付けてきた。
       C 被告が優先的に販売権を有するはずの九州に営業所を設置しようとするなど,販売についての取決めを無視した。
       D 仕切価格を60%〜65%として,被告がOEM供給契約に基づく販売活動をすることを不可能にした。

       E 原告としては,本件覚書により,必要のある場合には被告が特許実施料を支払って新型の円板式の異物除去機を製造販売することを認めるべきであり,原告の供給量が不足するのであるから,被告の申出を正当なものとして承諾しなければならないのに,正当な理由なく拒否した。
       これらの原告による違約の結果,被告はやむを得ず新型の商品の製造販売を行わざるを得なくなったものであり,しかも製造販売に当たっては前記のとおり周到な調査を行っている。
       このような状況においては,原告が被告に対し特許権侵害による損害賠償を求めることは信義則に反して許されないところであり,仮にそうでないとしても,本件覚書に従い,損害額は実施料相当額以下に限定されるべきである。
     【原告の主張】
     ア 原告と被告との間で本件覚書が締結されたことは認めるが,原告の行為が信義則違反に当たるとの主張は争う。原告は,以下に詳述するとおり,本件覚書に違反するようなことは一切していない。

     イ ローラー式の異物除去機の販売条件等
       被告は,原告がローラー式の異物除去機の供給を拒否したと主張するが,事実に反する。原告は,平成9年5月以降,被告に対し回転板式を薦めはしたが,被告がローラー式を希望して発注してきたため,これに応じて平成9年度も2台を供給した。
       また,ローラー式の仕切価格も標準小売価格の53%というような低い価格であったわけではない。平成7年のシーズンを例にとると,この時の標準小売価格は200万円であり,被告に対する販売価格は122万円であるが,この価格は被告から提供を受ける制御盤を含まない価格であり,これを含めた場合には,制御盤は8万円相当のものなので130万円となる。130万円という価格は標準小売価格200万円の65%に当たる。
       確かに,原告は,被告に対し,回転板式については従来の商品に比べて高い価格を求めたことはあったが,新型の競争力のある機種を投入する場合には普通のことである(旧モデルの末期で安値で販売せざるを得なくなっていたのを仕切直しする。)。しかも,その価格でも一般の販売店に対する卸売価格よりは安値になっていた。

     ウ 商品の供給拒否をしていないこと
       原告と被告の間で,回転式の異物除去機の供給に関して50台という数字が取り上げられたことはあるが,それは,単に,原告が被告に対して,それ以上の台数とそれ未満の台数との場合で,価格が異なることを求めたものである。すなわち,49台までの場合には単価175万5000円,50台以上の場合は162万円という価格を見積り(甲23)として通知した。この年度の予約販売の場合の標準小売価格は270万円であったので,それに対する割合は,前者が65%で後者が60%であった。
       このように,50台を境にして販売価格を分けたのは,被告によるアフターサービスが十分でなく,問題が生じたことを原告に取り次ぐだけで,結局は原告が対応せざるを得ない場合が多かったため,一般販売店に販売する場合との間で区別を設ける趣旨である。すなわち,本来のOEM供給契約のとおり,被告側がアフターサービスをすべて行うのであれば,一般販売店の場合に比べ価格を低くしても原告としては採算がとれるが,原告に一般販売店の場合と大差のない負担がかかっている状況では,余り安い値段で被告に販売するのでは原告にとって経済的に見合わないし,また従来からの販売店に対して背信的な行為となりかねない。特に,販売台数が少ないのであれば,一般販売店との違いはほとんどなくなってしまう。そこで,この場合(49台以下の場合)については,前記の仕切価格とすることを提案したのである。

       このことから分かるように,原告は被告に対し50台以上の供給を拒否した事実はなく,むしろ大量の注文を期待して,それに添った価格体系の提示をしていたのである。
     エ 被告による本件覚書の違反
       本件覚書は,基本的に,原告が開発し製造した製品を被告が購入して自社のブランドで販売するという協力関係を規定したものである。
       しかるに,被告は原告から商品を購入せずに,自ら侵害品を製造して販売しているのであり,それゆえ原告は損害賠償請求をしている。これは本件覚書の趣旨に全く反しており,被告が本件覚書に基づいて原告の信義則違反を主張すること自体が不当なものである。
   (5) 争点5(原告の損害額)について
     【原告の主張】
     ア 原告の利益率について
       原告商品である「CF−36」は平成11年から,同じく「CFW−36」は平成9年から,それぞれ販売されている装置であるが,これらはいずれも特許法102条1項にいう「侵害の行為がなければ販売することができた物」に該当する。具体的には,被告商品のうち,小型の回転板1枚の装置(D−1C)は「CF−36」に対応し,大型の回転板1枚の装置(D−1L)及び回転板2枚の装置(D−2S)は「CFW−36」に対応し,回転板4枚の装置(D−4J)は「CFW−36」の2台分に対応する(対応関係については後記ウのとおり)。

