Last Modified: 2013年9月1日(日)20時10分29秒

研究会のメモ、2013年

By 松本 直樹

 私が出席した研究会で、私が後から思ったことをメモしておきます。レポーターの話は必ずしも書きませんし、また書いた場合でもそれはレポーターの著作権? に属する話なので、副次的な範囲に留めます。

 ご意見などご連絡はメールでホームページの末尾にあるアドレスまでお願いします。

 リンク:  2009年のメモ  2010年のメモ  2011年のメモ  2012年のメモ  2014年のメモ……今は未だですが

目次

1. 2012年商標裁判例(2013年2月12日TB)

 東弁研究会で、白井弁護士による平成24年商標関係事件判決紹介のお話を聞きました。

 類否判断の事例をいろいろご紹介いただきました。恥ずかしながら、多くのものを存じませんでした、勉強になりました。まあそれでも、大体のものは素直な話だと思いました。が、アルファベットとカタカナとか、漢字とカナとか、並べて書いたものの扱いは、なかなか難しい、と改めて思いました。

 そのうちで「VOSS」の件は、BOSS との類似が問題となったものの、結局は非類似というものですが、登録と使用実態との関係が興味深く思われました。出願された商標は、「フォス」とのカタカナが並記されています。それでBOSSとは非類似とされたもので、VとBの区別というわけではないようです(濁らない音との前提、ということ)。素直に受け入れられる限り、並記に従うわけですね。ただ、実際にはフォスの並記せずに使用しているようで、また「ヴォス」と書かれている場合すらもあるようです(自分で書いているわけではないにしても)。これでどうなるか、というと、違う使用実態があったら、その時に考える、ということかと思います。

 検索すると、「ヴォス」との発音を書いたものばかりが見つかります。この状況だと、単に「VOSS」との表記で使うのは、「ヴォス」と読ませていることになるのを否定しがたいように思います。そうなると「BOSS」と類似で侵害だと言われる可能性もあるのではないでしょうか。登録が認められた際の類否判断と、使っているものとは違う状況なわけで、そうなると実際の使用については侵害との可能性も否定できないですよね。積極的効力を原則としては認めるとしても、登録されているものと違うのだから、……ということでもあります。

 なお、この登録されているものを使っていることになるのかどうかという点では、「ももいちご」の例(こちらもご紹介をいただいたものです)とは違うことになるのだと思います。こちらでは、実際の使用においては、並記の漢字「百壱五」は付けていないでも(或いは申し訳程度に小さく書いていただけでも)、不使用取消との関係では使用と認めたわけですが、それは問題状況が違うでしょう。なお、特にこちらについては、審査時と、その後の解釈との関係が、特許とは違うよな、商標は単なる交通整理だから、……といったことも考えさせられました。

 mabinogi 引例は、それに fantasy LIFE が付いていたものでも、そっちは説明的と理解できるから、といったことと理解しました。

 チュッパチャプス、楽天。楽天を被告に、と言うケース。地裁ではダメ、高裁は規範的侵害主体を肯定でした。欧州ではサイト運営者に対する差止を肯定というお話もありました。原告は著作権の判例を援用し、それにしたがっての肯定の可能性を認めた、とのご説明でしたが、疑問です(下に改めて書きます)。でも事案では、楽天は合理的な期間内に削除したもので、内容的な判断で棄却とのこと。

 コメント: カラオケとは違って、侵害者を相手に出来るようにも思われる ニックネームで出ているが、買えば領収書では分かる ……ちょっと微妙とも

 これは、H先生が後の酒席でコメントしていたのですが、著作権とは違って、条文(商標法37条)の解釈としてのハズで、ちょっと状況が違うのでは、というお話がありました。でも、37条は、特許法の間接侵害規定とは違うようですし、それだけで全部というものでもないようにも思います。また、原告の方では、差止の実効性をもっと考えるものではないか、とか思いました。それとも楽天への嫌がらせでもあったのでしょうか。

2. 2012年著作権裁判例(2013年2月12日TB)

 前項の商標と同じ日にですが、藤田弁護士と栗原弁護士の掛け合い? による、著作権の判例の話を伺いました。

 断片的なメモになりますが、以下のようなことを思って伺っていました:

  ・折り紙の折り図の件。著作物性は肯定だが、相違を指摘して侵害を否定。編み物の編み図の件、著作物性を否定。ちょっと違いますが、これらには相関的なところがあり、後者は原告が抽象化しすぎた主張をした(侵害と言うためには必要だったのでしょうが)、ということかと思いました。

  ・私的デジタル複製の補償金の件の話がありました。対象機器を政令で定めているところが問題だと理解しています。地裁は、該当としたものの、協力義務の点での排斥。高裁は、やはり棄却だが、理由は違っており、協力義務はもっと強い可能性を認めながらも、そもそも非該当。

  ・このデジタル補償金の件、私は、憲法違反の可能性の背景があったと思っています。酒席での話では、K先生にもそれなりに賛成されました。

  ・映画の保護期間と過失の話。実質的に過失主義ではなく、非難をしない、通行料金的な物になっていると、改めて思いました。

3. 漫画事情(弁理士会館20130228)

 ブラックジャックによろしく、という漫画のフリー化で話題の佐藤さんの講演(これも掛け合いみたいなやり方ですけど)を聞きました。

3.1 出版社との関係など

 まず、ブラよろは、どうしちゃったのか? ということについては、次の様なお話がありました:

  ・編集との関係が上手く行かなかった、ネームがOKと言われて書いたのに、後からダメと言われたり、セリフが変わっていたり(といった許せないことが起こった)。取材を代わりにやってくれても、でも責任は作家だと言われて、依存できなくなった。精神科編の後でお休みし、再開は協議した。講談社サイドだったのに(、結局は物別れになった)。

  ・売れるものをつくり出すために二人三脚、というのが性に合う人も居る、でも1人でやりたいタイプもいて、自分はそっち。いろいろなやり方が認められて良いのではないか。

  ・編集者に求めるものは、いろいろな場合がある。(自分は)エージェントの役割を求めていない。新ブラでは、編集は原稿をとりに来るだけ、出版社の役割は限られる、流通をになう(だけ)。

 それで、新ブラの契約内容は、普通とはちょっと違うんですね。普通なら、紙と電子の優先権のところ、ちゃんと交渉なさっているようで、たくさん売れたら率を上げる契約にしたとのこと。今まで印税率が固定、一律10%が変えられることはなかったようですが、たくさん売れると出版社は儲かるわけですから、これは合理的な話に聞こえます。

 新ブラではデジタル利用は出版社と契約せず、作家がコントロールしやすくしたとのこと。紙については流通をお願いする、それだけ、ということなのですね。

3.2 去年(2012年)秋、ブラよろを二次利用自由にして

 利用がフリーで、さらに手を加える利用もOKの趣旨は: これはまず、続編が売れた経験があってのことらしいです。その規約は、シンプルなものを用意した(聞き手の行政書士さんのお仕事のようです)。なんでもやって良いという内容だが、事後報告はお願いしている。これは、結果を知りたいとは思ったから。ccも考えたい、……とのこと。

 さらに、フリー化によって海外展開も期待しているとのことで、韓国で始まるとのお話がありました。実験or調査の面が強くあるものではあるようです。フリーとはいえ、著者側の関与を求められることもあるので、「いいね」のハンコをご用意になったとかの話もありました。また、利用の形として、紙の廉価版のほか、続編の小説、カバーイラストのイラストといったものも期待しているとか既に出ているとか。。

 また、続編の新ブラのことと思いますが、4ヶ月の経常利益は、一桁上がったとのことです。

3.3 私の思った批判的な? 見方

 フリーにするのも、この作品については悪くないとは思うのですが、ただ、この点ではちょっと批判的なことも思いました。

 私が思ったのはこういうことです: ブラよろは、初めてのケースなので特別に目立っていると思うのです。その宣伝効果が続編の売り上げに貢献する。でも、今後の、ブラよろ以外の漫画について同じことは言えなさそうです。たとえフリーにしても、さほど注目されず、続編売上げへの貢献も限られるのではないでしょうか。しかも、多くがフリーになったら、さすがに不利益ばかりになってしまいそうです。たたき合いの構図というか。

 また、漫画を無料ででも見て貰うのは、宣伝という以上に他作品や続きを買ってもらうのに役にたつのかも知れない、といったことも思いました。漫画の絵に慣れるというか、クセになるというか、そういうことがあると思うんですよ。佐藤氏のブラよろの絵は、描き込まれては居ますが必ずしもきれいではなく(これは、病気の患者の顔とかもあるためもあります)、必ずしも取っつきやすくないと思うのです。実際、私はブラよろの週刊誌連載当時にちょっとは見た記憶なのですが、ちゃんと読んでませんでした、それは絵があんまり好きでなかったためもあるように思います。

 今回、全巻を読んで、絵柄についてもむしろクセになっているような感じがします。続きを見たい。また、無料で公開していただいたことに敬意を表して? 、新ブラを購入しました。

 こういう意味でも、個別的には成立する戦略のように思うのですが、皆がそうなって良いものかどうかはよく分かりません。……そんなことを心配しなくても、皆がそうはしないような気もしますが。。

3.4 フリーではあっても...

 利用のされ方を見て怒ることがないか? との話に対しては、詐欺サイトのイメージキャラクターで公認みたいなのは(そう見えるような利用の仕方は)困る、とのこと。それは虚偽である点で問題なわけで、いくら著作権をフリーにしていても、禁止できるはずですね。

 自分でコントロールできる発表の仕方は、忙しいが、でも週刊連載より楽とのことでした。漫画の週刊連載というのは、本当に大変なんでしょう。

 出版社には、事を構えるのか、ととられるけど、良くしたいだけであり、口約束だけがおかしい、というお話。これは弁護士業としても同じポジションが取れる話です。良い契約のために、頼むのが常識になれば良い、とも。

3.5 質疑応答

 未整理ですが、以下のような話が出ていました:

Q マンガウェブは、既存の出版社に頼らない道を探す? 他の人で利益は?  ……未だです いろんなサイトで売ろうとしている  Q 二次が自由との話、色々あろうが、アニメとかもか ……まだ小説だけ 映画の企画は聞いたが 商品には Tシャツとかのグッズはある それもフリー 新しいものはノンフリー、一コマ以外は 発売時だけが経済的価値がある、後からというのは例外的 古いものはどんどんフリーにすれば良い 契約書は、先方のドラフトがある場合が多い  Q 自分も二次のフリー化をやっているが、差別とかの表現に使われたらいやだと思うが、どうか ……今、訴訟を一件やっている サイトから買ってくれた人に直筆を書き入れているが、リクエストされて昭和天皇の似顔絵 それを天皇支持としてサイトに それを咎める訴訟 賛同してとかのウソだけはダメと 規約に入れはしなかった 長編のフリーで注目されたとは思うので、それで知れているので問題が起こりにくい 埋もれるようになるとややこしいかも   パチンコ屋さん、キャラ利用が問題ないのか、とのメールが来る まあ、いい 差別に使われても仕方ない、ものを書くとはそういうことだろう  Q ビックリしたのは、製版データが1万5800円、低解像度でない 本物が作れてしまう 買ったもの自体をコピーして売るのもOK? Ok. 自分で200万かけて作ったが、20ー30は売れた 双葉以外もある 未だ赤字。画面上でも拡大できて、タッチも見られる 教育目的にも良いんだが  Q 採算の点 ブラよろはフリーとして、新ブラがスキャンされてアップされたら ……それは注意する それでも、お金を使って取り締まろうとは思わないが 或る程度の人はズルするがそうでない人もいる 線引きは 古いものについては良いんだと ノンフリーにしても使われないだけ 全部を閉じるのはダメだが、全部開放の必要も無い  Q 講談社との争いの理由の1つが、勝手に二次の許諾だったのでは 今はなぜフリー?  ……何もかわらない、自分の意思の反映が大事 (だったら、出版社も、1つの作戦のような……) Q 週刊の連載は大変とのことだったが、自分の考えでやるのは良いか 二人三脚が良い人とは ウェブ展開で、出版社から外れると、お金の面でも得になるのか、心理か 創作環境は自由になった、表現に制約があったのを(少年誌の都合、売るための都合)、自由に 打合せでツブされることはない 自分で決めなきゃいかん、大変 だめでも自分のせい 万人にお勧めはしない   金銭的にも、か 経済的にも良いが、大手から声もかからなくなり、出版社から嫌われる そこは不利になるか 他にやっている人が居ないので、目立って名が売れるか でも批判も受けている それをやり過ごせれば   共感。多くの人に、大手誌で連載を持つのは目標だろう 雇って週刊より、1人で月間の方が儲かるのでは 雑誌のブランドがあってもなくても、原稿料では赤字 細々がいいな その変化の生じたタイミングは、相手に合わせようとしていたが、、   著の保護期間を50年、70年にとの動きがあるが、との話に対しては、短くて良いと思っている、とのことでしたが、フリー化の際の考えとかからすれば、当然ではありますね。権利云々以前に、古いものは普通は目に触れなくなるだけなのであり、そこに権利を認めても、……ということですね。 

4. 2012年特許裁判例

(これから書きます。)

5. 先使用権(by田中先生at知懇20130313)

 田中先生による先使用権のお話を伺いました。要点: 先使用権が認められるのは、かなり厳しい。ウォーキングビーム最判では、事案としては準備としてもかなり前段階だったと思われるのに、それをレトリック? で“即時実施”とか言ったのがさらに厳しく受け止められているのか。。

 いくつかの裁判例のご説明がありました。印象的なのは次の様なものです:
  ・経口投与用吸着剤 事業の内容が確定 クレームで数値が問題だったか(そういうクレームで侵害というのも珍しいような気が...) 調整や改良の努力で不利になるのは、との批判あり
  ・ブラニュート顆粒事件 不存在確認請求 後発医薬品 添加物まで一義的に確定していたことも求めた 

 先使用権の制度趣旨について、経済説と公平説があり、後者が通説とされてきたが、後者も色々で、といったお話を思い出させていただきました。まあ結局は、現に実施しているものが実施できなくなることを、不公平と言えば不公平なので、それなりの調整をしているわけですね、そういう説明に尽きるようにも思います。出願の強制を避けるという意味も(ノウハウを認めるということ)あるとも説明できます。

 ちょっと発言させていただいたのは、米国の(従来の)先発明主義での議論との共通性についてです。考察内容としては、米国での先発明主義のもとでの議論に似通ったものを感じるのです。先発明審議では、特許権者の発明の時点での特許要件が問題ですので、いつ発明したのか、が大いに議論になります。それが先使用者の先行使用を論じるのと似ていると思いました。

 もっとも、m先生がご指摘になっていたように、問題状況は全然違うともいえるわけですね。米国では基本的には先使用権はなくて、特許出願をして特許を得た者に有利な仕組みに成っているといえます。プロパテントですね。

