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知財判決速報1行コメント、2002年

By 松本直樹  2003年分はこちら

  知財判決速報の裁判例の、2002年3月末以来の掲載分について、一言ずつコメントを付けました。主に東京地裁の速報のページを見てのもので、そのそれぞれのケースのページにリンクをしたうえで、簡単なコメントを付けました。東京地裁以外の裁判所のものも少し入れてありますが、控訴審での逆転例など、興味を持ったものに限られます。

 (お気づきの点がございましたら、御連絡はメールでホームページの末尾にあるアドレスまで。)

2002年12月

◆H14.12.27 東京地裁 平成14(ワ)3275 著作権 民事訴訟事件

  被告が農林水産省共済組合など、で、在宅介護に関係した書籍の著作権侵害被疑事件。一部は却下、残りは棄却。却下は、前訴で一部認容されていたところと同じで訴の利益がないとされたの。同じ被告(共立)に対しては、既判力で許されない、とされたところもある。

  ……請求額金が174万円、という話であり、どうしてここまでこじれているのか、不思議です。

  なお、却下とされている「金2万8045円」分は、訴の利益がないとされたもので、既判力で許されないとされた部分は棄却になっているようです。民事訴訟法ではそういうものだったかな?

◆H14.12.27 東京地裁 平成13(ワ)20971 特許権 民事訴訟事件 47部

  育毛剤関連のの特許3件(「柑橘類から得られる,毛乳頭細胞増殖促進作用を有するペプチド」に関するもの、およびこれを含有する育毛剤に関するものなど。その(3)は米国特許)に関連しての争い。被告は、北里研究所勤務の研究者で、本件各特許の発明者の1人だが、訴外エントロースに対して本件特許についての「特許使用承認証」を出した(これ自体が争われているが、出したと認定された)。エントロースは、本件特許の実施品と記載されるシャンプーなどを売っていた。

  原告は、このエントロースに対して不正競争を主張して訴訟を提起して、勝訴的和解をした(記載をやめることとした。どうやら、実際には実施品ではなかったらしい。)。今回の訴訟は、その際の弁護士費用などを請求するもの。560万円余の請求に対して、200万円余が認められた。ただし訴訟費用は3分の1が原告負担。

  ……何ともヘンな事件ですが、権利者ではなくて発明者にすぎないものからの「特許使用承認証」を意味のあるものと誤解するのは、米国だとただの誤解とも言えない面があります。本件でも、(3)の特許は米国特許ですので、その意味ではまともな面もあったのかも知れません。

◆H14.12.27 東京地裁 平成12(ワ)14226等 不正競争 民事訴訟事件 47部

  「ピーターラビット」の商品化に関する不正競争事件。差止等と金372万余りの賠償が認容された。

  争点は、不正競争でいう混同があるか、被告の商標登録に基づく抗弁が認められるか、など。いずれも排斥された。ただし、請求認容額は金372万円余りだけ(請求額は金3750万円余り)。

  ……請求認容が落ち着きの良いところだとは思いますが、商標登録に基づく抗弁は、理屈としては難しいところだと思います。

◆H14.12.26 東京地裁 平成12(ワ)22457 不正競争 民事訴訟事件 46部 中間判決

  原告は人材派遣会社。その元取締役らが設立した同業の会社が被告(彼ら個人も被告とされている)。原告における派遣者の名簿と派遣先企業のリストが営業秘密とされ、それを利用するのが不正競争とされた。本判決はその旨の中間判決で、差止請求の可否ないしそれが許される範囲、また損害賠償請求につき損害の内容および額、について更に審理がされる。

  ……派遣先企業のリストの方は、本当に秘密なのだろうか、という気もします。取引先としてどういう会社があるかは、一般にも知られているところだと思われるからです(現に私が帝国データバンクのデータベースで見たところでも、6社が記されていました)。それでも、それらの企業がどういうニーズを有しているか等を含めての情報ならば、秘密ということも有り得ますが、判決では、被告がそこまで共通したものを利用していたのかどうか、ハッキリした判示がありません。これは派遣者名簿についても同様で、営業秘密だと判断する下りでは、原告の派遣スタッフ名簿は各人の「PC技能,取得資格,就業実績」などの情報を含むものとの指摘があるのですが、被告が流用していたのがそこまでそのままのものなのかどうか、ハッキリしません。むしろ、被告の名簿は220名でそのうち原告のものとの重複は74名とされていて、全部そのままに引き写したものではないことからすると(ただし、重複の比率としては、初めの方のページでは高い率になっているとのこと)、内容までがそのままという訳ではないように見えます。

  こうした点では、営業秘密の不正競争と言えるかどうか、やや疑問なところがあります。また、そもそも被告会社の設立経緯が、正常な状態の原告会社からの敵対的な独立という訳ではなくて、むしろ原告の内紛に起因する内部分裂のようにも見えるのも、不正競争というのに若干の疑問を持たせるところです。

  しかしながら、それでも、会社として原告が存続している以上は、こういうのも不正競争とされるべきなのでしょう。また、そういう観点を前提とすれば、詳細な情報までそのままに使っていたというのを即物的に認定するのは難しくても、実際にはそういう情報を流用していたはずには違いないので、不正競争と言うべきなのだ、という気もしてきます。まあ、実際、そういう意味も含めて、不正競争と言うべき事案なのでしょう。

●H14.12.26 福岡高裁 平成11(ネ)358 著作権 民事訴訟事件

  日本舞踊の振り付けについて、著作権の確認と上演禁止を求める請求を認めるなどした原審判決が維持された。

◆H14.12.25 東京地裁 平成12(ワ)20029 特許権 民事訴訟事件 29部

  多色プリンタに関する特許の侵害事件。被告はエプソンで、請求額は34億円余り(10%の実施料相当額を主張)。非侵害で請求棄却。

  判決は、要件H「印字ヘッドを主走査方向に最大カラム数分連続移動させ」について、次のように判断して非充足とした。

「被告製品において,キャリッジ(印字ヘッド)は,各色の印字色データのオンドットデータの左端のうち全色の最左端位置から全色の最右端位置まで移動する(争いがない。なお,ここでは被告主張に係るキャリッジの「加速距離分」,「減速距離分」を除外して考える。)のであり,印刷基準位置(キャリッジ原点)から主走査方向に移動するのではないから,被告製品は,キャリッジを主走査方向に「最大カラム数分連続移動」すると解する余地はない。」

  また、要件F「前記格納手段に格納された印字色データから印字色別に1印字行分のカラム数を計数するカラム計数手段」についても、「『カラム数を数える』という意味であり,『カラム数を計算する』という意味ではない以上,格納手段に格納されていない印字色データについては,そのカラム数を数えることは不可能である」とした上で、次のように充足しないとした。

「本件全証拠によっても,被告製品において,そもそも,印字色データのカラム数が数えられていると認めることはできない(なお,前記のとおり,水平開始位置データ(データ格納開始番地)に水平方向の幅データを加算することにより,印刷基準位置(キャリッジ原点)から右端位置までのカラム数を求めることは,カラム数を数えることに当たると解することはできない。)。
 のみならず,被告製品においては,ホストコンピュータから被告製品に送られてくる印字色データの左側のデータが既にヌルカット処理され,これがイメージバッファメモリに格納される(争いがない。)。前示のとおり,左側のデータがヌルカット処理された印字色データは,構成要件Fの「前記格納手段に格納された印字色データ」に当たらない。
 したがって,被告製品は,構成要件Fを充足しない。」

  ……判決の摘示している点が勘所なのかについては疑問を感じないでもないですが、この特許が有効で今のプリンタが侵害ということはないだろう、とは思います。

  本件明細書の、特許庁電子図書館からダウンロードしてPDFに変換したものをここに掲載しておきます。

  明細書で前提としている多色印字プリンタというのは、熱転写のインクリボンとして、多色が並んでいるものを使って印字するものを前提としています。複数の色を同時に印字しますが、その際には、紙の上では上下にずれた行を対象にしていくことになる訳ですね。そうすると、或る色についての行末まで来たからといって、それでヘッドがリターンしてしまったのでは、他の色の印字が終わっていない可能性があります。或る時にヘッドが印字している行は、色によって実は別の行(紙の上での別の行)なのですから当然です。それで、他の色の印字が終わりになるまで待ってからリターンする、という事になります。これを称して「最大カラム数を計数」しておいて、そこまで行ってからリターンする、とのクレームになっている訳です。

  明細書では、もっともらしくこれで発明であるかのように書いてありますが、ちょっと考えると、余りにも当たり前の話です。従来技術として“他の色の印字が最後まで行かないことがあった”と書いてあるのですが、かなりとぼけた明細書だと思います。そんな多色プリンターが存在する訳がありません。

  私にはこの明細書は無内容のものと見えるので、請求棄却の結論はもっともだと思います。しかし、もしかすると(また、原告の立場では)、多色印字するについては、どの色のについても行の最後まで印字しないといけないことは非常に基本的な事項で、それを開示してある本件明細書は基本発明として重要なのだ、という話にもなるのかも知れません。……が、とても私にはそうとは思えません。

 本件判決では、要件Hについても要件Fについても、行の左側のところについて、印字の必要がなければそこをとばしていく、という今のプリンターでは当然の印字の仕方に関連する点を取り上げて、非充足としています。しかしこの点については、仮に本件明細書をそのまま受け止めるなら、むしろ原告の主張にも或る程度もっともなところがあるように思われます。左側の処置は、改良であり、非侵害の根拠としては難しいはずです。さらにしかし、本件発明の意義は限定して考えるべきですから、これでも良いのかも知れません。また、クレームの文言として非侵害の点を見付けようとすると、こうなってしまうようにも思います。もっとも私には、要件Aの「複数の印字ヘッド」を否定しても良いように思われます。被告はこの点も争っていたものの、垂直配置かどうか、という争いとされ、よく理解されなかったようにも見えます。

 被告代理人は飯田先生・栗宇先生など。

◆H14.12.19 東京地裁 平成14(ワ)2978 著作権 民事訴訟事件 46部

  原告が、被告の自宅の設計図面を作成して被告に交付したが、その後両者の間の契約が解消され、被告は別の業者に自宅の設計監理を依頼した、との紛争。原告は、設計図面の著作権を主張。著作権侵害に当たらずとも、一般不法行為、信義則違反、不当利得、と主張したが、請求棄却。

  「原告設計図書は著作物に該当するものとはいえない」と、著作物性を否定した。予備的主張についても、信頼関係を否定する事情があったなどとして、請求棄却。

  ……著作物性から否定するのは、少し疑問です。詰まらない表現でも、それなりの著作権は認める、というのが一般的な考えのように思われます。しかし、その図面にしたがって家を建てても著作権侵害には当たらない、なぜなら設計内容が著作権の対象ではないから、とするのが一般的な考えのように思うのですが。

◆H14.12.19 東京地裁 平成13(ワ)12434 不正競争 民事訴訟事件 46部

  「プレストレストコンクリート(圧縮軸力を付与した高 強度コンクリート)製斜面受圧板であるPCフレーム」についての不正競争を主張した事案。「クロスタイプ」,「セミスクエアタイプ」及び「スクエアタイプ」の名称、またその形状、を周知又は著名な商品等表示と主張した。

  いずれについても、否定された。名称については、これは形状を説明したもので、「識別力」を目的としていない、という説示がされている。

■H14.12.19 大阪地裁 平成13(ワ)10905 不正競争 民事訴訟事件 第21民事部

  「マグライト」の競合品が、不正競争とされた事案。

  不正競争防止法5条1項により、被告の利益を損害額として請求認容した。その認定に際して、「侵害者が侵害行為によって得た売上額から、製造原価・販売原価のほか、侵害者が当該侵害行為たる製造・販売に必要であった経費を控除した額であると解すべき」としながらも、実際の事案においては、そうした経費を結局は認めず、粗利益額1165万7590円の全額を損害とした。その他、調査費用34万円(請求の全額)、弁護士費用相当額150万円(請求は500万円)、を認めた。

  ……不正競争防止法5条1項の適用事例は、まだあまり見ないように思います。

◆H14.12.18 東京地裁 平成13(ワ)21182 著作権 民事訴訟事件 29部

  ビデオゲーム(「友情,恋愛シミュレーションゲーム」である「グリーン・グリーン」)について、そのシナリオの著作権侵害が主張された。請求棄却。

  原告の主張は、このゲームは「基本シナリオ」に基づいているとして、「基本シナリオ」の著作権を主張するもの。被告らは、まず「基本シナリオ」の著作物性を争ったが(争点1)、これは著作物性ありとされた。しかし、「基本シナリオ」はそもそも、被告も絡んで作成されたもので、その経緯から著作権者はむしろ被告とされた(争点2)。その他の契約違反ないし不法行為の原告主張も排斥された(争点3)。

