Last Modified: 2009年12月8日(火)13時18分05秒

消尽を強化したQuanta最判(連邦最高裁判決)と今後のライセンス契約

By 松本直樹
(ウェブページ掲載: 2008年6月27日、ウェブページのための執筆)

1. Quanta最判の概要

 2008年6月9日の連邦最高裁判決、QUANTA COMPUTER, INC., ET AL. v. LG ELECTRONICS, INC. では、特許の消尽(patent exhaustion)の範囲が争点でした。最判のPDFそのコピーそのテキスト私の6月10日のブログFoley & Lardner LLP のニューズレターKuyaさんのブログでの解説モリソン・フォースターの解説(PDF)知財情報室PatentDocsによるレポート

1.1 事案と結論

 特許権者LGは、インテルにライセンスをしたのですが、ライセンス契約ではインテルの顧客のためのライセンスは無いと規定されるなどしていて、インテルからのCPUおよびチップセットの購入者=コンピュータ・メーカからもロイヤリティを徴収する目論見だったようです。そうした請求をしたのですが、色々と争いになり、そのうちの一つが最高裁で取り上げられたのが本件です。結局、消尽を肯定ということで、こういう形で各段階からロイヤリティを徴収するやり方は否定されました。

 LGとインテルとのライセンス契約では、インテルに対して make, use, sell 他の許諾がなされていたものの、他からの部品との組み合わせで使う購入者のためのライセンスを与えるものではない、との規定がありました。また、消尽について制限したり変更したりするものではない、との条項もありました。さらに、別のMaster Agreementによりインテルは、その顧客に対して、LGから顧客のための明示または黙示のライセンスはない旨を通知することが求められていました。

 QUANTA は、インテルからCPUとチップセットを買って(インテルからは、上記の通りの通知がなされていました)、他社のメモリなどの部品と共にパソコンを組み立てて販売していました。これに対してLGが特許侵害を主張したのが本件訴訟です。

 最高裁は結論的には、消尽を認めました。顧客のためのライセンスが無いというのは、消尽とは無関係(それでも消尽は成立する)、としています。インテルによるCPUとチップセットの製造販売はLGによってライセンスされており、これをもってその特許は消尽した、との判断です。

1.2 他の争点など

 他に争点となり抽象論として判示事項になっているのは、次の2点です。

 まず、方法クレームだからといって消尽しないわけではない、という判示です。本件の三つの特許は、メモリ、キャッシュ、バスのそれぞれの動作についてのもので、それを方法としてクレームにまとめています。LGの主張は、物のクレームなら消尽があっても、方法クレームについてはその使用が実施であって消尽ということはないのだ、というものでした。最判はこれを否定しました。方法クレームでも消尽があり得るのです。

 もう一つは、被許諾者(インテル)がクレームの全要件を充足する行為をしてはいなくても消尽が成立する、ということです。インテルが許諾に基づいて供給していたのは、CPUおよびチップセットです。当然に、これらのクレームの規定する働きを予定したものではあるものの、インテルがこうした方法を使っているわけではない(この供給の関係で)という点を取り上げて、LGは、消尽を争う主張をしていたものです。最判はこれも否定して、消尽があり得るとし、このケースでの消尽を認定しました。

1.3 下級審との関係

 なお下級審では、地裁では一旦は略式判決で、消尽で全部の請求が退けられましたが、その後にそれが限定され、装置クレームについてだけ退けたという経過が説明されています。それが高裁(CAFC)では高裁判決PDFコピーそのテキスト、一部維持一部逆転との結論で、その理由は、方法クレームに消尽無しの点は地裁を支持、加えて LGE did not license Intel to sell the Intel Products to Quanta for use in combination with non-Intel products. との理由で消尽を否定した、というものです。最判は、これらを完全に覆しました。

 最判の当事者は、Quanta になっていますが、高裁判決では、多数の被告が出ています。経過の詳細が分からないのですが、他の被告の件は地裁で審理されているのかも知れません。高裁判決は、一部破棄で差戻になっていますから。そうすると、今回の最判にしたがっての審理が、今後なされることになるのだと思われます。

