Last Modified: 2008年4月22日(火)10時41分11秒

研究会のメモ、2006年

By 松本直樹

  一昨年の分の冒頭と同じことを書いておきます(去年もそうでした)。「私が出席した研究会で、私が後から思ったことをメモしておきます。レポーターの話は必ずしも書きませんし、また書いた場合でもそれはレポーターの著作権? に属する話なので、副次的な範囲に留めます。そういうこともあって、また私が誤解している可能性もあるので、レポーター名や他の発言者のお名前は、イニシャルだけにしておきます。」

  ご意見などご連絡はメールでホームページの末尾にあるアドレスまでお願いします。上記のように、他の方にご迷惑の及ぶことの無いように考慮している積もりですが、たとえイニシャルだけでも出しては困るとか、そんなことは言っていないとか、むしろ実名にしてくれとか、ご要望がありましたら何でもご連絡ください。可能な限り従います。

  (加筆: 次の07年分はこちら。)

1. インクカートリッジ再生(TB06年1月24日)

 この研究会のちょうど1週間後に、大法廷判決がありました。また逆転でしたね。私の予想は、……当たったとは言えないですね。

 地裁判決を見たときには、消尽の議論一般の問題というよりは、この発明との関係では、インクを補充しても侵害にはならないだろう、と思ったのです。カートリッジの構造を問題として、輸送時に空気が入ってインクが漏れることのないようにしている、そういう内容の発明であるわけですね。すなわち、発明はあくまでも“その構造のカートリッジ”です。だったら、地裁判決のいうように、それが空になった後にインクを補充しても、カートリッジを改めて作っているわけではないのだから、侵害には当たらない、というのはもっともと思いました。正直言って。ここに書いていたとおりです。

 これに対して高裁大法廷の判決文を読むと、インクが入っていることが重要なように説明されていますね。こう言われると、“消尽でない”というのももっともです(しかし、「タンク」の発明としては、この理解には疑問を感じます)。

 でも、地裁を読んだときは、逆の印象でした。既に書いたように。基本的に、カートリッジの発明であり、その構造が問題だ、と見えたわけです(「タンク」の発明として、結局はこっちがもっともと思う方向の方が強いです、今でも)。

 ところで。近頃は、大手の販売店に行っても、純正品でないインクが結構 幅をきかせていますね。ビックカメラ(池袋)だと、詰め替えインクが目立っておいてありますが(本件とは別の会社)、ラオックス(秋葉原)だと、互換品の「Callen」が、純正品よりも(!)目立つところにあります。特許ではなくて名前の話ですが、「Canon」と「Callen」は、結構近いようにも思われ(特に見た目が)、でも明らかに違っていて、微妙ですね。更に、パッケージの色が何とも。

2. 著作権侵害の主体(T06年1月26日)

 規範的、に対しての疑問を改めて感じました。結論とトートロジーだったりする。支配関係が相当に要件となるのだろう。教唆や幇助とはそこが違う。

 それにしても、直接侵害が成立しているかどうかこそが問題だと思うのです。侵害責任者が明らかにいる場合への教唆幇助なら、差止しても良さそうに思える。そうではなくて、直接侵害が成立しなくなってしまうような場合は、それを教唆や幇助というのは原則的にはおかしい。少なくとも、立法的な手当によって初めてそう出来るものと思う。

3. 102条2項; 推定と反証; 経費の控除(B06年2月20日)

 まずは、伺った話の簡単なメモから:

 コストのうち、どこまでを控除できるか。法改正で102条1項が出来たことで、2項(もと1項)の性質が変わったのか。限界利益説になりつつあったのに、貢献利益説に代わり、固定的でもある程度控除対象に出来るようになっている。

 2項の利益額をゼロにしてしまった例もある。かつては、金額が大きくなると思われていたが(それが場合によっては批判されたが)、貢献利益説では必ずしもそうではない。

 貢献利益説だと709条とかなりおもむきが違う。

 起草過程で準事務管理を推定にした経過なのだが、102条1項が出来て、先祖返りして、準事務管理としての適用がされている、それが貢献利益説とも理解できる。

 1項では限界利益説、2項では純利益説、と言う裁判所もある。これも一つの理屈だ。小池先生の指摘。

 被告の方で1項を主張しても良いか。……それは1項ではないが、でも同じ内容の反論は原理的にはあるはず。原告利益率で計算するのが推定覆滅になる、ということ。

 私の発言: 当たり前の指摘をさせていただきました。特許がマトモなら、原告の利益率が高くて、それの偽物である被告の売価は安くて利益率も落ちる。開発投資まで考えれば被告は設けている場合もあるが、限界利益で考えれば、原告に遠く及ばないのが典型のハズ。