       そして,後記の内訳のとおり,原告商品「CF−36」は1台当たり少なくとも36万円の利益を生じるものであり,原告商品「CFW−36」は1台当たり少なくとも77万円の利益を生じるものである。
     イ 原価及び販売価格の根拠について
       原告商品の製造原価及び販売価格の詳細については,別紙原告計算書(甲8)のとおりである。ただし,「CFW−36」の出荷価格Aに188万5000円とあるのは,糸絡め機付きの製品の価格であって,純粋な異物除去機の価格は171万円となるが,被告による侵害行為によって安価で販売することを余儀なくされたものであるから,特許法102条1項の利益額の額については,本来の販売価格(上記金額)によって計算されるべきである。
     ウ 原告商品と被告商品の対応関係について

     (ア) 2枚型機
         被告商品の代表機種は回転板が2枚のものであり,この機種が販売数量のうち圧倒的多数を占めているが,その能力は1時間当たり海苔7000枚とされている(本件特許発明に係る装置で扱うのは生海苔であるが,ここでいう数量は,製品の乾海苔にした場合の枚数で表す。以下,海苔異物除去機の処理能力については,1時間当たりの乾海苔の枚数を表示する。)。被告の2枚型機でも,その後の「D−2S」などのカタログでは,1万枚としているものもみられる。被告の「D−2S」等がそこまでの能力を持っているかは疑問であるが,いずれにしても,これに代わる装置としては,少なくとも基本能力が1時間当たり7000枚である原告の「CFW−36」が必要となる。
     (イ)  1枚型機
         同様に,被告の1枚型機である「D−1C」は,1時間当たり5000枚の能力とされている。原告の1枚型機である「CF−36」は,3500枚の基本能力であるから,被告の「D−1C」の表示能力と比較すると未だ不十分であるが,少なくともこれが必須とされることは間違いない。

         被告の大型回転板の1枚型機である「D−1L」は,1時間当たり7000枚の能力とされているから,基本能力が1時間当たり7000枚である原告の2枚型機である「CFW−36」がこれに対応するものとなる。
     (ウ) 4枚型機
         また,被告の4枚型機である「D−4J」は,1時間当たり2万枚の能力とされており,原告商品にはこれに直接に相当するものはない(原告は1枚型と2枚型しか製造していない)。これに代わるものとしては,原告の「CFW−36」を少なくとも2台用意するしかない(2台合わせても基本能力は1万4000枚にとどまる。)。「D−4J」を使用しているユーザーは,それだけの能力を必要としているということなのであり,海苔の製品化の他の設備の能力とのバランスを取る必要があるから,そうしたユーザーがそれよりも小さい能力の装置で済ますことは考えにくい。したがって,「D−4J」の代替品としては,原告の「CFW−36」を少なくとも2台用いることになるものと思われる。

     エ まとめ
       前記アの単位数量当たりの利益の額に,当事者間に争いのない被告商品の販売数量を乗じると,特許法102条1項に基づく原告の損害額は,少なくとも3億8982万円となる(詳細は別紙原告損害額計算書のとおりである。)。
       そして,原告の負担する弁護士費用のうち,少なくとも上記の損害額の1割に当たる3892万2000円については,相当因果関係のある損害として,賠償の対象とされるべきである。
       以上を合計すると,損害額は4億2880万2000円となる。なお,各年度の異物除去機の販売は,海苔の収穫期は冬であり本件の商品の需要期はそれに先立つという事実から,遅くとも3月末までにされているので,各年度の製造・販売による損害賠償債務は,遅くとも4月1日には履行遅滞に陥っている。

       よって,原告は被告に対し,本件特許権の侵害に基づく損害賠償として4億2880万2000円及びこれに対するうち1億6855万3000円(平成10年分)については平成11年4月1日から,うち1億9525万円(平成11年分)については平成12年4月1日から,うち6499万9000円(平成12年分)については平成13年4月1日から各支払済みまで,それぞれ年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
     【被告の主張】
     ア 原告の計算方法が不正確であること
       原告の計算方法には,以下のとおり不正確な部分があり妥当でない。
     (ア) 部品の価格について
           原告が計算の根拠とするのは,平成10年のシーズンについての資料(甲9)であるが,このシーズンにおいては回転板は安価なアルミ製のものが使用されていた。このアルミ製の回転板は摩耗しやすく,故障の原因となった。そのために多額の修理費を要し,また回転板の無償交換等原告にとって多額の損失の発生原因となった。