 今回の裁判の話は、パテント・トロールの要求するライセンスの仕組みなどとしては、かなりありがちなものを否定しているのだと思います。そうしてみると、既に問題になっているケースへの影響も結構ありそうに思われます。

1.4 本件最判の実際的な意義

 日本企業に対する米国特許がらみの警告書においても、この件のLGのように、多層的な徴収をしようとしたものが少なからず存在します。有名な、レ○○○○とか、そうです。近頃でも、マイクロプロセッサについてのライセンスの売り込みとか、同じような形を目指しているものと見えます。

 今後はこうしたものが、少なくとも当面は、無くなることが期待されます。

 ただ、色々とクレームを工夫することは、米国で良く行われています。この最判が出た後で、また何らかの工夫がなされることは、大いに予想されます。それは結局は上手く行かないのだろうとも思いますが、争いが生ずることはありそうです。下でもう少し検討します。

1.5 本件の当事者

 ブログでもちょっと書いていたことですが、このケースで権利主張をしているのは、レメルソン財団とかではなくて、またそもそも米国企業ではなくて、韓国のLGなのですね。LGがとても順応性が高いのか、それとも、このケースの被告は台湾企業なので、そちら相手なら相対的に上手く立ち回れると踏んだのか。……などと考えるのはうがちすぎですかね?

 ちなみに、被告のQuantaは、Wikiによると「 the largest manufacturer of notebook computers in the world.」とのこと。OEMが多いようですね。MITの100ドルノートPC、なんて記事もあります。

(2009年12月加筆: LGがコダックから有機EL事業を買ったと報道されています。それも、特許が重要視されてのことのようです。たとえばWATCHの「有機EL事業をLGに売却」との記事では、「我々は、材料などにおいて有機EL関連の必須の特許ポートフォリオを有している。」なんてセリフが引用されています。LGの特許戦略の一つなのでしょうか。)

2. インテルの被許諾行為の内容との関係

2.1 インテルの行為とライセンス

 再考して不思議に思うのは、こういう状況でのインテルのライセンスというのは、そもそもどういう趣旨なのかな、という点です。少なくともこれらのクレームについては、インテルは直接侵害者ではないわけです。他に、直接侵害に当たるような特許もあるかもしれないですが、分かりません。LGとインテルのライセンスは、相当数の特許をまとめてのものとのことですので、もしかするとこのクレームは単なるオマケなのかも知れません。

 それでも敢えてこれらのクレームとの関係を考えると、インテルの得たライセンスは、積極的教唆や幇助の間接的な責任を問われないためのもの、という意味を持つはずですが、供給先への黙示的なライセンスを含まないとの規定などの仕組みからいって、供給先はそれぞれにLGとのライセンス契約を締結することが(LGからは)期待されています。だったら、インテルの間接的な責任など成立し得ないはずです(2009年1月加筆: インテルへのライセンスなど無くても。その意味でも、他の特許がメインの対象なのかも知れません。)

 このライセンス契約は、おそらくはLGの方の意向によってドラフトされたもので、多層的に各段階のメーカーすべてからロイヤリティを徴収しようという目論見のものだと思われます。この様にまとめてしまうと、それ自体はおかしくはない話のようにも聞こえます。しかし、本件でのように、直接侵害にならないものからまで、ロイヤリティを徴収すると、いったい何に対しての徴収をしているのか、かなり奇妙な感じになってきます。

2.2 典型的な消尽ではない

 典型的な消尽というのは、特許の方は物の発明で、その対象物が流通していく場合です。本件では、方法クレームであることと密接に関係しますが、インテルはCPUとチップセットのメーカーであり、本件被告Quantaはそれを組み立てているパソコンメーカーであって、やってることが別々です。しかかもこの相違が特許との関係で意味のある差異になっているために、単純な消尽とは違う問題状況となっています。

 この相違は、あくまでも、LGの側で消尽を否定しようとする議論の根拠となっています。本件最判は、その主張を排斥しました。素直な、単なる流通の場合には、より当然に消尽の成立が認められるはずです。本件のインテルが、特許対象物その物を作っていたわけではないことか、消尽肯定の理由となっているわけでは、決してないはずです。