(以下のメモは未整理ですが、とりあえず)  発明の完成 外部表示としての意義 開示 公示としての登録 先使用権の成立のためにも外的公示がいる、とも 特許権と同様に外部的表示で  発明の完成の客観的外部的表示の意義 ノート 設計図 発明の内容は   発明の価値と ハンダ合金 金属Aの選択と、その率の限定 基本よりも単なる改良発明の方が先使用権が難しい?  (私: 米国の公表と出願の問題を思い出した) 東京地判平成21の 公平の観点から 平成17の評釈で、粒度を変えれば後発も可能   改良は独占で良いということか 基本の方が意義があるはずでは 逆では、との話  即時実施の意図の意義 重敏のが最判につかわれた?  大設備だった見積もりとかはあるが物理的に始めてない、それで、地裁は事業の準備を広く認めたと理解された事案 そこで即時といってハードを上げた?  実施形式の一義的な確定 61年は発明思想説を採った  実質的な同一性の維持   松山地決H8便座カバー 本間コメ、美勢コメ 蘆立(これだと先使用権者の危険が、と)   東京地判H21 安定性試験に着手していても  (私 決まっていないと入るかどうか分からないというより厳しいのか ……厳しいらしい) 厳しすぎる?    M大 H21 や KK-1とかは、いずれも技術的範囲に入る、との前提 違いがあるとされているが、クレームに限定されている数値に関係はあるが、いずれでも入る ウォーキング最判では、実施形式に違いはあったはず、でも先使用OKだった それに比べて松山や21は狭すぎるようにも   村林の意見 手続的な問題が 重敏の批判、ドイツ、発明の範囲内でも 実施例そのものへかえるのを認めるのは不公平との議論 自明な変更なら出来るはずだが   ウォーキング事件では、被告物件の特定がクレーム文言どおりだった、というのもあった それで、それ自体の先使用権みたいになった 特定がしっかりしていない問題 それをちゃんとやれば、先使用権が狭くなるはず   即時実施は最判だったが、その指す事実は、設計図が出来ていたくらい? 後の判決で言う即時実施とは違いそう   (Y) KK-1の例から 電池で白金を入れる発明、3で実施の先使用権、4にしたらもっと良くなったら 数字が (私: 良いのを開示していたのか、また、それで改良発明の可能性があるなら、そこは先使用権で実施できないのも仕方ないかも 安江、そこまで飛躍的に良くなる場合なら分かるか..)    (田中)美勢さんの松山コメで 公知例と仮に想定して、特許が残るか考える、という 減縮の可能性で (私の言ったのと近いか。。)  (M)米国で、先発明主義だったのに、先使用権を一般的には認めていなかったのは、公開の要請でと言われる(それで特許権者を優遇ということかと) 広げると、それが損なわれるのでは ……例外的か、残りが特許権か どちらが原則かというと、先使用権は例外と多くの人が言うが、重敏は結構ちがう 自分としてどうあるべきとまでの考えはない   (M大)先使用者が先に占有とかいうが、先願主義との整合という意味では、全部抑えられるという先願主義もありのはず それでも先使用権が公平というのは、先願主義でダメとされても、本来は保護される発明というところが根拠 先願主義とは相容れないところ、  (M大に) 外部的表示というのは ……仮にクレームに当たる内容を会社内で文書に残していたとして、どこまでの技術的思想家、という認定になる その時は少しは広くても良いか、という話 文書が無くてただ実施という場合と、客観的に証拠立てられる(たとえ社内でも)ときとは、違うのでは、ということらしい 発注の   利用、外部に見えるのを要求する (私の確認)証拠の問題という話  (私の先発明主義の話: 考察内容としては、米国での先発明主義のもとでの議論は、結構、似通ったものを感じる 特許権者がいつ発明していたのか、を取り上げるが、それが先使用者の先行使用を論じるのと似ている)  (M大) 中国の先使用権、狭いという話だが 実施形態について発展をダメとする、規模も 規模の点はともかく、日本も狭いか 中島さんが中国が狭いから気をつけろと

6. 2012年著作権法改正の総括(裏話? )(at東大20130319)

 任期付き公務員として著作権法改正に携わったご経験に基づくお話を伺いました。審議会でのバトルなどと並んで、内閣法制局との折衝がとても大変で、それもあって不十分な法改正になった、という趣旨が聞かれました。評判の悪い今回だが、現場は大変、自分は著作権課loveであり悪気はない、とのこと。

6.1 基本的な内容

 出だしは、日本版フェアユースだったのが、かなり細かい改正にとどまったわけで、どうしてこうなったか、が今日の話、とのことでした。それで、政府提出の法案のプロセスなどをご説明いただきました。

 なぜ非公開のワーキングチームか、という話も興味深いところでした。権利者団体とユーザーがガチンコであったが、それは未だ良い、さらに……という事情があったのだそうで、この説明は、2人以外のメンバーには明言したハズとの話もありましたが、ここでは書かずにおきます。

6.2 役所の提案する法改正の正統性への疑問

 お話を伺っている際には、勿論、敵役としての内閣法制局、という感じで、フェアユースの法制化という望ましい立法の努力に対しての、望ましくない抵抗、みたいな感じで聞いていました。私自身の考えとしても、基本的に、可能であるならばフェアユースを法制化するのも望ましくはあるとは思っているわけですので。

 でも、後から考え直してみると、違う見方もあるかも、と今は思っています。特に、立法事実を厳格に要求する法制局のポジションというのは、正当といえば正当です。法制局は、役所のやるべきことに抑える、ということをやっているのかも知れません。なぜと言うに、役人がグランドデザイン、とかいうのは、ヘンだと言えばヘンです。立法事実を強く求めると、世の中をリードすることなど出来得ないわけですが、でもそれがあるべき役人の範疇かも。さらにでも、代わりに議員がやるわけでも(出来るわけでも)ないところが問題かも知れませんが。

6.3 立法事実

 改めて、法制局の厳しいところについてですが、立法事実と明確性の2点が大きいといいます。まず立法事実の重視ですが、実際に社会で困っていることを重視するということ。フェアユースについては、次の様な話になるようです:
  ・FUは新たな技術などのための柔軟を目指すので、立法事実の説明は難しい、今は困っていないが将来のためというものだから
  ・形式的侵害を解消すべきというのも、社会的混乱は現実には無いと言われてしまう
  ・立法事実を、いかなる抽象度で捉える必要があるのか 今後もこれほど求めると、柔軟で抽象的な規定は難しい
  ・Cは特に厳しく言われる(将来に何かあったときのためだから) Cの当初のような条文化は断念せざるを得ず 47条の9はすごく大変だった(せめてもう一つ作ろうと思って入れたが)、事業者に教えを請いなんとか提案した
  ・聞いて良く出て来るのは、検索エンジンだが、既存条文へのご意見 それだと法制局には、それを直せと言われる、別の抽象的な新しい条文はダメといわれる