         そこで,原告は,次の年から高価な真鍮製の回転板を使用するようになったのであるから,回転板としては真鍮製のものの購入費を記載するべきである。
         また,現在,原告商品は,例外なくギャプーラ付きで販売されているが,ギャプーラは部品として計上されていない。なお,ギャプーラの価格は1台当たり2万円前後と思われる。
     (イ) 販売管理費について
           原告担当者の陳述書(甲8)によると,管理販売変動費は粗利益の20%ということであるが,到底この範囲に納まることはない。販売管理費としては,総務関係費,純粋の販売活動費,据付け費用,無償修理費等があるが,本件の異物除去機については,据付け費用と無償修理費等特に後者の額が大きく,これらの合計は優に20%を超えるものである。すなわち,異物除去機の販売については,機械の調整作業の他,機械の故障の修理を無償で行うことに伴う経費が必要であり,その合計額が粗利益の20%に納まることはない。

     イ 原告商品と被告商品の対応関係について
       原告の主張のうち,被告商品の「D−1C」と原告商品の「CF−36」が対応すること,被告商品の「D−2S」及び「D−2K」と原告商品の「CFW−36」が対応することは認めるが,その余は否認する。
       被告商品の「D−1L」に対応するのは,処理能力と定価の面からみて原告主張の「CFW−36」ではなく「CF−36」である。
       被告商品の「D−4J」の対応については,ユーザーがこの商品の代わりに原告商品の「CFW−36」を2台購入することは,設置面積や作業環境の面からみてあり得ないことである。
     ウ 本件特許発明の寄与率について
         本件特許発明の主要な効果は,遠心力による比重の重い異物の分離と回転板によるクリアランスの生海苔の通過促進にあるが,原告商品についてはその効果はほとんど認められない。

       特許の価値は,当該製品にいかなる付加価値を付けるかという点にあるが,本件特許発明は,異物除去機についてみるべき付加価値,セールスポイントを付加していないから,損害賠償額は零かそうでないとしても極めて低額とされるべきである。
     エ まとめ
       以上のとおり,原告による利益額の計算及び損害額の主張については,すべて争う。
第3 当裁判所の判断
  本件においては,被告商品が本件特許発明の技術的範囲に属し,その製造販売が原告の有する本件特許権を侵害することについては,当事者間に争いがなく,被告は専ら損害額について原告の主張を争うので,この点に関して,争点1から順次判断する。
 1 争点1(特許法102条1項本文の適用の有無)について
   (1) 特許法102条1項の趣旨について
       本件において,原告は,特許法102条1項に基づく損害賠償を請求している。

       特許法102条1項は,特許権者が故意又は過失により自己の特許権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において,その者がその侵害の行為を組成した物を譲渡したときは,その譲渡した物の数量に,特許権者がその侵害の行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益の額を乗じて得た額を,特許権者の実施の能力を超えない限度において,特許権者が受けた損害の額とすることができる旨を規定する。
       特許法102条1項は,排他的独占権という特許権の本質に基づき,特許権を侵害する製品(以下「侵害品」ということがある。)と特許権者の製品(以下「権利者製品」ということがある。)が市場において補完関係に立つという擬制の下に設けられた規定というべきである。すなわち,そもそも特許権は,技術を独占的に実施する権利であるから,当該技術を利用した製品は特許権者しか販売できないはずであって,特許発明の実施品は市場において代替性を欠くものとしてとらえられるべきであり,このような考え方に基づき侵害品と権利者製品とは市場において補完関係に立つという擬制の下に,同項は設けられたものである。