 このケースにおいてLGは、かなり用意周到に、多層的な徴収を可能とするように努力? をしています。インテルが売った物は、問題の特許の実施品その物ではないという点で素直な消尽は無いようにし、また、黙示的な許諾が成立しないようにライセンス契約において明示的に否定の規定を入れている。この両方で、多層的徴収を可能とするように用意してるのですね。それでも駄目だとしたのが本件最判であり、少なくとも相当の範囲で、多層的な徴収は出来なくなったものだと思います。

2.3 クレーム要件の中で差を付けている

 ここで注目される点として、クレームの中の要件の扱い方があります。実施品の流通の場合と違って、インテルは実施行為自体をしているわけではないのに消尽を認めるについて、クレーム要件の中で差別というか区別をする話になっているのですね。一部だけではあるが、重要な点をやっているので、消尽するのだ、という話です。

 これは、結論的には常識に適う話とは思いますが(少なくとも日本から見て)、良くある米国の理屈と違っているような印象を受けます。良く言われるのは、クレーム中の各要件は、全部満たされて初めて侵害なのであって、要件の間に軽重はない、という話です。それと違う判示のように(も)見えます。本判決は、the Intel Products constitute a material part of the patented invention and all but completely practice the patent. などとして消尽を認めました。 Everything inventive about each patent is embodied in the Intel Products. とも言っています。クレームの中にも、 materialな inventiveな部分と、そうではない部分とがあることを認めています。

 ここに敢えて説明を付ければ、技術的範囲の話、すなわち侵害の成否についてはクレーム中の各要件は平等で、あくまで all element rule によるのだけれど、ここでの消尽のような話についてはそうではない、ということなのでしょう。

2.4 他社のチップとの組み合わせが前提となっている

 なお、インテルの製品以外と組み合わせなければOKに見える契約だ、というのは、ちょっと違う話のようです。メモリなど、インテルが作っていない部品との組み合わせでも、この組み合わせに当たるのであり、当然にそういう組み合わせをすることが予定されていますから。

 この事案では上流側(インテル)とのライセンスによってすべてが終わるという話になっていますが、こういう話を考えると、それだけではないと思います。とにかく、各段階から多層的に徴収することを否定した最判なのだと思われます。

2.4.1 知財管理の評釈の疑問(09年7月23日加筆)

 知財管理に本件の評釈が掲載されています: 「Quanta最高裁判決に見る米国における特許権の消尽について」(知財管理 Vol.59 No.7 (2009) P.807〜)です。米国での消尽の議論の総まとめがなされており、これまでの関係事件のご紹介など大変に勉強になります。でも、本件の事情の説明については疑問なところがあります。

 問題は、争点3として説明されている箇所です: 「そのライセンス契約の条項とは、Intelにマイクロプロセッサを販売する際にIntel製のメモリ等を使用することを義務づけるものであった。」(808頁右欄)とのこと。

 しかしこれは違います(……違うと思います。どうも誤解を前提としたコメントが多いようで、迷ってしまわないでもないですが)。「Intel製のメモリ」というのは無理です。インテルは1985年にメモリ(DRAM)から撤退してしまっており、現在ではメモリを作っていません。フラッシュメモリでは大手メーカですが、これはここで言うメモリ(パソコン用のメインメモリ)ではありません。ですから、「Intel製のメモリ」というのは存在しないのですから「義務づける」などは無理な話で、そんな契約は考えにくいです。

 もしも「Intel製のメモリ」の他を禁止していて(禁止があり得るような、つまり「Intel製のメモリ」の存在が前提になると思いますが)、それにQuantaが違反していたなら、特許権者LGの主張ももっと見込みがあったと思われます。もしも禁止しているのだと、Quantaの使用は契約違反になってしまいますし、それも、インテルもQuantaも契約違反を承知で供給して使っている、という話になります。これだと特許権者の主張が認められる公算がかなり高くなると思います。しかし、そういう事案ではないのです。

