Last Modified: 2010年1月1日(金)19時23分25秒

上告受理申立理由書


平成20年(ネ受)第10010号 特許権侵害差止再審請求上告受理申立事件
申立人: 株式会社 親和製作所、相手方: フルタ電機 株式会社

平成20年9月30日
(通知受領日: 8月12日)


最高裁判所 御中
(提出先・知的財産高等裁判所 第4部 御中)


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     申立人訴訟代理人 弁護士 松本 直樹(印)

1. 確定判決が尊重されるべき

 原審判決は、特許侵害に対して差止を命じた確定判決を取り消したものである。不当である。本件の再審請求は権利濫用または信義則違反に当たり、許されるべきでない。

1.1 判決の確定は最終決着のはず

 原審判決のように、判決が確定した場合でも、遙かに後になってでも特許無効審決があったなら、それで再審取り消しとなる、というのでは、特許権者にとって不当に不利である。勝訴判決を得てそれが確定しても、何時までもリスクが残ることになってしまう。

 民事訴訟は、紛争に決着を付けるもののはずである。訴訟という慎重な手続きでの結論は、十分に尊重されるべきである。その手続きに瑕疵があったなら、再審となるのもやむを得ないが、そうでない限り、長期間の経過後に覆されたりするべきでない。原審判決はそれを無視している。

 本件の確定判決は、その手続き自体には何らの瑕疵も無いものである。原審が再審として取り消したのは、確定判決の後に無効審決があったことだけを理由とする。その様な取消をするべきでない。

1.2 賠償判決を取り消すことの不合理

 原審判決の論理によれば、金銭賠償を命ずる判決が確定していた場合であっても、後の無効審決により、確定判決は再審で取り消されることになる。そうなると、確定判決に従って授受されていた金銭は、不当利得だったことになり、利息を付して返還する必要が生じるものと思われる。しかしそれは、余りにも特許権者に酷である。

 本件では幸いにも、確定判決は差止を命じているだけである。損害賠償については、別件訴訟で請求しそれについて和解が成立しており、再審請求の対象とはなっていない(原審判決でも説示されているとおり)。しかし、本件の原審判決の論理に従う限り、むしろ一般的な状況である金銭賠償をも命じた確定判決について、取消および利息支払いまで要求することになってしまう。これは余りに不当な話である。

1.3 特許庁での手続きも既にあった

 当時の特許無効の主張は、侵害訴訟におけるだけではない。再審原告(本件相手方)は特許庁での無効審判も請求し、そして排斥された。

 それでもさらに無効審判を請求することは可能である。本件では現にその結果として、3回目と4回目の請求により(その前に他の請求人による審判手続き3件がさらに存在していた)該当の請求項が無効とされた。

 経過の概要は次の通りである。本件確定判決は、地裁判決は平成12年3月23日(東京地裁)、控訴を棄却した高裁判決は平成12年10月26日(東京高裁)である。翌年、上告不受理で確定した。

 再審原告による無効審判請求は、第一次審判(無効2000-35411)は、平成12年7月27日付けで請求されたもので、平成13年12月4日付けで特許維持の審決が下された。この結論が取消請求訴訟でも維持された。また、第二次審判(無効2003-35204)が、平成15年5月21日付けで請求されたが、これにおいても特許は維持された。

 特許が無効とされた審判の請求はこれら以降の手続きでのことで、原審判決にも記されているとおり、まず請求項1について第三次審判(無効2003-35247)が平成15年6月16日付け(特許庁の受付は18日付け)で請求され、結局はその手続きで請求項1が無効となったが、その経過としては次の様であった。平成16年4月6日付けの当初の審決では特許が維持されたが、その後、これが高裁で取り消され(平成17年(2005年)2月28日)、その後に無効審決が下され、裁判所でも維持された。請求項2については、第四次審判(無効2005-80132)によるもので、これは平成17年4月26日に請求されたものである。

 こうした経過であるから、本件の特許の有効/無効は、正に一度は決着済みの問題である。それを今更に再審というのは、判決の確定ということの意義を無視するものである。権利濫用としてまたは信義則違反として、排斥されるべきである。

2. 条文および判例との関係

2.1 104条3第2項は前提として再審を否定している

 確定判決であっても、特許が無効になったのだから仕方がない、再審で取り消すのは当然だ、という考えは、キルビー最判以前のものである。キルビー最判以前の特許侵害訴訟は、特許の有効性について判断しない建前であるから(登録がある以上は有効な特許として扱う、との建前)、特許が後に無効審決により逆転して無効となったなら、再審となるというのももっともである。