       このような立場からは,本項にいう「特許権者又は専用実施権者がその侵害の行為がなければ販売することができた物」とは,侵害された特許権に係る特許発明の実施品であることを要すると解すべきである。なぜなら,特許発明の実施品でないとすれば,そのような製品は侵害品と性能・効用において同一の製品と評価することができず,また,権利者以外の第三者も自由に販売できるものであるから,市場において侵害品と同等の物として補完関係に立つということができず,この規定を適用する前提を欠くからである。
   (2) 原告商品について
     上記の立場を前提にして,原告商品について検討するに,証拠(甲7,10の1,2,11,15)及び弁論の全趣旨によれば,原告は遅くとも平成10年7月には原告商品の販売を開始したものであるところ,原告商品は回転板の回転によりクリアランスより大きな異物を除去し,また,これに伴うクリアランス部の横滑りの動きによって生海苔の詰まりを防ぐという本件特許発明の作用効果(本件明細書の段落【0028】「発明の効果」の記載参照)を奏し,本件特許発明の実施品であると認められる。

     被告は,原告商品が本件特許発明の実施品であることを争い,原告商品の作動状況を撮影したビデオテープ(乙20)等を証拠として提出するが(ただし,その提出時期は口頭弁論終結後である。),前記認定を妨げるに足りない。
 2 争点2(特許法102条1項ただし書の事情の有無)について
   (1) 特許法102条1項ただし書の趣旨について
     特許法102条1項はただし書において,侵害品の譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を特許権者が販売することができないとする事情があるときは,当該事情に相当する数量に応じた額を控除するものと規定しているが,前述のように本項を,排他的独占権という特許権の本質に基づき,侵害品と権利者製品が市場において補完関係に立つという擬制の下に設けられた規定と解し,侵害品の販売による損害を特許権者の市場機会の喪失ととらえる立場に立つときには,侵害者の営業努力(具体的には,侵害者の広告等の営業努力,市場開発努力や,独自の販売形態,企業規模,ブランドイメージ等が侵害品の販売促進に寄与したこと,侵害品の販売価格が低廉であったこと,侵害品の性能が優れていたこと,侵害品において当該特許発明の実施部分以外に売上げに結び付く特徴が存在したこと等)や,市場に侵害品以外の代替品や競合品が存在したことなどをもって,同項ただし書にいう「販売することができないとする事情」に該当すると解することはできない。

       すなわち,特許法102条1項の適用に当たっては,権利者製品は,特許発明の実施品として特徴付けられているものであり,侵害品は,まさに当該特許発明の実施品である故をもって,市場において権利者の市場機会を奪うものとされているのである。言い換えれば,侵害者の販売する製品(侵害品)は,特許権者の特許権を侵害することによって初めて製品として存在することが可能となったものであり,当該特許発明の実施品であるからこそ,権利者製品と競合するものとして,市場において権利者製品を排除して取引者・需要者により購入されたのである。侵害品の販売に侵害者の営業努力等があずかっていたとしても,特許権者としては,仮に侵害品の販売期間と対応する期間内には不可能であるとしても,これに引き続く期間を併せれば侵害品の販売数量に対応する権利者製品を販売できたはずであり,仮に侵害品が他に独自の優れた特徴を有していたとしても,あくまでも特許発明の実施品としての特徴を備えていたからこそ,権利者製品と競合するものとしてこれを排除して取引者・需要者に購入されたというべきであり,侵害者が侵害品を低廉な価格で販売した(あるいは無償で配布した)としても,特許発明の実施品であったからこそ権利者製品を排除して取引者・需要者に入手されたものである。しかも,これらの場合には,いずれも,侵害品が取引者・需要者の手に渡った結果として,それと同数の権利者製品の需要が失われているのであるから,仮に,営業努力等により侵害者による侵害行為が急であったり,取引者・需要者において,侵害品を購入する動機として,特許発明の実施品であるという点に加えて,何らかの点(付加的機能や低価格)が存在したとしても,そのような事情は,特許権者の損害額を減額する理由とはならないというべきである。また,市場において侵害品以外に権利者製品と競合する代替品が存在していたとしても,侵害者は,そのような競合製品の存在にかかわらず,これとの競争の下で一定の数量の侵害品を販売し得たのであるから,権利者製品も特許発明の実施品という点で侵害品と同一の性能を有する以上,特許権者においても,同一の条件の下で,これと同一の数量の権利者製品の販売が可能であったというべきである。
       このように,上記の各事情は,そもそも市場における侵害品と権利者製品との補完関係の擬制の下で特許法102条1項の規定を設けるに当たって捨象されたものであるから,これらの事情をもって「販売することができないとする事情」に該当するということはできないが,市場において侵害品と権利者製品が補完関係にあるということを前提としても,なお,権利者が市場機会を喪失したと評価できないような事情があるときには,そのような事情は,「販売することができないとする事情」に該当するものというべきである。すなわち,侵害品がその性質上限定された期間内においてのみ需要され,当該期間内に消費されるものである場合(例えば,侵害品が生鮮食料品であるような場合)には,侵害品の販売により特許権者が喪失した市場機会は,侵害品の販売時期に対応する期間に限定されることになるから,侵害者により抗弁としてこのような事情が主張立証された場合には,特許権者は再抗弁として,侵害品の販売時期に厳密に対応する時期又はこれと直近する時期に,侵害品の販売数量と同数量の権利者製品を販売する能力を実際に有していたことを,主張立証しなければならないこととなる。また,侵害者が抗弁として,侵害品が販売された後に法令等により当該特許発明の実施品の販売が規制されたことや新技術の開発により当該特許発明が陳腐化したことを主張立証した場合には,特許権者は再抗弁として,このような規制前又は新技術を実施した代替品の発売前に侵害品と同数量の権利者製品を販売する能力を実際に有していたことを,主張立証しなければならないというべきである。
   (2) 本件における検討
       以上を前提に,被告の主張する事情が特許法102条1項ただし書にいう「侵害品の譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を特許権者が販売することができないとする事情」に該当するかについて検討するに,前記第2の3(2)【被告の主張】欄記載のエ,オ,カの事情は,要するに,被告商品の性能が優れていたこと,被告の市場開発努力が被告商品の販売促進に寄与したこと,市場に被告商品以外の代替品や競合品が存在していたことをいう趣旨であって,前に説示した内容に照らせば,いずれも同項ただし書にいう「販売することができないとする事情」には該当しない。

