訴 状
原告 株式会社親和製作所
被告 フルタ電機株式会社
特許権侵害差止請求事件
 訴額   1億2750万0000円
 貼付印紙額   50万1600円

訴 状

〒431-0441 静岡県湖西市吉美二〇九八-一
原 告 株式会社親和製作所
原告代表者代表取締役 山 口 茂 夫

(送達場所)
〒102-0071 東京都千代田区富士見二丁目一〇-二八フジボウ会館ビル六階 松本法律事務所
電話:03-5211-7252 FAX:03-5211-7260
原告訴訟代理人弁護士 松 本 直 樹

〒430-0946 浜松市元城町二一八-二九
フラワービル五階 野末特許事務所
電話:053-456-0687 FAX:053-453-7544
原告輔佐人弁理士 野 末 祐 司

〒467-0862 愛知県名古屋市瑞穂区堀田通七-九
被 告 フルタ電機株式会社
被告代表者代表取締役 古 田 幹 雄

請求の趣旨

一 被告は、別紙物件目録記載の装置を製造し販売してはならない。

二 訴訟費用は被告の負担とする。

との判決および第一項について仮執行の宣言を求める。

請求の原因

一 当事者および貴庁の管轄

 原告(株式会社親和製作所)および被告(フルタ電機株式会社)は、それぞれ、産業用機械等の製造および販売などを業とする株式会社である。

 被告の本店所在地は愛知県名古屋市であるから、本件訴えは被告の普通裁判籍に基づいて名古屋地方裁判所の管轄に属するところ(民事訴訟法四条一項および四項)、本件は特許権に関する訴であるから民事訴訟法六条二号により東京地方裁判所に管轄権がある。

二 本件特許権

 原告は、特許第2662538号の特許権者である(甲第1号証・特許証)。その技術的範囲(請求項1および2について)は、特許公報(甲第2号証)の特許請求の範囲(請求項1および2)に次のように記されたとおりである(アルファベットは後述の侵害の議論のために付したものである)。

【請求項1】A筒状混合液タンクの底部周端縁に環状枠板部の外周縁を連設し、Bこの環状枠板部の内周縁内に第一回転板を略面一の状態で僅かなクリアランスを介して内嵌めし、Cこの第一回転板を軸心を中心として適宜駆動手段によって回転可能とするとともにD前記タンクの底隅部に異物排出口を設けたことを特徴とするE生海苔の異物分離除去装置。

【請求項2】前記第一回転板の表面を回転中心から周縁に向かうに従って下がり傾斜にしたことを特徴とする請求項1の生海苔の異物分離除去装置。

三 被告の装置および行為

 被告は、別紙物件目録に記載された装置(商品名「ダストール」)を製造している。

 被告はこの装置を未だ販売ないし引渡はしていない模様であるが、既に宣伝や売込をしている。すなわち、業界紙である『海苔タイムズ』(平成一〇年四月一一日付け、甲第3号証)に宣伝を掲載しているし、販売店に対して積極的に売り込み活動をしている(甲第4号証・前田則彦の陳述書)。また、売込活動に際しては、パンフレット(甲第5号証)も配布している。これらは、特許法二条三項一号にいう「譲渡の申出」として実施行為に該当する。

四 侵害

 被告の右装置は、次のとおり請求項1および2の各要件をすべて具備しており、これらの技術的範囲に属する。したがって、かかる装置を製造しまた販売のための宣伝をすること(譲渡の申出)は、本件特許権の侵害を構成する。

1 Aの要件 まず、Aの要件(筒状混合液タンクの底部周端縁に環状枠板部の外周縁を連設し)
は、被告装置の上部に位置するタンク(物件目録の図面の@はその側壁である)とその底部(同A)の構造が、これに合致している。

2 Bの要件 Bの要件(この環状枠板部の内周縁内に第一回転板を略面一の状態で僅かなクリアランスを介して内嵌めし)は、装置の上部より見える、タンクの底に位置する2枚ないし4枚の円盤(同B)が「第一回転板」に相当し、これの外周縁と底板との間の隙間(同C)が「僅かなクリアランス」に該当するので、この要件を具備している。

なお、Bの要件において「第一回転板」といっているのは、回転板を上下に複数枚設けている実施例があるためであり、被告の装置の2枚ないし4枚の円盤は、いずれも「第一回転板」に相当する。

3 Cの要件 Cの要件(この第一回転板を軸心を中心として適宜駆動手段によって回転可能とするとともに)は、被告装置では、タンクの下に位置する駆動用カップリング(同D)とこれに繋がっている電動モーターによって円盤が回転可能となっているから、この要件を充足する。

4 Dの要件 Dの要件(前記タンクの底隅部に異物排出口を設けたことを特徴とする)は、まず、被告の装置のうちで、第1図の構造を有するものについては、2枚の円盤の間のタンク底面前端に異物排出口(同E)が備えられており、この要件を具備している。また、第2図の構造を有するものは、一見するとこの排出口は円盤の間に位置していて「底隅部」ではないともみえるが、これは円盤が2枚になっているためである(FD-380Jの場合は4枚でその中央に排出口が位置するが、これも同様である)。本件明細書では円盤が1枚のものが開示されており(複数枚のものもあるが、それは円盤が上下に重ねられたものであり、ここで説明している関係では1枚なのと同じである)、請求範囲のいう「底隅部」というのは、その1枚の円盤との関係での位置を指し示している。第2図の被告装置は、円盤が2枚でその間に排出口が設けられている。これは、それぞれの円盤との位置関係でいえば「底隅部」にあたるものであり、Dの要件を具備するというに妨げない。なお、仮に被告装置が文言上はこの要件を具備しないと考えるにしても、その排出口は請求範囲のいう排出口と等価であり、なお侵害(均等侵害)が成立するものであることについては後述する(七において)。

5 Eの要件 被告装置が、Eの要件(生海苔の異物分離除去装置)の通りであることは言うまでもない。

6 請求項1への該当 以上により、被告装置は本件特許権の請求項1の技術的範囲に属する。

7 請求項2 また、被告装置の円盤(B)は、周縁に向かって下がり傾斜をもっていることが観察され、よって請求項2の要件にも該当し、その技術的範囲に属する。

五 本発明の位置付けと被告の侵害行為

 特許請求の範囲の記載から分かるとおり、本件特許発明は基本的なものであって、広範な権利範囲を認められるべきものである。すなわち、タンクの底部に回転板を設け、その外周部とタンク側の環状枠との間のスリット状の僅かなクリアランスを利用してそこを海苔が通過するように構成することによって異物を分離して除去する、という発想自体が新規なもので特許権の対象となっており、これに該当するものであればすべて本件特許権の技術的範囲に属するものとなる。被告装置は、当然にこれにあたる。

 海苔は、極薄フィルム状の形状をしているため、単なる穴や隙間では、たとえある程度の大きさを持っているものであっても、詰まってしまいやすい。それが、本件発明のように回転板外周部のスリットの場合には、回転による動きがあるために、隙間をかなり狭いものとしても、海苔が詰まることなく通過していく。本件発明では、この動的なスリットの働きと、回転板による遠心力とが相まって、非常に効率的に海苔の異物除去が出来る。海苔の異物除去における、こうした回転板とその外周部スリットの利用の発想そのものが本件発明であり、これをまさに実践している被告装置は、本件特許権の技術的範囲に属することが当然である。

 さらに、後記八のとおり、被告はOEM関係にあった原告の装置を模倣してこれに酷似する被告装置を作っているのであるから、侵害が認定されるべきであることはなお一層当然である。

六 あり得る争点について

 右のとおり、本件について被告が侵害を(被告装置が本件特許権の技術的範囲に属することを)
争う余地は考えられない。それでも、敢えてあり得る争点を探すなら、次の二点および「底隅部に異物排出口」の要件を考えることになろうが、結論としてはいずれも侵害を否定することはない。なお、「底隅部に異物排出口」の要件については、次の七で別に議論する。

1 「略面一」 Bの要件の中で、回転板が「略面一」で保持されることが規定されている。これに対して、被告装置では若干の立体性があり、円盤と底板とが真っ平らになっているわけではない。しかしこれは、十分に「略面一」と言える範囲である。

そもそもこの要件は、タンクの底面とほぼ同じ高さに回転板を設けないと、スムーズに海苔を通過させていくのに不都合になってしまうことから規定されたものである(回転板が高すぎては海苔が過剰に異物排出口の方に行ってしまうし、低すぎては異物がスリットに詰まってしまう)。底面との関係が被告装置の程度になっていれば、この点で問題がなく、クレームの「略面一」に当てはまる。

2 「内嵌め」 Bの要件では、回転板が「内嵌め」されていることも規定されている。被告装置では、円盤の更に内側に凸部があって、円盤がそれに覆い被さるようになっているので、この点で「内嵌め」でないとの議論があるのかも知れない。

しかしBの要件で「内嵌め」というのは、スリットを構成する関係でのことである。
回転板の更に内側がどうなっていようと関係ない。本件発明の要点は、異物分離前の海苔海水混合液をタンク中に置き、それをスリットを通過させることで異物を除去するという仕組みであるが、回転板の更に内側の凸部というのは、言わばタンクの外のことであって、本件発明の関知するところではない。被告装置でも、底板との関係では円盤は「内嵌め」されており、要件Bを充足することに疑問の余地はない。

七 「底隅部に異物排出口」と均等侵害

 Dの要件で、異物排出口が「底隅部に」設けられていることが規定されている。物件目録の第2図の場合でも、これに該当すると思われるが、文言上は該当しないとの議論もあるかも知れない。仮に文言上は該当しないとしても、以下の通り、均等侵害が認められるべきである。

1 均等侵害の要件

平成一〇年二月二四日最高裁(第三小法廷)判決(平成六年(オ)第一〇八三号、ボールスプライン事件最判)によれば、請求範囲の記載と異なる場合であっても、次の要件を具備する場合には、特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして、なお特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当であるとされる。
(1)右部分が特許発明の本質的部分ではなく、
(2)右部分を対象製品等におけるものと置き換えても、特許発明の目的を達することができ、同一の作用効果を奏するものであって、
(3)右のように置き換えることに、当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が、対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであり、
(4)対象製品等が、特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから右出願時に容易に推考できたものではなく、かつ、
(5)対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないとき

2 右要件の検討

本件発明の本質的部分は海苔の異物分離にあたっての回転板の利用であり、排出口の位置は本質的部分ではない((1)の該当)。

被告装置(第2図の構造のもの)のように排出口を配置しても、異物を排出するのに支障は無い。回転板との位置関係では、隅になっているからである。したがって、特許発明の目的を達することができ、同一の作用効果を奏する((2)の該当)。

回転板を2枚並べることは、処理能力を増大させるための当たり前の方策に過ぎず、その結果として回転板の間に排出口を設けることも当然のことである。したがって、これらは容易に想到することができたものである((3)の該当)。ちなみに、回転板を複数枚にしたのは、原告自身である。本件特許権を原告が商品化した装置(CFW-36・甲第7号証はそのパンフレット)は、2枚の回転板を有している(異物排出口はその間にある; ただし、真ん中ではなくて後ろ寄りである)。後述のように、被告はこれを熟知して自身の装置を作っている。

公知技術との関係では、海苔の異物除去装置としては、回転板のものがまったくなかったのであり、このことは排出口の位置とは関係ないので、(4)の要件を満たす。

(5)の摘示するような事実関係は一切ない。革新的な発明であったために、なんらの拒絶理由通知を受けることもなく特許が認められた。

3 要件の充足

右のとおり、本件被告装置は、ボールスプライン事件最判の摘示する要件を全て充足する。よって均等侵害が認められる。

八 当事者間でのOEM(事情)

 原告と被告の間では、平成七年八月一〇日付けの覚書(甲第6号証)があり、原告は、これに従ってOEMのための被告への製品供給などを行ってきた。特に、平成九年の夏から秋にかけて、本件特許権を原告が商品化した装置(CFW-36・甲第7号証はそのパンフレット)10台をOEM用として被告に供給した。被告(フルタ電機)は、これを「ダストール」(本件訴訟の対象装置と同一名称)の商品名で販売した。甲第8号証は、この際の被告のパンフレットであるが、写真を比較すると、甲第7号証の原告の装置と全く同一の装置であることが分かる。

 こうした関係から当然のことながら、被告は、原告の本件発明およびそれを実施した原告装置の技術内容をよく承知している。そして被告の装置は、原告のCFW-36に酷似している。被告は、原告の装置を模倣し、不当にも原告の本件特許権を無視して、被告装置を製造しているものと判断される。

 なお、右のOEM契約については、本年三月に原告は、被告から通知書を受け取った(甲第9号証、後述の原告からの警告状と行き違いに受領した)。この通知書によると、「状況が大幅に変わってき」たので、「今後につきましては、OEM製品の発注は控えさせていただくこととなりました。」とのことであった。周辺状況と照らし合わせて考えると、この通知は、原告の装置(CFW-36)を模倣した装置を自社で製造するのでOEMのための発注はしない、という意味であったものと理解できる。

九 原告からの通知と被告の主張(事情)

 原告(原告代理人・松本)は、平成一〇年三月一三日付けで、侵害行為の中止を求める書簡を送付した(甲第10号証はその控え)。これに対して被告からは、同月三一日付けで回答があった(甲第11号証)。しかしこの回答書は、請求の範囲のうちの三つの要件を取り上げて単に「具備いたしません」とか「異なります」とか「該当しません」と言っているだけで、何ら具体的な反論をしていない。一方、被告の装置を一見すればこれらの要件を充足していることは明白である。被告は侵害行為を承知の上で続けているものとしか考えられず、極めて悪質である。

 なお、原告代理人の右書簡(警告書)では、「被告製品のタンクは丸みをおびた側面を有していて、親和の実施品が角張っているのとは違っていますが、いずれも請求の範囲の要件を充足する点ではまったく違いがありません。」と記しているが、これは被告装置についての情報が不十分であったための間違いである。被告装置のタンクは、概ね直方体型をしている。また、タンク底面後端に異物排出口があるとしたのは、物件目録の第1図の構造のものを前提としつつ間違ったものである(実際には第1図の構造のものでは前面パネルよりにある)。

一○ 本訴請求

 よって、原告は被告に対し、本件特許権に基づいて、その侵害行為である、別紙物件目録記載の装置の製造・販売に対する差止を求める。

証拠方法
 甲第1号証 特許証
 甲第2号証 特許公報
 甲第3号証 海苔タイムズ(平成一〇年四月一一日付け)
 甲第4号証 陳述書(前田則彦)
 甲第5号証 被告の「ダストール」のパンフレット(表と裏を枝番号の1と2とした)
 甲第6号証 覚書
 甲第7号証 原告のCFW-36のパンフレット
 甲第8号証 被告のパンフレット(原告からOEM供給を受けた装置についてのもの)
 甲第9号証 被告からの書簡
 甲第10号証 被告宛警告書(控え)
 甲第11号証 被告からの回答書

添付書類および付属書類
 一 物件目録
 二 訴訟委任状
 三 商業登記簿謄本(2通)
 四 訴額の計算書
 五 甲号各証写し(裁判所用と被告用、ただし甲第4号証陳述書は1部は原本)
 六 訴状(含物件目録)副本
 七 訴状(含物件目録)写し5部および甲号各証の写し3部

平成一〇年五月二八日
原告訴訟代理人弁護士  松 本 直 樹
東京地方裁判所民事部御中



平成一〇年(ワ)第一一四五三号特許権侵害差止請求事件

答弁書 原告株式会社親和製作所 被告フルタ電機株式会社

 右当事者間の御庁頭書事件につき、被告は左記のとおり答弁する。

平成一〇年六月三〇日

〒四五〇-〇〇〇二 名古屋市中村区名駅四丁目八番一二号菱信ビル八階八一三号室
富岡法律特許事務所(送達場所)
 TEL 〇五二ー五八二ー二〇四五 FAX〇五二ー五六一ー〇六二九
  被告代理人弁護士 高橋譲二

〒四五八-〇八二八 名古屋市緑区鳴海町字姥子山一八五ー三パビリオン東ケ丘A四〇一号
竹中特許事務所
 TEL 〇五二ー六二三ー〇二四七 FAX0五二ー六二九ー一〇六〇 
  同輔佐人弁理士 竹中一宣

東京地方裁判所民事第四六部A係御中

請求の趣旨に対する答弁

一、原告の請求を棄却する。
二、訴訟費用は原告の負担とする。
との判決を求める。

請求の原因に対する答弁

一、訴状請求の原因、一記載の事実は認める。

二、同二記載の事実は概ね認めるが、原告摘示の請求項2の記載には一部欠落がある(左傍線部)。「…回転中心から周縁に向かうに従って下がり傾斜にしたことを…」

三、同三記載の事実中、被告が「ダストール」名の商品を製造し、「海苔タイムズ」に広告を掲載し、パンフレットを配布し、また一部の販売店に売り込みを行っている事実は認め、その余は否認ないし争う。

四、同四〜九記載の事実については追って認否するとともに反論を加える。

五、同一〇は争う。



平成一〇年(ワ)第11453号 特許権侵害差止請求事件  原告 株式会社親和製作所 被告 フルタ電機株式会社

原告準備書面(1)

平成一〇年九月二日
  原告訴訟代理人弁護士松  本  直  樹
  同輔佐人弁理士 野  末  祐  司
東京地方裁判所民事46部御中

一 物件目録

 訴状添付の物件目録に代わって、添付の物件目録第2案を提出する。被告は、この物件目録に記載された装置を製造しもって原告の本件特許権を侵害している。

1 変更した点

 変更した点は、次のように、説明的な記載を削除したことと、図面を一部入れ替えたことである。
(1) 第1図を取りやめ、第2図に多少の修正を施したものを第1図とした。
(2) 第2図として、4枚の回転板を有する装置(フルタ ダストールFDー380J)の図面を加えた。
(3) 拡大図を第3図としていたが、これを取りやめた。

 第1図をやめた理由は、この構造のものは被告は現在は製造していない模様であることが判明したためである。それ以外の図面の入れ替えは、できるだけ被告の装置をそのままに表わそうとしたことが理由である。