 元々の2項の存在理由は、立証の困難にあった。1項が出来たことでその状況は変わった。2項の位置づけは却って難しくなったかも知れない。上のメモにもあったように。吐き出し規程としてしまう、というのもあるかも知れない。

 賃料相当損害金は、不当利得の対象にならなるが、損害賠償になるのは抵抗感があるとの美勢先生。

 我妻説でも抽象的に言っているとのO先生の指摘。

4. 韓国の話(K06年3月22日)

 韓国の知財訴訟のお話を伺ったのですが、盛りだくさんなんですけど、私の理解の程度の関係から、ほんの少しだけ。

 “知財訴訟の国際化”という話が興味深く思われました。韓国の話というと、日本の後追いのようにも思われる話が結構あるところ、この点は先行しているように聞こえました。ドリームワークスを被告にするケースというのが興味深いです。

 韓国も、日本と同じく、侵害訴訟と査定系の二元的な制度なんですね。特許裁判所というのがあるが、取消訴訟だけ。ソウルでないという場所の問題があるので、そこに侵害訴訟が集中されることは近未来にはなさそう、とのこと。さらに、弁護士と弁理士の職域の問題もある。

5. 著作権の信託(T06年4月6日)

 神作先生のお話を伺いました。信託というと、弁護士になって最初に就職した事務所で、金融関連の話でリサーチしたことを思い出しますが、知財の関係ではぜんぜん疎いですね。著作権関係ではもう少しなじみがあるものですが、私はそういう分野をやってないですからね。

6. 損害論

 特許に比べて、entire market value rule、全部を基礎にするので権利者有利。これに対して、...。

 著作権や商標は従来の判例傾向が続いているだけなのか、保護対象の実質によるのか、どちらか、と言うのがテーマになる、と言う。

 17 USC 504 の規程。

 孤立したマーケットであれば、侵害がなければ販売できた、と言えなくなる。

7. 過失の程度など(B06年6月9日)

 4項の話。軽過失参酌規定の話、3項でも「通常」が無くなった結果、高くなり得るという話から、4項後段での減額の機械が限られる、という話も含めて。

 4項で減らせる仕組みがあってこそ、1項で高くするべき場合には高くできる、……というように思う。

 1項および2項が高くなると言うのに対して批判的な見解からは、4項での減額の機会を限定する話にもなる。

 O先生からは、米国では過失要件無しの出だしの話が改めて指摘されていた。出だしはその通りなのだが、表示義務とその判例からは違っているように思う。物がある場合に限られるが、そういう場合こそ問題が生じる。流通業者として。

 クレーム対象の物の大きさで、賠償額は変わって良いか。

 大きくクレームした場合でも、寄与率で限定する可能性があるのか。

8. パブリシティの権利(TB06年7月11日)

 ブブカのケースを題材として、パブリシティの権利についてのお話をN先生から伺いました。

 あの手の物は、私は存在して良いとは思いますけれど、でも、アングラな存在としか言えないように思っていました。でも考えてみると、そうでもないのですね。なかなか微妙なところがあります。

 著作権の権利期間延長の法改正の関係での、1953年問題が、ちょっと話題になっていました。翌日の朝刊でも報道されて多様です。

 ヤフーのニュース、その特集リンクページ

9. 差止請求の認められない場合(米国のeBay事件最判)

 イーベイ(eBay)の最判というのが出ているのですね。ここにキャッシュ(findlawから)

 英米法では、コモンローでの救済は損害賠償(damage)だけで、差止はエクイティでだけ可能であり、それは裁量的に認められるもの、ということになります。でも特許侵害については、実際的には、侵害が認定されればほぼ当然に認められる、という話になっていました。仮差止については特有の議論がありますが、permanent injunction については当然に認められるというのが実務だ、と言う話を、つい先日もT先生から伺った気がします(確か、その話はこのeBay最判より前のことなので、その時点でのT先生のお話はまったく正しかったのだと思いますが、こういう話をするのは難しいものです。)

 eBay最判はこの点について、CAFCが当然に認められるとしたのを破棄して、エクイティとしての四要素の考慮をせよとしたものです(事案は差戻し)。四要素は、回復不能損害、金銭賠償では不十分、バランス、公益に反しない、です。これに従うと、侵害が認められても、差止は出来ない、賠償請求だけが可能、という場面が(少なからず)出ることになります。