     前同【被告の主張】欄記載のアの事情については,なるほど権利者製品が第三者の特許権等の権利を侵害することが特許法102条1項ただし書にいう「販売することができないとする事情」に該当する場合もあり得るということはできるにしても,本件においては,原告商品が甲のX,Y,Zの各特許権を侵害することを認めるに足りる証拠はない。
     前同【被告の主張】欄記載のイ,ウの事情は,特許法102条1項ただし書の事情には該当しないが,原告の実施能力をいうものと理解することができるので,実施能力に関する主張として項を改めて検討する。
   (3) 原告の実施能力について
     前述のように特許法102条1項を,排他的独占権という特許権の本質に基づき,侵害品と権利者製品が市場において補完関係に立つという擬制の下に設けられた規定と解し,侵害品の販売による損害を特許権者の市場機会の喪失ととらえる立場に立つときには,同項にいう「実施の能力」については,これを侵害品の販売時に厳密に対応する時期における具体的な製造能力,販売能力をいうものと解することはできず,特許権者において,金融機関等から融資を受けて設備投資を行うなどして,当該特許権の存続期間内に一定量の製品の製造,販売を行う潜在的能力を備えている場合には,原則として,「実施の能力」を有するものと解するのが相当である(また,侵害者が侵害品を市場に大量に販売したことにより,特許権者が権利者製品の製造販売についての設備投資を差し控えざるを得ない場合があることを考慮すれば,同項にいう「実施の能力」を上記のように解さないと,特許権者の適切な救済に欠ける結果となろう。)。

     以上を前提に検討するに,証拠(甲7,11,15,37)及び弁論の全趣旨によれば,原告は遅くとも平成10年7月には原告商品の販売を開始し,この商品についての宣伝広告を業界新聞(海苔タイムス)等において行っていたこと,原告の異物除去機の販売数量は被告に対するOEM供給分を含めて,平成9年のシーズンには66台,平成10年のシーズンには183台であったこと,原告は自社工場の他,完成品を取り扱う会社,協力工場を数十社有していることが認められるから,少なくとも原告が原告商品の製造,販売を行うについて上記の意味での潜在的能力を備えていたことは明らかである。
     よって,この点に関する被告の主張も理由がない。
 3 争点3(特許法103条の過失の推定を覆す事情の有無)について
   (1) 特許法103条の趣旨について

     本条は,特許権侵害という権利侵害の場合に,民法709条に定める不法行為の故意・過失の要件のうち,過失の存在を推定する規定である。ここでいう推定は法律上の推定であり,この推定を覆滅するためには,侵害者において過失のないこと(無過失)を抗弁として主張立証することを要する。
   (2) 本件における検討
     被告は,本件の被告商品の販売に先立ち,弁理士2名及び弁護士1名から被告商品が本件特許権を侵害するかという点についての意見を徴したことをもって,被告は無過失である旨を主張する。
     しかしながら,自己の依頼した弁理士ないし弁護士から特許権を侵害しない旨の意見を聞いていたというだけでは,これをもって過失の推定を覆すに足りるものということはできない。
 4 争点4(原告の行為が信義則に違反するか)について