◆H14.12.17 東京地裁 平成13(ワ)22452 特許権 民事訴訟事件 46部

  特許権に基づき差止の仮処分が出た後で、その特許権が無効になった、という事実関係のもとで、仮処分債務者が損害賠償を請求した事案。請求全額が認められた。

  後に特許が無効となったことで、仮処分も違法だったことになるとした上で、過失の要件については、最高裁昭和43年(オ)第260号同年12月24日を根拠として、過失が推定される、とした。

  ……事情が不明なのは、金額が、原告が2名でそれぞれ550万円だけであること。これが請求額で、その全額が認容されているのですが、なぜこれだけしか請求しなかったのかは、よく分かりません。信用毀損の主張としての1000万円など、合計ではそれぞれ3500万円以上と主張しながら、その一部として550万円だけを請求しているのです。これから追加請求するのかも知れませんが。

◆H14.12.13 東京地裁 平成12(ワ)17019 著作権 民事訴訟事件 47部

  教科書の掲載文を基にした問題集についての著作権侵害事件。掲載文の著者らが原告。「引用」(著作権法32条1項)などが争点となったが、侵害とされた。

  ……問題集は、確かに、他人の著作物に依存して商売をしているところがあるので、こういう利用をタダでやって良いとするのはおかしいようには思います(教科書とは違って)。しかしまた、一々許諾が必要となるというのも、あまりに不自由な話に思われます。こう言うと、ロイヤリティを授受するための特別規定やそのための機関が必要になるとかいう話になってしまいそうですが、しかし私は常々、著作権法は妙に細かい規定があって、それがむしろ不合理ではないか、とも思っています。……困りますね。

◆H14.12.12 東京地裁 平成14(ワ)5092 特許権 民事訴訟事件 46部

  「カードシステム管理装置」の特許権の侵害事件。非侵害で請求棄却。「複数の機器を接続して同時に管理可能とする構成」が欠けるとされた。

◆H14.12.12 東京地裁 平成11(ワ)6665等 特許権 民事訴訟事件 46部

  「洗い米及びその包装方法」の特許権の侵害事件。請求棄却。刊行物に基づき容易で無効、が理由。

  ……クレームが、「〜以上を特徴とする洗い米」となっているのですが、そこに規定されている特徴が、いかにも望ましい性質を並べただけのもので、ちょっと見ただけでも、それをどうやって得るのかが発明であるべき、と思わされます。

  被告代理人に牧野先生など。

◆H14.12.12 東京地裁 平成09(ワ)24064等 特許権 民事訴訟事件 46部

  上記と関連事件。別当事者で、特許権に基づく差止請求権の不存在確認請求が先に為された形。請求認容、反訴棄却。

 こちらでは、別の方法特許も問題となっているが(アとされる、第1特許)、それについては侵害主張がなくて確認の利益無しで却下とされた。

◆H14.12.11 東京地裁 平成14(ワ)8729 特許権 民事訴訟事件 29部

  日本鋼管が原告、新日本製鐵が被告、請求金額が金50億円、の表面処理鋼板についての特許侵害訴訟。非侵害で請求棄却。「下地メッキ層」が欠けるとされた。

◆H14.12.10 東京地裁 平成12(ワ)13924 実用新案権 民事訴訟事件

2002年11月

◆H14.11.29 東京地裁 平成10(ワ)16832等 特許権 民事訴訟事件 47部

  光ディスク再生用のピックアップユニットにかかる発明について、元勤務先である日立に対して特許法35条3項の「相当の対価」を求めた。金3474万円などが認容された。ただし、請求額は9億円他であり、訴訟費用負担も原告が10分の9とされている。

  また、外国特許権について、「特許法35条は,我が国の特許を受ける権利にのみ適用され」る、として、請求を排斥している。

  ……外国特許権については、特許法35条の適用がないのは当たり前のようにも見えますが、そうとばかりも言えません。本件では、個別契約で移転しているとのことですから、良いようなものですが、権利移転についてはまとめて日本法が適用されるとしないと、各外国特許の帰属を個別に考えないといけないことになって、却って非現実的になる可能性があります。

  また、米国特許権について言うと、権利の移転などについては、連邦法(連邦特許法)には規定はなくて、各州法によります。そういう意味では、本件発明についての米国特許権については、移転は日本法によるはずです。ならば、日本の特許法35条が出てきてもおかしくはないのですね。すなわち、米国法の流儀で言えば、日本の特許法35条の内容は、特許法ではないのです。

  原告代理人は升永英俊弁護士ほか、被告代理人は末吉亙弁護士、飯塚卓也弁護士ほか。

  この件についての日立の同日付けニュースリリースコピー)では、「大変残念」とし、「当社は、他社に先駆けて補償規定の整備を行ってきている」といっています。メディアの報道でも、日立は比較的に充実した補償規定を持っているとして、それでもダメなのか、と関係者にショックを与えている、といった趣旨を書いたものがありました。でも、少なくともこの件で原告に在籍中に支払われていたのは、「実績補償金合計40万円」(多額が認められた発明1について)だけなのですね、判決文によると。これではやはり不足でしょうね、判決の金額が妥当か(さらには請求金額が妥当か)はともかくとして。

  このケースでは、実際に広く使われている技術なので、対価が高額になるのももっともなのですが、でも、多少の疑問を感じるところは、規格として採用されたから価値が出た、という面がないのかな、という点です。もっとも、そういう点も考慮に入れて、それで会社側貢献を80%としているのかも知れません。

  なお、「シュミレーション」ではなくて、「シミュレーション」ですね。裁判所の問題ではなくて、当事者がそう主張したんでしょうけど。知財判例集でこの間違いを検索すると、5件出てきます。……しょうもない話ですが。

◆H14.11.28 東京地裁 平成13(ワ)19129 特許権 民事訴訟事件 46部

  「ゲートバルブ」の特許権。非侵害で請求棄却。

◆H14.11.28 東京地裁 平成13(ワ)6797 実用新案権 民事訴訟事件 46部

  「配電盤防護装置」の実用新案。公然実施で明白無効で権利濫用で請求棄却(第2物件の考案2との関係では非侵害)。

◆H14.11.27 東京地裁 平成13(ワ)5609 特許権 民事訴訟事件 29部

  「焼成カーボン及び溶鋼用保温酸化防止材の生成方法」特許の侵害被疑事件。非侵害で請求棄却。

  ……被告代理人が、大場先生、尾崎先生、嶋末先生。

◆H14.11.27 東京地裁 平成13(ワ)27144 不正競争 民事訴訟事件 29部

  形態模倣の不正競争事件、請求(一部)認容。原告も被告も、カタログによる通信販売をしている。物は、衣服類。

◆H14.11.26 東京地裁 平成14(ワ)5467 著作権 民事訴訟事件 47部

  姓名判断に関する本の著作権侵害が争われた。原告は翻案を主張したが、請求棄却。

  裁判所は、「翻案が認められるためには,被告書籍が原告書籍の表現上の本質的な特徴を直接感得することができなければならず,表現上の創作性がない部分において同一性を有するに過ぎない場合は,翻案には当たらないと解される」とした上で、主張された各点を対比している。各点について、「似た意味」は認められるが、「具体的な表現は異なっており」などとされ、共通しているのは「アイデア」だけで、著作権侵害に当たらないとされた。

◆H14.11.18 東京地裁 平成14(ワ)6247 著作権 民事訴訟事件 29部

  著作権侵害事件について国際裁判管轄を否定した事例。「鉄人28号」について、作者が、被告の米国における被告による許諾行為などについて、差止と損害賠償を請求した。被告は応訴しなかったが、裁判所は職権で国際裁判管轄を検討し、これが認められないとして訴えを却下した。

  被告は、米国に住所地を有する米国法人で、問題とされている行為もすべて米国内でのこと。原告は、日本での著作行為に基づいて、「万国著作権条約及びベルヌ条約」により、「アメリカ合衆国著作権法に基づく保護」を主張。

  国際裁判管轄の検討に当たっては、まず民訴法の裁判籍規定が検討された。不法行為地も応訴管轄も当てはまらない。問題となったのは損害賠償金支払の義務履行地で、これが日本とされるものの、「特段の事情」で日本の国際裁判管轄を否定した。

  本件で特徴的なのは、従前の経過。カリフォルニアにおいて、被告が原告などを相手取って提起した訴訟が、不便宜法廷地(日本で審理すべきものであるとした)により却下されそれが確定しているという。それでも本件裁判所は、それによって日本の国際裁判管轄が認められるようになるものではない、とした。

  ……損害賠償金支払の義務履行地、だけでは、国際裁判管轄は肯定できないというのはもっともです。しかし本件では、従前のカリフォルニアでの訴訟の経緯からすると疑問を感じます。外国での判断が日本の国際裁判管轄に影響を与えないと言うのは確かにそういう理屈ではありますが、しかし、国際裁判管轄を否定する「特段の事情」があるという判断をしていることとの関係では疑問です。カリフォルニアでの経緯を、「特段の事情」を考慮するについてカウントするべきものではないでしょうか?

◆H14.11.15 東京地裁 平成14(ワ)4677 著作権 民事訴訟事件 47部

  組織の改善に役立つとされるFFS(Five Factors&Stress)理論を作って実践する原告が、その「個性分析用質問である「FFS Qシート(FFS80問診票)」の著作権を主張した事案。被告代表者(個人としても被告になっている)は、かつて原告の代表者を6ヶ月間務めた者。

  各質問文は、あまりに簡単で著作物性が否定された。全体としては、編集著作物の余地があるとされたものの、これについては全部を引き写している訳ではなかったので、非侵害とされた。

◆H14.11.15 東京地裁 平成13(ワ)24120 特許権 民事訴訟事件
◆H14.11.14 東京地裁 平成13(ワ)9147 不正競争 民事訴訟事件
◆H14.11.14 東京地裁 平成13(ワ)15594 不正競争 民事訴訟事件
◆H14.11.11 東京地裁 平成13(ワ)8904 商標権 民事訴訟事件

2002年10月

H14.10.31 東京地裁 平成14(ワ)8968 特許権 民事訴訟事件
H14.10.31 東京地裁 平成13(ワ)7153 特許権 民事訴訟事件
H14.10.31 東京地裁 平成13(ワ)26063 特許権 民事訴訟事件
H14.10.31 東京地裁 平成13(ワ)22157 著作権 民事訴訟事件
H14.10.29 東京地裁 平成13(ワ)15047等 不正競争 民事訴訟事件
H14.10.24 東京地裁 平成12(ワ)22624等 著作権 民事訴訟事件
H14.10.22 東京地裁 平成10(ワ)11572 不正競争 民事訴訟事件
H14.10.15 東京地裁 平成12(ワ)7930 商標権 民事訴訟事件

  

◆H14.10.11 東京地裁 平成13(ワ)15075 不正競争 民事訴訟事件 47部

  磁気で水道水を「活性化」するという「JOSプラスパワー」なる商品を、「ネットワークビジネス方式」(マルチまがい? )で販売するに関連しての紛争。原告は、被告(の1社)からこれを独占的に供給される契約を締結したのに、被告は同種のものを他へも供給しており契約違反であると主張して損害賠償を請求し、また被告が「原告は現在のビジネスを続けられなくなっている」などの虚偽陳述流布の不正競争行為をしているとしてその差止を求めた。

  請求棄却。独占契約については「合意解除」が認定され、また陳述は虚偽ではないとされた。

  ……あまり知財部らしくない事件ですね。不正競争のケースは、こういう例がありがちではありますが。

◆H14.10. 9 東京地裁 平成13(ワ)16820 特許権 民事訴訟事件 29部

  カード台紙に関する特許権の侵害事件(賠償請求のみ)。被告は横浜市で、市営地下鉄の乗車券(その内でも福祉特別乗車券等)が問題となった事案と見られる。一応侵害を認めたが、金額は660万余りの請求に対して認容額は74万余りだけ。訴訟費用も10分の9が原告負担。

  争点(1)は、「保護枠」の意味。結論的には、「被告物件の『下縁付加部分』は,本件発明1の構成要件Cの『保護枠』に該当する。」とされた。争点(2)は、明白無効での権利濫用。裁判所は、先行技術との差異を認定して、この被告主張を排斥した。

  争点(3)は損害額。102条1項の適用の可否がまず争われた。「被告の指名業者ではない」等が問題となったが、102条1項の適用は肯定された。請求額に対して僅かしか認容されなかったのは、1枚当たりの利益額が大きく違っているため。原告は「1枚当りの利益額53.26円に発注総枚数12万4100枚を乗じた660万9560円」を主張したが、認容されたのは、「74万0625円(7.5円×9万8750枚)」。原告の計算は、被告・横浜市から直接に受注していた共同印刷の利益率を基にしたものであるのに対して、実際に原告が侵害の前年である平成12年にしていたのは共同印刷からの下請け(半製品の納入? )であり、判決はこの際の原告の利益額を基にした損害を認定した。

  102条1項の適用可能性の関係では、「被告が本件特許権の侵害品を製造させ,納品させた行為と,原告が,自己の実施品を製造,販売することとの間には,相互補完関係が存在する」との判示もある。

  ……一応は上記の判示もありますが、本件の各当事者は競合供給の関係にあるわけではなく変則的な事実関係である点が、十分に争点になっていないようで、不思議です。102条1項は、「その者がその侵害の行為を組成した物を譲渡したときは」という規定です。横浜市は、この乗車券を配布してはいますが、それは原告の事業と競合してるわけではないので(原告が実際にその前年および前々年にやっていたのは、横浜市から受注した「共同印刷」の下請け)、これでは「その侵害の行為がなければ販売することができた物の」等とかみ合う意味での「譲渡」は無いように思われます。もっと端的に言って、被告から受注を受けることを想定しての議論が102条1項で主張されるというのは何とも奇妙です。こういうのが、「相互補完関係」なのでしょうか?