 S先生のお話は、このケースの紹介の上で、日本でも同様に差止請求を排斥する可能性があるのか、という内容でした。ご指摘いただいたように、一般条項による範囲では、その可能性はありますね。それはもっともなのですが、それで差止を否定するというのは、随分と限定された場面でのことのように思います。それと比べると、米国での、もともと裁量的な差止、というのとは、やはりかなり違うのではないでしょうか。でも、参加者全体の議論として、随分と差止を認めない可能性に同調していたようで、私には意外でした。まあ、これは言い方次第で、みなさん、違いをご承知の上での話だとは思うのですが。

 それにしても、このお話には、根本的に新鮮なところがあります。独占権と言いながら差止を認めない、というのは、それ自体が背理のような気がしてしまうのですが、そうではない、というのを改めて考えると、頭がとても柔軟化される感じがします。

10. 進歩性の話

 A先生の詳細なレポートで、進歩性要件についての歴史的な経緯や、各国特に欧州の状況などについて、とても勉強になりました。

 欧州の実務が、権利の限界(技術的範囲)についてクレームを重視する方向になってきているのですね。それには、成立した欧州特許が様々な国で行使される、その際にはそれらの国で解釈される、という事情があるようです。その場合、範囲を決めるについてクレームの文言を重視するのでないと、やっていけません。

 (12月6日加筆: 歴史的な経緯としては、日本の特許要件が甘いとの批判を米国側からしていた、という話を主だ指されました。数多い周辺特許を批判して、そういうことを言っていたのですよね。しかし、現時点での普通の日本の特許関係者の感覚としては、米国の方こそ、ヘンな特許がいっぱいある、という感じで居るのは間違いないところだと思います。それぞれに勝手な批判をしている、というところもあるかとは思いますが、不思議というか、なんというか。)

11. 一時的固定と複製権(TC11月7日)

 S先生のレポートで、著作権法の立法検討の関係、特に一字固定の関係のお話を伺いました。

 この辺りは、米国も日本も細かい規定を法律に入れようとしていて、或る意味で似ています。でも、米国の場合と背景が違うように思えてなりません。日本の著作権法だと、こういう立法を試みると、有害なことになる可能性もあるのではないでしょうか。つまり、そこで規定された以外の固定が複製とされるように見えてしまうと思えるのですね。却って、適切な対象がしにくいような状態になってしまわないでしょうか。米国の場合には、この辺りに一般条項がむしろ働くので、細かく規定しても、それは無害的になる、という感じがします。それ以外のところは、まったくニュートラルに残されると思うのですね。

 (以下、11月24日に加筆): この関係で、画面表示の著作権について、再考させられました。T先生がちらっと発言していましたが、画面表示自体は消え去っていくものだということを重視すると、それについての複製権侵害というのは本来は無いわけですね。

 でも、ソフトの働きで画面表示がされる場合、その画面表示が(一応でも)固定的なら、ソフトの方が記録されていることによって固定されているわけで、そういう記録方法なのだ、と理解されます。そういう理解をして、以前に画面表示の著作権で訴えられたときに殆ど争いませんでした。侵害でないとされたので、まあ良いようなものですが、でも、一時的なのだという観点からすると、複製と言えるかどうかの点でももう少し考える余地も有ったのかなあ?

12. 化学物質の選択発明(B11月10日)

 S先生のお話で、特に化学物質の特許についての選択発明をめぐる問題点の勉強が出来ました。先行技術にカバーはされるけれど、具体的に出ていない物があるとして、それが特に優れているとして、それだけをクレームした特許、がどのように認められ得るか、という話です。

 東京高判平成15年12月25日が特に話題になりました。

 先行技術の方でサポート要件が厳しく満たされているのであれば、そのクレームに当たるものは(カバーされているものは)、そこからいかに限定してももう特許性は無いのが当然、ともなる、という指摘。サポート要件が厳しくなっている方向性との結びつきが指摘されていた。