2 写真などの説明

 物件目録の写真1と3はいずれもFDー380K、写真2と4はいずれもFDー380Sの型番の装置であるが、外見に多少の違いがある。しかし、かかる相違は制御盤のスイッチの配置などが主なものであり、回転板の構造などは殆ど同一であって、本件特許との関係では意味のある違いは見られない。なお、写真1と2は、被告のパンフレット(甲第5号証)からのコピーであり、写真3ないし5は、展示会に出品されていたのを原告代理人(松本)が撮影したものである。

 また、物件目録の写真では、「フルタ ダストールFDー380K」(特にその写真1)
について説明を付記したが、同Sおよび同Jについても全く同様である。

 KとSとの主たる違いは、異物分離後の海苔海水混合液を入れるタンク(装置の最下部にあるタンク)の大きさおよび構造にあり、本件特許との関係で意味のある相違はない。
Jも、回転板が4枚になっているだけで、同様に本件特許との関係で意味のある相違はない。

二 説明図2と同3

 添付した説明図2では、被告の装置の円盤とその周囲の構造を、できるだけそのままに表した。部品としての区分けが分かりやすいように、色分けで表示してある。

 説明図3では、説明図2と同じ色分けを利用しながら、本件特許権の構成要件の充足を説明した。

三 侵害論の補足

 訴状で主張した侵害論に次の点を補足する。

 Aの要件およびBの要件の関係で「環状枠板部」との用語があるが、これは、添付の説明図3に摘示する部分を指す。すなわち、底板のうちで受け皿の下に入り込んでいない部分と、受け皿の外縁分の一部とが、環状枠板部を構成する。

以上 



平成一〇年(ワ)第一一四五三号特許権侵害差止請求事件(次回期日平成一〇年一二月二日午後四時)
第一準備類面 原告株式会社親和製作所 被告フルタ電機株式会社

 右当事者間の御庁頭書事件につき、被告は左記のとおり弁論を準備する。
平成一〇年一二月一日 被告訴訟代理人 弁護士高橋譲二 同補佐人竹中一言東京地方裁判所民事第四六部A係御中



第一、訴状請求の原因四〜九に対する認否

 一、1、同四、1記載の事実は否認する。

  2、同四、2記載の事実中、被告製品に二枚ないし四枚の円盤が存在する事実は認め、その余は否認ないし争う。

  3、同四、3記載の事実中、被告装置に電動モーターと軸受カバーが存在することは認め、その余は否認する。

  4、同四、4記載の事実中、被告製品のタンク底部に排水口が存在する事実は認め、その余の事実は否認する。

  5、同四、5記載の事実中、被告製品が生海苔の異物を除去する目的を有することは認める。

  6、同四、6は争う。

  7、同四、7記載の事実中、被告製品の回転盤のうち、外周に沿った一部が他の部分より低いことは認め、その余の事実は否認する。

 二、同五記載の事実中、原告と被告がOEM契約を締結した事実は認め、その余は否認ないし争う。

 三、1、同六、1記載の事実中、構成要件Bの中で回転板と環状枠坂部が「略面一」
であること、被告製品では立体性があること、タンクの底面とほぼ同じ高さに回転板を設けることによりスムースに海苔を通過させる必要があることは認め、その余の事実は否認する。

  2、同六、2記載の事実中、構成要件Bで回転板が「内嵌め」されること、被告製品では円盤下部に凸部があり、円盤が覆い被さるようになっている事実は認めその余は否認ないし争う。

 四、同七記載の事実中、いわゆるボールスプライン事件最高裁判所判決が示す要件が概ね原告主張のとおりである事実及び原告商品に二枚の回転板が存在する事実は認め、その余は否認ないし争う。

 五、同八記載の事実中、覚書に基づいてOEMが存していた事実、原告から被告にOEM用に商品を供給した事実、被告がOEMを断念する通知を発した事実は認め、その余の事実は否認する。

 六、同七記載の事実中、概ね原告主張の記載のある書簡が原・被告間でやりとりされた事実は認め、その余の事実は否認する。

第二、被告の反論

 一、構成要件Bについて

 被告製品は以下に述べるように構成要件Bを充足しない。

  1、本件特許請求の範囲([請求項1])の構成要件Bの記載を見ると、「この環状枠板部の内周緑内に第一回転板を略面一の状態で僅かなクリアランスを介して内嵌めし」とある。右記載の文言を字義通りに解すると、「環状枠板部」と「第一回転板」がほぼひとつの水平面上に位置すること、その間にはクリアランスなる僅かな隙間が存すること、しかも外側から回転板の中心部に向かって順次「環状枠坂部」「クリアランス」「回転板」が設けられ、「回転板」は「環状枠坂部」の内側に嵌められていることが理解できるものである。

  2、次に本件明細書(甲第二号証)の[発明の詳細な説明]中の[作用]には、「第一回転板を回転させると混合液に渦が形成されるため生海苔よりも比重の大きい異物は遠心力によって第一回転板と前記環状枠坂部とのクリアランスよりも環状枠板部側、即ち、タンクの底隈部に集積する結果、生海苔のみが水とともに前記クリアランスを通過して下方に流れるものである。」
との記載があり(3欄46〜4欄1行)、また[発明の効果]にも同様の記載がある(7欄16〜29行)。

 してみると、右作用効果の記載からして、本件特許発明では回転板の回転によって比重の小さい生海苔は比重の大きい異物より混合液の中でより内側に集まるのに対し、異物はタンク底部の隅に集積することで両者が分離状態となり、そのうえで異物は異物排水口から、また、生海苔はクリアランスを通過して下方に流れていくという作用効果を奏することが判る。

 右のような作用効果からすると、「クリアランス」は「環状枠坂部」と「回転板」の間に位置し、従って「環状枠坂部」と「回転板」は「クリアランス」を挟んでそれぞれ外側及び内側に位置し、しかも「クリアランス」は垂直方向の隙間からなることになる(垂直方向の隙間でなければ生海苔と水がクリアランスに流入して下方へ通過することはないし、「環状枠板部」と「回転板」がクリアランスを挟んで水平方向に内外に位置する以上、クリアランスも必然的に垂直方向の隙間からなる構造を有する)。つまり、ほぼひとつの水平面上に、外側から内側へ向かって順に「環状枠坂部」「クリアランス」「回転板」が存するのであり、この順序が変わったり、あるいは「回転板」が「環状枠板部」の上部に覆い被さったり、あるいは逆に下部に潜り込んだりして重なることはありえない。もしそのような構造になると「略面一の状態」という文言に真っ向から反するばかりか、クリアランスが垂直方向の隙間を有しないことになり、ひいては生海苔と水が流入し通過して下方に流れることもなくなってしまう。

 また、右のように「環状枠板部」「クリアランス」「回転板」が順序よくひとつの水平面に並んだ構造であると解して初めて「介して」「内嵌めし」といった文言の意味とも一致し、矛盾なくその技術的意義を説明できるのである。

  3、さらに本件明細書中の実施例の図4を見ると(甲第二号証5頁)、右に述べたようにほぼひとつの水平面上に順次「環状枠板部」「クリアランス」「回転板」が並んで位置し、「クリアランス」を挟んで外側と内側に「環状枠板部」と「回転板」が厳然と分れており、クリアランスの隙間は垂直方向の構造を成すことが判る。

  4、以上のとおり、特許請求の範囲の記載を基に、明細書中の特許請求の範囲以外の部分の記載及び図面をも考慮して特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈すると、「略面一の状態で」とは、ほぼひとつの水平面上に順次外から内に向かって「環状枠坂部」「クリアランス」「回転板」が存することを言い、「クリアランス」とは「環状枠板部」と「回転板」の間に存して「環状枠坂部」と「回転板」を内外に分かつ垂直方向の隙間を言い、「介して内嵌めし」とは、「環状枠板部」と「回転板」がクリアランスを間においてその内外に位置して設置され、一方が一方の上部に覆い被さったり、下に潜り込んだりすることのない構造であると解するのが合理的である。

 二、被告製品の構造について

  1、まず、被告製品は別紙1図、2図のとおり、回転板(B)が底板(A)の上部に位置し、しかもそれぞれの一部は上下方向において互いに重なっており、「略面一の状態」にあるとも「クリアランスを介して内嵌めした」とも到底言えない。

  2、また、回転板と撰別ケースの隙間(C)は、
   @そもそも「回転板」と「環状枠板部」の間の隙間とは言えない。
   A右隙間は垂直方向でなく、従って生海苔と水は流入しない(被告製品では製品下部に取付けた吸い込みポンプの働きによりタンク内の生海苔と水を右隙間を通じて強制的に簾別ケース内に吸い込んでしまうのである)。
   B右隙間を間に介して「環状枠板部」と「回転板」が外側と内側に分かれているということがない。
ことから、「クリアランス」に該当しないものである。

  3、以上述べたところから被告製品が構成要件Bを充足しないことは明らかである。

 三、結語

 以上の次第で、その余の構成要件該当性を論ずるまでもなく被告製品は本件特許発明の技術的範囲に属しないものである。



平成一〇年(ワ)第11453号 特許権侵害差止請求事件原告 株式会社親和製作所
被告 フルタ電機株式会社
原告準備書面(2)
平成一一年一月一二日
原告訴訟代理人弁護士 松  本  直  樹同輔佐人弁理士 野  末  祐  司
東京地方裁判所民事46部御中

一 物件目録

 物件目録第3案を本書面に添付して提出する。被告は、この物件目録に記載された装置を製造し販売している。これは被告も基本的に自認しているところである(ただし回転板の外周のところについて若干の相違がある)。被告は、もって原告の本件特許権を侵害している。

1 図面の経緯

 この目録(案)の図面のうち、囲み枠内の4つの図は、被告が第一準備書面(平成一〇年一二月一日付け)に添付して提出した図面のコピーである。下の図(断面図)は、原告が新しく用意した。

2 被告の図面との相違

 被告が提出した拡大断面図と、物件目録第3案の下の図(断面図)との相違点は、回転板の外側の部分と選別ケースとの重なり具合ないし隙間の構成の仕方にある。

 被告提出の拡大断面図によると、回転板の外周は、選別ケースよりもわずかながらはみ出している(図の方向でいうと左側にわずかに乗り出した形になっている)。

 しかし実際には、被告の装置は物件目録第3案の下の図に示したような構造になっている。すなわち、回転板の外周面は、上方から見た場合に、選別ケースの外周面と丁度一致している。

3 変更の状況

 原告の把握しているところでは、被告の実施状況は次のようである。

 被告が、平成一〇年秋口に出荷した製品は(すなわち被告の初期型の装置は)、被告提出の図面に示された構造を有していた模様である。この点で、この図面もまったくの虚偽ではない。

 しかし、被告はその後に設計を変更した。被告が現在製造出荷している装置は、物件目録第3案の下の図に示すような構造になっている。

 しかも、初期型の装置も、出荷後にユーザーのもとで回転板を交換するなどの改修を施し、現在では原告の物件目録第3案に示されるものに変わっている。

4 装置の外観など

 なお、物件目録第3案では、被告装置の外観写真などは示さなかったが、既に提出のものが参考になるはずである。

二 Bの要件

 被告装置(物件目録第3案の被告が現在製造販売している装置)は、次のとおり、Bの要件(この環状枠板部の内周縁内に第一回転板を略面一の状態で僅かなクリアランスを介して内嵌めし)を充足する。

1 「環状枠板部」

 本書面添付の原告説明図4の上の図は、被告の現在の装置を上から見た図面に、色付きのハッチングで「環状枠板部」などの配置を図示したものである。この図面は、物件目録第3案の図(元々は被告の提出した図面)の一部を元にしている(トレースした上で彩色した)。中の図は、物件目録第3案の下の拡大断面図の上に色付きハッチングなどを施したものである。

 これらの図において、黄色のハッチングで示したのが、被告装置における「環状枠板部」である。すなわち、底板のうちで受け皿の下に入り込んでいない部分と、選別ケースの外縁部の一部(外周表面)とが、「環状枠板部」を構成する。

2 「内周縁」など

 被告装置における「環状枠板部の内周縁」は、装置の上方から見た場合、原告説明図4の上の図の、黄色のハッチングで示した部分(環状枠板部)と、青のハッチングで示した部分(回転板)との境界をなす円である。これは、断面で見れば、原告説明図4の中の図の矢印で図示したところである。

 現在の被告の装置では、回転板は、右指摘の「内周縁」の内側に入っている。原告説明図4の上の図に示すように、上方から見ればこれが明白である。そこで、クレームに言う「環状枠板部の内周縁内に」「回転板を」「内嵌め」という要件を文字通りに満たしている。

3 「略面一の状態で」

 被告装置の底板と、回転板は、ほぼ同一の水平面上にある。多少の高低差はあるとはいえ、それは約14ミリであり、「略」の範囲内である。そもそも、これだけでもクレームの「略面一の状態で」との要件を充足すると言うのに十分である。

 さらに、選別ケースの外周面(垂直な円筒面)が、回転板の外縁と上から見て丁度一致してしている。この選別ケースの外周面は、環状枠板部の一部であり、それと回転板とがスムーズで連続的な外延を成しているのである。この点で、まさに「略面一の状態で」内嵌めしていると言うのにふさわしい状態となっている。

4 「僅かなクリアランス」

 被告装置の「環状枠板部」を構成する選別ケースと回転板との間には、隙間がある。
これが本件クレームの「クリアランス」に該当する。よって、クレームの「僅かなクリアランスを介し」との要件も満たす。

5 Bの要件の充足

 以上の通り、現在の被告の装置はBの要件(この環状枠板部の内周縁内に第一回転板を略面一の状態で僅かなクリアランスを介して内嵌めし)を充足する。

三 内嵌めや略面一でないなどの主張に対して

 被告は、被告装置は構成要件Bを充足しないと主張する(被告第一準備書面の第二の一および二、なお以下でも特に断らない場合は同準備書面への言及である)。特に、「回転板(B)が底板(A)の上部に位置し、しかもそれぞれの一部は上下方向において互いに重なっており、『略面一の状態』にあるとも『クリアランスを介して内嵌めした』とも到底言えない。」と主張する(二の1、10ページ)。しかしこの主張は以下の通り失当である。

1 被告の初期型装置の場合

 被告の初期の装置では(すなわち被告が第一準備書面(平成一〇年一二月一日付け)に添付して提出した図面に示されている装置では)、回転板の外周は、選別ケースよりもわずかながら(約8ミリ)はみ出している。被告の議論では、こうした構造を前提として、クレームにいう「環状枠板部の内周縁内に」回転板を内嵌めしていないと主張している訳である。

 しかし、たとえこうした構造であっても、本件のクレームに該当する。はみ出しているといっても、それはわずか約8ミリのことであり、回転板は全体としては、「環状枠板部の内周縁内に」内嵌めされているという要件には合致するものだからである。「略面一」の点でも、僅かな上下差(約14ミリ)や重なりがあるからといって否定されるべきものではない。

 なお、初期型装置についても、現在の装置と同様に、底板のうちで受け皿の下に入り込んでいない部分と、選別ケースの外縁部の一部(外周表面)とが、「環状枠板部」を構成するというのが原告の主張である。

 以上の通り、初期型装置でも本件特許権を侵害するが、被告は既に初期型装置を製造していないので、差止請求の対象とするものではない。

2 現在の装置

 被告の現在の装置は、物件目録第3案に示した構造であり、これは右二でも記したように、もちろんBの要件を充足する。

 まず、重なっている云々の主張は、被告の現在の装置には、そもそも該当しない。現在の装置では、被告主張の重なりは無い。

 「略面一」については、まず、底板と回転板との間に上下差があると言ってもそれは僅か約14ミリであり、「略面一」の範囲内である。この点だけでも「略面一」の要件を満たすべきことでは、被告の初期型の装置と現在の装置との間で相違はない。

 さらに、現在の装置では、既に二3でも説明したように、選別ケースの外周面(垂直な円筒面)が、回転板の外縁と上から見て丁度一致してしている。被告装置では、環状枠板部はL字型に屈曲しているわけであり(底板と選別ケースとで構成されている結果として)、そのうちの垂直部分から回転板へとスムーズで連続的な外延を成しているのである。ここが、まさに面一となっており、回転板はクレームの言う「略面一の状態」にある。

四 順序に関する主張に対して

 被告は、Bの要件に関連して、上から見て「外側から内側へ向かって順に『環状枠板部』『クリアランス』『回転板』が存する」ことが要件であり被告装置はこれを満たしていないとも主張する(第二の一2の後半(7ページ))。しかしこの主張も失当である。

 なるほど被告の現在の装置の場合(でも)、回転板の外周の下に隙間(クリアランス)があるので、上から見て被告主張の順番に見えるわけではないのは事実である。順序が逆になっているところはないが、クリアランスは回転板外周の真下にあるので、被告主張のような順序に見えるわけではない。

 しかし、被告の主張するような順番にあることは、クレーム中に要件とされていない。
クレームの要件は、「クリアランスを介して内嵌めし」ていることなどだけであり、被告装置の場合でもこの要件を充足する。

五 クリアランスの方向

 原告の本件明細書の実施例におけるクリアランスが垂直方向であるのに対して、被告装置での隙間は、横方向に設けられている。被告は、これを根拠とした非侵害の議論(回転板と選別ケースの隙間(C)は、クレームにいう「クリアランス」に当たらないとの主張)も主張している(第二の一2(6ページ)と第二の二2A(10ページ))。しかし以下の通り失当である。

1 隙間通過の理由

 隙間のところで海苔と海水の混合液が出ていくのは、基本的にその部分における圧力の差があるからであり、隙間の方向がどちらを向いていようと関係はない。被告の説明は、あたかも重力で出ていくことを前提としているかのようであるが、重力によって圧力差が生じてそれによってこの流れが作り出されることはあるにしても、隙間の部分の流れが直接に重力で生じるかのように言うのは、基本的に間違っている。

2 回転の利用との関係

 被告は、本件発明では、回転板が回転していることによって、装置内部の混合液にも回転が生じそれによって発生する遠心力で重い異物が排出口の側に移動するということを利用しているという説明をしている(第二の一2(6ページ))。