  しかし結局は、下請け(半製品供給か? )を想定しての金額が認容されており、この結論は落ち着きの良いところと見えます。この範囲で請求を認容する結論はもっともです。しかし、これは102条1項によるものとして認定されるべきものなのかどうかは、疑問が残ります。まあ、原告がその様に主張するから、裁判所としては“認めて良い範囲については認めた”ということなのかも知れません。

◆H14.10. 1 東京地裁 平成13(ワ)7445 不正競争 民事訴訟事件 46部

  原告は「クレープハウス・ユニ」なる名称のクレープ販売店のフランチャイズチェーンの主宰会社。被告は、原告の元従業員およびその設立した会社。原告は、被告の同様のチェーンにおいて使われているマニュアルの使用の差止めを不正競争防止法に基づいて請求したが、棄却された。

  原告の主張では、問題のマニュアルの「クレープミックス液の材料及び配合比率」が「営業秘密」(不正競争防止法2条4項)に当たるという。

  原告は、「とりわけ粉10グラムに対する水分(牛乳及び水)の量が16ないし17ccである点,牛乳と水を1対1の割合で配合した点,及び,調味料としてリキュールを配合した点などが他に見られない特徴」で営業秘密だと主張するなどしたが、裁判所は、「原告配合がいわゆる有用性の要件を満たすものとは認められない」とし、また被告配合は同一ではないとし、さらに秘密状態になかったとも指摘して、不競法による請求を排斥した。さらに、一般不法行為の主張も否定した。

  ……原告の方から見れば、被告の行為は裏切りという感じなのでしょうが、だからといって不正競争にはならないものでしょう。

2002年9月

◆H14. 9.27 東京地裁 平成13(ワ)27381 特許権 民事訴訟事件 47部

  「コンクリート構造物」に埋め込む「インサート器具」に関する事件。原告は、これについての特許権と意匠権を主張して、特許権に基づいて被告の物件(1)の、意匠権に基づいて物件(2)の、各製造等の差止めと損害賠償請求(金5421万円他)を求めた。判決の結論は、物件(2)の差止めと金1万6020円他の賠償だけ。訴訟費用も、原告の負担が10分の9。

  特許が非侵害とされたのは、クレームの要件C中に「テーパ状の大径部分」との要件があり、被告のものは曲線状だったところ、裁判所は「本件発明における『テーパ』は直線のもののみを指す」との解釈をとったことによる。

  意匠権侵害による損害賠償については、実施料率として売上額の5%を認定して、金1万6020円他だけを認容した。

  ……特許権と意匠権とで、別の対象物件です。同種の物件とは言え、どうして1件にしたのか、不思議な気もします。

◆H14. 9.27 東京地裁 平成12(ワ)6610 特許権 民事訴訟事件 47部

  カラオケ装置に関する特許侵害事件。請求棄却。原告はブラザー工業とエクシング、被告は第一興商、被告補助参加人はヤマハ。

  主張された特許は2件。第1特許は、歌詞を表示するについて、曲の進行につれて文字の色を変えていく、それも各文字の一部の色までを変えていく、ということの出来る装置に関するもので、クレーム中には「歌詞表示指示情報」や「歌詞文字表示の色変化を行わせる色変え指示情報」などを扱うことが規定されている。

  第1特許の非侵害認定の勘所は、先行技術状況を認定した上での、次の部分。

  (イ) 以上によると,本件第1特許発明は,音データと歌詞表示指示データとを組み合わせて,楽音情報記憶部に格納するという構成によって,歌詞の色変え画像表示をその楽曲の主旋律の進行にほぼ一致させるという目的を達成するものであるから,構成要件Dにいう「楽音情報記憶部に格納されるデジタル楽音情報は,種々の楽器の演奏情報と,歌詞表示指示情報とを有している」とは,種々の楽器の演奏情報と歌詞表示指示情報が組み合わせられ,一つのデジタル楽音情報として楽音情報記憶部に格納されていることを意味するものと解するベきである。

   ウ 上記1で認定した事実及び弁論の全趣旨によると,被告装置においては,音楽生成データと,歌詞抽出データとは,それぞれ独立したデータとして別個の記憶領域に記憶されており,組み合わせられて一つのデジタル楽音情報として格納されているものではないものと認められる。

   したがって,被告装置は,本件第1特許発明の構成要件Dを充足しない。

  第2特許は、楽曲の情報を、媒体で供給するのに加えて、新しいものについては通信で供給する、ということに関する方法を内容とするもの。

  判決は、第2特許は明白無効とした。先行技術として、ROMとRAMを組み合わせたものが既存であったため。それで原告は、前のROMの内容とRAMの内容を合わせて新しいROMの内容とするという運用方法はなお新規だと主張したが、進歩性無しとされた。

  ……被告が第一興商でカラオケ装置に関するものですので当然ですが、合計20億円と、かなりの請求金額です。

  第1特許の方は、それなりに微妙な話のように見えます。でも、原告の主張に従うと歌詞の色変化を映像情報の中で実現するもの以外が全て侵害になってしまうと思われ、あまりに願望その物の独占になってしまいます。しかも、先行技術がかなりのところまであるので、非侵害ということになるのでしょう。

  第2特許の方は、これだけの先行技術があるなら、無効とされるのは当然です。それでも原告は、訂正を試みるなどしているようです。判決文の末尾に、本件の結審後に訂正請求したが、「訂正拒絶理由通知書」が出ている、とされています。本件の口頭弁論終結日は平成14年6月7日とされていますから、特許庁もなかなかスピーディに対応しているものですね。

  なお、被告の装置のソフトのバージョンが争われていますが、これが侵害とどう関係があるのか、今ひとつ分かりません。

◆H14. 9.27 東京地裁 平成13(ワ)22447 特許権 民事訴訟事件 47部

  「医薬品用プラスチック容器の栓体及びその製造方法」の特許の侵害時権。請求棄却。

  まず、「ゴム栓とラミネ ート膜とを『密着結合』させる」のが要件であるのに、被告のものはそうなっていないと認定された(争点(1)、構成要件Cについて)。次に、「ゴム栓のラミネート膜の外面と外郭支持体内壁が『融着』している」のが要件であるのに、これについても該当しないとされた(争点(2)、構成要件Dについて)。さらに、均等侵害の主張に対して、以上の2点は本質的部分の相違であるとして排斥した(争点(3))。

  ……発明の趣旨に照らして非侵害の結論はまったくもっともと思いましたが、「融着」という言葉は結構微妙なのだと言うことを認識させられました。

★最判平成14年9月26日  第一小法廷判決 コピー ついでに地裁判決のコピー高裁判決のコピー

  FM復調器事件、上告受理。差止請求について、その法律関係の性質を特許権の効力と決定すべきとして、米国法によるとしつつ、法例33条で排斥。損害賠償については、法例11条1項では米国法としたが、2項の日本法により違法でない場合に当たるとして請求を排斥。

  ……上告受理したものの、棄却です。未だ簡単に読んだだけですが、さすがに、基本的に、もっともな判決だと思いました。

  或る程度まで異論を持つのは、法例11条2項により違法でない、としている点ですね。差止めが出来ないのはしょうがないと思うし、11条1項での原因事実発生地を米国としたのは期待された以上の判断です。しかしその上で、そうした外国での侵害(直接的侵害)の結果を生じさせる行為が、日本では違法ではない、とするのは賛成しかねるかな、と思います。そういう行為は、日本でもいけないことでしょう、と私には思われます。

  しかし、11条2項の点以外では、私としては“非常によく分かる”判決です。この件では、原告代理人の大野先生が、最初の段階から私の文章(特許権の効力に関する国際的問題)を典拠のようにして議論なさったりしていたので、多少なりとも最判の形成に関与できたような気がして楽しいです。なお、1・2審判決については、FM復調器事件評釈(ハーグ研レポート)をご参照ください。また、クロス・ボーダー・インジャンクションについても、この関係の文章です。

◆H14. 9.19 東京地裁 平成13(ワ)17772 特許権 民事訴訟事件 46部

  青色LEDについての、中村教授と日亜化学の間の訴訟。特許を受ける権利の日亜への承継を肯定する中間判決。

  ……極めて当然の結論だと思われます。仮に、もしも事実関係についてもっと中村教授の主張を認めた場合には、特許権の帰属を肯定するのではなくて、むしろ、単に日亜化学の特許は無効だと言うことになるしかないように思われます。中村教授は特許出願を自分ではしていないことは間違いないのですから。

  日経NEの本件特設ページにいろいろ報道が見られます(本文を見るには登録(無料)が必要)。また、原告側代理人のページに多くの提出書類が掲載されています。中村教授の特許権を認めるべきだとする大学教授の意見書が多数。

  なお、個人名は匿名にする決まりのようで、原告が「N」と匿名になっていますが、無意味ですね。

◆H14. 9.17 東京地裁 平成14(ワ)1572 著作権 民事訴訟事件 46部

  被告は学習塾で、「Juku−Net」なるソフトの開発を原告に依頼した。その請負代金残額400万円を請求した事件。全額が認容された。被告の方では、共同事業としての開発で、代金額は決まっていない、とか、ちゃんとしたプログラムが出来ていない、とかいった主張をしているが、いずれも排斥された。

  ……復位請求としては、ソフトなどの著作権が原告に帰属することの確認を求めています。青色LEDのケースとは優先順序が逆ですが、こちらのケースの場合には、もっともな主張だと思われます。著作権ですから、請負契約の存在や、代金請求権が否定されるのであれば、原告に著作権がある(残っている)ことになるわけだからです。

★最判平成14年09月17日 コピー 第三小法廷判決

  審判の審理範囲の問題。商標登録を取り消した審決を、高裁が取り消したが、その高裁の判決が取り消された(破棄差戻)。問題の登録商標は「mosrite」の欧文字を含んだマークで、「使用商標」は、これに「of California」を付記したもの。これ。この「使用商標」を上告人も被上告人(登録権利者)もエレキギターについて使っている(ただし上告人の方は訴外「スガイ社」(米国)が製造したものについて)。で、実はどちらも偽物。本家は、「セミー・モズレー」という米国のギター制作者で、「セミー・モズレー」のこのマーク(「使用商標」と同じもの)は、「遅くとも昭和40年までに,我が国において,エレキギターを取り扱う取引者,需要者に周知となった」とのこと。それで本件審決は、この本物「セミー・モズレー」との関係で商標法51条1項に該当するとして、商標登録を取り消した。

  ところが問題は、元々の審判請求の主張内容はこれとは微妙に違っていたこと。商標法51条1項には違いないのだが、米国産と誤解される、または自分の側の「スガイ社」のものと混同される、というのが主張内容だった。請求人(上告人)としては、自分の側も偽物だという話になってしまう、本家「セミー・モズレー」を根拠にする議論はしたくなかったのだろう。それで、原審判決は、主張されない理由の審決だったとして審決を取り消した。東高判平成12年10月12日そのコピー。上でもリンクしたこの商標の図はこの判決の別紙を変換したもの。

  本件判決は、審判は職権審理(商標法56条によって準用される特許法152条,153条)だから、この点では審決はOKだとして、原審判決を破棄。他の取消事由の有無の審理のために差し戻した。