 方向性としてはそうだとは思います。しかし私が思うには、クレームの広がりについて、その隅々について実施可能であることが、サポート要件として要求されるわけではないように思います。ただこれは、クレームのドラフトの仕方によっては、随分とおもむきが変わってくる話だと思います。要件を加えない、それで限定しない、というだけの場合には、抽象的なクレームの中には実施できない類型も形式的には含まれるのも、むしろ当然です。それでサポート要件違反とするべきではありません。しかしながら、要件自体が要素を追加する形式、すなわち典型的にはマーカッシュ形式ですね、その場合には、わざわざ書き加える要素について実施可能である必要があるとは思います。

 P先生とK先生がいずれも、後発の方については用途発明だけを認めるべきで、それ以外の成立の可能性を否定するべきじゃないか、さらに言えば物質特許自体に対して結構ネガティブなことをおっしゃっていたのが印象的でした。もっともな感覚のようには思いました。弁理士の先生方でも、物質特許を認めるといいながら、効果を発揮しない場合を非侵害とするように考えようとなさることが少なくないようで、それは実は内容的には物質特許の否定だと思うのですが、或る意味でそれも常識的なのだと思います。

13. 商標権についてのキルビー抗弁と除斥期間(TB06年11月14日)

 I先生のレポートで、商標権についてのキルビー抗弁の話を伺いました。とても勉強になりました。この話、結構色々問題点があるものなのですね。

 一番の問題点は、商標法47条の除斥期間が経過したものについて、どういう対処するか、という話です。登録されるべきでなかった商標が登録されてしまった場合には無効審判が可能ですが、5年が経過すると、47条で規定された無効理由については、無効審判請求は出来なくなってしまいます(不正云々で可能なものもありますがそれはここでは横に置いておきます)。そうすると、特許法104条の3の抗弁も出来なくなるはずです、これは文言から必然的でしょう。

 問題は、無効審判請求は出来ないにしても、実体的には無効理由があるのだから、商標権の行使は権利濫用だ、という“一種のキルビー抗弁”が認められるのかどうか、という点です。I先生は、この可能性を認めるとのご見解でした。ただし、当初は無効だった商標権でも、実体的に瑕疵が治癒される可能性はあり、その場合には、商標権の権利行使が認められるようになる(つまりキルビー抗弁がたたなくなる)、というご指摘でした。

 私はこの結論には疑問を感じます。一般条項の性質からいって、特許法104条の3が出来たからといって、それ以外の権利濫用の主張の可能性が一切無くなったとまで言うのは難しいかも知れません。でも、商標法47条の除斥期間を、余りに無効審判手続きに限ったものなのだとするのは、いかにもおかしいように思います。

 瑕疵の治癒の可能性を認めるならむしろ“商標法47条はそれを定型化したもの”と理解した方がよいように思えます。実体的に治癒するとの文言にはなっていませんが、それは、無効審判のルートを基本的な前提として起草しているからに過ぎず、むしろ内容としては実体的に治癒するとの意味のように思います。無効審判以外でいきなり無効判断できるのだというなら、それに対しても47条の制限はかかるのがあるべき状態と思われます。

 または、特許法104条の3が、審判にかからしめるような規定になっているのは、上記のような内容なのだ、という理解も可能と思います。

 翻って、特許法104条の3以外の、一般条項での抗弁を簡単に認めるべきだとは思えないです。それは、立法の趣旨として、特許庁での手続きと裁判所での手続きとの間での齟齬を避けたいということを考えての現行法なのですから、キルビー抗弁その物を104条の3以外で認める、それも特許庁と矛盾する場面で認めるというのは、困った話のはずです。そういう意味も含めて、5年たったので47条の規定によって無効に出来ないというのなら、キルビー抗弁についても認めない、という方が適切な解釈のように思えます。

13.1 問題は47条の趣旨(11月27日補足)

 抗弁肯定論者(5年の除斥期間経過後でも、侵害訴訟では抗弁を認める見解)のM判事と、ちょっとお話しする機会がありました。結論を左右するのは、47条などの性質をどう考えるのか、との点にあるようです。

 ご見解では、104条の3の起草趣旨などからいって、審判手続が制限される場合でも、実体的に無効なのであれば侵害訴訟の抗弁は認めてよいではないか、ということなのですが、確かにそういう面はあるものの、条文の文言からすると難しい面もあるようには思います。とはいえ、ここで結論が左右されるわけではないです。104条の3の文言を重視しても、上記のように権利濫用の余地を考えることも出来ます。