   (1) 被告の主張について
     被告は,原告が本件覚書に違反する様々な行為を行ったことを理由に,原告の損害賠償請求は信義則に反し認めらない,そうでないとしても損害賠償額の算定に際して減額要素として考慮されるべきである旨主張する。
     しかし,仮に被告の主張する事実を前提とするとしても,本件覚書の15項には,当事者がこの覚書に違反したときは,契約を解除し,これにより生じた損害の賠償を互いに相手方に請求することができるという趣旨の規定があるから(乙1により認められる。),被告としては,本件覚書の違反に基づく損害賠償請求の主張をすることは格別,原告の損害賠償請求権の権利滅却ないし減額の事由として信義則に違反する行為があったことを主張することはできないというべきである。
     また,被告は本件特許権を侵害する被告商品を製造販売したものであるから,そもそも被告の同行為自体が本件覚書の趣旨に反することは明らかであって,そのような被告が原告の行為を採り上げて信義則違反を主張することは,許されないものである。

   (2) 本件覚書締結当時の原告と被告の交渉経過について
       なお,念のために,本件覚書が締結されていた当時の原告と被告との間の交渉経過についてみるに,本件全証拠によっても,被告主張の各事実を認めることはできないし,その他,原告において損害賠償請求を許さないか,その減額の事由となる程度の非難可能性を有する行為を行ったと認めることはできない。
     また,被告が具体的な内容として指摘する「原告が平成10年のシーズンについて50台しか製造できないとして,それ以上の台数の異物除去機を供給することを拒否した。」という事実についても,証拠(甲23,26)及び弁論の全趣旨によれば,原告が被告に対し平成10年2月に示した見積書(甲23)では,販売数量が1台から49台までと,50台以上の場合とで1台当たりの単価に差を設けたのは被告による原告商品の購入を促進させる趣旨であること,上記見積書には,原告が被告に対し50台しか製造供給しないとの趣旨の記載はないこと,平成10年当時,原告の工場,その他協力工場等において異物除去機の製造能力が著しく低下していたことをうかがわせる事情は存在しなかったことが認められるから,被告主張の原告による商品の供給拒否の事実を認めることはできない。

       よって,原告の行為が信義則に違反する旨の被告の主張も,理由がない。
 5 争点5(原告の損害額)について
   (1) 被告商品の販売台数
     被告による各シーズンごとの被告商品の販売台数が,別紙被告商品年度別販売数量一覧表計算書のとおりであり,合計して534台になることは,争いがない。
   (2) 原告の実施能力
     原告が本件特許権につき特許法102条1項にいう「実施の能力」を有することは,前記2(3) 認定のとおりである。
   (3) 単位数量当たりの利益の額
     前記のとおり,特許法102条1項にいう「実施の能力」が,必ずしも侵害品販売時に厳密に対応する時期における具体的な製造販売能力を意味するものではなく,侵害品の販売により影響を受ける権利者製品の販売が,侵害品販売時に対応する時期におけるものにとどまらないことに照らせば,同項にいう「侵害の行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益の額」についても,侵害品の販売時に厳密に対応する時期における具体的な利益の額を意味するものではなく,侵害品の販売により影響を受ける販売時期を通じての平均的な利益額と解するのが相当であり,また,「単位数量当たりの利益の額」は,仮に特許権者において侵害品の販売数量に対応する数量の権利者製品を追加的に製造販売したとすれば,当該追加的製造販売により得られたであろう利益の単位数量当たりの額(すなわち,追加的製造販売により得られたであろう売上額から追加的に製造販売するために要したであろう追加的費用(費用の増加分)を控除した額を,追加的製造販売数量で除した単位数量当たりの額)と解すべきである。そして,侵害品が大量に市場において販売されたことにより,これに対抗するために特許権者において権利者製品の販売価格を引き下げざるを得なかったような場合には,侵害行為がなかったならば本来維持することのできたはずの販売価格(値下げ前の販売価格)を基準として,「単位数量当たりの利益の額」を算定することが許されるものと解するのが相当である。このように特許法102条1項にいう「単位数量当たりの利益の額」が仮定的な金額であることを考慮すると,その金額は,厳密に算定できるものではなく,ある程度の概算額として算定される性質のものと解するのが相当である。
       これを本件についてみると,次のとおりである。
     ア 原告商品の販売価格
       証拠(甲8,10の1,2,39,40)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,平成10年のシーズンの当初には,原告商品である「CFW−36」については,標準小売価格を290万円とし,販売店によってこの価格の65%又は70%で販売したこと,その割合は前者が0.65,後者が0.35であり,平均出荷価格は193万5750円であったこと,原告は,同じく「CF−36」についても,標準小売価格を200万円とし,販売店によってこの価格の65%又は70%で販売していたこと,その割合は前者が0.65,後者が0.35であり,平均出荷価格は135万5000円であったこと,その後,例外的に,「CFW−36」の改良型である「CFW−37」の製品について上記の販売価格よりも高額の250万円で販売した例もあるが,概ね前記の価格より値引きして販売していたことが認められる。