 この説明は基本的に正しい(本件発明では、加えて、回転があるために海苔が詰まりにくいということを利用しているが(本件明細書・甲第2号証・第6欄【0024】))。そして、それなら、被告の装置のように横方向に隙間があることは、好都合にはなっても不都合にはならない(横方向に内側に向かって海苔は隙間を通過していくのであるから)。

 被告は、クリアランスが垂直であることが必要であり自らの装置はこれを満たさないと主張するが、そんな要件は存在しないのであり、横方向であっても侵害の成立を何ら妨げない。

3 侵害の成立

 被告装置の場合にも、本件発明本件明細書で開示されている発明の原理を、クレームに合致するような形で実施しているのであり、侵害を否定することにはいささかもならない。

六 本件明細書の実施例との対比

 なお、被告装置において各その一部が「環状枠板部」を構成する底板と選別ケースは、回転板の下にまで広がっている。この点で、本件特許権のクレームの予定するところと違っているという見方もあるかも知れない。しかし、この関係で被告装置が本件クレームの要件を満たすべきことは、本件明細書の実施例と対比してみると非常にハッキリと分かる。

1 本件明細書の場合

 以下では、被告装置を本件明細書の第4図と対比してみる(便宜のため、この図を本書添付の原告説明図4の下の図としてコピーして説明を付した)。明細書第4図に示される23と24は、いずれも環状枠板部を構成する部材である(明細書末尾の「符号の説明」にそうある)。このように、明細書の実施例でも、環状枠板部は複数(この場合は2つ)の部材で構成されている。だからこそ、「部」といった表現にもなっているのである。

2 被告装置の場合

 被告装置の場合には、このうちの24が、選別ケースに置き換わっているわけである。
選別ケースの一部となっている関係から、この部分は回転中心の方へつながっていることになる。明細書の実施例と比べると、このつながりの点においては多少の相違があることは確かである。

3 侵害の成立

 しかし、クレームに規定されている要件を満たすことでは、被告装置にも何らの違いはない。選別ケースとしてつながっているからといって、それで要件を具備しないことになるわけではない。装置の構造において、いわゆる部品の取り合いが違っているわけであるが、本件発明の内容との関係で意味のあることではなく、またクレームの要件を充足することでも違いを生じるものではない。

4 「略面一」について

 なお、この第4図は、本件クレームのいう「略面一」を解釈するについても参考となる。第4図では、底板(23)と回転板(51)との間に若干の高低差があり、また環状枠板部の一部である部材24には立体性がある。本件明細書では、こうしたものを指して略面一と言っているのである。

 これと比較すれば、被告装置が「略面一」を満たすのは自明である。

以上 



平成一〇年(ワ)第一一四五三号特許権侵害差止請求事件                (次回期日平成一一年二月一八日午後二時)
第二準備書面
         原告 株式会社親和製作所  被告 フルタ電機株式会社  右当事者間の御庁頭書事件につき、被告は左記のとおり弁論を準備する。
   平成一一年二月一七日
       被告訴訟代理人 弁護士 高橋譲二
          同 補佐人    竹中一宣
東京地方裁判所民事第四六部A係御中

   記

 本書面において、被告は平成一一年一月一二日付原告準備書面(2)に対し反論する。

第一、被告製品の実施状況について

 被告は一時期、右原告準備書面(2)添付物件目録第3案記載のような、回転板の外周縁が選別ケースの外周縁と上から見てほぼ一致しているタイプのもの(以下「重なり型」と言う)を製造・販売していたが、現在では回転板の外周縁が選別ケースの外周縁より外へはみ出しているタイプのもの(以下「はみ出し型」と言う)のみを製造・販売している。

第二、原告主張に対する反論

 一、「環状枠板部」について

  1、被告は「環状枠板部」の技術的意義について、複数の部材で構成されてもよく、被告製品について言うと底板の一部と選別ケースの外周縁の表面がこれに該ると主張する。

 ある構成要件が、複数の部材で構成されていてもよいか、あるいは部材の一部であってもよいかはさておき、選別ケースの外周縁の表面が「環状枠板部」に含まれるなどということはあり得ない。

  2、何故ならまず、特許請求の範囲には「環状枠板部」と明記されているところ、「板」とは「木や金属等を薄く平たくしたもの」を意味するのであるから、「環状枠板部」も「環状をなして枠組みを構成する一定の厚みを特つた平たい部分」を意味することが一義的に理解でき、少なくとも「板部」については右以外の解釈は考えられないからである。しかも本件明細書中の図面(図4)を見ると「環状枠板部」と指示された箇所は多少の凹凸はあるといえ、一定の厚みをもった構造からなっていることからしても、「環状枠板部」が「一定の厚みを持った平たい構造」からなることは疑問の余地がない。

 「環状枠板部」の右のような意味からすると、一定の厚みをおよそ観念できないような選別ケースの「外周縁の表面」なるものが「環状枠板部」に含まれないことは言うまでもない。しかも、水平な底板とは直角の方向に屹立する「選別ケースの外周縁の表面」の形状からしてこれと底部を併せた構造が「板部」、即ち「一定の厚みを特った平たい構造」とはおよそ掛け離れた外観を呈することも言うまでもない。

 結局、「選別ケースの外周縁の表面」も「環状枠板部」に含まれるという原告主張は、本件特許の構成要件の解釈としてはおよそ不自然かつ不合理なものと言うほかなく、単なる弁明の域を出ないものである。

 二、「内周縁内」について

  1、原告は環状枠板部の「内周縁」については被告製品の選別ケースの外周縁の表面部分を含む円がこれに該り、回転板がこの内側にある以上「内周縁内」を満たす旨主張している。

  2、しかし「内周縁」とはその字義からして当然に、環状枠板部の内側の表面の周縁、即ち、環状枠板部によって囲まれた内側方向の空間に面する表面の周縁を指すと解される。換言すると、環状枠板部の各周縁のうち外周縁をなすもの、つまり外側方向の空間に接する表面の周縁は「内周縁」に該らないことになる。してみると原告が「内周縁」に該ると主張する選別ケースの外周縁の表面は、選別ケースの外側方向の空間に接するのであるから、右「内周縁」に該らず、原告主張には根本的な誤りがあることになる。

 また、特許請求の範囲には、「内周縁内に第一回転板を略面一の状態で僅かなクリアランスを介して内嵌めし」とあることから、内周縁の内側、つまり中心部分に近い方向にクリアランスという隙間が存在し、この隙間よりさらに内側に回転板が存在することがこれまた明らかである(実施例図4もこのことを示している)。つまり、回転板の外周縁は環状枠板部の内周縁よりクリアランスの幅だけ内側にあることが必須の要件となるのである。してみると回転板の外周縁が環状枠板部の内周縁とちょうど重なっていてもよいとする原告主張は不合理極まりないと言うべきである。

 三、順序について

  1、原告は、「環状枠板部」「クリアランス」「回転板」が外から内に順に存するという被告主張に対し、「被告が主張するような順番にあることはクレーム中に要件とされていない」と反論する。

  2、しかし、特許請求の範囲の記載を見ると、構成要件Aには「タンクの底部周端縁に環状枠板部の外周縁を連設し」とあり、構成要件Bには「この環状枠板部の内周縁内に第一回転板を略面一の状態で僅かなクリアランスを介して内嵌めし」とあることから、外から内に向かって順次「環状枠板部」「クリアランス」「回転板」が存することが理解できるうえ、作用効果に関する明細書の記載からしても「環状枠板部」と「回転板」は「クリアランス」を挟んで水平面上においてそれぞれ外側と内側に位置することが看取できる(被告第一準備書面五〜八頁参照)。

 さらにかように解してこそ「介して」「内嵌め」といった文言の意義を矛盾なく説明できるのであるし、明細書中の実施例図4も右説明を裏付けるものである。

 結局、特許請求の範囲の記載をもとに、明細書中の特許請求の範囲以外の部分の記載(作用及び効果)や図面をも考慮すると「環状枠板部」
「クリアランス」「回転板」は順次外から内に向かって存することは疑間の余地がなく、原告の反論は失当というほかない。

 四、「略面一」について

  1、原告は「多少の高低差はあっても「略面一」と言える」旨主張する。

 なるほどクレーム中では「略」なる文言が使用されていること、実施例図面4によれば「環状枠板部」と「回転板」に多少の凹凸かあり完全な水平面をなしていないとみられることから、若干の高低差、凹凸があっても「略面一」なる要件を充足することが直ちに否定されるものではないかもしれない。

  2、しかし「略面一」の技術的意義を明らかにするにあたっては、「環状枠板部」「クリアランス」「回転板」の構造と位置関係を抜きにして考えることができないのは当然であるところ、右三、で述べたとおり、「環状枠板部」「クリアランス」「回転板」が順次外から内へ並び、「クリアランス」を挟んで「環状枠板部」と「回転板」が外と内に厳然と分かれて位置することは再言を要しないところである。

 このように「環状枠板部」「クリアランス」「回転板」の位置関係を解すると、「回転板」が「環状枠板部」の上部に覆い被さったり、あるいは逆に下部に潜り込んだりして重なることはあり得ないし、また、「環状枠板部」の内周縁と「回転板」の外周縁が一致するために上から見てクリアランスの隙間が認められないということもない筈である。
 従って、「略面一」とは原告の言うように「多少の高低差なら許される」ということで足りるものではなく、「環状枠板部」「クリアランス」「回転板」がほぼひとつの水平面上に順次外から内へ並ぶことが要求され、「環状枠板部」と「回転板」が上から見て重なったり接したりしてクリアランスの存在が認められないことがあってはならないと言うべきである。

 六、クリアランスの方向について

  1、原告は「隙間から海苔が出ていくのは圧力の差があるからで隙間がどちらを向いていようが関係ない」旨主張するが、右主張は完全に誤っている。

  2、明細書中の発明の詳細な説明にもあるように、生海苔は異物よりは比重は小さいものの、水よりは比重が大きいため、タンク下方に沈み、もってクリアランスを通過して下方に流れるものである(3欄47行〜4欄1行)。

 つまり、生海苔は水より比重が大きいため底部に沈み、溜まるのであるから、底部より高い位置にあり、しかも横向きないし斜め上向きに設けられた隙間を通過する筈がない。このような隙間は生海苔を通過させない以上「クリアランス」に該当しない。このことは物理法則からして明白であり、原告はこれを完全に看過している。

 従って「クリアランス」は底部に設けられた垂直方向の隙間であると解するほかないし、またこのように解してこそ「環状枠板部」「クリアランス」「回転板」の前述の位置関係に合致するほか、「介して」「内嵌めし」と言った文言の意義も矛盾なく説明できるのである(実施例図4もこのことを裏付けている)。

 因みに、被告製品では製品の下方にあるポンプの働きによってタンク内の生海苔と海水の混合液を隙間を通して強制的に吸い込んでいるのであって、右ポンプの働きがなければ生海苔が隙間を通って下方に流れることはないのである。

 七、被告製品との対比

 被告製品は「重なり型」「はみ出し型」ともに、底板と隙間と回転板がほぽひとつの水平面上に順次並んでいるとは言えない。従って「略面一の状態」にあるとも「クリアランスを介して内嵌めした」とも言えない。

 また、被告製品の隙間は垂直方向に設けられたものではなく、「環状枠板部」と「回転板」を内外に分かつものでもないから「クリアランス」に該らないものである(被告第一準備書面一〇〜一一頁参照)。

 なお、被告製品は回転板を若干上昇させることができる構造となっており、これにより隙間が大きく広がり、実施例図4のような垂直方向の隙間をもつ製品に比べて清掃がしやすく、隙間の目詰まりにスムースに対処できるという大きな利点がある。

 このため、需要者間ではその性能が高く評価されており原告も被告製品の右構造と殆ど同一の製品のみを製造・販売しているのである。このことひとつをとってみても被告製品が本件特許発明とは全く異なる技術思想からなることが判るのである。



平成一〇年(ワ)第11453号 特許権侵害差止請求事件原告 株式会社親和製作所被告 フルタ電機株式会社
 原告準備書面(3)
平成一一年四月五日
原告訴訟代理人弁護士 松本直樹  同輔佐人弁理士 野末祐司
東京地方裁判所民事46部A係御中

一 請求の趣旨の変更

 請求の趣旨を次のものに改める。

一、被告は、物件目録1および同2に記載されたそれぞれの装置を製造しまたは販売してはならない。
二、被告は、その本店・営業所および工場に存する前項の物件を廃棄せよ。
三、訴訟費用は被告の負担とする。
との判決および第一項について仮執行の宣言を求める。

 また、物件目録第4案(目録1および2から成る)を本書面に添付して提出する。物件目録としては既に第3案を提出しているので、枝番号を付したものは初めてではあるが、いずれも第4案とした。

 物件目録1および同2の装置の基本的な構成および作動概要は、いずれも次のとおりである:

 生海苔と塩水の混合液(異物も混ざっているもの)を入れるタンクがあり、その底には、回転板が設けられている。回転板の外周と、底板とつながっている選別ケースの外側部分との間には、僅かな隙間があり、そこを通じて混合液は流れ出ていく。この際に、回転板が回転することによって、隙間はかなり狭いにも拘わらず海苔が詰まることがない。
多くの異物は、隙間よりも大きいためにここを通過することが出来ず、もって異物が除去される。

二 変更後の請求の趣旨について

1 被告の主張と原告による調査結果

 被告は、一致型の装置(すなわち、回転板の外周と選別ケースの外側表面とが上方から見て丁度一致している装置: 被告は「重なり型」と表現しているが「一致型」の方が適切と思われたのでそうした)を一時期は製造販売していたことを認めているが、現在ではハミ出し型の装置(すなわち、回転板の外周が、選別ケースの外側表面よりも約1ミリほど大きく、それだけハミ出している装置)のみを製造販売していると主張している。

 原告が調査したところは以下の通りである。前回期日の時点では、被告は初期型としてのみハミ出し型をつくり(なお初期型におけるハミ出しは現在のものより大きかったようである)その後は一致型のみをつくっていた、と原告は認識していた(そこで原告準備書面(2)ではそのように主張した)。しかし、その後さらに調査したところ、確かに近時においても被告はハミ出し型装置の製造販売をしていることを確認した。現時点で一致型が無いのかどうかは定かではない。

2 変更をする意味

 原告の考えでは、一致型もハミ出し型もいずれも本件特許権の技術的範囲に含まれるものであり、差止め請求が認められてしかるべきである。しかしながら、前回期日の時点での原告の認識では、ハミ出し型は取りやめた初期型であって、被告は現時点では一致型のみを製造・販売していると考えられたので、ハミ出し型を差止め請求の対象とすることは適切でないと思量し、一致型のみを対象とする主張をした。

 さらにしかし、その後の調査によると、右に記した通り被告はハミ出し型を現在も製造販売しているようである。また被告は、ハミ出し型を製造・販売する意思を持っていることを表明しているから、この点でも差止の必要性がある。同時に一致型についても、一時であるにせよ製造していたと被告も認めているから、これも差止請求の対象とするべきものである。

 そこで原告は、これら両者を対象として差止めを請求する。物件目録1が一致型であり、同2がハミ出し型である。

3 物件目録1と同2の関係

 一致型に比較すれば、ハミ出し型の方が、本件特許権のクレーム充足の点でやや微妙な点があることは事実である。原告はいずれも技術的範囲に入るものと考えているが、仮にハミ出し型だけは技術的範囲から外れるとの判断を裁判所がするならば、一部認容の結論となるものと考える。

4 回転板が1枚の装置

 原告が従来認識していたところでは、被告は回転板が2枚の装置と4枚の装置を製造・販売していたが、近時は1枚のものも製品化していることを見出した。「フルタダストール FDー380C」という名称である。

 添付の物件目録1および2(各第4案)では、これも対象として加えている。また、甲第13号証として、そのパンフレットを提出する。

三 非侵害主張に対する反論

 被告の非侵害主張に対して、次のとおり反論する。

1 総論

 被告の非侵害主張の一部は、本件明細書に開示されている実施例と被告装置との相違を指摘するものである。なるほど、この両者の間にはそれなりの違いがあることは確かである。しかし、特許権による独占権は、実施例そのものについてだけでなく、一定の広がりを持った技術的範囲について認められるものである。被告装置が、実施例と細部において相違しているからと言って、侵害が成立しないものではない。

 被告の主張には、クレームの文言に依拠するものもあるが、これらも内容的に失当である。個別的には次の2以下にそれぞれ論ずるが、被告の主張はいずれもクレームの文言を非常に狭く解釈してのものである。

 こうした議論が一応は形を成すのは、本件のクレームが、開示された実施例にかなり素直に沿った(十分には抽象化されていない)記述になっているからである。このような記述は、特許庁での審査実務において求められているところに従ったものである。実務においては、権利範囲については後に(侵害訴訟などにおいて)クレームを必ずしも字句だけに拘泥せずに解釈することを予定して、クレームの記載は実施例に相当程度まで即したものとすることが求められるのが通例である。それなのに、被告の議論のように、素直に記載されたクレームの字義に余りに拘泥するのは不適切である。先行技術との関係で考えれば、本件発明は、回転板のスリットの作用を使った海苔の異物除去装置ということ自体に発明性がある。こうした状況に基づいてクレームを適切に解釈するべきであり、そうすると被告装置はクレームに該当し、勿論侵害が成立する。

 さらには、クレームの要件に文字通りには該当しない場合でも、均等論による侵害が認められるべきである。本件では、クレームの文言どおりの侵害が認められるもので均等論の必要は無いと原告は考えているが、均等論による侵害の成立を排斥するものではない。

2 環状枠板部

 まず被告は、板と言うからには厚みがあるはず、として、「選別ケースの外周縁の表面が『環状枠板部』に含まれるなどということはあり得ない。」と主張する(被告第二準備書面(平成一一年二月一七日付け)第二の一(3頁以下))。

 被告装置のタンク底部は、タンクの内側について言えば、底板から選別ケースを経て回転板に至る表面で構成されているが、断面図で見れば明白なように、底板から選別ケースにかけての所で折れ曲がっている。このために、「環状枠板部」としては選別ケースの表面のみが該当することになっている。被告は、この点について厚みが無いものは「環状枠板部」に該当しないと主張するわけである。