 そういう意味で、47条をどう考えるか、という問題なのですね、結論を決めるのは。この点でM判事は、47条をそのまま認めると、商標登録から5年は黙っていてその後に権利主張をする例を認めることになる、これは問題だ、等とおっしゃるのですね。なるほどそういう例を考えると問題ですけれど、その対処として無効の抗弁(104条の3の抗弁の主張)だけを認めるというのはどんなものでしょう? その問題は本来、47条自体の問題であり、対処法はそれについて立法または限定的な解釈によるべきと思えます。

13.2 特許法167条での第三者との関係は? (11月27日補足)

 これと同様のことが、特許法167条の確定審決の対第三者効についても言えます。手続き関与の機会がなかった第三者に対してまで確定審決の効力を認めて後の無効主張を禁ずるように見える167条は、大いに問題のある規定です。それは確かですが、この問題は167条自体の問題であり、違憲無効とされるべき条項です。それを、104条の3の関係でだけ避けて通ろうとする見解があるようですが、この条項が問題なのであれば正面から法改正するなり違憲無効とされるべきなり、と思われます。

 もっとも、どちらについても、上記のような正面からではない対処も可能ではあります(104条の3以外でも)。47条については、不正目的関係での事案処理が可能ですし、特許法167条も証拠が違うということにするのが出来そうです。そういうのが現実的だろうとは思います。

14. レーダー判事の話: eBay事件(T11月24日)

 実施していない特許権者でも、差止を求めていいのか、特許で出来たものを享受できなくて、世の中は損しないのか、などの一般的な話の後で、eBay の話を(改めて)伺いました。

 eBay最判の同意意見を読むと、最高裁の中でも実際上の方向が割れているのですね。同じく4ファクター・テストを認めると言いつつ、ロバート長官はこれまでの差止を認める実務を維持するようなことを言うのに対して、ケネディ意見は4ファクター・テストにより、差止が減ることを示唆している。

 こういう点で、今後の方向については不明(ambiguous)な状況と言えそうです。

 レーダー判事は、むしろ教授としての見解とのことですが、次の3つを予測するとのこと: まず、パテント・トロールがレバリッジを失うことはありそう、これは被告側が交渉について有利になるということ。

 もう一つ注意するべきは、差止を他の方法から得ることがあり得ること。ITCの手続きによる。輸入関係の侵害行為であれば、ITC手続きで完全な差止の効果を得ることが出来る。

 また、特許訴訟がトライアルにまで行き着いてしまうことが増えるかも知れない。被告側として、リスクを甘受できるようになるから。事業撤退のリスクがあるのでは、訴訟で決着を付けるというのは避けたい話になっていたが、それが変わる。

 eBay最判後の状況として、10件のうち4件で差し止めの請求を退けているという話。……そう聞くと、結構な影響のように思えますね。ロバート長官の意見よりは、ケネディ意見のようになっている実態、と聞こえます。そう質問したら、現状では確かにケネディ意見が影響力を持っているようだ、それはパテント・トロールとかが問題となっているからなんだろう、現状では、といったご返事でした。

 K先生、リサーチツールについての話。日本では刑事罰の問題もあるんだが、とのこと。

 レバリッジが今後どの程度効くか効かないかの話については、裁量が広汎にあることを強調していました。そうすると、当事者としては、可能性としては色々考えないといけないことになるわけですね。この関係では、テキサスへ行けば高額なのに南カリフォルニアだったら低い、という違いがあるなど、米国の裁判所には判断の幅があること、CAFCがそれを統一できるかというと、控訴審では期できる場合には限定があるために難しいこと、などの話もされていました。

 最高裁の政治性、その時点の政治的なwindに沿うことがある、という話もありました。日本より orderly でないというのだが、それで米国ではやっているのですよ、という結論でした。

 その後、M判事さんとちょっと話をしたら、一太郎のアイコンのケースなんて、差止を認めるべきでない例になるのでは、といった話をされていました。確かに、僅かな部分だけが侵害とされる話である点や、そのものを権利者が実施しているわけではない状況などを考えると、そうも言えそうです。でも、アイコンの絵を無くせばよいという回避策があってみれば、実は差止も大した影響がないとも言えます。それを強制するというだけになるのですから。そう考えると、差止を認めても良さそうです。