  ……最判の判決文を見ると、審判の職権主義と、被上告人(も)偽物であることから、この最判はもっともだと思わされます。でも、原審判決を見ると、多少とも微妙なところはありますね、やはり。最判判決文でもある程度は言われていますが、この請求人(上告人)の方は、登録権利者(被上告人)よりも、もっと偽物なのですね。そこからすると、この請求を認めるのには釈然としないところもあります。しかし、職権主義には違いないのだし、しかも、商標の誤認を避けることの公益性からすればここで実際に職権主義を発動するのは正当なところがあります。そういうことで結局この最判になったのでしょう。

  なお、この「モズレー」は、ザ・ベンチャーズの関係もあって本当に有名なようで(その分野では)、そのためか、この当事者の間では、徹底的な裁判闘争が展開されているようです。この「モズレー」または「mosrite」で検索ページで検索をかけると、この当事者の間での紛争と見られる判決例がいくつも見付かります。さきほどは5件でした。

◆H14. 9.10 東京地裁 平成14(ワ)3052 特許権 民事訴訟事件 47部

  「混合装置付バケット」という発明の特許侵害事件。請求棄却。

  被告装置には、クレームの「底板」がなく、被告のものは「格子状」の開口部でこれはクレームの「スリット状開口部」に当たらず、さらに、「被告製品の混合羽根は6個であるのに対し,開口部は,横方向に8個に分かれており」1:1対応していないのでこの点でも非侵害とした。すなわち、争点(1)から(3)の全部で被告の主張を認めた。他に出願経過禁反言も主張していたが、それは判断無用とされた。

  ……これだけ要件から外れると、原告の主張はいかにも無謀ですが、しかし、原告の実際の装置とは似ていたようです。そういう趣旨の主張があります。しかしそれだけでは侵害にならないし、不法行為にもならないとの説示(弁論再開しないとの話の説示)があります。

◆H14. 9.10 東京地裁 平成13(ワ)10442 特許権 民事訴訟事件 47部

  原告は、被告の元従業員。原告による、缶詰などの密封不良の検査のための装置の発明について、被告が出願をして特許権を取得。これについて、「主位的に,原告が特許権者であることの確認及び特許実施料相当額の支払を求め,予備的に,仮に本件発明が職務発明に該当する場合の特許を受ける権利の譲渡の対価の支払を求め」た。

  争点は、特許法35条所定の職務発明かどうか、特許を受ける権利の譲渡の有無、そして金額。裁判所は、これが職務発明で、そして「本件職務発明規程」により譲渡があった、と認定した。相当の対価の額については、「平成元年から平成12年の間に7台製造販売されたのみであったこと,その販売価格の合計は4464万6000円であること,本件発明後,より良い密封容器の検査方法が開発されていること,」と認定して、ライセンスした場合の実施料率として2パーセントと見て、実施料相当額は89万2920円、使用者(被告)の貢献を40%として、「相当な対価の額は,53万5752円」とした。1万円だけ既払いだったので、その分を減額して認容された。請求金額は金400万円だった。訴訟費用は9割が原告負担。

  ……中村教授と日亜化学との訴訟を思い起こさせるケースです。主位請求と復位請求の構造などは、ほぼ同様と見えます。しかし、発明の内容が大したことがなかったようです。それで認容金額は大したことがありませんが、会社の貢献を40%しか認めないのは、むしろ発明者の取り分が多すぎるような気もします。

  また、これは私の思いつきにすぎませんが、この特許は被告にとって大した意味はないようですから(特に現時点ではまったく意味はない)、主位請求の中の事実主張をこれ幸いにと認めて、特許を受ける権利の承継が無くて特許か無効だ、との主張によって請求を避けるというのもあり得たのではないでしょうか。それはやっぱりちょっと酷いのかなぁ、会社は自分で出願している以上は。

◆H14. 9. 5 東京地裁 平成13(ワ)16440 著作権 民事訴訟事件 46部

  ビジネスソフトの画面表示の著作権の侵害が争われたケース。侵害を否定。

  ……私が被告代理人のケースです。被告・ネオジャパンのニュースリリースそのコピー原告・サイボウズのニュースリリースそのコピー、に、それぞれの立場からの説明が見られます。

2002年8月

◆H14. 8.30 東京地裁 平成13(ワ)22663 特許権 民事訴訟事件 47部

  「梁交差部柱フープ筋幅止め具」(建設用具)の特許についての侵害の否定の事例。「底部円弧状のV字型構造体」(構成要件ウ)の要件を備えないとして非侵害と判断した。均等主張に対しては、この部部が本質的部分であるとし、さらに、訂正で入った文言であることから「均等の成立を妨げる特段の事情がある」とした。

◆H14. 8.30 東京地裁 平成13(ワ)23818 著作権 民事訴訟事件 47部

  プレステ2のソフトの「かすみ」を裸に出来るソフトを作って販売したのが、同一性保持権の侵害とされた。ただし賠償金額は、請求金額400万円の半分だけ認められ、訴訟費用も2分された。

  「翻案権侵害を理由とする請求は,これが認められたとしても,上記認容額を超えることが ないものと認められるので,この点は,判断しないこととする。」とされている。

◆H14. 8.28 東京地裁 平成13(ワ)5685 著作権 民事訴訟事件 29部

  著作権に基づき、講談用各脚本「はだしのゲンパート1」などの講談上演差止が命じられた。

  ただし、この脚本は原作が別にあってのものなので、スジについての著作権がこの原告にあるわけではなく、そのために、表現を変更すれば侵害にはならないと言うことがわざわざ判決文末尾に説示されている。その様にすることで、「被告の講談師としての活動が制約される不利益を回避することができる」とまで丁寧に説明されている。

◆H14. 8.28 東京地裁 平成14(ワ)13321 実用新案権 民事訴訟事件 29部

  NTTに対しての、テレホンカードの実用新案の件。前訴があって、それについては既に敗訴が確定している(「押形部からなる指示部」が要件であるのに対して「切欠部」であるため)。今回はそのために却下された。一部請求についての訴訟法的な議論がされている(理解困難な議論)。

  ……請求額が金1億2500万円です。訴状貼付の印紙額が492,600円になるはずです。無駄というか、ちょっと可哀想というか。止める人は居ないのでしょうか?

◆H14. 8.28 東京地裁 平成13(ワ)26362 意匠権 民事訴訟事件 29部

  「座いす」の意匠のケース。類似しないとされて請求棄却。

  ……物のが見られないのでコメントできませんが、私は常々、意匠登録というのはかなり近い先行意匠があっても認められているので、そう簡単に侵害を認めるべきではない、という印象を持っています。多分、そいうした常識に適った判決なのでしょう。

◆H14. 8.28 東京地裁 平成13(ワ)15252 不正競争 民事訴訟事件 29部

  

◆H14. 8.27 東京地裁 平成13(ワ)7196 特許権 民事訴訟事件
◆H14. 8.22 東京地裁 平成13(ワ)27317等 意匠権 民事訴訟事件
◆H14. 8.22 東京地裁 平成08(ワ)9391 商標権 民事訴訟事件
◆H14. 8.22 東京地裁 平成08(ワ)14026 商標権 民事訴訟事件

2002年7月

■H14. 7.25 大阪地裁 平成12(ワ)2452 著作権 民事訴訟事件 大阪地裁第21民事部

  ソフトウエアを複製又は翻案したもので

  問題となったソフトは、「高知県の公共事業入札及び公共事業における契約関係書類並びに現場管理関係書類の作成支援ソフトウエア『オートくん(Ver.1)』」というものの Ver.2 で、

  ……「権利」と名が付いていない場合でも、他者の利益を害した場合に、それが違法とされ不法行為として賠償責任を負うことがあり得るのはその通りです。しかし、

◆H14. 7.19 東京地裁 平成12(ワ)14328 特許権 民事訴訟事件 47部

   有限会社ジャパンパテントマネジメント 本件発明2の技術的範囲に属するとの判定 セトロン多段式カゴマット

◆H14. 7.18 東京地裁 平成11(ワ)21942 特許権 民事訴訟事件 46部

  「洗車機」についての特許侵害事件。明白無効・権利濫用で請求棄却。侵害の点も争点になったが、争点1〜5で争われた要件についてすべて充足を認めた。その上で争点6で無効事由について検討し、進歩性無しで明白無効とした。

  無効の判断は、まず「東友サービス洗車機」に基づいている。これと比較すると、門型フレームと逆L字型フレームとで違うが、これらは「いずれも周知技術」で置き換えに問題ないとし、さらに各検出器について明らかでないまたは多少の差異があるとしながらも、なお容易とした。

  さらに、いまひとつの先行技術である「洗車給油所新聞」に基づいても、やはり検出器の点などで若干の相違があるとしながらも、容易で明白無効とした。

  ……この後者の判断に際しての、次の判示が、この発明の内容と事案の性質を物語っているのでしょう:

本件特許発明が,それを実現する手段について具体的に開示するものでなく,格別に創意工夫され たものでないこととを併せ考えると,当業者が,同新聞記載の洗車機に基づいて,本件特許発明に想到する ことは容易であるといわなければならない。
◆H14. 7.18 東京地裁 平成14(ワ)8104 不正競争 民事訴訟事 46部

  「株式会社三菱ホーム」が被告で、その社名やその他の「三菱」の文字を含む商号などの使用が禁じられた。

  原告は三菱地所と三菱地所ホームで、原告代理人は大野先生ほか。

◆H14. 7.17 東京地裁 平成13(ワ)13678 特許権 民事訴訟事件 29部

  被告が有する特許権(整形ブラジャー)について、冒認出願であることを理由として移転を求めたが、棄却された。平成13年最高裁判決とは事案が異なるとした。

  ……従前のこの平成13年1月13日の判決そのコピー)の印象から言うと、もしかすると今度のような請求も可能性があるのか、と思いましたが、そういう訳ではないのですね。

  原告代理人は安江邦治先生・杉本進介先生など。

mp3事件
◆H14. 7.15 東京地裁 平成13(ワ)12318 不正競争 民事訴訟事件 29部

  「mp3.co.jp」(2002年12月20日(金)加筆: そのまま引用したら、全角になっていました。mp3.co.jp とするべきですね)の争い。登録者である原告は、被告「エムピー3・ドット・コム・インコーポレイテッド」に対して、被告が不正競争防止法3条1項 に基づく使用差止請求権を有しないこと、の確認を請求し、認容された。

  判決は、「原告に「不正の利益を得る目的」又は「他人に損害を加える目的」があったか」、をいずれも否定し、さらに、「原告ドメイン名が法2条1項1号,2号の「商品等表示」として使用されたということはできない。」として、被告は不正競争防止法の使用差止請求権を有しないものとした。

  ……本件は、判決文中にも記されているように、「日本知的財産仲裁センター」で「原告ドメイン名を被告に移転すべき旨の裁定」が出ているとのことで、それと裁判所の判断が違ったというところが注目されます。これで今後どうなるのかよく分からないのですが、不競法上の差止請求権はないにしても、JPNICの関係でのドメイン名としては被告の要求が通る、ということなのでしょうか? でも、もしもそうだとすると、本件訴訟の意味はどの辺にあるのでしょう? どうもよく分かりません。

  (2003年3月25日加筆: 知財管理に掲載されていた論文によると、本件訴訟の提起により、仲裁センターでの裁定の執行は中止された状態にあるようです。ただ、本件訴訟と裁定との関係、すなわち、本件訴訟の結論によって裁定が否定されることになるのかどうか、必ずしもハッキリしないようです。私はどちらかというと、本件訴訟は裁定と無関係なのかと思っていたのですが(私の上記の記述を、その趣旨のものとご理解をいただいて、賛成していただいたページもあったようです、だるまペンギンさん)、何とも不思議な状況です。この問題は、仲裁センターでの実体法・手続法が、自己言及的というか、日自立的なものになっているのが原因のように思います。)

◆H14. 7.11 東京地裁 平成13(ワ)21677 特許権 民事訴訟事件 46部

  特許番号・第2871581号の「発明の名称・自動弾丸供給機構付玩具銃」についての侵害事件。結論は非侵害。H14. 5.29の判決言渡の件(ここに私のコメント)と同じ原告だが、特許権は2番違い、被告は本件の方が多数になっている。ついでに言うと、原告代理人は違っていて(補佐人は同じ人が一人はいっている)、でも被告代理人は同じ。担当部は違う。

  侵害が否定されたのは、要件Hの非充足のため。この要件は結局は「ガス通路制御部」であるが、そこに規定されている要件HBが特に否定された。要件HBは「B その後,上記第1のガス通路部を閉状態として,上記蓄圧室からのガスが上記可動部材内に形成される上記ガス導出通路部から上記圧力室形成部に至る第2のガス通路部を通じて上記圧力室形成部に供給される状態となす」というもの。判決書のさわりは次の部分で、「閉状態として」というのにあたらない、閉にしなくても供給状態に出来るから、というもの:

「そうすると,本件発明の構成要件HBを解釈するに当たっては,これと同一の表現をとる同HAと同様に,同要件HBに記載された2つの状態の間には原因結果の関係が存在すると解するのが相当である。したがって,同要件HBは,「第1のガス通路部を閉状態として」,これを原因として,ガスを「圧力室形成 部に供給される状態となす」ものとみるべきである。しかるに,被告製品は,ガスを「圧力室形成部に供給される状態となす」のに,「第1のガス通路部を閉状態」とすることを要しないのであるから,「第1のガス通路部を閉状態とし」たことを原因としてガスを「圧力室形成部に供給される状態となす」ものとはいえない。」
◆H14. 7. 9 東京高裁 平成13(行ケ)79 特許権 行政訴訟事件 第6民事部
◆H14. 7. 9 東京高裁 平成13(行ケ)79 特許権 行政訴訟事件  同

  「記録媒体」とする特許第1641076号の特許(特許権者=原告は三洋電機)に対する無効審判について、3件の無効審判請求があったのを併合審理・審決しながら、1つの審判請求の主張について特許無効と審決しただけで、他の主張については取り上げなかった。上の方の判決は、これを理由として、306号にかかる部分を取り消した。6月4日のナビのケース(ここに私のコメント)と同様。

  しかし、下の方の判決は、939号にかかる部分について、取消請求を棄却した。(この部分、訂正と前訴訟が絡んでいて、複雑。おいおい研究します。)

  ……結局、306号についての取消があっても、939号について維持されたのだから、特許権者にとっては余り実益はない判決のようです。それにしても、多数の審判請求があった場合の手続は、どうするべきなのかよく分からないところがあり、現に問題のある手続きが取られていることも少ないようだ、と感じます。

  片方の被告代理人が飯田先生・栗宇先生など。

◆H14. 7. 3 東京地裁 平成14(ワ)1157 著作権 民事訴訟事件 29部

  かえでの木の「所有権」に基づいて、その写真を掲載した書籍の出版の差止と損害賠償を求めた。結論は、「主張自体失当」などとして、請求棄却。被告はポプラ社。

  ……顔真卿の書について同様の事件がありましたが、この「かえで事件」もまた、教科書事例のような、でも本当に起こった事件なのですね。私の個人的な感想なのですが、原告の主張には、それなりの社会合理的な点があるだろうとはいえ、裁判所での主張としては如何にも無理なのが最初から分かっていたはず、それを原告代理人は依頼者にどのように説明していたのでしょうか。

2002年6月

◆H14. 6.26 東京高裁 平成13(ネ)4613等 不正競争 民事訴訟事件 第13民事部

  これもアルゼの件。ただしアルゼは被告(控訴人)で、日本電動式遊技機特許株式会社(日電)との不正競争事件。アルゼ側が日電について、「日電特許(日本電動式遊技機特許株式会社)は異常な 会社である。」とか「詐欺的行為」とか言ったというのに対して、日電がその差止めと1000万円の損害賠償を請求した。地裁(46部)は、差止請求を却下し、賠償請求を200万円だけ認めた。そのコピー。本件はその控訴審であり、アルゼの主張を認めて、200万円の部分も取り消した。

  ……このくらいの批判はしても良い、ということでしょうか。

◆H14. 6.25 東京地裁 平成12(ワ)3563 特許権 民事訴訟事件 46部

  先日の80億円判決と同じ、パチスロ機メーカーのアルゼが原告の特許侵害事件。今回は請求棄却。要件充足は認め、しかし、パチスロ機製造業者によるパテントプールの対象特許でしかもそれが継続している、との認定によって請求は棄却された。独禁法なども議論になっている。

  ……要件充足を認めていますが、かなり疑問です。乱数の要件について、「イ号物件において発生される数値は,『+1』ずつの加算を順に繰り返すもの」というのに、「乱数」に該当するとした点が、余り適切とは思えません。判決自身も「疑問の余地がないとはいえない。」と言っていますが、大いに疑問です。判決がこれで要件充足とした理由は、明細書において、乱数の生成について本当の乱数ではなくて「769という素数」を順次加えていくことで得られる数列を使用するというのが説明されていることにあります。いわゆる疑似乱数です。これが本当の乱数でないのは確かですが、「+1」ずつの加算の場合とはやはり違うと思います。

  もっとも、結局は請求棄却するのを前提としての、念のための判示のようにも理解されるので、これで批判するのもあたらないのかも知れません。

◆H14. 6.24 東京地裁 平成12(ワ)27232 特許権 民事訴訟事件 29部

  登録(3件の特許権についての質権設定登録)の抹消登録手続の承諾を求めたが、棄却された事案。3件の特許について、原告から訴外エス・ジーエンジニアリングへ譲渡がされ、そこから被告のために質権が設定された、という経過。なお、原告はその後破産しており、厳密に言うと原告は破産管財人。

  争点は、原告からSGEへの譲渡手続の有効性と、それについての被告の悪意重過失の有無。結論としては、原告とSGEとは代表者兼任のため、利益相反取引として取締役会の承認が必要となる(商法265条1項)ところ、その取締役会決議には手続的瑕疵があって無効であるが(一部の取締役に召集通知がなかった)、被告はこれにつて善意無重過失であるとして、原告の請求を排斥した。

  認定している事実経過によると、問題の質権設定はSGEと被告の間のものだが、もともと原告と被告の間で取引(というか協力関係)があり、それをSGEに引き継がせた、といった状況のようである。

◆H14. 6.24 東京地裁 平成12(ワ)18173 特許権 民事訴訟事件 29部

  「6本ロールカレンダーの構造及び使用方法」の特許についての侵害事件。被告は石川島播磨(そのためか、日経新聞にも出てました)で、侵害が認定された。

  侵害についての争点は、先使用と明白無効。しかし、後者は、既に東京高裁でも決着済みのとのことであり、如何にも無理な主張。先使用が実質的に唯一の争点。

  この争点は2段階に争われていて、第1段は、発明内容として、ロールの周速を段々早くしていくとの要件などが満たされていたかどうかが争われた。この点は、結局、「被告乙3発明は,本件発明のすべての構成要件を充足している」と認定された。

  第2段は、法79条にいう「事業の準備」にまでいっていたか、の点。この点についての最判昭和61年10月3日の、「即時実施の意図」と「その即時実施の意図が客観的に認識される態様,程度において表明されていること」を要する、との判示を確認した上で、この事案ではこれが認められないとした。商談や概略的な図面の作成はあったものの、詳細な図面や確定仕様書は作られていなかったので、それでは不足とされたもの。

  ……先使用の主張とはいっても、商談をしただけでそれがその後に進展しなくても問題にもならなかった段階にとどまっていた、という話ですから、これでは如何にもインパクトは弱く、この結論はもっとものように思われます。しかしまた、被告の立場からすると、こうした商談で使われる程度の図面で発明内容がすべて出ていると認定されるような、そういう詰まらない特許権だとも思われますから、侵害とされるのには釈然としないものがあるのかも知れません。そういう意味では、有効性の点での決着が先に付いていることが、原告にとって大いに有利に働いた、というように思われても来ます。

  侵害被疑者にとって、無効審判をまず請求するというのは、却ってリスキーなこともあるのかも知れません。むしろ、キルビー最判以後の現在では、裁判所で侵害の成否と同時に判断してもらった方がよいのかもしれません。これはもちろん、本件の結論を見ての結果論ですが、キルビー最判の事案での富士通もそういう考えだったのが思い出されます。富士通の方からの、不存在確認請求訴訟だったのですから。

  被告代理人は近藤惠嗣弁護士他。

●H14. 6.20 東京高裁 平成13(ネ)4731 特許権 民事訴訟事件 第18民事部

  特許第2136894号の特許権(発明の名称「芯なしトイレットペーパーロールの製造装置」)について、侵害を否定した地裁判決を維持。非侵害の理由は、「水を乾燥するに必要な時間保存」するための「保存装置」がない、主張されている被告装置の「加熱成形装置」は「筒芯部を形成するための装置」だ、などとした。

◆H14. 6. 4 東京高裁 平成13(行ケ)524 特許権 行政訴訟事件 第6民事部

  発明の名称を「車両ナビゲーション方法」とする特許第2722365号についての無効審判の審決の取消請求事件。請求認容。

  被告は、2件の無効審判請求をした。1件(甲事件)は、明細書の記載不備と、分割違法で非新規、との2つの無効理由を主張したもの。それから3ヶ月遅れで提起したいまひとつの件(本件事件)は、原出願の出願日前の刊行物に基づく無効主張。両者は併合審理され、特許を無効とする審決がくだされた。その理由は、分割違法を内容とするもので、本件事件の主張(原出願の出願日前の刊行物に基づく無効主張)に対する判断はなされていなかった。この点で違法であるとして、原告(特許権者)の本訴請求(審決取消請求)が認められた。

  ……本件の主文は、本件事件の審判事件番号を特定して取り消しています。1通の審決書の中で、甲事件の方は取り消されていないものと見えますが、甲事件の方はどうなったのでしょうか? もしも取消訴訟の提起がないなどで確定しているなら、本件訴訟はまったく無意味です。取消訴訟が提起されていて審理中なら、本件だけ審決を取り消して特許庁に戻すというのは、何か積極的な意味があるのでしょうか? 特に、本訴の原告である特許権者にとっては、仮にそれで新しく無効理由があると判断されても何の意味もないと思うのですが。

  なお、本件被告の代理人は大野聖二先生他。また、侵害訴訟の地裁判決(明白無効で権利濫用とした)が5月30日に出ている。ここに私のコメント。

2002年5月

●H14. 5.31 東京高裁 平成13(行ケ)550 商標権 行政訴訟事件 第13民事部

  「HOPE」商標(指定商品は第9類で保安用機械器具など)の不使用取消請求についての登録維持審決の取消を求めた事案。取消請求を認容。商品の写真や売上伝票を証拠として過去3年の使用の事実を認定した審決に対して、写真の撮影は予告登録後で証明力は限定さている、本件売上伝票の原本が真実存在するならば提出は容易のはずなのに提出されていない、などとして、審決取消請求を認めた。

  なお、本件は被告欠席の事案です。特許庁では争っていたのに、しかもそれで勝ったのに、東京高裁では欠席だったというのは不思議です。また、(平成13年5月15日口頭弁論終結)と書いてありますが、これは「14年」の誤記ですね。そのファイルのコピーを置いておきます。

◆H14. 5.31 東京地裁 平成13(ワ)7078 商標権 民事訴訟事件 29部

  ゲームソフトの「ぼくは航空管制官」商標についての事案。請求棄却。

  争点1は、商標的使用でないとの主張だが、被告ソフトに他に名前はないとのことで、これは如何にも無理な主張であり、排斥された。争点2は、権利濫用の主張で、これが認められて請求棄却。その内容は、この名称のソフトは元々はテクノブレインという会社がパソコン用ソフトとして開発して成功したもので、原告も被告も、テクノブレイン社から許諾を受けて別機種用に同種ソフトを開発したという事情にある(原告はプレイステーション、被告はゲームボーイアドバンス)。そうした事情にありながら、原告が商標登録をして(この出願へのテクノブレイン社の関与の有無などについては争いがある)、被告に対して権利主張をしているという状況にあるものなので、判決はこれを権利濫用とした。

  ……登録で権利が発生するとする日本の商標法の建前からすると(米国のような使用主義と違って)、このように一般条項によらざるを得ない、というところだと理解されます。結論はまったくもっともと思いますが、どうしてこういう紛争が生じて判決にまで至ったのでしょう? テクノブレイン社が主体的に動くことで解決できたように想像するのですが。もっとも、テクノブレイン社と原告とのライセンス契約は解除ないし解約されているとのことなので、やるべき事はやったが押さえられなかった、と言うことなのでしょうか?