 しかし、本件クレームは別に厚みを要件とはしておらず、被告装置でもクレーム文言に該当している。したがって技術的範囲に含まれること、疑いない。

 元々この関係で重要なのは表面だけなのであり、それが裏側においてどのように支えられていようとも問題は無い。それは本件明細書の開示から明白に分かることである。
また、被告装置(物件目録)と本件明細書図面とを対比すれば、まったく非本質的な変更のみがなされていることが分かる。

 被告装置の構造は、環状枠板部の内周縁部に厚みを設けたものと理解することもできる(底板で構成されている環状枠板部に、選別ケースで構成されている立ち上がりが、厚みとして付け加わっている、と見るわけである)。そのように見れば、そこまでが環状枠板部であると言うことに何の問題もない。

3 内周縁内

 また被告は、選別ケースの外周表面は、外を向いているから「内周縁」に該当しない、と主張する(同二(5頁以下))。

 しかし、装置を上から見れば、ここが「内周縁」に違いない。また、環状枠板部と回転板との関係を全体としてみれば、原告指摘の箇所が内周縁とされて当然である。

 被告はまた、「また、特許請求の範囲には、『内周縁内に第一回転板を略面一の状態で僅かなクリアランスを介して内嵌めし』とあることから、内周縁の内側、つまり中心部分に近い方向にクリアランスという隙間が存在し、この隙間よりさらに内側に回転板が存在することがこれまた明らかである(実施例図4もこのことを示している)。」とも主張する(6頁)。これも失当である。

 クレームでは、「クリアランスを介して」とはされているが、被告の主張するような「この隙間よりさらに内側に回転板が存在すること」は要件とはなっていない。被告装置は、全体としての回転板を内周縁内に内嵌めしているし、また僅かなクリアランスを介してもいる。よって、クレームの要件をいずれも満たしている。

 なお、ハミ出し型の装置の場合には、回転板の周辺部が環状枠板部に僅かに重なっていることになるが、それは約1ミリほどのことであり、全体としての回転板が内側に入っていていることには違いなく、要件充足に違いはない。

4 順序・略面一について

 被告はまた、「『環状枠板部』『クリアランス』『回転板』が外から内に順に存する」必要があるという主張を繰り返している(同三(7頁以下))。しかし被告の主張は、勝手に要件を追加しいるだけである。被告装置は、クレームに記載された要件は全て充足している(原告準備書面(2)(平成一一年一月一二日付け)三(3頁以下)参照)。

 被告は、略面一の要件について、上から見て回転板が環状枠板部と僅かな重なりがあることをもって充足しないとの主張も繰り返している(同四(8頁以下))。しかしこれも、被告が独自に要件を追加して議論しているのであり、クレームにはそんな要件はない。
被告装置は、回転板が「略面一の状態で」設けられており、クレームに合致する(同前参照)。

5 クリアランスの方向

 被告はクリアランスの方向について議論して非侵害であると主張するが、まったく失当である。

(1) 被告の主張

 被告は、「明細書中の発明の詳細な説明にもあるように、生海苔は異物よりは比重は小さいものの、水よりは比重が大きいため、タンク下方に沈み、もってクリアランスを通過して下方に流れるものである(3欄47行〜4欄1行)。」と主張し、さらに、被告の装置について「底部より高い位置にあり、しかも横向きないし斜め上向きに設けられた隙間を通過する筈がない。」などと主張している(同六(10頁以下))。
 それならどうして被告の装置が作動しているのか不思議になってくる。これを被告はポンプの作用であると説明しようとするようであるが、仮に被告の言うように隙間の位置が僅かに高いことが問題なのだとすれば、それがポンプで解決できるとは思われない。

(2) 現実の作用機序と本件明細書の説明

 被告の主張がこのように理解困難なのは、被告の作用機序についての説明が基本的におかしいからである。

 そもそも本件明細書には、被告が言うような、海苔が水より重いなどとの説明は無い。
明細書の被告指摘の箇所には、次のとおり記載されている(指摘の箇所の前後を合わせて引用する、また傍線(ここでは下線に直した)を付加した):

【作用】この発明に係る生海苔の異物分離除去装置は上記のように構成されているため、第一回転板を回転させると混合液に渦が形成されるため生海苔よりも比重の大きい異物は遠心力によって第一回転板と前記環状枠板部とのクリアランスよりも環状枠板部側、即ち、タンクの底隅部に集積する結果、生海苔のみが水とともに前記クリアランスを通過して下方に流れるものである。このとき、第一回転板は回転しているため、前記クリアランスには生海苔が詰まりにくいものである。

 本件明細書は右のとおり、生海苔と水との比重の比較などしていないし、被告が言うような「生海苔は」「水よりは比重が大きいため、タンク下方に沈み、もって」などという作用説明はしていない。生海苔は水とともに流れて行くのである。すなわち明細書は、異物は隙間を通らずに「生海苔のみが水とともに前記クリアランスを通過して下方に流れる」と説明しているのである。

 実際には、海苔は塩水の中で浮くことも沈むこともある。そして、塩水とともに回転板外周のスリットを通って流れていくのである。これは、本件明細書の開示例でも、被告装置でも、まったく同様である。

(3) ポンプの働き

 ポンプの作用について付言しておく。

 本件明細書の実施例では、被告装置の有するようなポンプは無い。実施例の装置は、次のように働く。タンクに混合液(生海苔と塩水の混合液で異物を除去する前のもの)がたまると、重力のために底部では圧力が高くなる。この圧力のために、回転板周辺のスリットを通じて海苔が塩水とともに流れ出ていく。この際に、回転板が回転するがために、海苔が目詰まりしないというのが本発明の要点である。スリットより大きな異物はここを通ることが出来ないので、異物が除去される(より厳密に言えば、スリットより大きくて通過できないような異物が除去される、ということであるが、海苔は極薄フィルム状なので、これを通過させるスリットも回転板の回転を前提とすると相当に細くすることができ、問題となる異物を殆ど除去できる)。

 被告装置のポンプは、右の流れを助けるものである。すなわち、ポンプが底部のさらに下方に付いていて、負圧を生じさせるので、右記のような流出が積極的に起こされることになる。こうしたポンプがあることで、流出が助けられることは確かであるが、被告装置についても、基本的な作用には何ら違いはなく、侵害を否定することはあり得ない。

 被告は「因みに、被告製品では製品の下方にあるポンプの働きによってタンク内の生海苔と海水の混合液を隙間を通して強制的に吸い込んでいるのであって、右ポンプの働きがなければ生海苔が隙間を通って下方に流れることはないのである。」という(同12頁)。しかし、そんなことはないはずである。被告装置のスリットは、底板から僅か10ミリ余り(選別ケース周辺部の厚み)だけ上方にあるのである。タンクに混合液がたまれば、タンク底部の圧力が高くなる結果、たとえポンプが無くても、回転板の回転によって海苔が詰まらないように対処される限り、スリットから混合液が流れ出ていくことは間違いない。ポンプはそれを助けているだけのものである。

6 目詰まり対処について

 被告は、「被告製品は回転板を若干上昇させることができる構造となっており、これにより隙間が大きく広がり、実施例図4のような垂直方向の隙間をもつ製品に比べて清掃がしやすく、隙間の目詰まりにスムースに対処できるという大きな利点がある。」と主張する(同七(12頁以下))。

 しかし、仮に被告装置の構造に利点があったとしても、それで侵害が否定されるものではない。被告装置は、本件クレームの通りに回転板を利用して海苔の異物を除去する装置なのであるから、仮に本件明細書の開示以上の利点を有したものであったとしても、そうしたプラスαによって侵害が否定されるものではない。

 なお被告は、「原告も被告製品の右構造と殆ど同一の製品のみを製造・販売している」と主張するが(13頁)、事実に反する。原告が現在製造販売している装置は、本件明細書の実施例と同じく垂直方向のクリアランスを有する。ただし、異物排出動作の際には、回転板が逆回転するとともに上方に約8ミリ移動するようになっている。回転板周辺部の厚さが約13ミリあるので、このように上方移動しても、垂直方向のクリアランス構造は保たれたままであるが、異物が挟まり込んでいる場合に回転板の上方移動によってそれを除去するのを助けるわけである。被告は、原告の装置の回転板が上方に動くのを見て、誤解したのではないかと思われる。

証拠方法

 甲第13号証 被告の「ダストール」のパンフレット(回転板が1枚であるFDー380C)

 右証拠方法の写しを添付する。
以上 



平成一〇年(ワ)第一一四五三号特許権侵害差止請求事件(次回期日平成一一年五月二四日午後二時)

第三準備書面
        原告 株式会社親和製作所  被告 フルタ電機株式会社
 右当事者間の御庁頭書事件につき、被告は左記のとおり弁論を準備する。
平成一一年五月二〇日
          被告訴訟代理人 弁護士 高橋穣二
          同補佐人        竹中一宣

東京地方裁判所民事第四六部A係御中



第一、変更後の請求の趣旨に対する答弁

 一、原告の請求をいずれも棄却する。
 二、訴訟費用は原告の負担とする。
 との判決を求める。

第二、原告準備書面(3)に対する反論

一、原告は「被告の主張はクレームの文言を非常に狭く解釈している」又は、「素直に記載されたクレームの字義に余りに拘泥するのは不適切である」と主張する(同準備書面(3)3頁〜4頁)。

 しかし、被告は特許請求の範囲記載の文言に基づいて、明細書の特許請求の範囲以外の部分や図面をも考慮して本件特許発明の技術的範囲につき合理的な解釈を施しているのであって、右批判は全く当たらない。

 原告は「本件特許は回転板のスリットの作用を使つた海苔の異物除去装置ということ自体に発明性がある」とも主張して(同4頁)、あたかも本件特許発明が回転板のスリットを用いた海苔の異物除去装置全てに特許権の効力が及ぶ広範な発明であるかのように主張しているが、特許請求の範囲の記載をはじめとする明細書の記載や先行技術との比較からしても、本件特許が原告の主張するような一般的・抽象的な発明であるとは到底認められない。

二、内周縁について

 原告は「装置を上から見れば、ここが「内周縁」に違いない」旨主張するが(同5頁上段)、何ゆえに「内周縁」に違いない、などと言えるのか、その理由は何一つ明らかにしていない。そもそも本件のような特許訴訟においては、まず当該特許発明の技術的範囲について論じたうえで、被告対象物件の構造・構成がこれに含まれるか否かについて論を進めるべきものである。しかるに原告は「内周縁」の技術的意義にっき何ら触れることなく、単にクレームの記載と平仄を合わせるために被告製品の回転板の外側のラインを「内周縁」であると理由もなく断定し、もって構成要件を具備すると強弁しているにすぎないのもので、本末転倒と言うべきである。

三、クリアランスの方向及びポンプの働きについて

 原告は「タンクに混合液が溜まると、重力のために底部では圧力が高くなる」「この圧力のために・・・海苔が流れ出ていく」「被告製品のポンプはこの流れを助けるものにすぎない」(同7頁下段)等と主張する。

 しかし、タンク内に混合液が溜まって、いかに底部で圧力が高くなろうと、海苔の比重が水よりも大きくない限り、海苔が底部に沈んで底部にあるスリットを通ってタンクから流れ出ていく筈がない。

 従つて「混合液の圧力の働きにより海苔の比重の大きさ如何にかかわらず、海苔はスリットを通って流れ出ていく」旨の原告主張は明らかに物理法則に反していることになる。

 結局、原告特許発明は海苔の比重が水より大きいことを前提に、底部に設けた垂直方向のクリアランスを通じて海苔を流出させるという技術思想からなるもので、斜め上向きに設けられた隙間は右クリアランスに該当しないことになる(被告製品のポンプがその吸い込む力によって強制的に海苔をタンクから排出させる役割を果たし、このポンプの存在によってはじめて被告製品において海苔がタンクから流れ出ることは言うまでもない)。



平成一〇年(ワ)第11453号 特許権侵害差止請求事件  原告 株式会社親和製作所  被告 フルタ電機株式会社
原告準備書面(4)
   平成一一年五月二〇日
   原告訴訟代理人弁護士 松 本 直 樹  同輔佐人 弁理士 野 末 祐 司
東京地方裁判所民事46部A係御中

一 原告の主張

 本件の争点は、結局Bの要件であるが、原告の考えでは、Bの要件を適切に解釈すれば、被告の装置も当然にこの要件を充足するものであり、文言侵害が成立するものである。

 しかしながら、予備的に、均等侵害の成立について以下の通り主張する。これは、クレームのBの要件を、その中でも特に「内周縁内に」「内嵌めし」という文言を、不適切に狭く解釈すれば、被告の装置の構造ではこうした要件に文字通りは該当しないとの考えもあり得るので、これに対処する趣旨での主張である。

二 均等侵害の要件

 訴状において「底隅部に異物排出口」の要件に関連して主張したように、平成一〇年二月二四日の最高裁(第三小法廷)判決(平成六年(オ)第一〇八三号、ボールスプライン事件最判)によれば、被告装置が、請求範囲の記載と異なる場合であっても、次の要件を具備する場合には、特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして、なお特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当であるとされる。
(1) 右部分が特許発明の本質的部分ではなく、
(2) 右部分を対象製品等におけるものと置き換えても、特許発明の目的を達することができ、同一の作用効果を奏するものであって、
(3) 右のように置き換えることに、当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が、対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであり、
(4) 対象製品等が、特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから右出願時に容易に推考できたものではなく、かつ、
(5) 対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないとき。

三 均等のための各要件の本件における充足

1 非本質的部分

 本件特許発明の「本質的部分」は、回転板の外周の環状スリットを利用して、その動きをもって海苔を通過させ、それを通過できない異物から分離するというところにある。

 被告の主張では、被告の装置は、クレームにいう「内周縁内に」「略面一の状態で」
「内嵌め」に該当しないというが、たとえ被告主張のようにこの点が文言上非該当だとしても、僅か1ミリほどのハミ出しないし重なりがあるがためだけのこと(また僅かな立体性があるだけのこと)であり、こうした構成の相違点はまったく非本質的なことである。すなわち(1)を充足する。

 「本質的部分」の所在について右のように考えるべきであることについては、後に四において説明する、先行技術の概要と本件発明着想の経緯からいっても必然的である。

2 置換可能(同一作用効果)

 被告装置の構造であっても(特に回転板のあり方について)、スリットを使って効率的に異物を除去するという特許発明の目的は、まったく同様に達することが出来る。しかもその作用機序についても何らの違いもない。

 被告装置のように置換しても、同一の作用効果を存するものであると言える。すなわち(2)を充足する。

3 容易想到

 被告装置のような構造に置き換えることは、被告装置の製造時において容易に想到することができるものである。本件発明の本質である、回転板円周部のスリットの利用は、容易に考えつくものではなく発明性があることであるが、そこを被告装置のように多少の重なりのあるような形にするなどは、設計上の微差であり、ここには何らの困難も見出すことはできない。すなわち(3)を充足する。

 この関係では、訴状の八で摘示したように、原告は被告にOEM用に本件特許を商品化した装置を供給していることも顧慮されるべきである。この際に原告が供給した装置は、スリットの方向は本件明細書の開示するように垂直方向ではあるものの、たまった異物を排除する際には回転板を上方に移動するようになっている(原告準備書面(3)(三の6(8頁下段))において説明したとおり)。

 被告は第二準備書面において、「なお、被告製品は回転板を若干上昇させることができる構造となっており、これにより隙間が大きく広がり、実施例図4のような垂直方向の隙間をもつ製品に比べて清掃がしやすく、隙間の目詰まりにスムースに対処できるという大きな利点がある。」と主張しているが、仮にこれを理由として容易想到でないと被告が主張するとしても、まったく失当である。

 たまった異物の排除のために回転板を上方移動させるというのは、本件明細書では開示されていないものの、右で説明したとおり、原告が開発して被告に開示していた事項である。これを見た被告が被告装置のような構造のものをつくるのは、まったく容易だったのである。被告装置は、隙間が広がるという点では、原告の装置と違ってはいるが(原告の装置では、回転板は上昇するものの、隙間は垂直方向なので広がらない)、これはまったくの微差である。

4 非公知技術

 回転板の円周の環状スリットを利用するということが、本件発明の要点であり、本件特許権の出願当時において、これに該当するものは存在していなかった。被告装置のような多少の立体性のあるものも、もちろん存在していなかった。また、回転板の利用ということは画期的なのであり、被告装置のようなものを当業者が容易に推考することも出来なかったものである。すなわち(4)を充足する。

5 特段の事情の不存在

 本件特許の出願および審査の経過において、被告装置のような構造のものを意識的に除外するなどの特段の事情は存在していない。本件のクレームの記載は、原告の装置の構造を素直に記載しただけである。この記載は、状況に従って広く解釈されることが予定されていたものである。それを誤解とも言うべき限定的な解釈を被告が主張しているために、それに対処するべくこうした均等侵害主張しているだけの状況である。すなわち(5)を充足する。

四 本件発明の経緯とその意義

 本件発明の着想などについては、詳細は甲第14号証(陳述書)をご参照いただきたいが、経緯の概要は次の通りである。海苔の異物除去において、回転板円周の環状スリットを利用するという着想は、実に画期的なのである。

1 異物除去機のニーズ

 近年(特にここ10年ほど)、海苔の異物(海苔以外の海藻や、小エビや貝やプラスチックなど)を除去する装置のニーズが高まっている。これは、コンビニ経由での需要などにおいて、海苔に少しでも異物が混入していると、商品性が著しく落ちてしまうということが主な原因となっている。また、PL法の施行といったことも関係があるという指摘もあり、さらに、海水温の上昇によってエビなどの異物が混入しやすくなっているという報告もある(必ずしも定かではない)。

 従来は、異物除去は手作業で行われていたが、それでは十分な除去が出来ず、また作業自体が困難なものであることから、効率的な機械の開発が求められていた。それに満足できるレベルで初めて応えたのが、本件特許発明である。