 実際の規定は、他からの部品を組み合わせての使用(それは実は当たり前)についてはライセンスが第三者に与えられているわけではない、というだけです。パソコンにメインメモリは不可欠ですから、インテル以外の部品を使うことは必然です。インテルの CPU およびチップセットを売る(使う)場合にも、もちろんです。LGとインテルとの契約は、単に、そうした他の部品を組み合わせた(当たり前の)場合についてライセンスを第三者に与えるものではないとし、また、その旨を表示することをインテルに対して求めているだけです。

 この箇所の記載は、以上のようにおかしいんですが、筆者の方々も別にほんとに誤解しているわけではないようにも見えます。後ろの方では、メモリを作ってないのをご承知のように見える記述もあります。すなわち815頁左欄には、「ライセンス品の使用に関する制限が定められていないことを理由に〜」と書いてあります。「そのライセンス契約の条項とは、...義務づけるものであった。」としていたのとどういう関係にあるのでしょうか? どうも良く分かりません。

3. 多段階での徴収の出来る契約は可能か

3.1 実際的には出来ない

 このケースへのコメントを見ると(たとえば PatentlyO)、本件最判が必ずしも断定していないところもあるために、ライセンス契約のドラフトの仕方によっては、多層的な徴収の可能性もまだ残っているかのように理解している向きが少なくないように思います。しかし実際的には、契約ドラフトで多段階での徴収を可能にすることは出来ないと思います。

 実際的というのは、被許諾者にとって何のためにライセンス契約を結ぶのか、ということを考えると難しいということです。すなわち、被許諾者の合意を取り付ながらなおかつ多層的な契約というのは、考えにくいです。本件の最判によれば、販売が許諾されていさえすれば、それで消尽してしまいます。逆に言えば、その販売を許諾していないような契約条件であれば、下流に対してなお請求できる可能性が残るわけですが、そんな条件では、被許諾者がロイヤリティを支払ってくれるとは思えません。自分自身の行為が許諾されていないのでは、せっかくお金を払っても、また請求されてしまいますから。

3.2 インテルの例で言えば

 上記の話を、本件での事情に即してご説明してみます。

 本件では、インテル以外の製品と組み合わせて使用することについての黙示的許諾は無いという契約になってはいますが、インテルによる販売自体が契約違反になるという条項ではありません。これをさらに進めて、そういう使用のための販売をインテルがすることを許諾しないという契約条項にすれば、すなわち(ちょっとだけですがさらに進んで)、そうしたインテルによる販売が契約違反となる条項となれば、本件最判によっても消尽は起こりません。これは確かにそうだと思います。

 しかし、そんな契約を被許諾者が結ぶわけがありません。いや、本件の場合には、まったくのオマケだったとすれば気にしない可能性もゼロではないですが、この特許のクレームに対するライセンス契約を結ぼうという考えの場合には、そんな契約ではまったく意味がありません。インテルのユーザーはすべて、インテル以外のメモリと組み合わせて使用するために、CPUやチップセットを買うのですから、そんな契約ではインテルの販売自体がすべて契約違反になってしまいます。

3.3 あり得るのは虚偽公表等

 敢えて考えるなら、本当の契約内容は公表しない、つまり、被許諾者に対してそれ以上の責任追及はしないが、しかし公表としては販売がライセンスされていないという旨に発表する、と、いわば「裏契約」をすることです。しかしこれにしても、およそまともな企業が相手にするとは思えない話です。

 ライセンスでは無いが権利主張をしない、という契約も同じことです。権利主張しないということこそがライセンスの実体ですから。

3.4 契約での対処の可能性を説くのは弁護士の宣伝か?

 私のブログの6月10日の項に、その夜に加筆として書いたことですが、次のようなことを思いました。

 最判について検索すると、たとえばこのブログでは、この最判の重要点は、方法特許でも消尽の可能性があること、発明の全要件を備えていない物でも売ると消尽の可能性があること、の2点だとまとめながら、ライセンス契約のドラフトでの対処の余地があることを指摘しています。その対処の方こそ重要と言っているようにも見えます。確かにそうもいえるのでしょうが、でもどうも、職業的な立場でこう言っているように見えてなりません。