6.4 明確性

 法制局で問題とされるもう一つの点は、明確性です。予測可能性のために必要とされます。今回の法改正は、権利制限規定なんだから、と考えたいが、法務省刑事局は違うことを言い、簡単には許してくれない、おめおめと引き下がれないので、山口厚先生に相談に行ったが、でも法制局を支持する見解で、明確性の点では厳しいと言われたとのこと。そういうこともあって、総合考慮型は無理という話です。

 単に権利制限規定だから、というのでは、そう言われてしまいそうです。制限と組み合わせて実体法は出来ているわけで、積極でも消極でも明確性は必要に違いはない。でも。現状の問題性はちょっと違うのではないでしょうか。現状では、本来は許されるべきものも形式的には違法になっているのが問題で、そこを解消するのは、むしろ透明性を増す、とは言えないでしょうか。……でもこれで説明できるものというのがそれ程に多いかが問題かも知れませんが。

 「軽微」も問題となり、これを巡るドラマがあった、よくぞ生き残った、というお話もありました。公正な慣行、なんて条文もありますが、今では厳しいようです。

6.5 質疑

 以下、簡単にメモだけです。

 (M先生) 10年前に 営業秘密の刑事罰の 法制局の立法事実の要求 一般規定でのメリットは ……その辺が難しい、それで今回の結果 ヒアリングでもっと良い事例を期待したが、こまかいものだけ インパクトが無かった 規定があれば産業が、とかの説明は?  ……経済効果の報告書は出てきたが、wtの検討で大したことないと 検索エンジンの例というが、FUの問題か、韓国や中国はFU無くても出てきた 

 (某権利者団体の方) 反対の理由、デジネットで唐突にFU導入の報告書に、それで盛り上がった 立法事実がない、経団連もそういう 法務省も抽象的な規定に反対 それでもと言うのに疑問 導入方向を始めたら、気が済まないのか、との印象 その後、ABCなら特段問題無い(賛成はしないが仕方ないか)となった それでも、なぜそこまで苦労してまで導入しようとするのか、撤退の勇気が必要ではないか ……私の感覚としては、知財計画で提起なのにゼロ回答は不適切というのがあったのだろう

 (T判事) 明確性について、今回の条文の程度ならOKか、将来の抽象化はどうだろう?  6頁の複雑難解化するというがその解決は ……今回はこれで明確はOKとなったが、結局は決める問題である 将来はその時に 抽象的なものは要るはずと考えての今回の条文 写り込み、 ……打開は、今回のは、最近のに比べればシンプルと自負 こういう方向で行って欲しい 担当官にもよるだろう 

 直近の改正での似た表現があると、それとの整合性の配慮が大きい 

7. リパーゼ事件のことなど(TB20130409)

 東弁研究会で塩月判事の講義を伺って、リパーゼ事件について改めて考えました。(ここに掲載は 2013年5月28日)

7.1 他を考えに入れる事への疑問

 お話では、リパーゼの件における要旨認定について、明細書やそれまでの経過を解釈の根拠とするようなご説明がありました。そうした事情を見ても、クレームの文言通りに広くリパーゼ一般と解し得る、とのご指摘です。

 この点は、若干の違和感を覚えました。M先生もご質問になっていたのですが、要旨認定の場面では、基本的に、問題はクレーム文言に尽きると思うのです。明細書の内容などに比してクレーム文言が不適切であるのも、拒絶の理由として取り上げるものです。そう思うと、明細書の内容や主張の経過などを考慮してクレームを解釈するというのは、それ自体に妙なところがあると感じさえしました。一般的な評釈でも、審査での解釈であるからクレーム文言通り、という点にこそ重点が置かれていると思います。

 その後に改めて判例解説などを見て、確かにこの件の明細書の書き方は、他の物を入れる事こそを発明内容のように言っているなど、クレーム通りと解釈できる側面ないし可能性があることを理解しました。しかしなお、要旨認定としては、そういうことが理由ではなく、単に文言通りに把握すれば良いという話が基調になるように思われました。

7.2 後に広く解される可能性の意味

 さらにしかし、このご指摘には、次の様な意味があるものと再考しました(後述の、以前の本の記述なども見て)

 明細書などを見て“も”広く解釈できるというなら、後の侵害訴訟などにおいて現に広く解釈されてしまう可能性があるということになります。そういう“可能性”を指摘するという意味があるのだと理解しました。そういう可能性があるなら、高裁がしたような狭く解釈することは、まったく不適切です。

 でもやはり、こういう理由は“ダメ押し”に留まるのだろう、と思います。そういう可能性(後に広く解釈される可能性)があることは、狭い解釈を絶対に否定する理由ではあっても、基本的な理由ではなく、あまり前面に出すものではないように思うのです。

 もちろん、基本としては要旨認定と技術的範囲とで違いは無いものです。ただ、後者においては前者が前提となるので、実際に既に為された前者に一致させるべき(少なくともそれより広げない)という考慮は必要で、その際の考慮内容として審査経過での主張や明細書の内容が出てくる、それでクレーム文言より積極的に狭いこともある、と理解しています。