 なお、ここで海苔の異物除去機として想定しているのは、海苔を乾燥する前の段階で異物を除去する装置のことである。乾燥させた海苔(シート状の海苔の製品)を対象として、その中に異物が入っているかどうかを検出するための機械は、むしろ早い段階で開発がなされた。ところが、こうした段階で異物を検出しても、その対処が問題となる。僅かな枚数の海苔にだけ異物が見つかるのであれば、それをを廃棄すれば済むが、実際には(少なくとも乾燥前の工程で何らかの異物対策をしていない海苔の場合には)、相当数の枚数の海苔に少しずつでも異物が検出されることになる。そうすると、すべてを廃棄するというわけにはいかず、手作業で異物を取り除くということになる。これは大変な作業であるので、やはりなんとか乾燥する前の段階で異物を取り除く必要があるということになる。このニーズにこたえるのが本件発明である。

2 海苔の異物除去の手法

 異物除去の手法として、まず考えられるのは、細いスリットを通過させることによって、そこを通過できないような異物を除去することである。海苔は極薄の薄片であるから、うまくすれば相当に細い隙間であっても通過できるはずであり、ほとんどの異物を除去することができることが期待される。

 しかし実際には、細いスリットを使おうとしても、異物が詰まってしまうだけではなく、海苔そのものがすぐに詰まってしまい、異物除去機として実用に耐えるものとはならない。

3 他の手法

 細いスリットを使う以外の手法としては、次のようなものが考えられよう。

 まず、比重の大きい異物を沈殿させることによって、海苔と分離するという手法が考えられる。この例として、本件被告の出願の公開公報(実開平6ー60395)を甲第15号証として提出する。

 しかしこの手法では、十分な異物分離を行うことが基本的に難しい。比重の小さい(軽い)異物を分離できないし、海苔と異物が絡み合っているような場合にも、分離することができない。絡み合っているようなものも、スリット通過の手法なら、スリットを通過できないから海苔と併せて除去できるのであるから、この意味ではスリット通過の手法の方がすぐれていると言える。沈殿させる手法では、十分な異物分離をすることは不可能である。現に、原告の知る範囲で、甲第15号証の装置を被告は商品化していない。

 またさらに他の手法として、光学的な検出器を使い、異物が混入しているのが検出されると、その部分を海苔とともに除去廃棄するという手法がある。この手法をとった装置は、一応は商品化されている模様であるが、広くは使われていない。これには2つの理由が考えられる。まず、光学的検出器を使うために高価なものになってしまうことである。今ひとつは、光学的であるが故に、透明な異物を除去できないことである。透明なプラスチック片などは、異物として最も問題のある是非とも除去したいものであるのに、これが除去できない。これでは、異物除去機としては十分なものにはならない。

4 先行技術

 先行技術として、スリット通過型の改良が提案されてはいた。まず、甲第16号証(特開平6ー121660、出願人・建部司)は、スリット通過型の基本的な提案を発明内容とするものであるが、同時に、スリット(「分離孔」と呼んでいる)の目詰まりに対して、清掃パイプからの噴出水流や、清掃ブラシを使うことを開示している。

 しかし、こうした手法では、実際には、海苔の詰まりに対して十分な対処は出来ない。
どちらの手法でも、十分には除去できない上に、またすぐに詰まってしまいなかなか作業が進まないことになる。しかも、タンクの中に或る程度の分量の海苔混合液を入れないと作業が出来ない構造であるから、タンク内に残された異物を廃棄する際に相当量の海苔も廃棄せざるを得ないことになるという問題もある。

5 参考となる技術

 本件特許発明に或る意味で近いものとしては、原告(親和製作所)自身の従来装置がある。甲第17号証(特開平8ー56624)は、それを特許出願したものの公開公報である。ただし、この公報の公開は本件特許の出願日より後のことであり、厳密な意味での先行技術ではない。

 甲第17号証の発明では、要部は、ローラーを簀の子状(あるいはイカダ状とも言える)に並べたもので、ローラーの間の狭い隙間を海苔を通過させることで、そこを通過できない異物を除去する。この際に、ローラーがそれぞれ回転する(全部が同一の回転方向に回転する)ような機構を設けているので、海苔が詰まるのを或る程度まで防止できる。

 しかし、これは仕組みがかなり複雑であり、また能率も十分なものではない。さらに、ローラーが垂直方向に配置してあるので(上部にローラーを回転させる機構が設けられている)、海苔塩水混合液を相当大量に入れないと運転をすることが出来ないという問題があった。これは、除去された異物を廃棄する際に、海苔も合わせて相当量を廃棄せざるを得なくなるという問題につながる。

 ローラーを水平に並べれば対処できそうであるが、今度は、ローラーの端部(特に回転駆動部分)をどのように処置するのか、解決が困難である。

 甲第18号証(特開平7ー289213、出願人・建部司)に開示されている装置も(特にその図9と図10)、これにかなり類似したものである(ただし、これも、本件出願よりも半年ほど早い出願ではあるものの、本件出願日において未だ公開されていなかったから先行技術ではなく、本件発明は(また甲第17号証の発明も)甲第18号証の発明を知らずに開発されたものである)。

6 本件発明

 以上のように、スリットを使う手法についても、それ以外の手法についても、本件発明に先立っては、満足すべき異物除去機は無かった。

 本件特許発明は、問題点を、回転板の円周に位置する環状スリットを利用することで解決したものである。

 本件発明は、円周部のスリットを利用するもので、回転板が回転することによって、ここが横滑りするような形になっている。海苔はフィルム状でしかも表面にヌメリがあるので、こうした横滑りに助けられて十分にスリットを通過することができる。しかも、構造としてはかなり簡単である。この結果、非常に高能率な除去装置を作ることができた。

 こうした仕組みは、従来の海苔の異物除去装置とは、基本構造をまったく異にするもので、実に画期的なものである。従来技術としては、スリットを使うことはあったが、そのスリットを動かすことは原告自身の前装置の開発において発想されていたに過ぎず、さらに、回転板円周に位置する環状スリットを使うという発想はまったく存在していなかった。

7 本件発明の着想

 このような構造の異物除去機に考え至ったのには、次のような経緯があった。詳細は甲第14号証(陳述書)を参照いただきたい。

 きっかけは、異物除去機の改良作業からではなく、まったく別の現象からの知見を応用したものである。具体的には、海苔を刈り取る機械を開発するに際してのことである。
この機械には、刈り取った海苔と海水とを分離するための機構があるが、開発に際して、この水分離機構において、海水だけでなく海苔がこぼれてしまうという問題が生じた。

 原告の刈取機では、分離のための網(水だけを通して海苔が通過しないようにしたもの)を回転させる構造を取っていたのだが(ちょうど洗濯機の脱水機のような原理で、遠心力を使って水を除くのである)、この回転部分と固定部分との境目から、どうしても海苔がこぼれてしまうのである。海苔以外のものは、通過しないようにすることが比較的容易であっても、肝心の海苔が通過しないようにすることは非常に難しかった。海苔がフィルム状でしかも表面にヌメリがあるために、回転するのにつれて僅かな隙間から漏れ出てしまうのである。特に、良い海苔ほど、薄いために出て行きやすい。

 これを逆転の発想で見直し、ならば逆に異物を除去することに使えるのではないかとの考えに至った。これが本件発明につながったのである。

8 本件発明の革新性とその模倣装置

 このように、異物除去機自体の開発からは離れて着想を得たものである。この一事をもってしても、異物除去機として実に革新的・画期的な発明であることが分かる。回転板円周部の環状スリットの利用自体がまったく新規なものなのである。

 被告装置は、本件明細書の開示とは多少は構造が異なるものではある。しかしながら、右のような発明成立の経緯から認識できる画期的なポイントを全く盗用している装置である。

 本件発明は、回転板の円周部の環状スリットを使うことによって、海苔の目詰まりの問題を初めて満足できるレベルで解決し、実用に耐える海苔の異物除去機を提供したものである。

 原告が本発明を公開した後、被告以外にもその原理を盗用して装置を製造販売しているものがある。海苔の異物除去機として現に使われているものは、原告および被告のものを含めて、事実上、本件特許発明に従ったものばかりであるとすら言える。これらに対しても、原告は本件特許権に基づいて製造販売等の中止を求めているが、こうした盗用の例の存在は、本件発明の革新性と優秀さを実証するものである。

証拠方法
 甲第14号証 窪前孝一(原告役員)の陳述書(添付の書類を枝番号の2とする)
 甲第15号証 公開公報(実開平6ー60395)
 甲第16号証 公開公報(特開平6ー121660)
 甲第17号証 公開公報(特開平8ー56624)
 甲第18号証 公開公報(特開平7ー289213)

 右各証拠方法の写しを添付する。



平成一〇年(ワ)第11453号 特許権侵害差止請求事件原告 株式会社親和製作所
被告 フルタ電機株式会社
 原告準備書面(5)
平成一一年六月三〇日
   原告訴訟代理人弁護士 松 本 直 樹  同輔佐人弁理士 野 末 祐 司
東京地方裁判所民事46部A係御中

一 クレームの各要件の充足

 被告装置が請求項1および2の各要件をすべて具備していることを、以下の通り改めて主張する。訴状において主張したところと基本的に同じであるが、クレーム中の個々の言葉と被告装置の対応関係についてさらに補充したものである。

 なお、対象となっている被告装置には目録1と同2の両方があるが、これらは回転盤の僅かなハミ出しの有無が違うだけで、各要件当てはめについてはまったく違いがないので、ここでは特に区別をしない。

1 Aの要件 まず、Aの要件(筒状混合液タンクの底部周端縁に環状枠板部の外周縁を連設し)
は、被告装置の上部に位置するタンクとその底部の構造が、これに合致している。すなわち、

・物件目録の図面の@タンク側壁を側壁として構成されているタンクが、「筒状混合液タンク」である。

・@タンク側壁の下方端が「底部周端縁」である。
・A底板のうちで受け皿の下に入り込んでいない部分と、E選別ケースの外縁部の一部(外周表面)とが、「環状枠板部」である。

・したがって、底板の外周が「環状枠板部の外周縁」ということになるが、ここに側壁@の下方端が「連設」されている。

2 Bの要件 Bの要件(この環状枠板部の内周縁内に第一回転板を略面一の状態で僅かなクリアランスを介して内嵌めし)は、次のとおり充足される。

・A底板のうちで受け皿の下に入り込んでいない部分と、E選別ケースの外縁部の一部(外周表面)とで構成される部分の、内側の円周の縁が、「環状枠板部の内周縁」である。これは、装置の上方から見た場合、原告説明図4(原告準備書面(2)添付)の上の図の、黄色のハッチングで示した部分(環状枠板部)と、青のハッチングで示した部分(回転板)との境界をなす円である。これは、断面で見れば、同じく原告説明図4の中の図の矢印で図示したところである。

・装置の上部より見える、タンクの底に位置するB回転盤が、「第一回転板」である。

・回転板と底板との間のC隙間が「僅かなクリアランス」である。
・被告装置のB回転盤は右記載の内周縁の内側に入っているものであり、かつ右のC隙間(=クリアランス)を介しているから、「内周縁内に第一回転板を略面一の状態で僅かなクリアランスを介して内嵌めし」に該当する。

なお、Bの要件において「第一回転板」といっているのは、回転板を上下に複数枚設けている実施例があるためであり、被告の装置の1枚ないし2枚ないし4枚の円盤は、いずれも「第一回転板」に相当する。

3 Cの要件 Cの要件(この第一回転板を軸心を中心として適宜駆動手段によって回転可能とするとともに)は、次のとおり充足される。

 被告装置のB回転盤の下方に図示されているギヤモーターが「駆動手段」に該当する。これによって被告装置の回転盤はその軸心を中心として回転可能となっているから「この第一回転板を軸心を中心として」「回転可能とする」に該当している。

4 Dの要件 Dの要件(前記タンクの底隅部に異物排出口を設けたことを特徴とする)は、被告装置のDゴミ排出口が「異物排出口」である。

被告装置のDゴミ排出口は、B回転盤を2枚有する装置の場合はその間に位置しているが(物件目録の図に示すとおり)、これはなお「底隅部」にあたる。請求範囲のいう「底隅部」とは、明細書の取り上げている例のように1枚の回転板の場合の位置関係を指し示している。物件目録に図示した回転盤が2枚の被告装置の場合には、その間に位置していると言うことは、それぞれの円盤との位置関係でいえば「底隅部」にあたるものである。

5 Eの要件 被告装置が、Eの要件(生海苔の異物分離除去装置)の通りであることは言うまでもない。

6 請求項1への該当 以上により、被告装置は本件特許権の請求項1の技術的範囲に属する。

7 請求項2 また、被告装置の回転盤(B)は、周縁に向かって段を持ちながら下がり傾斜をもっていることが観察され、よって請求項2の要件にも該当し、その技術的範囲に属する。

二 被告の主張に対して

1 本件発明の意義

 被告は、原告の主張に対して、

あたかも本件特許発明が回転板のスリットを用いた海苔の異物除去装置全てに特許権の効力が及ぶ広範な発明であるかのように主張しているが、特許請求の範囲の記載をはじめとする明細書の記載や先行技術との比較からしても、本件特許が原告の主張するような一般的・抽象的な発明であるとは到底認められない。

と主張するが(被告第三準備書面の第二の一)、なんらの「先行技術」を示すわけでもない。

 先行技術の状況は、原告準備書面(4)で主張したとおりのものである。本件発明は、異物除去機として実に革新的・画期的なものであり、生海苔の異物除去における動的な環状スリットの利用自体がまったく新規なものなのである。したがって、その特許権によりこの利用を実際上独占することになっても当然であり、クレームもそのように解釈できるもので、またそう解釈されるべきものである。

2 内周縁

 被告は、原告の主張する内周縁の摘示に対して、「その理由は何一つ明らかにしていない」と主張する(被告第三準備書面の第二の二)。しかし原告の主張は、言葉の文字通りの意味に従ったものであり、それに対して「理由」が明らかにされていないというのもおかしな反論である。底板のうちで受け皿の下に入り込んでいない部分と、選別ケースの外縁部の一部(外周表面)とで構成される部分とをもって「環状枠板部」とすれば、原告の摘示した箇所は、その内側の円周の縁であり、文字通りとしか言いようがない。

3 クリアランスの方向などについて

 被告は、クリアランスの方向などについて、本件発明の説明と原告の主張についての誤った解釈および引用をもとにした主張を、さらに続けている(被告第三準備書面の第二の三)。

 被告は、「しかし、タンク内に混合液が溜まって、いかに底部で圧力が高くなろうと、海苔の比重が水よりも大きくない限り、海苔が底部に沈んで底部にあるスリットを通ってタンクから流れ出ていく筈がない。」(同前)というが、それはその通りである。実際、海苔の比重は水よりも有意に大きくはないから、「海苔が底部に沈んで底部にあるスリットを通ってタンクから流れ出ていく」事などはない。

 本件特許明細書の開示は、海苔塩水混合液がタンクにたまると、タンクの底部において圧力が高まるので、それによって混合液が(海苔と塩水がともに)出ていく、というものである。そして原告の主張は、被告装置もこの開示の通りに、タンク底部の高圧力によって混合液が流れ出ていくものであり、吸引ポンプはそれを助けているに過ぎない、というものである。

 被告は「従つて『混合液の圧力の働きにより海苔の比重の大きさ如何にかかわらず、海苔はスリットを通って流れ出ていく』旨の原告主張は明らかに物理法則に反していることになる。」と主張するが(同前)、原告の主張は、(海苔だけではなく)混合液が流れていくというものであり、勿論物理法則に整合的である。

 さらに被告は「原告特許発明は海苔の比重が水より大きいことを前提に、底部に設けた垂直方向のクリアランスを通じて海苔を流出させるという技術思想からなるもの」で被告装置はこれと違うと主張するが(同前)、本件明細書に被告の言うような記載はなく、そのように理解される記載もない。被告は、本件明細書と原告主張について、独自の誤った理解をもとにして議論をしているものであり、無意味である。
以上



平成一〇(ワ)第一一四五三号特許権侵害差止請求事件                 (次回期目平成一一年七月五日午後四時)
第四準備書面
        原告 株式会社親和製件所  被告 フルタ電機株式会社
 右当事者間の御庁頭書事件につき、被告は左記のとおり弁論を準備する。
平成一一年七月二日
           被告代理人弁護士高橋譲二
           同補佐人竹中一宣
東京地方裁判所民事第四六部A係御中



第一、均等論について

 一、非本質的部分

  1、原告は、均等論に関する最高裁判決(平成一〇年二月二四日)が示す要件のひとつの「非本質的部分」につき、構成要件B(この環状枠板部の内周縁内に第一回転板を略面一の状態で僅かなクリアランスを介して内嵌めし)に記載された構成の中に被告対象製品と異なる部分が存するとしても、右部分が本件特許発明の本質的部分でない旨主張する。そして本質的部分に該らない理由として、「本件特許発明の「本質的部分」は、回転板の外周の環状スリツトを利用して、その動きをもって海苔を通過させ、それを通過できない異物から分離するというところにある。」ことを挙げる(原告準備書面(4)三1)。

 しかしながら構成要件Bの構成、とりわけ「内周縁内」や「略面一の状態」、それに「クリアランス」「内嵌め」といつた構成要件は本件特許発明の中核とも言うべき本質的部分に外ならず、断じて原告の言うように本質的部分が単に「回転板の外周スリツトを利用して海苔を通過させ分離させること」に尽きるものではない。以下、この点を詳述する。

  2、本件明細書には、従来の技術として、「従来におけるこの種の異物除去装置は、分離ドラムの周壁に所要数の分離孔を設けて、前記分離ドラムを軸芯を中心として回転させながらこのドラム内に生海苔混合液を供給し、前記分離孔を分離除去していた(特開平六一一二一六六六〇号)。」と記載され、また、発明が解決しようとする課題として、「しかしながら、かかる従米の異物分離除去装置にあっては、生海苔混合液中の異物をこの分離孔の周縁に引つ掛けて排出口に流れるのを防止するものであるため、当該分離孔の周縁に異物が蓄積し、目前まりが発生する結果、当該分離除去を能率よく行うためには、目詰まり噴射水によつて洗浄するという洗浄装置を別途に設けなければならないという不都合を有した(特開平六-一二一六六六〇号)。」と記載されている。