 思い出されるのは、均等侵害を制限するWJ-HD最判について、均等論が生き残ったとのコメントが米国の法律事務所のページでは目立っていたことです。ここのコメント同絶対アドレス)で書いたように。どうもそれと似た構図で、ドラフトの工夫でなんとかなるから、相談してくださいな、と言っている“宣伝”のように見えます。実際には、それで対処できる可能性(特許権者にとって好都合に出来る可能性)はかなり限られるのではないでしょうか。

3.5 別の特許なら

 さらに考えてみるなら、インテルにライセンスしなければ、消尽はないわけです。当たり前です(そういう言い方をすると当たり前だが、でも、複数特許の相互関係を考えると実はそれでも微妙。これを後述。)

 でも、単にそれだけでは、LGの目論見としては上手くないですが(出来るだけ沢山の収入になるように、みんなから徴収したいわけですから)、その辺には工夫の余地がありそうにも思います。それぞれに対応した特許があれば良いわけです。考えてみると、本当に別々の発明で別々に特許が成立しているなら、それぞれの段階から徴収できるのは、まったく当たり前です。

 そうすると、今後の問題となりそうなのは、実質的には一つの発明なのに(一つでも“発明”があるならマシな事案ですけど)、別々の発明であるかのような見せかけを作って多層的に徴収しようとする、というやり口ですね。考えてみると、LGの作戦は、その方向のものではあるわけです、それが不十分だとされたのが本件最判だ、という理解も出来るかも知れません。

 こういう観点から考えると(或いは、考えても)、LGは、かなり工夫をしてはいるんですね。あと一歩の点は、インテルにライセンスするべきではなかったのですね、この特許(クレーム)で下流から徴収しようというのなら。

 もちろん、単にライセンスしなかったら多層的にならないですから、LGの目論見を達成できません。でも、本件の事情では、そうとばかりも言えないように思います。他にも特許はあるのですし、ここで主張された特許についてはインテルにライセンスしない、というやり方もあったように見えます。そもそも、これらについてはインテルは直接実施者でないのですから上でもちょっと書いたように、何をライセンスしているのか、よく分からないところがある)。でも、交渉状況などについてまったく分からないので(他の特許は有力でなかったのかも知れない)、これ以上は分かりません。

 下流に対して権利主張する特許についてはライセンスしない、という形をとることで、本件よりは一歩は可能性が高くなると思われます(インテルに間接侵害が生じるようなものだとまた話が複雑になる。それはないようにした方がよいのかも知れない)。でもその場合でも、技術内容が対応している別特許をインテルにライセンスすると、なお消尽の可能性はあることになると思われます。この状況は、国際消尽の場合と近いですね、まったくの同じ特許ではない、という点で。その辺の紛争が将来的にはまだありそうだな、と想像します。

 一言にまとめると、契約だけでの対処は無理だけど、特許の方も工夫すれば、可能かも、……ということです。請求される側の多くの日本企業にとっては、今回の最判は朗報ではあっても、完全ではないかも知れません。

3.6 n7の示唆は何か?

 本件では、多段階でのロイヤリティ徴収は結局出来ませんでしたが、これはLGの目論見に反する結果であることは確かです。逆に、LGはインテルとの契約において、下流側からもロイヤリティをとる積もりでいたのですから、この期待外れが、インテルとの契約との関係において、そのままで良いのかは問題となり得ます。最判の注7が言っているのは、そういう話だと思います。

(以下は、Kuyaさんのブログのコメントに私が書いたことの転載 (ちょっと加筆修正) です。)

 注7で何が言いたいのかは、具体的には分かりませんね。ただ、指しているのは、インテルとの契約においては、LGは多層的にロイヤリティを徴収する積もりであったことは確かであることなのだと思います。それが、消尽という理屈によって徴収できなかったわけですから、いわばあてが外れたわけで、インテルとの契約のありようによっては、そこが償われるべきだ、という話になる可能性もあるだろう、とこういう意味なのだと思います。

 想像では、たとえば、このような契約をインテルが主導して結んだのだとすると、他にも下流のユーザーからロイヤリティを受ければよいということで低廉なロイヤリティとなっていたのであれば、それがインテルからのロイヤリティで終わりだということになったのだから、不足がある、というか、極端に言うと、インテルの方が、騙してこういう契約を結んだんだという話になる可能性も、後の経過からするとあり得る、という、そういう話なのだと思います。