 ところが、リパーゼ事件の場面において、クレーム文言以外を考えに入れるのを強調するというのは、この逆に、後に(技術的範囲についてとして)どうなるのかの可能性を考える、ということになります。これはダメ押しにはなりますが(これが広い可能性があるなら、狭く解して特許を認めることは絶対に許され得ない)、基本として出てくるものではないように思うわけです。

7.3 クレームが広いだけでも

 むしろ、単に現にクレーム文言が広すぎること(Raの限定が無いということ)がそれ自体で、可能性という点でも、不都合の可能性があると言うに十分なようにも思います。

 こうしたことを考えるにあたっても、一つの究極的な理由として、後に技術的範囲の解釈として広く取られる可能性があるということは、指摘できるとは理解しました。

7.4 以前からのご説明

 こうした、後の侵害訴訟などでの解釈の可能性を考えるというのは、以前からおっしゃっているんですね。ちょうど、牧野先生との問答で、塩月先生が次にようにおっしゃっているのを見かけました:

「Raリパーゼも実施態様にしか侵害が及ばないという解釈を取りうるとしても、それはあくまでも侵害裁判所が判断するかもしれないという見込みにすぎませんので、その見込みがあるからといって、権利生成の際、すなわち特許を付与するときにリパーゼのままというのはとてもできないと思います。」
http://blog.goo.ne.jp/nrmaeda1/e/ec74432b4fcf7e1e6ef93f666d4c0a98(この箇所をブログにお書きの方がいらっしゃいました。)

 「とてもできない」とされているのは、単なる「見込み」だけではそれに依拠できない、ということで、そのように後のことを考えるとの趣旨ですね。

 しかしまた、上の引用箇所の前には、次の様にあります: 「発明の要旨認定の手法についての判断であったわけです。これが、侵害訴訟の技術的範囲におけるクレームの解釈にそのまま当てはまるかのような議論が蔓延したという経緯にあります。」 こちらは、審査の時だからこそクレーム文言通り、ということと思われ、そういうのが基本的なように思っていました。

 両方があるということかとは思いますが。。

7.5 ファンクションクレームについての経緯との比較

 こうしたことを考えていての思いつきなのですが、米国でのファンクションクレームについてのCAFCと米国特許庁の関係の歴史に、通じるものがある様に思われました。

 米国特許法では、112条6項により、機能的な要素の規定が許容されますが、それは実施例と等価なものに限定して解釈されます。参酌を法定しているわけですね。

 一時期までは、米国特許庁PTOは、この限定解釈は侵害訴訟でのことで、審査段階では適用されない、先行技術との対比においては、規定の機能を果たすものであれば区別無しとして出願を拒絶する、としていました。CAFCがこれをポンド事件(In re Bond, 910 F.2d 831, 15 USPQ2d 1566 (Fed.Cir. 1990))で否定して審査段階でも6項が適用され等価なものに限定されるとしても、なおパネルの結論には従わないとしたほどで、後に in banc での判決(ドナルドソン事件、In re Donaldson Co. Inc., 16 F.3d 1189, 29 USPQ2d 1845 (Fed.Cir. 1994))が出されて初めて従うものとされました。

 こうしたPTOの態度は、“クレームだけを見たのでは先行技術と区別ができないようなクレームを審査において是認するべきでない”という考えに基づいたのだと思われます。

 現在でも、PTOは等価に限定というのを無視した解釈での拒絶理由を一旦は通知し、112条6項による限定的な解釈がされることを出願人が積極的に主張して初めてこれに従った解釈で特許性を認めるという手続きをとっています。こうした手続は、後の解釈を考えての面があるものと思われます。後に6項での限定がないと解釈される可能性があるのではいけない、ということですね。

 このように、いろいろな点で対応する考慮をしていると理解できるように思います。

7.6 リパーゼ事件の例外は適切か

 もう一つ後から思ったことですが、リパーゼ事件の特段の事情の例示は適切なのでしょうか。これは、m先生が取り上げていたことと関係しますが、その話の際には私は、そこは例外なのであり、基本的に“無い話”と思えば良いだけでは、と思っていました。

 しかし、例外としてとは言え、確かに、参酌があり得る場合としての判示になっています。すなわち、「特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができないとか、あるいは一見してその記載が誤記であることが発明の詳細な説明の記載に照らして明らかであるなど、発明の詳細な説明の記載を参酌することが許される特段の事情のない限り」、とあるのが、参酌のあり得る場合の例示のようになっていると見えます。

 これらが参酌するべき場合として適切なのかを改めて考えてみると、侵害事件でなら勿論適切ですが、審査段階としては疑問です。「一義的に明確に理解することができない」とか、「誤記」が「明らか」とかというなら、それが審査段階なら、適切なように解釈するのではなく、むしろ何らかの手続で補正するべきではないでしょうか。

 これらも、こうした場合には、後の侵害訴訟での可能性を考えての“ダメ押し”は無い、という意味でなら、理解できます。これらの特段の事情のある場合には、後に文言通りでなく解釈されるであろうから、可能性としては、その様に扱い得る事にもなる、と言うことです。

 しかし、それで参酌するべきとなるかというと(言い換えれば、十分かというと)、そうではないように思います。この辺り、「許される」との言葉に表れているのかも知れませんが、微妙なように感じます。

8. 一般条項を適用した例(知懇20130522、主にFRAND条項の問題)

 一般条項を適用したケースについての、早田弁護士のお話を伺いました。(2013年7月25日、ちょっと推敲しました。)