 つまり、従来技術では、生海苔と異物が同じ分離孔を通過する構造となっていたために、分離孔に異物が蓄積し目部りを起こし、これを排除するべく洗浄装置を別途設ける必要があるという不都合があつたところ、本件特許はかかる洗浄装置を設ける不都合を解消するために発明されたものである。

 そして、右不都合を解消する手段として、出願人は請求項1に記載されたような構造を選択したものであり(公報の「課題を解決するための手段」3欄24〜31行)、右構造を選択したことにより、比重の異なる生海苔と異物が遠心力により分離され、比重の大きい異物はタンクの底隅部へ集まり、一方比重の小さい生海苔はクリアランスを通過して下方に流出するという件用効果が生じるのである。

 従つて、かかる件用効果を能く実現する構造こそが本件特許発明の本質的な部分と言うことになる。

  3、そして、右件用効果を実現する構造という観点からすると、環状枠板部やクリアランス、それに回転板の各構造やこれら相互の位置関係が極めて大きな意義を占めることは言うまでもない。何故なら、本件特許発明は、タンクの中に環状枠板部やクリアランス、それに回転板があるほかは動力部分等が若千設置されているという極めて単純な構造からであり、環状件板部やクリアランス、それに回転板の各構造や相互の位置関係が当該製品の件用効果を決する上で決定的な役割を営むことは明白だからである(仮にこれらの相互の位置関係が変われば各々の構造は同じであつたとしても全く異なる件用効果を生じることは明白である)。

 従つて、環状件板部やクリアランス、それに回転板の各構造や相互の位置関係が本件特許発明の本質的部分であることは疑問の余地がない。だからこそ出願人も構成要件Bにおいて環状件板部やクリアランス、それに回転板の構造と相互の位置関係について「内周縁内に」「略面一の状態で」「僅かなクリアランスを介して」「内嵌めし」などと他の構成要件には見られないような詳細な記載をなしてその技術思想を明らかにしたものである。

 してみると、本件特許発明は構成要件Bに記載された構造を忠実に再現してこそその目的とする作用効果を発揮しうるのである。即ち、タンク内の混合液全体に渦を形成させて混合液内に混在する生海苔と異物をよく分離させるためには、回転板がタンクの底部にあって、同じく底部にある環状枠板部と略面一の水平面をなしている必要がある(仮に回転板が環状枠板部より高くなつていて略面一と同一の水平面を形成していないと混合液の充分な攪拌と渦の形成が期特できない)。また、このことと軌を一にして、回転板を環状枠板部の内周縁内に設置し内嵌めする必要がある。仮に回転板が内周縁内からはみ出して覆い被さつていたり、あるいは潜り込んでいたりすると、これまた充分な攪拌と渦の形成が期特できないからである。

 そして沈殿してきた生海苔を下方に流れさせるためには、同一水平面に順次並んだ回転板と環状枠板部との間に垂直方向のクリアランスを設ける必要がある。即ち、仮にクリアランスが同一水平面に並んでいない回転板と環状枠板部との間の隙間にすぎなかつたり、横向き、あるいは上向きの隙間であったりすると、水より比重の大きい生海苔が下方に流れることができなくなつてしまい、やはり本件特許発明の目的とする作用効果を奏することができなくなる。

 しかも、「タンクの底部に環状枠板部を連設する」(構造要件A)とか「回転板を回転可能とする」(同C)とか「タンクの底隅部異物排出口を設ける」(同D)といった構成要件B以外の構造が本件特許発明の作用効果を実現する上で本質的なものとは到底考えられない。

  4、なお、原告は「僅か1ミリほどのはみ出しないし重なりがあるだけの構造の相違点は全く非本質的なこと」と主張するが(前記準備書面2頁)、本質的か否かは当該特許発明の構成部分について検討すべきことであって、特許発明と対象製品との差異について検討すべきものではない(しかも特許発明と被告製品との差異は原告の主張するような単純なものにとどまらない)。つまり、原告は前記最高裁判決の提示した要件の意義を完全に誤解しており、右主張は到底採用の限りではないのである。

 また、原告は「本件特許発明本質的部分は回転板スリツトを利用し海苔を通過させ、それを通過できない異物から分離するところにある」旨述べて(前記原告準備書面2頁)、あたかも回転板のスリツトを用いてこれを通過させること自体に本質的部分があるかのように論ずるが(原告は発明の着想が海苔がスリツトを通り易いことにあつたことを強調している)、既に詳述したように本件特許の主眼はあくまで比重の違いを利用して海苔と異物とを混合液内で完全に分離させ、その後クリアランスを通過させて生海苔を下方に流出させる点にあることを忘れてはならない。なるほど、明細書の「作用」の欄には「このとき第一回転板は回転しているため、前記クリアランスには生海苔が詰まりにくいものである」とあるが(4欄1〜3行)、右作用はあくまで前述した作用の副次的なものとして記載されているに過ぎない。

  5、以上の点からすると構成要件Bの構成こそが本件特許発明の本質的部分であることは疑問の余地がなく、「回転板スリツトを生海苔が通過させる構造」が本質的部分である旨の原告主張は明細書の右記載に真つ向から反し、やはり失当と言う外ないのである。

 二、作用効果

  1、次に被告製品の構造では特許発明の目的を達することができず同一の作用効果を奏することはないものである。

 即ち、被告製品では、回転板が環状枠板部の上部にあって覆い被さつた位置にあり、「略面一」とも「内周縁内」とも言えないため渦の力によつて生海苔と異物を充分に分離することができない。

  2、従って、後述する吸い込みポンプ(別紙一、二の7)の働きにより隙間に海苔と共に異物が集まり、目詰まりが生じる。そこで逆洗ポンプ(別紙一、二の8)の働きにより断続的に隙間を通じて水をタンク内に送り込んで目詰まりを解消する。即ち、被告製品では隙間に目詰まりが発生し、回転板の回転スピードが摩擦によつて低下すると、回転させる動カモーターに過電流が発生するため、過電流を検知後、自動的に回転板を停止させ、次に逆洗ポンプが海水を隙間を通じてタンク内に送り込んで目部まりを解消させるのである。

  3、被告製品の右逆洗ポンプは明細書の「発明が解決しようとする課題」に記されている、「目部まり噴射水によつて洗浄するという洗浄装置」に外ならない。そしてこのような洗浄装置を設けなければならないということが従来技術の不都合とされ、本件発明の課題はこの不都合を解消することにあると明記されているのである(公報3欄18〜22行)。

 してみると、異物により目詰まりが生じ洗浄装置を備えている被告製品が本件特許と同一の作用効果を奏していないことは明白である。

  4、また、被告製品の隙間は、略同一平面に並んだ環状枠板部と回転板を分かつ隙間でなく、しかも斜め上方向に設けられているため、水より重い生海苔がこの隙間を通つて下方に流れることはない。そのために吸い込みポンプの力により強制的に水と共に隙間を通じて吸い込んでいるのである(この吸い込む力により異物も引き寄せられるが、その大きさの差異から海苔が主に吸い込まれる)。従って、この点でも本件特許と同一の作用効果を奏しているとは言えない。

  5、結局、被告製品の構造では特許発明と同一の作用効果を奏することができず、この点でも均等論適用の要件を欠くことになる。

 三、結語

  以上、その他の要件を論ずるまでもなく均等成立は認められないことに帰 する(その他の要件については必要に応じて追つて主張の予定である)。

第二、被告製品の販売時期

  さらに調査のうえ追って主張する。

第三、被告製品目録

  従前、タンク内の構造を中心に被告製品の目録(図面)を作成したが正確を期すために吸い込みポンプ(7)、逆洗ポンプ(8)を追加付記して被告製品目録とする。

以上



平成一〇(ワ)第一一四五三号特許権侵害差止請求事件(次回期目平成一一年八月二七日午後四時三〇分)
第五準備書面
     原告株式会社親和製作所
     被告フルタ電機株式会社
 右当事者間の御庁頭書事件につき、被告は左記のとおり弁論を準備する。
平成一一年八月二五日
            被告代理人弁護士 高橋譲ニ            同補佐人     竹中一宣東京地方裁判所民事第四六部A係御中



第一、被告製品の販売時期

 いわゆる「はみ出し型」の製造・販売時期は平成一〇年八月以降である。

 「重なり型」は、右「はみ出し型」の販売後、ユーザーの要望に応じて回転板の一部を削つて手直ししたもので、その時期は平成一〇年一一月〜一二月である。

第二、作用効果について(被告第四準備書面第一、二の補充)

 被告製品では回転板の回転により海水を攪拌するだけで、海苔と異物をその重さの違いを利用して分離することはない。

 即ち、海苔と異物が海水内に完全に混ざり合つて存在しているのであって、異物のみがタンクの隅に集積したり、海苔のみが水とともに隙間を通過するということはない(検乙第一、二号証)。

 かように海苔と異物が分離していないからこそ、被告製品では排水口を閉じたまま海水を攪拌するのである(仮に排水口を開放して海水を攪拌すると、隙間を通って下方に吸い込む予定の海苔が排水口から流出してしまう)。

 結局、被告製品における異物の除去は、わずかな隙間を通過できない異物を隙間によって海苔と分離・区別して除去するという方法で行われるのであり、海苔と異物の重さの達いを利用して分離するのではない。換言すると、被告製品では隙間を通過するような小さな異物は分離・除去することはできないのである(その証左に隙間から吸い込まれた海苔には細かな異物が多々含まれている。検乙第二号証参照)。

第三、公知技術

 本件特許出願当時、回転板の円周の環状スリットを利用した技術は公知技術として存在していた。即ち、被告が遅くとも本件特許出願前である昭和五六年ころ、「フルタ洗浄機SJ―6M」(乙第一、二号証)の商品名で製造・販売していた製品に右技術を用いており、すでに公知技術であつたものである。

 右製品における右技術の実施状況を本準備書面添付別紙(乙第二号証の抜枠)に沿つて説明する。乙第二号証は実際の製品を横向きにした場合の図面であるので図の左手方向が本来の垂直上方向に、図の右手方向が垂直下方向になる。赤色部分がインペラと呼ばれる回転部品であり、本件で言えば回転板にあたる。なお、図では回転軸を中心として片側半分のみ示されている。青色部分はインペラケースと呼ばれる部品でインペラの下部(図ではインペラの右側)にあって固定されている。海苔と海水はインペラの上部で(図ではインペラの左側)で攪拌され、わずかな隙間Aを通過して下に(図では右側方向に)流れてインペラとインペラケースの間に入り、インペラケースの一部に設けられた穴B(ただし、原図面では穴の記載はない)を通過して下方に(図では右方向に)流れる。従って回転板の環状スリットを利用する技術は公知技術である。

証拠方法

検乙第一号証 被告製品のビデオテープ
検乙第二号証 被告製品のビデオテープ
乙第一号証  被告製品パンフレツト
乙第二号証  被告製品部分図面



平成一〇(ワ)第一一四五三号特許権侵害差止請求事件 (次回期日平成一一年八月二七目午後四時三〇分)
証拠説明書
         原告株式会社親和製作所
         被告フルタ電機株式会社
 右当事者間の御庁頭書事件につき、被告は被告提出証拠につき左記のとおり説明する。
平成一一年八月二五日
     被告代理人弁護士 高橋譲二 (印)
     同補佐人     竹中一宣 (印)
東京地方裁判所民事第四六部A係御中



検乙第一号証ビデオテープ
 撮影対象  被告製品
 撮影年月日 平成一〇年一一月
 撮影者   被告従業員 伊藤利仁
         因みに、このビデオテープは平成一〇年一一月に宮城県と佐        賀県で撮影したテープを編集し、一本にまとめたものである。
 立証趣旨  被告主張事実全般
 説明     以下、本件訴訟に関達ある部分に絞って収録内容を経時的       に説明する。
順序 時間    収録内容
@  0〜39秒 タンク内水位が通常時の作動

B 40秒〜1分27秒 タンク内水位が低い時の作動B 2分54秒〜4分20秒 異物及び海苔が回転授の下の隙間に詰まって             いる様子
C 4分21秒〜4分35秒 右異物及び海苔を手作業で除去しているとこ             ろ
D 4分36秒〜5分03秒 タンク底部の排水口を開放してタンク内の水             を排出しているところ
E 7分07秒〜7分17秒 回転板が上昇し、逆洗しているところ

        右@、Aでは海苔や異物を含んだ海水が回転板によつて攪拌       されている様子が判る。これにより一見して明らかであるが、       海苔と異物が右海水内に完全に混在、混濁しており、比重の達       いによつて海苔と異物が内外に分離されている様子は全く窺え       ない。なお、Dの段階で排水口を開放するまでは排水口を閉じ       たまま攪拌する。仮にこの攪拌時に排水口を開くと海苔が全て       異物と流出してしまう。

        右B、Cでは隙間に海苔と共に異物が詰まつたため回転板が       停止した様子が判る。吸い込みポンプが海水中の海苔と異物を       区別せずに隙間を通して吸い込むために海苔と異物が隙間で目       詰まりを起こすのである。

        なお、隙間より大きな異物は隙間を通過することができず、       ここで選別除去されることになる。つまり被告製品の作用効果       は、隙間を設けることで隙間の幅より大きな異物を除去する点       にある。

        Dには、排水口を開放してタンク内の海水、海苔の一部、そ       れに隙間を通過しなかった異物を排出している様子が収められ       ており、被告製品における異物の除去とは、僅かな隙間を設け       ることによって隙間より大きな異物のみを除去することである       ことが判る(隙間より小さな異物は結局除去されない)。

        Eでは、回転板が若干上昇している。ここでは逆洗ポンプの       働きにより洗浄用の海水がタンク下部から隙間を通ってタンク       内へ送り込まれ、その域果、右海水の流人により隙間に目詰ま       りしていた海苔と異物がタンク内へと洗い出され、回転板の回       転が再び可能となるのである。

検乙第二号証ビデオテープ
 撮影対象  被告製品
 撮影年月日 平成一一年七月
 撮影者   被告従業員 伊藤利仁
 立証趣旨  被告主張事実全般
 説明     以下、テープ本件に関達ある部分に絞って収録内容を経時的       に説明する。

順序 時間 収縁内容
@ 0〜41秒 タンク下部に設けられた洗浄用タンクの様子A 42秒〜1分40秒 右洗浄用タンクから排水している様子B 1分41秒〜4分53秒 右洗浄用タンクから海苔を取り出して異物を             確認している様子。順に稚貝、ロープの切れ端、             木片、海草の茎、糸クズ、稚海老が撮っている。
C 4分54秒〜5分40秒 隙間の様子
D 5分42秒〜6分32秒 洗浄時に回転板を上昇させたときの隙間の様              子

          検乙第一号証での説明にも述べたように、被告製品では隙間         を通じて海苔と異物を区別せずに海水と共に吸い込む。この結         果、隙間より小さな異物は除去されることなく隙間を通って下         に流れる(結局、被告製品では、かような小さな異物を除去す         ることはできないのである)。

          従って、本件特許発明が予定している作用効果(比重の違い         により異物を分離除去する)を奏することはない。

乙第一号証 被告製品パンフレツ卜
 作成者  被告会社
 立証趣旨 クリアランスを利用する技術が公知技術であった事実 説明   右公知技術を用いた製品SJ―6型の製品パンフレツトである。
      2枚目右下の数字及び記号の最初の81は1981年(昭和56年)を表      す。

乙第二号証製品部分詳細図
 作成者  被告会社
 立証趣旨 クリアランスを利用する技術が公知技術であった事実 説明   乙第一号証のSJ―6型の部分詳細図である。実際の製品の向      きとは異なり横向きになっている。即ち図の左側が垂直上方向で      ある。



平成一〇(ワ)第一一四五三号 特許権侵害差止譲求事件             (次回期日平成一一年一〇月二二日午後三時)
上申書
             原告株式会社親和製作所
             被告フルタ電橋株式会社
 右当事者間の御庁頭書事件につき、被告は左記のとおり上申する。
平成一一年九月二四日
           被告代理人弁護士高橋譲二
           同補佐人 竹中一宣
東京地方裁判所民事第四六部A係御中

   記

 被告か提出した検乙第一号証を乙第一号証に、検乙第二号証を乙第二号証に、乙第一号証を乙第三号証に、乙第二号証を乙第四号証に各々変更することに件い、第五準備書面及び平成一一年八月二五日付証拠説明書記載中の証拠の各表記を左記のとおり訂正したく上申する。
     訂正前E↓訂正後
    検乙第一号証↓乙第一号証
    検乙第二号証↓乙第二号証
    乙第一号証↓乙第三号証
    乙第二号証↓乙第四号証



平成一〇(ワ)第一一四五三号 特許権侵害差止請求事件           (次回期日平成一一年一〇月二二日午後三時)
第六準備書面
            原告 株式会社親和製作所
            被告 フルタ電機株式会社
 右当事者間の御庁頭書事件につき、被告は左記のとおり弁論を準備する。
平成一一年九月二七日
          被告代理人弁護士 高橋譲二
          同補佐人 竹中一宣
東京地方裁判所民事第四六部A係御中

  記

第一、被告製品の作用効果について(被告第四準備書面第一、二及び同第五準  備書面第二、の補充)

 被告製品では、回転板の回転により海苔と異物を含んだ海水を攪拌するのみで、海苔と異物をその重さの達いを利用して分離することはなく、ただ隙間の幅より大きいために隙間を通過できない異物を除去するにすぎない(乙第五〜七号証)。従って、吸い込みポンプの働きにより海水や海苔と共に隙間を通過した小さな異物は海苔の成果品に混入することになり、いわゆる不良品が発生し得る(乙第五〜七号証),

 そうすると、被告製品では除去できなかった異物を発見し、除去するための装置(海苔の選別機)が必要となるが、こうした選別機は各メーカーから広く市販されており(乙第八〜一二号証)、現に被告製品のユーザーないし、被告製品のユーザーから海苔を購入した業者がかかる選別機を用いて不良品のチェックを行っている(乙第五〜七号証)。