       他方,証拠(甲41)及び弁論の全趣旨によれば,被告は原告の「CFW−36」に対応する被告商品を270万円で販売していたこと,渡邊機開工業も原告商品に対応する異物除去機を240万円で販売していたこと,平成10年当時,生海苔の異物除去機の市場において,原告,被告及び渡邊機開工業の3社が主要な販売業者であったことが認められる。
       以上の事実関係においては,原告は被告によって侵害品が大量に販売されたことにより,これに対抗するために原告商品の販売価格を引き下げざるを得なかったものと認めることができるから,侵害行為がなかったならば本来維持することのできたはずの販売価格(値下げ前の販売価格)を基準として,「単位数量当たりの利益の額」を算定することが許されるものというべきである。

       したがって,原告商品の販売価格は,前記平均出荷価格を採り,「CFW−36」については193万5750円,「CF−36」については135万5000円となる。
     イ 原告商品の経費
     (ア) 製造原価
         証拠(甲8,9,42,43,書証の枝番号は省略する。)によれば,原告商品「CFW−36」の1台当たりの製造原価は97万0055円であったこと,同「CF−36」の1台当たりの製造原価は92万5743円であったこと,が認められる。
         なお,証拠(甲38)及び弁論の全趣旨によれば,原告商品の回転板は表面にアルマイト処理を施したアルミでできていること,原告商品にはギャプーラ付きで販売されているが,ギャプーラの価格は1個当たり2700円程度にすぎないことが認められるから,原告による製造原価の計算が正確性を欠く旨の被告の主張は理由がない。

     (イ) その他の経費
         証拠(甲8,44の3,44の4)によれば,原告商品については,上記の製造原価の他に,輸送費や販売した機械の調整等を無料で行うサービスに要する費用がかかること,原告の経理処理上はこれに相当する経費を管理販売変動費として扱っており,具体的には原告商品「CFW−36」について粗利の約13%を計上していること,原告商品「CF−36」については,同「CFW−36」と兼ねて機械の調整等が行われるため上記のサポートサービス費用の負担率はそれよりも少なくなることがそれぞれ認められる。
           そして,本件で原告が損害賠償を請求する期間を含む45期から48期まで(平成8年10月1日から平成12年9月30日まで)の原告の決算書(甲44の1〜4)の内容等からすれば,原告商品を追加的に製造販売するために上記管理販売変動費以外の経費を要することがあるとしても,その追加的費用の額は全体として,原告商品「CFW−36」について粗利の20%,原告商品「CF−36」について粗利の10%を超えることはないと認められる。

         そうすると,原告商品の追加的な販売に要する製造原価以外の経費の額は,原告商品「CFW−36」については19万3138円を上回ることはなく,原告商品「CF−36」については4万0925円を上回ることはない。
        〔計算式〕
         CFW−36  (1,935,750−970,055)×0.2=193,138
           CF−36   (1,335,000  925,743)×0.1=409,257
     ウ 寄与率
       被告は,原告商品には本件特許発明の主要な効果である遠心力による異物分離と回転板の回転による生海苔のクリアランスの通過促進の効果が認められないから,本件特許発明の寄与率は零かそうでなくても極めて低いと主張する。
       しかしながら,原告商品が本件特許発明の作用効果を奏することは前述のとおりである。確かに,原告商品の多くには回転板の円周付近に爪片状のカッターが備えられているが,これは海苔の一部に厚くなったところのあるものがクリアランスに引っかかった場合に,それを切断するためのものであって,その場合以外には作動しないものであるから(弁論の全趣旨により認められる。),爪片状のカッターは単なる付加的な構成であって本件特許発明の寄与率には影響しないというべきである。