8.1 一般条項は

 まず、一般条項の使用は制限的にあるべきとのお話がありましたが、私も、一般条項を使うのは法律の初学者にありがちなことで、それは個別の条項を適切に解釈適用できないからそういうことになってしまうものだ、と考えてきました。それで、知財事件は、通常事件に比べて多いというのが印象だそうですが、ここはちょっと違う感想ですね。特に多いという意識はありませんでした。でも、多いんだとすると、知財の条文体系というのが特に不完全だ、ということなんでしょうかね? 人工的な権利や制度であるため、いろいろと手当を必要とする点が多すぎて、間に合っていない、とか。

 また、最高裁は一種の立法機能があり、その根拠となるのが一般条項だ、とも思っています。キルビー抗弁や商標についての話なども、不十分な法律という面があって、それで最高裁の機能が発揮されている、ということもあるのかも知れません。

 しかし、以上のような面もあるとは思うものの、キルビー抗弁や商標の話で一般条項を根拠としたのはたまたまで、それら以外の例については、そうした例があるために抵抗感が減じられているだけ、といったことも思ったりします。。

8.2 アップル対サムスンの事案説明、また仮処分の意義

 特許侵害事件で一般条項と言えばキルビー抗弁があるわけですが、これが条文化されて、一般条項適用ではなくなった後の事例について、事例を幾つか(と言っても殆ど網羅的か)をご説明いただいたわけですが、なんと言っても注目は、例のアップルとサムスンの東京地判平成25年2月28日です。ここにキャッシュ。このケースの紹介としては、FRAND条項を扱ったもの、と書くのがキャッチーではありますね。でも、それで特許権者の請求権を否定した、とすると、ちょっと言いすぎというか、ミスリーディングのようにも思います。そういうストレートな話ではないですから。

 この事件は、FRANDでサムスンが権利濫用とされて負けた、という話として聞いた記憶で、どういう話かよく分かっておりませんでした。お恥ずかしい。FRANDで、と言っても、そうストレートに広く権利行使を否定した話ではないのですね、実は。侵害を認め非無効と認定し、でも賠償請求はFRANDに従ったライセンス交渉が適切に進められていないから権利濫用、としたもので、さらにそもそも、アップルの側からの消極的確認請求(賠償について)なのですね、事案としては。また、主文になっているのは、賠償請求権の否定だけであり、差止は取り上げられていません。

 事実の一つとしてサムスンが仮処分申立をしていたことがありますが、これは確認の利益を基礎付けるというご指摘があったかと思いますが、交渉を誠実にしていない事情でもあると思います。判決書60頁に主張として(それも筆頭に)、また99頁の判断のところでも、指摘されているように思います。もっとも、報復的な対抗措置であるが故に、と言った説明になっているところは、趣旨に微妙なところがあるのかも知れませんが。

8.3 批判的に想像するなら、また逆に想像すると

 そういう仮処分のこととかも合わせて、また判決は現にサムスンを負かせていることからすると、裁判所は次の様な見方をしたのかな、と想像(妄想? )しています、判決文としてはここまでは言っていませんが。サムスンとしては、FRANDに従って金銭を得るのが目指すところではなくて、出来るなら、アップルの販売を止めたい。そのくらいだから、ちゃんと交渉してない。(……私がこう理解しているというのではなくて、判決はそういう前提かな、という話です。o先生には“全然分かっていない”とか言われましたが。)

 でも、逆に考えてみると、アップルも、ロイヤリティも払わずに実施を続けているわけです。こちらも、是非ともライセンスを得ようという態度ではないとも言えます。それどころか、非侵害などの主張の関係があるとは言っても、ゼロとの確認を求めて本件訴訟に及んでいる位なわけで、その点では、ライセンスを得ようという態度では全然ない。この辺からは、サムスン側からの仮処分申立も侵害を認めさせるため(またライセンス交渉をさせるため)と説明することも出来るかも知れません。そうすると、どっちもどっちという気もするわけですが。

 あるいは、上記のようなサムスン側の交渉に消極的な目論見のためにまとまっていないだけではなく、アップルの側の理由もあるだろう、という想像も出来そうにも思います。

 そもそも、どちらも強気であるため、全然ライセンス交渉がまとまらないということなんでしょうね。弱気に考えるなら、どちらも心配する種はあり、ライセンスをまとめる方向になるはずですが、そうではないようです。

8.4 判決の後は

 本件判決は、判決効としては極めて限定的なものしかなさそうですが(サムスンはライセンス交渉を進めさえすれば良いハズ)、意味があるのは、その前提となっている判断なのだと思われます。すなわち、ライセンスが必要(侵害で非無効だから)との判断を示したところに意味があり、それで交渉が促進されるとの期待を持っているのだろうと思われるわけですね。

 でも、普通ならそれを前提としての交渉になるのでしょうが、アップルの強気を考えるとどうなのでしょうか。改めて想像してみると、これでアップルがそういう交渉に十分に積極的になるのかは、結構疑問な気もします。そうすると、ますます判決の意義は乏しいかも知れません。

 手続と判決に意義を持たせるためには、この判断内容で中間判決とすることは出来ないんでしょうか? サムスンが金額について「主張を留保」していたのにも、中間判決としてその後の審理をするならマッチするようにも思います。その上で終局判決では、金額についてもちゃんと決着を付ける、というのが本筋のような気もします。

8.5 そもそも(5月27日に再考)