 このように、被告製品においては隙間より小さな異物を除去することはできず、その除去は選別機に委ねるしかないのである(因みに右選別機により選別された不良品は人の手により異物か取り除かれるのが普通である(乙第五号証))。

 従って、被告製品は本件特許と同様の作用効果を奏するとは到底言えない。

第二、均等論適用要件の欠如(公知技術からの容易推考。被告第五準備書面第三の補充)

一、被告製品SJー6M(以下SJー6Mという)の構造

 SJー6Mは被告会社製の海苔洗浄機である。その機能はと言うと、洗浄機内の洗浄槽に海から採取したばかりの海苔を海水と共に間断無く供給し、洗浄槽底部に設けられた二個のインペラ(乙第一四号証、一六号証C、D)の回転により海水を攪拌し、もって海苔の「ぬめり」やゴミ等の汚れを取り去る(乙第五号証)。洗浄槽の底面及び側面には無数のパンチ穴(小さい穴)が空いており、ぬめりやゴミ等の汚れはこの穴を通って汚水と共に洗浄槽と洗浄機の外枠との中間の空間へ流れ出て、その後洗浄機外へ排出される。海苔はこのパンチ穴を通過せず、洗浄槽内にとどまるか、その一部はインペラの外周縁とインペラケース(インペラの直下にあり固定された円形のケース。乙第一五号証、乙第一六号証E)との間の一ミリ程度のわずかな隙間(乙第一六号証F)を通過する(ただし、SJー6Mでは、被告製品のように下から吸い込みポンプで海水を吸い込むことか無いため、隙間を通過する海苔の量は被告製品に比して少ない)。

 インペラの外周縁とインペラケースとの隙間を通過した海苔を放置すると、インペラとインぺラケースの間に海苔か滞留しインぺラの回転を妨げかねないので、SJー6Mではインペラケースに四箇所の円形の孔を穿ち洗浄機外へ汚水とともに流出させ、海苔が滞留しないような工夫を凝らしている(乙第五号証、一五号証、一六号証D)。

 右SJー6Mは遅くとも昭和五二年ころから被告会社の手により日本国内において製造・販売されていたものである(乙第五、一三〜一七号証)。また、SJー6Mと同様に、洗浄槽の底部にインペラを設けて海苔の洗浄を行う機被は他のメーカーによつても遅くとも平成四年ころから製造・販売されており(乙第五、一八、一九号証)、右製品の技術に関する公報も存在する(乙第二〇号証)。

 以上の次第で、回転板の環状スリットを利用して海苔を通過させる技術は本件出願当時公知であったものである。なお、原告は右技術が良品の海苔を製造する異物分離装置に用いられているわけでないことをもって公知技術と同一でない旨主張すると思われるが(平成一一年八月二七日の弁論準備手続きでの原告の発言)、次に述べるように、被告は対象製品が公知技術から容易に様考できると主張しているのであり、右原告の主張にはその前提において誤解がある。

二、容易推考

 本件枠許出願肪において、回転板の環状スリットを利用して海苔を通過させる技術が公知であったことに加えて、分離孔やスリツ卜を利用して、その分離孔の径やスリットの幅より大きな異物を除去する技術も公知であったことからして(甲第一六号証)、当業者が本件出願時において被告製品をこれら公知技術に基づいて容易に模考することができたものであるから、ボールスプライン事件最高裁判決(平成一〇年二月二四日)
が示す、均等論適用の消極的要件のひとつである、「対象製品等が、特許発明の特許出願時における公知技術と同一または当業者がこれから右出願時に容易に推考できたものではない」こと、に該当し、均等論を適用する余地はないことに帰する。

 すなわち、被告製品(右消極的要件に言う「対象製品」)は、本件出願当時の公知技術の、「回転板の環状スリットを利用して海苔を通過させる技術」と「分離孔やスリットを利用して、その孔の径やスリットの幅より大きな異物を除去する技術」を単に寄せ集めたに過ぎないうえ、後述するように、回転板の環状スリット自体は従来技術と同様にそのスリットの幅を利用してこれより太きな異物を除去する効果しか奏しないものであるから、右各公知技術の組み合わせによって、当業者が予期しない組み合わせの総和以上の効果をもたらすものでないから、被告製品は当業者が容易に推考することができたものである。

第三、均等論要件の欠如(非本質的部分。被告第四準備書面第一、の補充)

 均等論が本件に適用されるには構成要件Bが本件特許発明の本質的部分でないことが要件となるが、従前被告が主張したように、構成要件Bこそが本件特許発明の本質的部分である。

 この点につき、原告は「海苔はフィルム状でしかもヌメリがあるので環状スリットを用いることこそが本件特許の本質である」として、環状スリットの存在自体が海苔と異物を分離する機能を有するがごとき主張に及ぶ。

 しかし、フィルム状でヌメリのある海苔が異物よりも環状スリットをよりよく通過するがために海苔と異物の分離・除去が可能となる旨の記載は明細書のどこにも存在しない。明細書にはせいぜい、「回転板が回転しているので生海苔が詰まりにくい」と副次的な効果について僅かに言及するのみである,

 何より明細書中の【作用】および【発明の効果】の各欄に、

「第一回転板を回転させると混合液に渦が形成されるため生海苔よりも比重の大きい異物は達心力によって第一回転板と前記環状枠板部とのクリアランスよりも環状枠板部側、すなわち、タンクの底隅部に集積する結果、生海苔のみが水とともに前記クリアランスを通過して下方に流れるものである。」

との記載があり、比重の違いを利用して異物と海苔を分離させることに作用及び効果の本質があることが明細書に明記されていること、「クリアランス」はその幅より小さい異物は通過させてしまい除去できず、クリアランス自体の構造には海苔と異物を選別する機能を有しないこと(異物がクリアランスを通過しうることを窺わせる記載は明細書中にもある。6欄34行〜36行)、従来技術の欠点は生海苔と異物が同じ分離孔を通過しようとする構造となつていたがために、分離孔に異物が蓄積してしまい目詰まりを起こしこれを排除するべく洗浄装置を別途設ける必要があるという不都合があったところ、仮に海苔と異物が比重の達いにより夫々クリアランスとタンクの底隅部に集積するのでなければ海苔も異物もクリアランスに集積してしまい、結局従来技術と同じ問題点が生じてしまうこと、の諸点からすると、比重の異なる海苔と異物を達心力により分離させるという作用効果こそが本件特許の本質であり、この作用効果を実現する構造、すなわち構成要件Bこそが本件特許の本質的部分であることは明細書や従来技術等からして明々白々で疑問の余地がない。

 従って、原告は本件特許の本質に関し、明細書の記載等から全く離れて何の根拠もなく独自の主張をしているに過ぎず、右主張は到底採用の限りではないのである。

証拠方法

乙第五号証 陳述書
乙第六号証 陳述書
乙第七号証 陳述書
乙第八号証 パンフレツ卜
乙第九号証 パンフレット
乙第一〇号証 パンフレツ卜
乙第一一号証 パンフレット
乙第一二号証 パンフレット
乙第一三号証 製品図面
乙第一四号証 製品図面
乙第一五号証 製品図面
乙第一六号証 写真
乙第一七号証 意匠公報
乙第一八号証 パンフレツ卜
乙第一九号証 パンフレツ卜
乙第二〇号証 特許公報



平成一〇(ワ)第一一四五三号特許権侵害差止請求事件          (次回期目平成一一年一〇月二二日午後三時)
証拠説明書
          原告 株式会社親和製作所
          被告 フルタ電機株式会社

 右当事者間の御庁頭書事件につき、被告は被告提出証拠につき左記のとおり説明する。

平成一一年九月二七日
           被告代理人弁護士高橋譲二
           同補佐人 竹中一宣
東京地方裁判所民事第四六部A係御中

  記

乙第五号証 陳述書(原本)
  作成者 被告会社従業員伊藤利仁
  立証趣旨 被告製品及びSJー6Mの構造、機能等について

乙第六号証 報告書(原本)
  作成者 天木嗣人
  立証趣旨 被告製品の構達

乙第七号証報告書(原本)
  作成者 渡辺義郎
  立証趣旨 乙第六号証に同じ

乙第八号証パンフレット(原本)
  作成者 ニツカ電測株式会社
  立証趣旨 被告製品が本件特許発明と同様の作用効果を奏しない事実

乙第九号証 パンフレット(原本)
  作成者 株式会社川島製作所
  立証趣旨 乙第八号証に同じ

乙第一○号証 パンフレット(原本)
  作成者 ニシハツ産業株式会社
  立証趣旨 乙第八号証に同じ

乙第一一号証 パンフレット(原本)
  作成者 ベルスリーニシハツ株式会社
  立証趣旨 乙第八号証に同じ

乙第一二号証 パンフレット(原本)
  作成者 株式会社ベルスリー
  立証趣旨 乙第八号証に同じ

乙一三号証製製品図面(写し)
  作成者 被告
  立証趣旨 環状スリツ卜を用いて海苔を通過させる技術か公知であつた事       実

  説明  SJー6Mの金体図面であり、乙三号証(パンフレツ卜)と     乙一六号証を併せて参照されたい。三種類の図は夫々左上が立     面図、左下が正面図、右か右側面図である。

      立面図を見ると、上部の大きな穴から洗浄底部のインペラ二     個か見える。

      正面図の赤枠部分が洗浄機内に設定された洗浄機の位置を示     している。汚水と一部の海苔(インペラの外周縁とインペラケ     ースの間の隙間を通過したもの)は排水ホースを通って排水さ     れ、洗浄が終わった洗浄槽内の海苔は取出口    から取り出される。

乙第一四号証 製品図面(写し)
  作成者 被告
  立証趣旨 乙第一三号証に同じ
  説明 インぺラの図面である。

乙第一五号証 製品図面(写し)
  作成者 被告
  立証趣旨 乙第一三号証に同じ
  説明 インペラケースの図面であり、赤の斜線部が水抜孔である。

乙第一六号証 SJー6M写真(原本)撮影者、撮影日は表紙記載の通り。
  立証趣旨 乙第一三号証に同じ
  説明  @、A、Bは製品の外観である。Cは上部の穴から洗浄槽を     撮影したもので、底部にインペラが見える。Dはインペラがイ     ンペラケースにはめこまれている様子を取り出して撮影したも     のであり、Eはインペラを取り出してインペラケースのみを撮     影したものである。Eの4つの大きな水抜孔から汚水や海苔の     一部が下方へ流れる。FはDの一部を拡大したもので、インペ     ラの外周縁とインペラケースの内周縁との間にわずかな隙間が     あることか判る。

乙第一七号証 意匠公報(写し)
  作成者 特許庁
  立証趣旨 乙第一三号証に同じ

乙第一八号証パンフレット(原本)
  作成者 株式会社金丸製作所
  立証趣旨 乙第一二号証に同じ

乙第一九号証 パンフレツ卜(原本)
  作成者 渡辺機開工業(株)
  立証趣旨 乙第一三号証に同じ

乙第二〇号証 特許公報(写し)
  作成者 特許庁
  立証趣旨 乙第一三号証に同じ



平成一〇年(ワ)第11453号 特許権侵害差止請求事件原告 株式会社親和製作所
被告 フルタ電機株式会社
 原告準備書面(6)
平成一一年一〇月二〇日
原告訴訟代理人弁護士 松  本  直  樹同輔佐人弁理士 野  末  祐  司
東京地方裁判所民事46部A係御中

一 本質的部分でないこと

 被告は、要件Bの全体が「本質的部分」でありそれで均等侵害が否定されるというがごとき主張をしている。これはボールスプライン事件最判(平成一〇年二月二四日最高裁(第三小法廷)判決(平成六年(オ)第一〇八三号))の判示に、まったく沿っていない。

1 最判の判示

 ボールスプライン事件最判が本質的かどうかを問題としたのは、「異なる部分」である。すなわち同判決は、「特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存する場合であっても、(1)右部分が特許発明の本質的部分ではなく、〜」として、均等侵害が肯定されるための5つの要件を示した。

 その事案としても、構成要件Aと構成要件Bの各一部について被告装置では異なる点があったというものであるが、この場合に構成要件Aや構成要件Bのそれぞれ全部が本質的かどうかを問題とするのではなくて、そのうちの異なる点が本質的なものかどうかを検討した原審判決を論難していない。

2 本件における「異なる部分」

 本件の場合、要件Bが、本件発明にとって重要部分であるのは、被告が主張する通りである。しかし、被告装置は、要件Bの各要件をことごとく満たさないというわけでは、決してない。ほとんど充足していることは、争いの余地のないところであり、ただ、「内周縁内に」「内嵌め」などの点で、厳密に該当しているのかどうか、という微妙なところが争点となっているにすぎない。

 原告の主位的な主張では、被告装置はこれらの文言に(も)該当するものであるが(スリットの上に回転板が載る形でではあるが、回転板は全体としては「内周縁内に」「内嵌め」されているから)、仮に被告の主張のように該当しないとしても、それは、スリットの構成に僅かな相違があるということ、またハミ出し型については僅か1ミリほどの重なりがあるということ、によって、「内周縁内に」「内嵌め」という言葉に該当しなくなるというにすぎない。

 本件について、ボールスプライン事件で言う「異なる部分」は、ここである。これが本質的かどうかといえば、本質的部分でないことは明白である。

二 作用効果について

 被告はまた、遠心力利用の異物選別をしていないとか、小さな異物を除去できないなどと主張して、同一の作用効果を奏さないとして均等侵害を否定する主張をするが、失当である。もともと遠心力による選別は不完全なものであるところ、被告装置でも、完全ではないものの遠心力による異物選別をしている。小さな異物を除去できないというのも、非常に小さな異物は本件発明では除去できないのは仕方のないことである。なお、被告提出のビデオでは、わざと異物が十分に除去されないような調整をしている可能性がある。

1 遠心力利用の点について

 被告は、被告装置では遠心力による異物選別をしていないと主張している。しかしそんなことはないはずである。被告の装置でも、相当な速度で混合液が回転していることが観察できる。被告提出のビデオ(乙第1号証)でもその様子が良く分かる。あれだけの回転をしていれば、異物のうちで重いものは外側に行くはずであり、これによる異物の選別が当然になされる。これは本件明細書が開示している通りのことである。

 もちろん、遠心力利用による異物の選別は、完全なものではない。重い異物しか選別できないことは、その原理からいって当然である。また、重い異物についても100%というわけにはいかない。被告装置における遠心力利用での異物選別も、当然に不完全なものであろう。不完全で仕方のないことであり、それで本件発明の作用効果をゆうに奏しているのである。

 そもそも、被告が主張している構造上の相違点は、スリットの構成と、これにかかわる回転板の載り方である。スリットが水平方向(やや上向き)になっていて、その上に回転板が位置するように、僅かな立体性を持ってるという点である。これによって遠心力利用が否定されることになるなど、あり得ない。まったく非論理的な主張である。

2 スリットの機能

 この関係で付言すれば、本件明細書は、遠心力利用による異物選別を強調しているが、これは、この点が従来にはなかったものであるために強調したものである。

 異物除去の機能としては、遠心力利用での選別があるとともに、大きな異物は円周状のスリットを通過できないということによる除去があるのは、当然のことである。むしろ、異物をスリットが通過できないことによって除去されることの方が、より基本的なところである。

 これは、本件明細書が先行技術として言及している公開公報(特開平6-121660、出願人・建部司、甲第16号証)と対比して本件明細書を読めば、明白に分かることである。
この公開公報では、スリットを異物が通過できないということによって異物除去する装置で、ドラム缶状のタンクにスリットを設けたものが開示されている。ただ、この先行技術の場合には、このスリットがすぐに詰まってしまうという問題点が残っていた(この発明の場合でもこれに対する対処が検討されてはいるのだが、至って不十分な成果だった)。

 これを改良したのが、本件発明である。明細書においては、遠心力での異物選別という点は、新しい点なので強調した。また、円周状の動的スリットを利用することによって、詰まりにくくするという新たな効果も、明確に指摘してある。これに対して、スリットを異物が通過できないことによって選別除去されるということは、わざわざ強調して書いてないけれども、これは先行技術との関係から、自ずと分かることなのである。

3 被告装置の性能について

 被告は、「被告製品においては隙間より小さな異物を除去することはできず、その除去は選別機に委ねるしかない」「従って、被告製品は本件特許と同様の作用効果を奏するとは到底言えない。」と主張する(被告第六準備書面の第一)。

 非常に小さな異物については、本件発明の装置で除去できない場合があるが、これは仕方のないことである。本件発明の装置では、遠心力による異物選別と、スリットを通過できないことによる異物除去とを行うわけであるが、いずれについても、非常に小さな異物については除去するのに限界があるのは確かである。

 被告の装置も、非常に小さな異物まで除去できるわけではないと思われる。しかし、だからといって本件発明の作用効果を達成していないことには、まったくならない。

 非常に小さな砂粒などについては、別の工程で除去するものである。たとえば、被告が先行技術と主張している海苔洗浄機は、ゴミをパンチング網を通過させて洗い落とすものであるから(海苔は網を通過できない)、小さな砂粒を取り除いたりするのは得意である。甲第20号証の陳述書(窪前孝一)で説明した大型海苔貯蔵タンクでも、一般に壁の一部をパンチング網にしているので、小さなゴミを取り除くことが出来る。また、被告のパンフレット(甲第22〜25号証のいずれでも)を見ると、被告装置に続けて「良品海苔洗浄機」を組み合わせて使用するように、組み合わせて販売しているのが分かる。この「良品海苔洗浄機」は、「海苔洗浄機」の一種であり、パンチング網を通って小さなゴミが出ていくように出来ている(後述の「三 被告主張の先行技術について」を参照)。ただし、撹拌のためのモーターが上部に取り付けられているという構造上の相違がある。

 もっとも、本件発明の装置では、相当に小さな異物まで除去できることも事実である。
これは、動的な円周状スリットを利用しているので、このスリットの幅を相当にまで狭めることが出来るためである(狭くしても、海苔は極く薄いフィルム状の形態をしているので、スリットを通過することができる)。スリットの幅を狭くすれば、それだけ、通過してしまう異物を極めて小さなものに限定することができる。