 しかし、現行法はそうした再審を許していない。

 現行法では特許法104条の3が特許無効の抗弁を規定しているが、同2項によれば、手続きを遅延させる提出は許されていない(「審理を不当に遅延させることを目的として提出」は却下され得る)。これは、一回で決着を付けることをもちろん予定しているからである。

 ここでの前提として、もしも後に無効審決で特許が無効となった場合にも、再審取り消しはしないことが予定されているはずである。そうでなければ、その侵害訴訟の判決を急いだところで、なんの意味もない。後に再審で逆転される判決を早期に確定させたところで、まったく無価値である。むしろ混乱を助長することになる。

2.2 本件との関係

 104条の3の条項は、時期的に、本件確定判決には直接に適用があったわけではない。しかし、本件確定判決の基準日(平成12年(2000年)9月5日)はキルビー訴訟最判の後であり、104条の3の抗弁とほぼ同様に無効の主張が可能な状況であった。そして現に無効の主張がなされ、それが排斥されて下されたものである。

 さらに、本件では、特許庁での手続きも試みられ、そして特許は維持された。それが遙か後になってから、たとえ無効審決が下されたためであっても、確定していた判決を取り消すべきものではない。

 平成13年には確定していた侵害訴訟の判決(本件確定判決)に対して、そして特許庁での審判手続きでも特許は維持されていたのに、その後に平成15年になってから請求した審判手続きを根拠として判決の取消を求めるのは、権利濫用に当たる。

2.3 最判平成20年4月24日

 近時の最高裁判例に照らしても、本件の再審は認められるべきでない。最判平成20年4月24日(平成18(受)1772事件)である。

 この最判では、訂正審判で訂正されても、特許無効とした判決は再審取り消しにはならないとした(事案としては、上告受理申立の間に訂正が認められたが控訴審判決が維持されたものだが、再審理由にもならないことを前提とした結論である)。

 最判平成20年4月24日は、「民訴法338条1項8号所定の再審事由が存するものと解される余地がある」としながら、「しかしながら,仮に再審事由が存するとしても,以下に述べるとおり,本件において上告人が本件訂正審決が確定したことを理由に原審の判断を争うことは,上告人と被上告人らとの間の本件特許権の侵害に係る紛争の解決を不当に遅延させるものであり,特許法104条の3の規定の趣旨に照らして許されないものというべきである。」とした。

 本件の無効審決も、これと同じことである。確定判決の尊重が必要であり、無効審決があったからと言って再審取り消しされるべきでない。

 なお、最判平成20年4月24日の事案も、その地裁判決は104条の3の制定前のもので、キルビー最判にしたがった主張がなされてそれが認められていたものである。同最判は、これらを特に区別をする趣旨ではないものと見られる。

3. 手続き

3.1 開始決定の限定された意義

 再審開始決定がされてはいるが、それで確定判決が取り消されたわけではなく、まして取消が拘束力を持つものではない。さらに、上告審に対して拘束力を持つものではあり得ない。また、特に本件のように、事実状況により再審が認められるべきでない事態に対しては、開始決定までに検討がされていないのであるから、開始決定の後に再審請求をしりぞける判断があって当然である。

 加えて、再審開始決定については、不服申立手段が別に認められていない。現に、許可抗告を申し立てたが、許可されなかった。この上告によってこそのこの点の判断がされる必要がある。

3.2 権利期間満了と同じはず、請求異議の可能性はある

 仮に、特許が無効になっているのに差止が残るのは不当だとするなら、請求異議の可能性はある。これは、特許が権利期間満了で消滅した際の扱いと同様だと思われる。

 かえって、確定判決自体には瑕疵がないのに、再審で取り消してしまう、という方こそ不当である。

3.3 手元にはなかった証拠でも後の主張は許されない

 再審原告は、確定判決の後に無効理由の証拠(先行技術)を見いだしたものと主張している。仮にそうだとしても、本件の再審による確定判決の取消を認めるべきではない。既に判決の確定という形で決着が付いた話なのである。今更の他の証拠を見付けたからと言ってやり直しを認めるべきではない。

 内容を考えれば、ますますそうである。問題の先行技術は、技術分野に相違があってクレームとの違いがあるものの、そこからは本件請求項は進歩性がないと言われたものである。それを侵害訴訟の当時に見付けなかった(見付けられなかった)というのは、むしろ再審原告の責任である。

 後から見付けた証拠により、無効審判請求をするのも原則的に許される。無効審判請求は、別の主張や別の証拠を根拠とするのであれば、後からも可能である。これは特許法の規定として現にそうなっており(特許法167条の反対解釈)、申立人もそれに異論を唱えるものではない。しかし本件での問題は、民事訴訟の確定の意義である。

以上 


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