 以上は、お話を伺った翌日に書いたメモですが、ちょっと離れて見直して、もう一言。権利濫用と言われたのは損害賠償請求権なのですが、サムスンはこれを積極的に行使していたわけではないのですね。「濫用」と言うのは、「みだりに用いること。」で、行使のし過ぎ、というのが本来の意味のはずですが、そういう情勢とはどうも違う。本件訴訟は、アップルの側が提起した消極的確認請求で、これに対してサムスンは侵害だとの主張をしており、仮処分申立もしているにしても、そもそも損害賠償を請求しているんでしょうか? これで、賠償請求権について確認の利益があるとして良いのでしょうか? どうも良く分かりません。

 もっとも、こういう形で勝つのはアップルの方でも本意というわけではないのだと思います。FRANDを理由で勝つなら、同じFRANDを理由にするにしても差止請求権不存在の方が未だ意味があり得ます。FRANDがあるために差止が出来ないということになるわけですから。今回の判決は、それとは違って、現状での金銭請求だけを否定したものです。アップルが原告で、不存在確認請求の対象は損害賠償請求権だけです、そういう選択をしているのは、アップルです。

 むしろアップルは、非侵害を認定してもらうのをとにかく希望し、そのためには、差止請求権不存在の確認請求ではFRANDを理由としての結論に裁判所が飛びついてしまう可能性があると考えて、それを嫌ったようにすら思います。どうも良く分かりません。。。

8.6 仮処分について補足(2013年7月25日追記)

 日経の次の記事は、仮処分もあったように報じているのですね: 「http://www.nikkei.com/article/DGXNASDG28043_Y3A220C1CR8000/」


東京地裁「サムスンは特許権乱用」 アップル勝訴
スマホ通信特許訴訟
2013/2/28 21:44

 スマートフォン(スマホ)などの通信方法に関する特許を巡り、米アップル日本法人と韓国サムスン電子が争った訴訟の判決で、東京地裁(大鷹一郎裁判長)は28日、「サムスンは特許権を乱用している」として、アップル側勝訴の判決を言い渡した。

 サムスンはアップルのスマホなど5機種の販売差し止めを求める仮処分を別途申し立てていたが、地裁は同日、いずれも却下した。

 世界のスマホ市場で激しいシェア争いを続ける両社は米欧韓など世界各国で訴訟合戦を繰り広げており、日本の裁判所の判決は2件目。今回と同様の特許を巡り米韓でも訴訟となっており、米国ではアップルが、韓国ではサムスンがそれぞれ昨年8月に勝訴している。

 訴訟の対象は、アップル製のスマホ「iPhone」(アイフォーン)やタブレット端末「iPad」(アイパッド)の計4機種。

 今回の訴訟では、画像や音声などのデータを携帯電話で送信する際、不必要なデータを省くことでサイズを小さくし、効率的に送信できる技術を巡って、特許権の有効性や侵害の有無などが争われた。

 判決で大鷹裁判長は、特許の有効性を認めたうえで、サムスンが国際的な業界団体に対し、他社の特許使用申請に応じる旨の宣言(FRAND宣言)をしていたことを重視。「アップルが使用許可を求めたのに、サムスンは誠実に交渉すべき信義則上の義務を尽くさなかった」として、アップルに対する損害賠償請求は「権利の乱用に当たる」と判断した。

 4機種のうち2機種については、そもそも特許を使用している証拠がないとして特許権侵害を否定した。FRAND宣言に基づき、特許権者の損害賠償請求権を認めないとする判決は日本で初めてで、世界的にも極めて珍しいとみられる。

 判決を受け、サムスン側は「我々の主張が受け入れられず残念」とコメント。アップル側は「特にコメントしない」としている。

 これ以外には、仮処分に言及した報道が見当たりません。どうなっているのかな? 仮処分が本当に却下されているのだと、そちらは、言わば素直にFRAND宣言に基づき差止請求を認めないとするものである可能性が大きいですが、不明な状況です。

 この記事自身、「FRAND宣言に基づき、特許権者の損害賠償請求権を認めないとする判決」との説明があるのに、仮処分については、ちっとも説明が無く、なんとも怪しい。。。

8.7 サムスンとアップルの評判? (2013年9月1日加筆)

 この係争について改めてネットを眺めると、日本語の掲示板での議論は、サムソンを批判する発言が圧倒的であると感じます。みんなサムスン嫌いなのね、というか、いわゆるネトウヨが沢山発言してるからかもしれません。

 上記のFRANDの問題の件とか、FRANDなのに権利行使しようとするサムスンがひどい、みたいなことを言うのは、あんまり正しくないと思います。争っているのはアップルであり、結果的に現状では、アップルは必須特許なのに何の支払もせずにいるのです。

 それでも、サムスンが無意味なほどにマネッコな場合があるのも事実ではありますが。。

9. このメモについて

 04年のときの冒頭に書いていたことをここに残しておきます(05年06年07年08年09年10年も、11年12年もだいたいそうでした)。「そういうこともあって、また私が誤解している可能性もあるので、レポーター名や他の発言者のお名前は、イニシャルだけにしておきます。」 もっとも、今後は余りこれに拘らないようにしようと思います、むしろ原則レポータ名は書くことにします。他の発言は、そのとき考えます。

 上記のように、他の方にご迷惑の及ぶことの無いように考慮している積もりですが、そんなことは言っていないとか、その他ご要望がありましたら何でもご連絡ください。可能な限り従います。


http://homepage3.nifty.com/nmat/kenkyu-m13.htm

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