4 被告提出のビデオについて

 この点で、被告提出のビデオテープ(乙第2号証)の内容には疑問がある。ビデオテープでは、どの程度の大きさの異物がどのくらいの頻度で通過してしまっているのかが確実には分からないので、断定的なことは言えないが、或る程度の大きさの異物までもが高頻度に通過してしまっているのだとすれば、それは、使っている装置を調整してわざとそのようにしている可能性がある。

 被告装置では、回転板を上下に動かすことによって、スリットの幅を広くも狭くも自由に調整することができる。本件明細書で開示されている装置の場合には、回転板ないし底板を削るなどしないとスリットの幅を変化させることはできないのに対して、被告装置では簡単にこれを調節することができるのである。甲第5号証(被告装置のパンフレット)などにも、左下の「特長」の欄に、「すき間調整がワンタッチで出来ます。」との記載がある。

 したがって、回転板の位置を若干高い目にしてスリットを広く調節しておけば、異物をどんどん通過させてしまうようにすることも不可能ではない。被告のビデオテープでは、そのような調整をしている可能性がある。

5 本件発明の意義

 なお、非常に小さな異物を取り除けないことをもって、本件発明の装置の性能が劣っているように考えるのは、誤解である。

 海苔の原藻(荒切り工程およびミンチ工程で刻む前のもの)は、厚さは極薄のフィルム状ではあるが、長さや幅はかなりある。特に長さは20センチ以上に達する。幅は品種によって違うが2センチから5センチくらいである。本件発明の装置では、余りに長いと絡んだりするので、荒切りした海苔を処理しているが、それでも長さ4センチくらいはある。
なお、ミンチ後の海苔は、1センチ角程度から3ミリ角程度の大きさになっており(堅くて品質の劣る海苔ほど小さく刻む)、それをすいて乾燥させたものが製品となる。

 海苔の原藻は、このようにかなり大きなものなので、それから小さなゴミを洗い流して取り除くのは、比較的に容易である。海苔の原藻は、普通のパンチング網から出て行かないからである。現に、被告の主張する先行技術であるところの海苔洗浄機がこれを果たしていた。

 むしろ、或る程度の大きさのある異物(プラスチック片や小エビ、海苔以外の厚みのある海草など)を除去することこそが難しかった。大きさのある異物は、海苔を通さないような網を通っていかないからである。これを解決したのが本件発明である(なお、ミンチした海苔は小さいが、ミンチの工程を経た後では異物も切り刻まれてしまっているから、除去するのはやはり困難である)。

 もっとも、旧来の手法で(すなわち洗浄機のようなものを使って)小さなゴミを洗い流すには、塩水(海水)が大量に必要になる。海苔加工場の立地条件によってはこれを得ることが難しい場合もあるので、本件発明の装置に対するニーズとしても、出来るだけ小さい異物まで除去できることが望ましいとは言える。前述のように、海苔の極薄フィルム状の性質を利用して、動的な円周状スリットを利用しているので、スリットの幅を狭めることで、このニーズに相当まで応えている。

6 乾燥海苔の選別機について

 被告は、被告装置では異物を十分に除去できないので、被告装置のユーザーは被告装置を使用したうえでさらに、乾燥した海苔製品について(自ら所有するなり他の者に処理を委託するなどして)選別機にかけているという。

 被告の主張はあたかも、被告装置が異物除去装置として意味のある働きをまったくなさないものであるかのようにも見える。仮にそうであるなら、本件訴訟のように原告が問題とするまでもないことになろうが(ユーザーに対する詐欺とはなろうが)、現実にはそういうことはない。

 被告がいう選別機というのは、原告が既に説明した、シート状の乾燥海苔製品を検査する機械のことである(原告準備書面(4)四1の第3パラグラフを参照)。これは、乾燥した海苔製品について、光学的な検査をするもので、本件発明の装置を使った場合であっても、さらにチェックの意味でこうした選別機を使用することは確かにある。しかしながら、本件発明の装置を使えば、相当程度まで異物を除去できるので、選別機が必須ということは決してない。乙第7号証の陳述書は、「あることを知っています。」と言っているだけで、実際に使っているなどとは言っていないが、これは、使ってはいないとの趣旨であるように見える。

 また、たとえ選別機を併用する場合であっても、本件発明の装置の使用の意義は大いにある。というのは、これも既に説明したように、本件発明の装置を使わない場合には、選別機でのチェックに引っ掛かる海苔が非常に多くなる(選別機でのチェックは一般的に1枚ずつの単位でなされる)。そうすると、廃棄するなり、手間をかけて(ピンセットなどを使って)異物を1つずつ取り除くなり、しなければならない。手間をかけて異物を取り除いても、どうしても海苔が痛んで綺麗ではなくなるから(ピンセットによっても痛むし、そもそも手で触るとその湿気の影響が出る)、上級品としての値段はつかなくなってしまう。したがって、乾燥海苔にするより前の段階で異物を除去する、本件発明の装置のようなものが是非とも必要なのである。被告装置のユーザーが選別機を併用しているとしても、本件発明の侵害品としての被告装置の価値をいささかも否定するものではない。

三 被告主張の先行技術について

 被告はさらに、先行技術から容易推考であるとして、均等侵害を否定する主張をしている。しかし、被告が先行技術と主張している海苔洗浄機は、スリットを利用するものではない。この点で、本件発明とはまったく違うものであり、先行技術としての意味は無い。

1 海苔洗浄機

 被告が乙第3号証以下で示している「先行技術」は、海苔洗浄機と言われるものである。海苔洗浄機というのは、家庭用電気洗濯機と極めて近似したもので、基本的に、単に撹拌するものである。

 撹拌によって、海苔の表面の劣化した層が除去され、綺麗でツヤのある柔らかい海苔を得ることが出来るようになる。またこの際に、塩水を追加供給しながら、パンチング網の外側の排水口から流し出していくので、小さな砂粒などはパンチング網を通って排出される。海苔はパンチング網を通過することがない。処理の後、海苔は正面中央の取り出し口から取り出される。

 なお、右では「洗濯機と近似した」としたが、海苔洗浄機には洗濯機そのものとしての使用法もある。海苔の養殖シーズンの終了時に、海苔を生やすのに使用した網を洗濯するのに使うのである。乙第3号証のパンフレットの冒頭にも、「海苔網」の洗浄機とも書いてあるが、これはこの趣旨である。

2 隙間A

 海苔洗浄機には、タンクの底部分に「インペラ」と呼ばれる回転翼が設けられている。
インペラを回転させる関係で、インペラとそのすぐ横の底板との間には、僅かな隙間が残されている。これが被告の主張している「隙間A」である。被告は、この隙間が本件発明のスリットと同様のものであるかのように主張している。しかしこれはまったくの誤りである。

 確かにここには隙間がある。しかしそれは、インペラを回転させる以上は、くっつけているわけにはいかないということによるものである。この隙間を通って海苔と塩水が流れこもうとしても、その先に行き場がない。被告は、第六準備書面の第二の一の第1パラグラフの末尾の括弧書き(4頁)で、「ただし、SJ-6Mでは、被告製品のように下から吸い込みポンプで海水を吸い込むことが無いため、隙間を通過する海苔の量は被告製品に比して少ない」とするが、少ないのではなくて、基本的にそんなものは存在しない。

3 穴B

 被告は、インペラケースに「穴B」が開いていて、そこを通過していくと主張するようである。インペラケースに4つの穴が開いているのは事実である。しかし、その穴の直下間近には、底板がある。流れて行けないようになっているのである。添付の原告説明図5は、乙第4号証の図面をもとにして、こうした構造であることを色分けなどによって図示したものである。

 さらに、被告の海苔洗浄機の構造を明白に説明するビデオテープを提出する(甲第19号証、そのナレーションを録取して文書化したものを甲第19号証の2とする)。また、被告提出の意匠公報(乙第17号証)などを見ても、この構造が確認できるところである。

 それではインペラケースの底の穴(穴B)は何のためにあるかといえば、これは、装置の使用を終わってタンクから塩水を流し出した際に、最後にインペラケースに塩水が残っている状態になるのを避けるためである(残っていると、塩が結晶として析出して、後日に次に使用のためにインペラを回転させる際に障害となる可能性がある; これを避けるために、インペラケースに塩水が残らないように、これを落とすためにだけ穴が設けられている)。

 インペラケースに残った塩水は、穴Bを通過して、底板の上(インペラケースの下)を横に出て、結局はタンク外に出ることができる。穴Bのすぐ下には、間近に底板があるので、まっすぐ下には行けない。

4 海苔洗浄機使用状態での穴B

 右はあくまでも、タンクから塩水を抜いた際の水の動きである。タンクに塩水が入れられている状態(海苔洗浄機使用状態)においては、タンクの中が塩水で満たされて、インペラケースの全体が塩水にどっぷりと浸かっている状態であるから、隙間Aや穴Bを通過する流れというのが積極的に起こる理由はなく、塩水も海苔もここを通過したりはしない。

 むしろどちらも海苔は通過しないことが望ましいところである。というのは、仮に海苔がインペラの下側に入ってくると、インペラを支える軸に海苔が絡み付いてしまう可能性がある。もっとも、ここには被告が主張するような流れは無いので、海苔が入ってくることも殆どないだろう。

5 隙間Aの存在意義

 以上のように、海苔洗浄機はスリット利用の装置ではない。被告の主張は誤っている。
本件発明とはまったく違うものである。

 さらに付言すると、海苔洗浄機において隙間Aのように狭い隙間を介して位置するようにインペラが保持されているのは、インペラの軸を露出させておくと、軸に海苔が絡み付いてしまう可能性があるからである。これは、家庭用の電気洗濯機を考えてみても分かることである。洗濯機の底に位置するパルセーター(回転板)が、仮に、底から離れて位置していたら、その軸に洗濯物が絡み付いてしまうだろう。だから、底板にほとんど接するような位置に取り付けられているのである。海苔洗浄機の場合も同様である。

6 先行技術としての海苔洗浄機

 海苔洗浄機は本件発明とまったく違うものだが、回転板がタンクの底に存在するという点では、似たように見えるところがあることは否定しない。海苔洗浄機が先行技術であると主張するのも、被告の自由ではある。

 しかし、肝心のところが無いので先行技術としては意味がなく、およそ当を得ない議論である。

 なお被告は、「右技術が良品の海苔を製造する異物分離装置に用いられているわけでない」(被告第六準備書面の第二の一の最後のパラグラフ、6頁)ということは認めて、容易推考を主張するのだと言うが、その議論の内容としては、海苔洗浄機が「回転板の環状スリツ卜を利用して海苔を通過させる技術」(同書面の第二の「二、容易推考」の章の第1パラグラフ、6頁)を内容としていると主張している。これは事実に反すること、以上に説明したとおりである。海苔洗浄機ではスリットの利用が無い。本件発明に結び付く、動的スリットを海苔が通過し易いことの知見を獲得するきっかけにもならないであろう。

 さらになお、海苔洗浄機に関する被告の主張は、少し考えてみると、それ自体で非常に奇妙なものであることを指摘しておきたい。被告の主張では、隙間Aを通過した海苔は「洗浄機外へ汚水とともに流出させ」(被告第六準備書面の第二の一の第2パラグラフ、5頁)
られる。事実としては、隙間Aを通じる流れは無いので、作業中にはこうして捨てられる海苔も無いのであるが、たとえ被告の主張を前提としたとしても、どうしてこれで「回転板の環状スリツ卜を利用して海苔を通過させる技術」(前出)ということになるのであろうか? 通った海苔を捨ててしまうのでは、「通過させる技術」とは言えないと思われる。これは、被告としては海苔洗浄機が「通過させる技術」であったとしたいが、実際の構造に即した議論としてはそんな主張を維持することは出来ず、議論は破綻した、ということであると見られる。

四 被告装置の型番など

 被告装置の型番としては、もともとは「FD-380K」などの型番が使われていた。
そこで、原告提出の物件目録ではこうした番号をあげたし、被告も、被告提出の図面などにおいてこうした番号を摘示している。

 ところが、原告が最近になって発見したところでは、近時においては被告は同じ装置に対して別の型番を付けて販売している模様である。乙第22号証以下のパンフレットを見ると、「D-1C」などの型番が使われている。

 装置としては、これらは「FD-380K」などと基本的に同一のものである。これは、D-1Cのパンフレットである甲第24号証が、その写真はFD-380Cであることから分かる(写真をよく見ると、銘板のところに「FD-380C」と書いてあるのが見える;
甲第24号証の拡大コピーをご参照いただきたい)。なお、甲第25証はD-1Lのはずであるのに、ここでも「FD-380C」の写真が使われているのは疑問であるが(スペックを見ると、D-1LはFD-380Cよりも大きな回転板を使ったもので、違う機械のはずである)、大差は無いということで流用したものと見える。

 原告が調査したところでは、次のような対応関係がある。上段が旧型番、下段が新型番である。
FD-380C ↓ D-1C
FD-380S ↓ D-2S
FD-380K ↓ D-2K
FD-380J ↓ D-4J

 新型番のうち、D-1LとD-2Lは、旧型番にそのままに該当するものは無かった。
といっても、回転板が大きくなったというだけのものであり、基本的な設計は他のものとまったく同様である。右記のように、同じ写真を流用しているところにも、実質的な違いがないことが伺える。

 新しい型番を採用していることが分かったので、添付のように物件目録をさらに改めることにする(物件目録1と2の各第5案)。この物件目録では、ご覧のように、従来の「FD-380K」などの型番に加えて、「D-1C」などの番号を列挙した。対象とする現実の装置を実質的に変える趣旨ではないこと、右に説明したとおりである。

 また、上側の図面については、被告第四準備書面の別紙二の図面を使用した。被告の説明によれば、吸い込みポンプなどの記載を追加しただけのもので、従前の図面と基本的に違いはないが、こうした追加がある方が「正確」であると被告は言っているので、それにあえて反対しない、という趣旨である。

五 被告装置の設計の変化 (ハミ出し量の変遷)

 被告の第二準備書面(平成一一年二月一七日付け)では、以前は一致型(被告の用語法では「重なり型」)を作っていたが、現在ではハミ出し型だけを製造販売している、と主張していた。すなわち、2頁以下で次のように言っている:

「第一、被告製品の実施状況について / 被告は一時期、右原告準備書面(2)添付物件目録第3案記載のような、回転板の外周縁が選別ケースの外周縁と上から見てほぼ一致しているタイプのもの(以下「重なり型」と言う)を製造・販売していたが、現在では回転板の外周縁が選別ケースの外周縁より外へはみ出しているタイプのもの(以下「はみ出し型」と言う)のみを製造・販売している。」

 これに対して被告の第五準備書面(平成一一年八月二五日付け)では、ハミ出し型の方が一致型よりも古いとしている。すなわち、2頁において次のように言っている:

「第一、被告製品の販売時期 / いわゆる「はみ出し型」の製造・販売時期は平成一〇年八月以降である。 / 「重なり型」は、右「はみ出し型」の販売後、ユーザーの要望に応じて回転板の一部を削つて手直ししたもので、その時期は平成一〇年一一月〜一二月である。」

 右は矛盾しているが、実はこれは、ハミ出し型と言っているものの中に2種類(またはそれ以上あるのかも知れないが)のものがあることによると思われる。

 初期の段階では被告は、8ミリ程度のハミ出しを持ったハミ出し型を作っていた(または試作していた)模様である(前期ハミ出し型)。これが、訴状ないし原告準備書面(1)の段階で原告が差止請求の対象としていたものである。

 ところが被告は、一九九八年秋頃、ハミ出し型をやめて、一致型を始めた。これは、ハミ出し型は、スリットの構造として不都合があったためと思われる。これを原告準備書面(2)で指摘した。

 しかし、それでは非侵害の議論が難しいと考えてのことであろうと思われるが、その後、僅かに1ミリ程度だけのハミ出しを有したものを作り始めた(後期ハミ出し型)。現在もこれを製造・販売していると見られる。

 現在訴訟の対象としているのは、右の装置のうちの、一致型と後期ハミ出し型である。
前期ハミ出し型でも侵害となるというのが原告の見解であるが、後期ハミ出し型の場合には、ハミ出しの量がより一層僅かなものであり、侵害が成立するべきこと、なお明らかである。もちろん一致型については侵害が成立することが当然である。

証拠方法
 甲第19号証 ビデオテープ(被告主張の先行技術である海苔洗浄機SJ-6Mを撮影)
 甲第19号証の2 右ビデオのナレーション(窪前孝一による)の録取書(原告代理人・松本が作成)
 甲第20号証 陳述書(窪前孝一作成、SJ-6Mを含む海苔洗浄機の仕組みと歴史などについて)
 甲第21号証 パンフレット(原告の総合パンフレット、カラー印刷のA3の2つ折り裏表でA4の4頁相当であるが、そのうちの第1頁と、右上に海苔洗浄機の出ている第3頁の写しを提出)
 甲第22号証 パンフレット(被告の一九九九年四月付けの総合パンフレット、カラー印刷のA4の6頁相当であるが、第1頁と、ダストールの出ている部分と、海苔洗浄機の出ている部分と、右下に日付の出ている最終ページの写し(これだけはやや縮小してコピー)を提出)
 甲第23号証 パンフレット(被告の一九九九年六月付けのダストールの総合的なもの、カラー印刷のA3の2つ折り裏表でA4の4頁相当、全頁コピー(A4の4頁として)を提出)
 甲第24号証 パンフレット(被告の一九九九年三月付けのダストールD-1Cのみのもの、薄緑色の用紙に白黒印刷のA4の片面であるが、その等倍コピーと拡大コピー(200%)を提出)
 甲第瘴&-&5号証 パンフレット(被告の一九九九年三月付けのダストールD-1Lのみのもの、ピンク色の用紙に白黒印刷A4の片面であるが、その等倍コピーと拡大コピー(200%)を提出)
 右各証拠方法の写し(いずれもA4片面の白黒コピー、部分については右で括弧書きしたとおり、甲第19号証の2と甲第20号証については、裁判所用は原本)を添付する(裁判所へはさらに写しを4部追加する)。

以上