●H14. 5.30 東京高裁 平成13(行ケ)185 特許権 行政訴訟事件 第6民事部

  「カレンダー帳等の製本方法」特許の無効審判請求に対して特許を維持した審決を取り消した事例。 綴じ金具を用いることなく熱溶融接着剤で製本する発明。類似の先願考案があるが、本件発明は貫通孔内に接着剤を溶融状態にして流し込むもので、審決は、先願考案とは差異があるとした。本件判決は「本件発明は,貫通孔内に接着剤を流し込む手段・方法については何も限定していない」などとし、審決を取り消した。

●H14. 5.30 東京高裁 平成04(行ケ)143 商標権 行政訴訟事件 第18民事部

  「VALENTINO」商標についての不使用取消審決が取消された事案。原告(商標権者)は、審判手続きにおいても、「通常使用権者である『株式会社式 会社ヴァレンティノブティックジャパン』」がブレスレットなどに使用していたと主張したが、認められなかった。写真や陳述書が証拠提出されたものの、審決は、「〜登録商標の使用の事実の立証は、新聞、雑誌等への広告の事 実、通常の取引において使用された納品伝票等の取引書頼の呈示、その他登録商標の使用が事実であること を客観的に理解し得るような資料によってなされるのが相当と解される。」という判断をしたとされる。

  高裁は、「本件商標を使用していたことが明らか」として、審決を取り消した。

  審決は、やけに杓子定規な事実認定をしたように見えます。また、証拠が追加されているようであり、審理範囲の論点が出てくる話かも知れません。

  なお、本件の取消審判請求は昭和63年であり、審決が出たのも平成4年、特許庁も裁判所も随分と時間を掛けて審理していますが、何か事情があるのでしょうか? それだけ時間を掛けていれば、特許庁においても適切な証拠を提出する機会があって良いはずですが、実際には、事実上の店ざらしの期間が長くて、それ程の議論をしたわけではないのでしょうね。

◆H14. 5.30 東京地裁 平成13(ワ)25515 商標権 民事訴訟事件 46部

  ドメイン名「WWW.IYBANK.CO.JP」に関する、原告「有限会社吉田興業」と被告「株式会社イトーヨーカ堂」との間の事案。ドメイン名に付いての権利は、JPNIC との間の債権的なものに過ぎない、等の判示で、原告の請求を排斥した。

◆H14. 5.30 東京地裁 平成12(ワ)2916 特許権 民事訴訟事件 46部

  ナビゲーション方法に関する特許第2722365号の侵害を主張して松下通信工業を訴えたが、明白無効とされた。

  H14. 5.13 の29部では、明白無効で権利濫用とした後で、でも「念のため」と言って検討していました(それで非侵害としたので、私は米国より積極的かも、等と書いていました)。これに対して本件では、無効の判断だけをして、「その余の点につき判断するまでもなく,原告の本訴請求は理由がない。」としています。

  被告代理人は大野聖二弁護士他。

  (7月5日に加筆): 他の争点は、他にも機能があるので間接侵害にならない、等の主張なので、余りスジが良くないようです。

◆H14. 5.30 東京地裁 平成11(ワ)20392 著作権 民事訴訟事件 46部

  「キャンディ・キャンディ」のストーリーの創作を担当した著述家である原告の、商品化についての権利が認められ、金銭賠償請求が認められた事案。

◆H14. 5.29 東京地裁 平成12(ワ)11906 特許権 民事訴訟事件 29部

  「ガス圧力式玩具銃」発明の特許の侵害事件。請求棄却。2点で非侵害の判断であるが、まず「上記空間部形成部材内におけるガス圧の低下に伴って位置が切り換えられ」の特に「ガス圧の低下に伴って」の点が違う、また「摺動部材」を備えない、というもの。

◆H14. 5.22 東京地裁 平成13(行ウ)284 特許権 行政訴訟事件 29部

  国内優先出願の際に、法30条1項の新規性喪失の例外のための手続をしそこねた事案について、補正しようとしたが却下され、その処分の取り消しを求めたが、棄却された事例。

  日本の先願主義は厳しすぎるのではないかと改めて思わされる事案です。優先権の基礎とされた出願では手続きしていたようなのですから。でも、法律がそうなっている以上は、この事案だけ救済するわけにはいかないのはもっともです。

◆H14. 5.15 東京地裁 平成13(ワ)1650 特許権 民事訴訟事件 29部

  発明の名称が「連続紙ウェブに被覆剤を調節塗布しかつ均すためのドクターブレード」という特許権についての侵害事件。請求棄却。

  発明の内容は、紙にコーティング剤を延ばす際に使うブレードについて、セラミックを薄くそれも積層して付けることによって、柔軟性を保ちながら耐摩耗性を向上させる、というもの。クレーム中に、セラミック層は「最高0.25oの全厚さ」との規定があり、しかもこの要件は補正(平成4年5月1日付け)で加えられたものだった(当初の明細書では、もっと厚いものも含まれる記述だったが、厚さを限定する複数回の補正をした)。

  本件で特徴的なのは、被告が売っている物そのものは侵害品でないことを原告も認めていること。すなわち、セラミック層の厚みがクレームの規定する0.25ミリよりも厚くて、それ自体は侵害品でないことを原告も認めており、ただ、ユーザーのところで使用するとこれが摩耗して薄くなって、クレームの規定するようになる、と主張して、間接侵害または共同不法行為を主張した。

 判決は、間接侵害にいう「生産」は、

供給を受けた「発明の構成要件を充足しない物」を素材として「発明の構成要件のすべてを充足する物」を新たに作り出す行為を指すと解すべきであり,加工,修理,組立て等の行為態様に限定はないものの,供給を受けた物を素材として,これに何らかの手を加えることが必要であり,素材の本来の用途に従って使用するにすぎない行為は含まれないと解するのが相当である。
として、本件でのユーザーの使用はこれにあたらないとし、さらに共同不法行為の主張に対しても、ユーザーの使用は、「本件発明の技術的範囲に属しないイ号ないしハ号物件を,本来製品として予定された態様で使用しているにすぎず,その使用態様は本件発明の実施ということはできず,不法行為を構成するものではない。」ので、それへの共同不法行為と言うこともない、とした。

  非侵害の結論はまったくもっともと思います。セラミック層の厚さを制限するのは、ブレードの柔軟性を維持するという技術的意味があるものと思われます。明細書を見ても必ずしもハッキリしてはいませんが(翻訳の明細書で非常に悪文です)、そうでなくては、わざわざ補正で入れるわけもないです。しかも、この点にこそ本件発明の要点が存在しているのだろうと思われます。そうすると、そこを満たしていなくて、本件発明の利点を享受していない被告のものが、侵害になるわけがありません(間接侵害とか共同不法行為とかの理屈をどのようにこねようとも)。

  もっとも、判示されている点が理由の勘所なのかについては若干の疑問を感じます(当事者がこういう主張をしたということではありましょうが)。しかし、原告は難点を承知した上で間接侵害などのアクロバティックな主張をしているので、こういう変な主張に対処するには、少し変にも見える議論をすることになる、という事なのかも知れません。

  また、共同不法行為を否定する議論は、実質内容としてはもっともですが、ロジック自体は循環論法になっているように思います。摩耗の結果としてクレームの言うとおりのものになるなら、それを使うことが特許権侵害という不法行為になる可能性があるのか、を検討しないといけないように思うのですが。

  なお、上記のように柔軟性の点に意味があるのだとすると、摩耗して薄くなる先端部分の厚さは意味が無くて、ブレードの横の部分の厚さこそ0.25ミリ以下になるべきもののようにも思われます。そうすると、そもそも原告の主張は的外れだったのではないか、と思われてきます。ここは、技術の詳細が分からないので、断言できませんが。

●H14. 5.14 東京高裁 平成13(行ケ)172 特許権 行政訴訟事件 第18民事部

  発明の名称を「窒化インジウムガリウム半導体の成長方法」とする特許第2751963号の特許、についての、審決取消訴訟。豊田合成と日亜化学の間の一連の訴訟の一つ。特許を維持した審決について、取消請求を認めた。

  複数の審判が絡んでいて、事案の経緯だけでも複雑。簡単に言うと、無効審判請求事件の第1次審決では無効とされたものの(ただしここでも訂正を認めた上での無効)、それの取消訴訟が係属中に、別の異議申立事件で特許権者による訂正請求を認めたので、第1次審決は取り消された、という経緯。なお、別に無効審判請求もあり(一応別法人(でも同グループ)による請求)、それらが審判手続きにおいて併合審理されている。

  結論は、進歩性無しとして、特許維持審決を取り消した。

  本件の経過は、次のように理解されます。特許庁は、第1次審決では無効としていたものの、異議事件での訂正によって特許性ありになった、との判断しました。その内容は、元のクレームは「バッファ層/GaN層またはAlGaN層/GaInN層」を規定するもので(他に温度などが規定さていて「成長方法」を対象としている)、第1次審決は「AlGaN層」(窒化ガリウムアルミニウム層)のものが法29条の2違反だとしていましたが、訂正でここが落とされたところ、特許庁は「GaN層」(窒化ガリウム層)のものについては特許性ありと判断した、というものです。それが今回の取消請求認容となったのは、この「GaN層」のものも裁判所は進歩性無しと判断した、ということです。

  裁判所は、前の訴訟で第1次審決(特許無効)を取り消したとはいえ、それは訂正があったので機械的に取り消したものであって、特許が有効との判断をしているわけではありません。だから、今回の判決(取消請求認容)は、訂正後の「GaN層」のものなら有効との特許庁の判断を裁判所が否定した、というだけのものです。……こうまとめれば、特許庁も裁判所も自己矛盾したことをしているわけではなく、訂正後の特許性について違う判断なので仕方がない、というだけの経緯ですが、しかし、もう少しシンプルな仕組みにならないものか、とは感じます。無効と判断した第1次審決と、それを取り消す高裁判断ここにリンクここにコピーが過去にあったことを思うと、なんとも紆余曲折を経ているなあ、という感想を持たざるを得ません。下でコメントした5月9日付けの2件もその意味では同様であり、やはり訂正に関して制度改正が必要なように思います。昭和51年大法廷判決(ここにリンクここにコピー)の問題性、さらにそれを助長してしまった近時の最判(平成11年3月9日、ここにリンクここにコピーについての疑問、を改めて感じるところでもあります。

  また、異議事件を特許庁が随分と遅くまで残していたのも奇妙とも思えます(無効審判の方を先行させるのは通例とも言われますが、無効審判の結論の後まで残しておくのは疑問です)。もっとも、本件ではそれがなければ訂正審判が提起されていただけでしょうから、紆余曲折の理由というわけではないですね。

 (5月22日記: この項、ご覧になった方からメールをいただいたのを参考にして、またそれを機会として、少し手直ししました。)

 (5月27日追記: 異議事件を残していたが不思議と書きましたが、普通に行っていることのようにも思い直しました。無効審決を出している以上は、完結させるなら取消にするはずですが、既に無効審決があるのですから、取消決定を急いで出しても仕方がない、何も事態は変わらない、という考えによるのかも知れません。)

◆H14. 5.13 東京地裁 平成13(ワ)1105 特許権 民事訴訟事件 29部

  PCストランド(被告の商品名はフロボンド)の防錆被覆方法に係る特許権の侵害被疑事件。被告は住友電工。請求棄却。明白無効で権利濫用、さらに非侵害。

  明白無効は、複数の公開公報を先行技術として、進歩性無し、とした。非侵害の点は、被告のは静電塗装法であって、本件発明の構成要件Cの「流動接触させて付着させ」に当たらない、とした。

  興味深く思うのは、この判決に限ったことではありませんが、侵害を否定しても明白無効を判断することです。キルビー事件の事案でもそうだったのですから、これは問題ないとも言えますが、でも、非侵害なら明白無効の判断は不要とも言えるわけですよね。それでも無効判断に対する障碍とは考えないが当然とされているようです。要件事実的に、明白無効の権利濫用は、侵害に対しての抗弁というわけではないから、……といった説明を聞くこともあります。それはそれで、理屈が通るものとは思います。

  しかし。拙稿「侵害訴訟での無効判断」のここで書いたように、米国では、カーディナル事件最判(Cardinal Chem. v. Morton Int'l, 508 U.S. 83 (1993))で、非侵害でも無効認定をして良いとするまでのしばらくの間は、非侵害だったら無効判断はしない(地裁で無効判断をしていたらその部分を取り消す)というのがCAFCの判例だったのですね。そして現在でも、カーディナル事件最判のいうところは、無効確認の反訴があるから、そして、それについての確認の利益は、結局は非侵害であってもそれが争われているというだけで認められるから、非侵害でも無効判断をする、というものなので、仮に抗弁だけだったら(そういうことは実務的にはないのですが)非侵害の場合には無効判断はしないことになりそうなのです。

  これに比べると、日本の実務は、より積極的に無効判断をすることになります。キルビー最判によって、一挙に米国を抜いてしまっているとも言えるわけですね。それでよいと思いますが、それなのに、それでも無効判断をしているのではなくて権利濫用だけなのだ、という議論をするのには、一層の疑問を感じます。拙稿「米国制度からの示唆(審判研レポート)」参照。