 しかし、実際的にはおそらくは、多層的に徴収する形をとることによって、それぞれについては率的にも金額的にも僅かで、たとえばインテルもわざわざ争わない、という方向に誘導する、という特許権者主導でのこういう契約なのだろうと私は想像しています。そういう場合なら、契約上の責任をインテルに対して追求するなど認められないだろうというのが私の想像です。でも、最判は微妙な示唆をしているようでもあり、どうなるか分かりませんけれど……。

 インテルとの契約に関しては、曖昧な契約文言であるために本件紛争が生じた、というような見方もあるようです。NGKの本件最高裁弁論のレポートでは、ロバート長官の言葉としてそうした見方を紹介しています。しかし、インテルとの契約の際のLGの考えとしては、多層的に徴収するつもりであるのは明確であり、この指摘はちょっと違うようにも思います。

4. 日本でならどうか

4.1 方法クレームであること

 方法クレームについての議論は、日本でも、基本的に方法では消尽(用尽)無しとの指摘があります。[中山]363頁の注5、それの引いている[豊崎]217頁の注1、[吉藤]438頁。BBS最判でも、「物の発明についていえば、〜」との文脈で消尽を論じています。

 でも、方法でも黙示のライセンスはありそう、という指摘があります。ところが本件では、それを否定する契約条項なのですね。そうすると、結構困る話というか、微妙な議論だと思います。

 それでも、本件のような事実関係まで意識的に消尽しないと考えられているわけではないと思います。それで、日本でも、消尽を認めるという話になる可能性は大いにあると思うのですが、難しいと言えば難しい話ですね。

4.2 先使用権に基づく消尽

 日本では多層的にロイヤリティを徴収しようというような例は聞いたことがありませんが、先使用権について同様の問題が生じるように思います。

 私自身、方法クレームについての先使用権と顧客のところでの装置の使用について、相談を受けたことがあります。私の記憶では、その事案では結局は、先使用権が認められるくらいなら特許無効が主張できそうだという話に落ち着いたのですが、本当に先使用権しか無いような場合で方法クレームになっていて装置がユーザーのところで使われるのが問題となる場合、どうなるか、というのは、結構難しい話と思います。結論的には米国の本件最判と同様になることが期待されるとは思います。

4.3 多層的徴収の試みは認められないと思われる

 なお、BBS事件最判は、国際的消尽については「当該製品について販売先ないし使用地域から我が国を除外する旨を譲受人との間で合意した場合を除き」との限度を付けましたが、国内消尽についてはこの種の限度が付されていません。そこからすると、Quanta最判と同じく、日本でも、販売がライセンスされている限りは、消尽成立、となるのがロジカルと思われます。

 ただ、若干繰り返しになりますが、Quanta事件ではライセンシーは実施その物をライセンスされて行っていたわけではないのですね。単に実施品が流通していったという事件ではないので、考えようによっては、国際的消尽と比較できる面もあるかと思われます。

5. 改訂経過

  2008年6月27日(金)ウェブページ掲載。

  2008年7月8日(火)、9日(水) 4.3 多層的徴収の試みは認められないと思われる の後半にちょっと加筆。2.3 クレーム要件の中で差を付けている も加筆。3.4 契約での対処の可能性を説くのは弁護士の宣伝か? も加筆。1.5 本件の当事者 も加筆。これらの関係で、その後の§番号などが動いている。全体に推敲。

  2008年9月9日(火)、知財情報室のリンクが間違っていました。失礼しました。

  2009年1月3日(土)、スタイルをちょっと調整しました。それ以外にもちょっと推敲。

  2009年1月26日(月)、スタイルをまた調整。最判、だけでなく、最高裁判決、などの表記に修正。

  2009年6月4日(木)、誤字を修正。

  2009年7月23日(木)、2.4.1 知財管理の評釈の疑問(09年7月23日加筆) を加筆。


http://homepage3.nifty.com/nmat/quanta-com.htm

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