       そして,本件特許発明が回転板の回転により遠心力の作用によって異物を分離するという構成を有する点において画期的な発明であること(甲2により認められる。)に照らせば,原告商品の利益額中の本件特許発明の寄与率は,100%と認めることができる。
     エ 上記アないしウにより計算された数額により「単位数量当たりの利益の額」を計算すると,原告商品である「CFW−36」の1台当たりの利益の額は77万円を下らず,同「CF−36」の1台当たりの利益の額は36万円を下らない。
   (4) 原告商品と被告商品との対応関係
     ア 原告が損害賠償請求の対象とする被告商品には,回転板の枚数が1枚の「D−1C」及び「D−1L」,回転板の枚数が2枚の「D−2S」及び「D−2K」,回転板の枚数が4枚の「D−4J」という型番の異物除去機があるが,このうち,「D−1C」と原告商品の「CF−36」が対応すること,「D−2S」及び「D−2K」と原告商品の「CFW−36」が対応することは,争いがない。

     イ 被告商品の「D−1L」については,証拠(甲6,13,14)によれば,この商品は同じく回転板が1枚の「D−1C」に比べて回転板が大きく,処理能力も優っていることが認められるから,原告商品では,これと処理能力を同じくする(前掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,1時間当たり7000枚である。)「CFW−36」が対応するものというべきである。
     ウ 被告商品の「D−4J」については,処理能力が1時間当たり2万枚とされているところ(甲13,14により認められる。),原告商品にはこれに相当するような高度の処理能力を備えたものはない。このような場合に,特許法102条1項に基づく損害賠償額を算定するに当たっては,「D−4J」に最も近い性能を有する「CFW−36」1台がこれに対応すると認めるほかはないと解される。

       原告は,「D−4J」には「CFW−36」2台分が対応する旨主張するが,証拠(甲8,乙14)及び弁論の全趣旨によれば,前者の価格は480万円であるのに対し,後者の標準小売価格は290万円であること,2台の異物除去機を作業場に設置すると,作業面積が狭くなり海苔の異物除去作業がやりにくくなることが認められるから,価格及び設置場所の点で需要者が「CFW−36」を2台購入するということは想定し難い。よって,原告の主張は理由がない。
   (5) 損害額のまとめ
     ア 上記(1)ないし(4)に基づき,本件において,原告が被告に対し,特許法102条1項に基づき賠償を請求することのできる損害額は,次のとおりである。
       @ 平成10年のシーズン
         原告商品「CFW−36」の1台当たりの利益の額77万円に被告商品「D−2S」及び「D−2K」の販売台数である199台を乗じた1億5323万円となる。

       A 平成11年のシーズン
         原告商品「CF−36」の1台当たりの利益の額36万円に被告商品「D−1C」の販売台数である61台を乗じた2196万円と,原告商品「CFW−36」の1台当たりの利益の額77万円に被告商品「D−1L」,「D−2S」,「D−2K」及び「D−4J」の販売台数を合計した197台を乗じた1億5169万円とを合計した1億7365万円となる。
       B 平成12年のシーズン
         原告商品「CF−36」の1台当たりの利益の額36万円に被告商品「D−1C」の販売台数である8台を乗じた288万円と,原告商品「CFW−36」の1台当たりの利益の額77万円に被告商品「D−1L」,「D−2S」,「D−2K」及び「D−4J」の販売台数を合計した69台を乗じた5313万円とを合計した5601万円となる。

       C 全期間の合計
       @ないしBを合計すると,3億8289万円となる。
     イ そして,原告が本訴の提起,追行を原告代理人に委任したことは当裁判所に顕著であるところ,本件訴訟における訴額,原告の請求の内容,訴訟追行の難易度,訴訟期間,前訴からの手続の経過等を総合勘案すると,弁護士費用のうち3820万円をもって,被告の侵害行為と相当因果関係のある損害と認める(ただし,各シーズンごとに発生した弁護士費用相当の損害額は,平成10年には1530万円,平成11年には1730万円,平成12年には560万円という内訳になる。)。
 6 結論
   以上によれば,原告の本訴請求は4億2109万円及びこれに対するうち1億6853万円については平成11年4月1日(平成10年のシーズン終了日の翌日)から,うち1億9095万円については平成12年4月1日(平成11年のシーズン終了日の翌日)から,うち6161万円については平成13年4月1日(平成12年のシーズンの終了日の翌日)から各支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

     よって,主文のとおり判決する。
     
     東京地方裁判所民事第46部
     
               裁判長裁判官    三    村    量    一
                   
                   
                           裁判官        和 久 田   道   雄
                         
                         
                       裁判官      田    中    孝    一