15. eBayなど、米国事情(K 2006年12月6日(水))

 M先生のお話を伺って、eBay事件の復習や、ディスカバリーの話の久しぶりの復習をしました。

15.1 トロルの批判される点

 お話を伺っていて思ったことですが、「パテント・トロル」と言いますけど、これの「トロル」は、待ち伏せして驚かせる“オバケ”の事なんですね(「トロール漁業」の方もあるかのような話でしたけど、そっちは主じゃないと思う)。それを批判する場合の議論の力点は、待ち伏せしての差止はズルイ、というところにあるのだろう、と思いました。プロパテントが行き過ぎていると批判する場合も、「パテント・トロル」を持ち出す場合には、損害賠償が高額になり過ぎているから、という議論ではなくて、差止を脅しとして使って、損害賠償として認められるべきものより遥かに多額の和解金を求めるから不当だ、という話だろう、と思います。

 損害賠償として認められる金額なのであれば、それは特許権者が本来的に取るべきものです。

15.2 102条2項への疑問と米国の現状

 また、その後の懇親会での議論の中で、K先生から、米国の状況を見ると、2項は不要ではないか、という話を伺いました。これの私なりの理解として思ったのですが、米国で特徴的なのは、ロイヤリティ(日本でなら3項)として認められる金額およびレートが、随分と高いことがあることだと思うのです。

 そうなる典型的な理由は、被告側の事業計画関係の証拠に基づく数字だと思います。被告がその実施を始めるに当たっては、典型的な場合には、競合があるものを始めるという話なのですね(後に侵害といわれてしまうほどの)。そういうのをわざわざ始めるというからには、少なくとも計画の一部においては、相当に高い利益率を見込んでいるものです。そういう資料がディスカバリーで出てくるのですね。これを基礎として、ロイヤリティとしてかなり高いレートを認める、ということがあるわけです。

 こうして認められるロイヤリティは、まさに2項と同じ内容です、それも、事業計画の中での話で、実際を問題とする2項よりもっと高くなりそうです。

15.3 差止できないとはどういうことか(12月11日加筆)

 Y元裁判長の、“損害賠償が高額だったら、被告は実施を止めることになって、差止を認めるのと同じなのではないか”といったコメント&質問がありました。その関連で、差止は命じられなくても、侵害との内容の判決を受けた後に実施を続けた場合、それは三倍賠償の対象となるのだろうか、といった議論がされました。これは、必ずしも加重されるとは考えられていないようだ、との話でした(O教授の話)。

 最判を見ても、あくまでも差止めを認めるかどうかという議論がされていて、差止を認めない場合には、それは一体、どうしろという意味の判決となるのかは、よく分からないですね。でも、差止だけを論じているということから考えると、被告の方が損害賠償を考えることで自分で止めることは、本当に有効な特許の侵害だというのであれば、あるべき状態なのだとは思うのです。特許権は米国においても独占権であるには違いないことからも、それは当然なように思います。

 そして、そういう風に止めることは、差止がされるのとは やはりインパクトが大きく違うのでしょう。差止の場合にはその実施がまさに突然に止められてしまうわけで、被告にとっての不都合は極めて大きいのだと思われます。

 差止は、その様にインパクトが大きいので、それをテコに、巨額の和解金を獲得することにもつながります。そういうのはおかしい、というのが「パテント・トロル」批判であり、eBay最判はそれに或る程度でも答えているのだと思います。

 (あんまり上手く言えなかったかも知れませんが、以上のようなことを発言させていただきました。)

15.4 排他権でも差止できないとは? (12月11日加筆)

 上でも書いたように、差止は必ずしも認められない訳ですが、米国でも特許権は排他権として認められています。というか、日本と違って、(自らの実施とかではなくて)排他権こそが特許権の内容であることが、米国ではハッキリしています。154条(a)(1)に「the right to exclude others from making, using, offering for sale, or selling the invention throughout the United States or importing the invention into the United States」を内容とするとあるように、特許権者は「the right to exclude others」を認められているものです。

 排他権だけど、差止は必ずしも認められない、というと、なんか矛盾のようにも感じてしまいます。しかし、そういうことはないのでしょうね。差止云々は、あくまでも救済として認められるとは限らない、ということです。排他権としてある以上は、それの侵害は、違法です。実施が侵害となり違法となるという点で排他権だ、と言っても良いのでしょう。