  この事案自体を見ると、これは無効と言いたくなるのは分かる話ではあります。少なくとも判示されているところから見ると。塗装方法についての発明で、先行技術との違いが「各単線間が互いに離反した状態に撚りを拡げ」て塗装をする、というところにしかなくて、しかもそうした撚りを広げる話は別の先行公報に出ている、というのですから。これでは、一体何処が発明だというの、という感じです。

●H14. 5. 9 東京高裁 平成13(行ケ)78 実用新案権 行政訴訟事件 第18民事部

  実用新案登録を無効とした審決を取り消した。「圧流体シリンダ」の実用新案。この事案も、訂正が絡んで複雑な経緯。

  従前の無効審決に対する取消訴訟の係属中に、訂正審判請求があり、これが認められたため、東京高裁は取消請求を認容した。ところが、また無効審決。それを対象とする取消請求訴訟が本件で、請求認容、すなわち事件はまた特許庁に戻った。

  取消を認めた理由は、「原告主張の取消事由は、要するに、審決が、訂正審決で認容された訂正事項(あ)について、本件訂正がその要件を欠くものであるとして本件実用新案登録を無効とすべきものとした点の誤りをいうものである。」というのを肯定したもの。「一方の側壁から下方に延びる側壁」などが、訂正前の明細書の範囲内の事項かが争点だった。

  この事件が長期間がかかっている理由を考えると、まず表面上は、特許庁が、訂正審判を認めたのに、後にまた無効審決をくだしたのが問題のように見えます。しかし、訂正審判では、対立当事者がいないために、厳しい判断はしにくい、ということのようにも思われ、特許庁の問題と言うよりは、無効審判と訂正審判を分けていた旧法の問題点が表面化した事案なのかも知れません。これは、下のケースも同様と言えそうです。

●H14. 5. 9 東京高裁 平成13(行ケ)455 特許権 行政訴訟事件 第18民事部

  無効審判での特許維持審決を取り消した事案。「転写印刷シート」の発明。訂正審判も絡んで、かなり複雑な経過をへている。

 無効審判請求が平成4年。5年に訂正審判請求がされていて、そちらで7年に訂正認容され、無効審判の方は特許維持だったが、高裁で取り消された。その後、また訂正審判請求があり、これも訂正認容で、無効審判(高裁での取消で差し戻されたもの)では特許維持。それが今回高裁での対象となり、また取り消された。取消の理由は、手続違背で、訂正についての告知と反論機械付与がなかったこと。

  原告代理人は、小坂先生・小池先生他。

2002年4月

●H14. 4.30 東京高裁 平成13(行ケ)435 商標権 行政訴訟事件 第18民事部

  「リナックス」商標を無効とした審決を維持した。被告(無効審判請求人)はアスキー。

◆H14. 4.26 東京地裁 平成12(ワ)26626 特許権 民事訴訟事件 47部

  薬(酵素)の特許侵害事件。非侵害で棄却。

  原告はデンマーク法人で、代理人は片山英二先生。被告は明治製菓。

◆H14. 4.26 東京地裁 平成13(ワ)2887 商標権 民事訴訟事件 47部

 「goo.co.jp」のドメイン名が争われた件。NTT-X(http://www.goo.ne.jpの主体)の勝訴。本件訴訟の主文等では、原告・(株)ポップコーン(http://www.goo.co.jpの主体)が「goo.co.jp」を使用する権利の確認を請求していたのが棄却されたものだが、本件判決にも記されているように、その前に工業所有権仲裁センター紛争処理パネルにより、移転を命ずる裁定が出ており、本件はそれに対する不服申立の訴訟。裁定が維持された。

  原告の主張は、自分の方が先だ、というものです。でも、やっぱり使い方には問題があるように見えますね。それでも、http://www.goo.ne.jpの方へのリンクも出ていたりして、それ程悪質ではないという見方もあるのかも知れないが。

  本件は、インターネット・ウォッチの記事などに報道されています。

★平成14年04月25日 第一小法廷判決 平成13年(受)第952号 著作権侵害行為差止請求事件 最高裁1小

  「要旨」にあるとおり、「家庭用テレビゲーム機用ソフトウエアの中古品の公衆への譲渡が著作権侵害に当たらないとされた事例」。大阪高裁のロジックを採用して、「小売店を介して需要者に購入され」ると、「頒布権のうち譲渡する権利はその目的を達成したものとして消尽」する、とした。

  ゲームウォッチの記事同じくACCSのコメントを報じる記事。私はここで消尽とするのには少し批判的

◆H14. 4.25 東京地裁 平成13(ワ)14954 特許権 民事訴訟事件 46部

  均等侵害を認めた生海苔異物処理機特許事件の金銭賠償請求事件。法102条1項により、4億2109万円他の賠償を命じた。ここにコピー

  ……私が原告代理人の事件です。当初は被告の本格出荷前だったため、差止のみを請求して、その件で均等侵害が認められて確定しました。その後、賠償の請求をしても応じていただけなかったため、金銭請求訴訟を提起し、このたびほぼ満額を認容されました。

◆H14. 4.25 東京地裁 平成14(ワ)3764 不正競争 民事訴訟事件 46部

  「三菱クオンタムファンド株式会社」等の名称の使用を、不正競争防止法2条1項2号所定の不正競争行為として、原告である三菱商事・東京三菱銀行・三菱信託銀行の3社による差止等請求を認容した。

  ……原告側代理人が大野聖二先生で、私も上記の海苔の事件の判決言渡に裁判所に行ったのでお目にかかりました。

◆H14. 4.25 東京地裁 平成14(ワ)3499 商標権 民事訴訟事件 46部

  原告は「ルイ ヴィトン マルチエ」。金152万9700円他の認容判決。ただし、商標法および不正競争防止法班での損害賠償が認めら得たことは分かるが、事実関係は不明。自白の扱いだが、それも「〜被告は,口頭弁論において,原告主張に係る請求原因事実を争うことを明らかにせず,また,弁論の全趣旨によって,同事実を争ったものと認めることもできない。/よって,民事訴訟法159条1項により,被告は上記請求原因事実を自白したものとみなす。」という、少々不思議なもの。被告は本人訴訟のようであり、よく分からない答弁だったのだろうか?

◆H14. 4.24 東京地裁 平成13(行ウ)385 特許権 行政訴訟事件 29部

  4年目の特許料を未納で特許が取り消されたのを争った事案。原告敗訴。

  スエーデン法人の特許権を訴外法人を経由して原告(やはりスエーデン法人)が譲り受けたが、日本の弁理士が4年目の特許料の納付期限を1年間違えて伝えたために、納付し損ねた。さらに、追納期間が経過したのに、回復のための追加金額を加えずに手続きをした、というミスもあった。判決は、回復期間の経過後の補充納付書による手続きは、不適法で補正できない、として、特許庁の扱いを支持した。判決は、また駄目押しとして、「責めに帰することができない理由」かどうかの判断は、「代理人の事情をも考慮して判断すべきであるのは当然である」ともしている。

◆H14. 4.24 東京地裁 平成13(ワ)16388 特許権 民事訴訟事件 29部

  「有機性物質を含む廃水の処理方法」という特許について、差止請求権の不存在確認請求で、被告が争わなかった、という事案。事情は不明。

◆H14. 4.24 東京地裁 平成11(ワ)6249 不正競争 民事訴訟事件 29部

  被告(ホーメックス)の実用新案権に基づく原告の取引先(フランチャイジー)への警告状送付が、「不正競争防止法2条1項14号所定の『虚偽の事実を流布した行為』に該当する」とされた事案。非侵害との認定で、かつ、その実用新案については原告の異議申し立てに基づいて取り消しされそれが東京高裁でも既に確定している、という事実関係がある。

  被告の過失も認めて、賠償請求を認容しているものの、1億円余りの請求に対して、「そして,上記の信用,名誉の毀損により原告に生じた損害は,前記の原告の営業内容,営業態様等一切の事情を考慮するならば,120万円と解するのが相当である。」とし、これと弁護士費用30万円、だけの認容。訴訟費用も9割が原告負担。

  おそらくは、被告による警告状があるにしても、それで営業に実害が生じているとは認定しかねたのでしょう。また同時に、こうした請求を簡単に認めすぎると、権利行使に対して萎縮効果を生じることになってしまうので、それは適切ではない、という考えも背景にあるのかも知れません。しかし、120万円、というのがどういう数字なのかは、不明ですね、微妙に半端で。

◆H14. 4.24 東京地裁 平成11(ワ)25030 特許権 民事訴訟事件 29部

  「省エネ制御搭載形インバータ」についての特許侵害事件。発明の名称は「交流誘導電動機の電力節減回路」。非侵害。被告は安川電機。

  要件A「電動機へ供給される電流の実効値を検出する電流検出手段」も、要件B「前記電動機の最大負荷トルクに対応する前記電動機のコイル電流値が予め記憶されている記憶手段」も、要件C「前記記憶手段に記憶されているコイル電流値に対する,前記電流検出手段が検出した電流の実効値の比率を求め,該求めた比率に応じたデータを出力する比率判別手段」も、いずれも充足しないとの判断。

  被告装置は三相交流モーターであり、その瞬時電圧などを検出しているようです。特許の方は、単相を前提としており、そのための違いを取り上げた判示のようにも見えます。しかし、誘導モーターというのは多相交流で動かすのがむしろ自然であり(単相交流を給電する場合も、わざわざコンデンサーを使うなどして位相差のある電流を作り出す)、ここの違いを重視するのには疑問を感じるところもあります。しかし、さらに言えば、そういう内容を考え始めると、元々の特許の内容が余りにも当たり前の話であり、そういう“原理”を考え始めると、どうしてこれで権利が成立しているのか不思議とも見えます。ですから、この結論でよいのでしょう。

◆H14. 4.24 東京地裁 平成11(ワ)21248 不正競争 民事訴訟事件 29部

  営業権を奪い取ったことなどが不法行為,不正競争行為にあたるとして、20億円余りの賠償を求めた。原告は破産管財人。請求棄却。

◆H14. 4.23 東京地裁 平成13(ワ)22157 著作権 民事訴訟事件 46部

  ゲームソフトの違法複製CD−Rの販売についての賠償請求事件。原告は、著作権法114条1項または2項に基づく損害を、選択的に主張。

  まず1項についての主位的主張は、「利益の額」について、「侵害行為がなかったとすれば財産が減少するはずであったのにそれを免れたといった消極的利益も含まれる」と主張し、LEC事件第1審判決を援用。これは排斥された。LEC事件は販売ではなくて被告が自分で使用、との指摘がある。また、特許法102条1項とは違う、という指摘もされている。予備的主張として、「侵害者が当該複製物の販売によって得た現実の利益,すなわち複製物の売上高から製造等に要した費用を控除した金額」を主張し、これが認められた。

  また、2項について、「真正品の小売価格に相当する額」を主張。

  被告欠席であるにもかかわらず(刑事事件先行との説明が出ている)、相当に減額された模様(被告が多数のため、金額は別紙の表になっていて、速報では見られないのだが、訴訟費用は5分の4が原告負担)。また、弁護士費用としても、5%だけが認容された。

◆H14. 4.23 東京地裁 平成12(ワ)15215 不正競争 民事訴訟事件 46部

  顧客データの使用差し止めと金銭賠償を求めたのに対して棄却。原告は健康食品の通信販売業者で、被告は元従業員。営業秘密に当たらないとした(争点1)。その理由は、「これにアクセスできる者は特に制限されておらず,コピーも禁じられておらず,パスワード等による保護もされていなかったため,事務所にいる者であれば誰でも見ることができ,また,これらの者との間に秘密保持契約も締結されていなかったのであるから」、とのこと。

◆H14. 4.16 東京地裁 平成12(ワ)8456等 特許権 民事訴訟事件 46部

  重量物吊上用フック装置に関する特許について、イ号について文言侵害を認め(争点1と2)、ロ号について均等侵害を認めた(争点3)。なお、明白無効の主張の排斥もしている(争点4)。

  また、損害賠償についても、法102条1項についてかなり積極的な判示がなされている。実施の能力は、「厳密に対応する時期における具体的な製造販売能力を意味するものではなく」「潜在的能力」で足りる、「単位数量当たりの利益の額」について「現実の利益額と一致するものではなく」、もっと多額であり得る、など。その結果、「利益の額」として販売額の約5割を損害と認めた(争点6)。

  なお、公開後の補償金請求については、悪意を否定して排斥した(争点5)。当事者間では折衝はあったのだが、抽象的な警告しかされていなかったという認定。

■H14. 4.16 大阪地裁 平成12(ワ)6322 特許権 民事訴訟事件 21部

  「筋組織状こんにゃくの製造方法及びそれに用いる製造装置」の特許について、均等侵害を肯定。

  この特許は、●H13. 6.27 東京高裁判決でも争われていたものです。……いやそれどころか、当事者も代理人も同じです。東京高裁(およびその原審の前橋地裁)でも、均等侵害が肯定されていました。今回の大阪での判決とほぼ同様です。どうして2箇所で争っていて一本化しなかったのか不思議ですが、よく見ると、前橋の事件は提起が平成7年であり、今回の大阪は提起が平成12年と、時期が随分違います。また、被告代理人はいずれも東京ですが、原告代理人は岡山です(それぞれ弁護士名簿によると)。その辺りもからんで何か事情があるのでしょう。

  東京高裁の時には、何故にわざわざ文言侵害を否定して均等侵害を肯定したのか、やや疑問に感じられました。「スリット」が付け加わっていても、付加的に過ぎないように思われたからです。今回の大阪地裁判決を見ると、この辺りが少し分かったような気がします。「スリット」のために、それぞれの孔がちゃんと別れていないことになり、「多孔」でなくなっている、ということのようですね、どうやら。でもそうなると、今度は、本当に侵害として良かったのか、疑問無しとしません。今回の判決でも、「1本のリボン状」を除外しているかどうか、争点になっていて、後半に判示があります。

  なお、このケースは均等侵害を認めて差止と損害賠償を命じたものの、金額は金16万3100円と金27万5750円だけなのですね。請求金額も、100万円ずつ(原告が2名)です。この金額の事件で、上記のようにいろいろとやっていて、しかも均等侵害という微妙な争いになっている、というのは、代理人にとっては随分と大変そうですが、どういう事になっているのでしょうか?

◆H14. 4.16 東京地裁 平成12(ワ)15123 著作権 民事訴訟事件 47部

  整体師を養成する学校の生徒(原告)が、学校の授業内容に基づいてマニュアルを作成した。このマニュアルを基にして、学校側が書籍を作った。これに対して著作権および著作者人格権の侵害を主張して、差止・損害賠償などを請求し、認められた。

  このケースも、下の掲示板のケースと同じように、まずは著作物性を争っています。しかし、マニュアルとしてまとまっているもので、著作物性が認められるのは無理もないと思います。

  ただ、学校側とすれば、本当の内容は自分の側が教えたことなのに、……というところが納得いかないところであり、本件の難しいところでしょう。そのへんをいろいろ主張したものではあるようで、判決文でもふれられています。また、損害額の認定において考慮されているようです(簡単にだけ書かれてはいますが)。結局は、そういう事情があるにしても、原告がまとめた表現であることは否定しがたく、その権利を無視したらいけない、ということなのでしょう。

◆H14. 4.15 東京地裁 平成13(ワ)22066 著作権 民事訴訟事件 29部

  掲示板の書き込みに著作権を認め、それをまとめて出版した被告らに対して、差止と損害賠償を命じた事案。

  インターネットの話なので、インターネットで大量に取り上げられています。インターネット・ウォッチの記事とか。また、原告団のページには大量の報道へのリンクがあります。

  著作物性を主に争っているようですが、これは無理でしょう。相当簡単なものでも、一応は著作権を認めるのが普通です(権利の幅は狭いにしても)。むしろ可能性があるのは、インターネットの掲示板への書き込みなのだから、そこには同意/許諾がある、という主張だと思われます。これも被告は一応は主張したようですが、判決文では

「(2) 被告森拓之事務所及び同Lは,本件掲示板へ書き込みをする者は,同掲示板へ書き込みをした内容について著作権を主張しないという暗黙の了解があった旨主張する。しかし,本件全証拠によっても上記のような承諾があったことを窺わせる事実を認めることはできないから,同被告の上記主張は失当である。」
と簡単に片づけられています。

  ここは被告側の論証が不十分だったのではないかとも思われます。でも、そもそも掲示板においてちゃんとその旨の手当をしておかなければ、こういう主張もダメなのかな、とも思います。難しいところですね。

  なお、判決文中に「4 (争点(4))損害額はいくらか。」とあるのは、「争点(5)」の誤記ですね。

◆H14. 4.11 東京地裁 平成14(ヨ)22010 著作権 民事仮処分事件 29部

  「ファイルローグ」に対しての仮処分事件の、日本音楽著作権協会が債権者の方です。

◆H14. 4. 9 東京地裁 平成14(ヨ)22011 著作権 民事仮処分事件 29部

  「ファイルローグ」に対する差止仮処分が出た件です。日本の著作権法では、送信可能化権の規定があるので、この結論は必然的でしょう。本件債務者は、自分で送信するわけではなくて、交換のための情報提供をするものではありますが(だからピア・ツー・ピア、というわけですね)、本決定は経済効果を検討してこれを送信可能化権の侵害行為と判断しています。

  私は、技術進歩による利益を公衆が享受できるべき、という観点から、レコード会社の主張を余りその通りに認めるのには疑問を感じるものですが、本件は差止になっても仕方がなかろうとは思います。ただ、日本の著作権法だと詳細に権利が規定されているので、そうもなるとは思うのですが、外国だとちょっと違うようにも思います。その点で、このケースのサーバーはカナダに設置してあると書いてあるのに、国際私法がちゃんと議論されていないのは、少々疑問です(本件は、当事者の書面がたくさん添付されていてかなり長いので、私もちゃんと読んでいないのですが。もしもどこかで議論しているようだったら、メールで教えて下さい。)。もっとも、米国でもナップスターがアウトだから、この議論も複雑ではあるけれど債務者側の見通しは暗いですが。それに、送信可能化権の侵害行為と判断するについての経済効果の検討の仕方からすると、国際私法の議論も同様に日本法だ、とされそうでもありますが、それならそれで注目されるべき判断だと思いますから。

■H14. 4. 9 大阪地裁 平成12(ワ)1974等 不正競争 21部

  不正競争防止法の形態模倣をメインの請求としたケースだが、その点は請求を認めなかった。原告がデザインした商品(100円ショップの2本組ワイヤーブラシセット)ではあるが、それはもっぱら被告に売って、被告が在庫負担などもしながら大創産業に納めていた、というもので、日本市場におくについて被告も共同していたという認定。この場合、「他人の商品」に当たらないとした。

  請求認容部分は、継続的取引関係を認定し、それを被告が不当に破棄して他からの調達をした、との認定による。なお、こちらは別の事件番号になっている。

2002年3月

●H14. 3.28 東京高裁 平成12(ネ)3624等 特許権 民事訴訟事件(リンク先はコピー) 第18民事部

  地裁判決(47部)(リンク先はコピー)を破棄した事案。控訴人はバイエルメディカルで、代理人は大場先生・尾崎先生・嶋末先生、被控訴人はテルモで代理人は吉原省三先生他。

  「血液採取器」についての特許で、高分子材料のフィルターが付いていて、空気の除去および遮断ができる、というもの。それで発明の名称が「空気の除去および遮断機構付血液採取器」。「水膨潤性高分子材料の膨潤時には気密性を有する」の要件が問題となり、高裁はこれが充足されないとして、非侵害の結論。気密化の仕組みが違う、との事実認定。

  地裁判決も、損害賠償請求が一部時効になったという点などで興味深く思ったのですが、侵害の点で逆転ですね。

◆H14. 3.28 東京地裁 平成12(ワ)20327 特許権 民事訴訟事件 新リンク46部

  「既存建物の免震化構法」の特許の権利行使の事案。非侵害で請求棄却。「所定深さ掘削」に当たらず(争点1)、さらに「介装」も該当しない(争点3)とした。

◆H14. 3.28 東京地裁 平成10(ワ)13294 著作権 民事訴訟事件 46部

  美容業界紙の制作をめぐる著作権に関した事例。棄却事例。編集著作物についての著作者人格権の侵害の主張は、「そもそも編集著作権の対象にならない部分に関するものである」として排斥、など。

◆H14. 3.28 東京地裁 平成08(ワ)25582等 不正競争 民事訴訟事件 47部

  自動車整備業用システムの一部をなすデータベースの著作権の侵害を争ったケース。既に このケースのH13. 5.25 の中間判決 で、著作権侵害は否定されて、不法行為だけがある、とされていた。結局、請求額9億5000万円に対して、不法行為の損害賠償として5613万円余りだけが認容された。

  上記の このケースのH13. 5.25 の中間判決 を見ると、この件のデータは「データベースの著作物として創作性を有するとは認められない。」としながらも(争点1)、ダミーデータもコピーしていることなどから複製販売の事実を認定して(争点2)、不法行為になるとした(争点3)ものです。著作権がないのに、複製販売が不法行為になるというのは、原理的に可能性はあるとは思うが、結構微妙な話のような気がします。

  なお、中間判決になっているケースというのは、データベースからは2件しか見当たりません(もう1件も著作権。あともう一つ、昔の知財例集掲載事件が出てくる)。知財事件では、侵害の成否を認定して(場合によって無効の点も)、それが認められた後に損害額についての審理にはいる、というのは一般的ですが、この場合にわざわざ中間判決はしないのが普通のようです(裁判所で検討・合議の上で、侵害は認められる、との事実上の申し渡しだけをして、損害額の審理に入る)。本件は、請求根拠が著作権と不法行為とあるために(しかも、そのうち不法行為だけ認めるという判断であることもあって)、中間判決の形にまとめるのが適切だったものと思われますが、この辺り、何か基準があるのでしょうか?

◆H14. 3.26 東京地裁 平成13(ワ)16152 著作権 民事訴訟事件 47部

  批判文章に対して、間違った紹介の上で批判しているとして差止などを求めたが、請求棄却。原告は日経で、被告は著者と晶文社。

  日経新聞の「20世紀 日本の経済人」の記事を、被告が不適切に紹介・説明・引用して批判したとして、著作者人格権に基づいて差止と廃棄などを求めた。また予備的に名誉毀損による不法行為も主張した。争点は、「原告の名誉又は声望を害する方法により原告新聞記事を利用したか」どうか、など。

  被告の文章は、原告記事の摘示に足りない所はあったようだが、結局は判決は「全体として正確性を欠くとまでは認められない」とした。

◆H14. 3.26 東京地裁 平成13(行ウ)274 特許権 行政訴訟事件 47部

  出願審査請求却下処分の取消しを求めたのに対して、請求棄却。国内優先の基礎にした出願についての事案。

  日本での出願に基づいて優先権主張をして国際出願をし、その後に指定国から日本国の指定を取り下げ、その後、元の出願について審査請求をしたが、ダメだった、という経過。国内優先権の基礎出願なので、特許法42条1項で、1年3月がたつと取下と見なされるため。本件の争点は、国際出願の方で日本の指定を取り下げたので、それをどう扱うか、ということ。42条1項ただし書きは、取下については「すべての優先権の主張が取り下げられている場合に」初めて取下擬制から外しているので、当然の結論と思われる。

◆H14. 3.26 東京地裁 平成12(ワ)13904等 商標権 民事訴訟事件 47部

  バイアグラについての、ファイザーが原告となっての事件。請求認容。

  争点としては、被告は輸入ではなくて、個人輸入の手続代行だ、などの他、並行輸入も議論された。この点は、包装し直したものであるために、真正品故に違法性阻却、とならない、との判示。

◆H14. 3.25 東京地裁 平成13(ワ)4294 商標権 民事訴訟事件 29部

 サービスマークについて、法改正前からの継続使用による権利(改正法附則3条1項所定の継続使用権)を認めて、請求を棄却した。標章は「レイデント」、役務は電気メッキ。

◆H14. 3.25 東京地裁 平成11(ワ)20820等 著作権 民事訴訟事件 29部

  「宇宙戦艦ヤマト」のアニメ(テレビ用と劇場用)の著作権にかかる事件。原告(松本零士)が、被告が自分が著作者だと言っているのに対する差止めと謝罪文掲載を求めたのに対して、被告の方が、反訴請求で自分の著作者人格権の確認を請求した。被告の全面勝訴。

  新聞で極めて簡単に読んだときには、本件はアニメの著作の問題であるためにこうなった、という話なのかと思ったのですが(元々の原作は松本零士ではあったかのように思った)、判決文を読むと、松本零士は途中から助けに入っただけで、本来の意味ではまったく「原作」者ではない、とのこと。でも、表向きは、「原告のスタッフタイトルは,原作,設定及び監修」などになっているのも事実であり、私を含めて普通の人が誤解しているのも無理はないんですね。

  4月10日加筆: その後、今週号のアエラを見ました。なんかすごい怨念の世界になっている事件なのですね。原告は、大変な波乱の人生を送っているようですし。