 そう思えば、被告が自ら止めるのは望ましいのは当然です。

15.5 被告の考え(12月12日加筆)

 それから、差止のない場合に三倍賠償になるのか、という話についてですが、次のようなことを思います。このeBayの事案で言えば、差止が命じられなくても、有効な特許の侵害との判断が覆らない状況になった場合に被告が実施を続けるとは、想定されていない、と思います。被告は再審査で無効となることを信じている(少なくとも期待している)のであり、それが絶対ダメだとなったら、和解するなり実施形態を変えるなりする積もりでしょう。

 三倍賠償云々の話では、想定される典型状況は、有効特許の侵害が確実なのに、差し止められていないことを良いことに実施を続ける、というものでしょう。それだといかにも「故意侵害」であり、加重されるのかなあ、でも敢えて差し止めていないのに、……というのが問題意識だと思います。

 でも、そういう状況にはならないだろう、ということです。そういうこともあって、“三倍賠償になるか”という質問に対しては、“はっきりしないが否定的”という応答になるのではないでしょうか。

15.6 先発明主義は当分続く(12月17日加筆)

 米国での法改正の動向の話も出ていました。昨年は、今度こそ先願主義移行がなされる、と報じられていたものですが(また、近頃でも国際合意の関係では、そういう話があったはず)、あんまり見込みはなくなっていて、なにしろ先頃の下院の法案では既にその部分は落ちちゃっているのですね。その後ウェブの日本語ページを見てましたが、こういう報道がでています: 後藤貴子さんの■進まない米特許法改革■/〜先願主義には当面ならず。それでも上院での案には入っているという話もありましたが。

 先発明主義の内容

16. 本年の立法関係などの話題のまとめ(TB12月12日)

 S先生のお話で、今年の知財関係の立法などの話題のまとめを伺いました。必ずしも「復習」になっていなかったりして。

 特許出願の関係では、補正が厳しくなったわけですね。拒絶理由通知後は、元との単一性の要件が必要になります。しかし、厳しくなったのは分かるけど、この「単一性」というのは、以前からのターミノロジーではありますが、かなり、どういう制約なのか分かりにくいですね、率直に言って。

 分割の方は出来るので(むしろ容易になっている? )、上記の場合の或る範囲は分割で対処するべきなのでしょう。しかし、分割というの自体、どういうポリシーのものなのか、今一つ分からないですよね。こちらは、言葉からすると別発明でないといけないわけですが(実際、キルビーの高裁判決とかでは、そういう無効理由もあったし。まああれは、出願日起算の権利期間制限がない時代の話なので、状況はまったく違うわけですが)、それを両方で厳しくすると、その点についての見解の相違で妙なことにもなりそうです。

 意匠について、関連意匠や部分意匠の出願が、従前は同日に出願する必要があったものが、公開前にならOKとなったのですね。

 また、パソコン画面表示についてとりやすくなるようです。しかし。画面表示の意匠権を強化するのには、疑問を感じます。この種のものにも何らかの権利を認めるのはよいとしても、その範囲は相当に似ているものに限定するべきです。機能的要請もあるし、簡単に描けるのですから、範囲を限定しないと、先行者が作り出したもの以上に独占してしまう結果を招きます。そして、そういう限定範囲なら、なにも(一応は)審査しての登録制にしなくても良さそうにも思います。

 著作権法、IPマルチキャスト。しかし、その後のK先生のお話だと、同時再送信に限るので、IPの意義のある使い方が対象とならず、意味の無い立法、との見方が強いようです。

 水際規制が、いろいろ立法的な用意がされていること。糾問的な手続きから、当事者手続的に変わってきている、などの変化があるわけですね。この関係の話にちょっとは関与したことはあるのだけれど、ちゃんとやったことがないです。やってみないといけないなあ、と思いました、今更ながら。

17. コンピュータ関係での進歩性(B)

 U先生のレポートで、コンピュータ関係での進歩性についてまとめて勉強しました。

 技術的事項かどうかを切り分けるのは案外難しい。それで、裁判所は念のために判断している、と言う面もあるように考える。その、非技術的事項によって進歩性が出ている、という場面を、本当に認めるのか、というのは、難しい問題。

 私が申し上げたことですが、


http://homepage3.nifty.com/nmat/kenkyu-m06.htm

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