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東京高裁平成10年9月22日判決

平成10年9月22日判決言渡/同日判決原本領収/裁判所書記官 中村貢
平成8年(行ケ)第326号 審決取消請求事件

 本ページ(ファイル)は、上記判決を、原告代理人である私(松本)がOCRしてHTMLに変換したものです。なお、平成10年10月1日付けの職権での更正決定の内容を取り込んであります。


判決

アメリカ合衆国,ニューヨーク州,フリーポート,バッファローアヴェュー 272
  原告 リーローナル インコーポレーテッド
  代表者 ロナルド オストロウ
  訴訟代理人弁理士 長谷川芳樹 / 同吉井一男 / 同沖本一暁 / 同弁護士松本直樹

東京都千代田区霞が関三丁目4番3号
  被告 特許庁長官 伊佐山建志
  指定代理人 後藤千恵子 / 影山秀一 / 同廣田米男

主文

 特許庁が平成6年審判第17485号事件について平成8年5月20日にした審決を取り消す。

 訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第1 原告が求める裁判

 主文と同旨の判決

第2 原告の主張

 1 特許庁における手続の経緯

 原告は、昭和60年12月28日に発明の名称を「スズ−鉛電気メッキ溶液およびそれを用いた高速電気メッキ方法」とする発明について特許出願(昭和60年特許爾第293667号。1985年9月20日アメリカ合衆国においてした特許出願に基づく優先権を主張。以下「本願発明」という。)をし、平成2年9月18日に出願公告(平成2年特許出願公告第41589号)されたが、特許異議の申立てがあり、平成6年2月17日に拒絶査定を受けたので、同年10月17日に拒絶査定不服の審判を請求し、平成6年審判第17485号事件として審理された結果、平成8年5月20日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決を受け、同年9月2日にその謄本の送達を受けた。なお、原告のための出訴期間として90日が付加された。

 2 本願発明の特許請求の範囲1の記載

 改良されたスズの酸化に対する抵抗力を有するスズ−鉛合金の電気メッキ用電解質溶液であって、水;所定量の可溶性二価スズ化合物及び可溶性二価鉛化合物;実質的に3以下のpHの溶液を与えるのに充分な量の可溶性アルキルスルホン醸;溶液中にすべての構成成分を溶液状に保持して実質的に32℃以上の曇り点を有する電解質溶液を与えるための湿潤剤としての実質的に8モル以上の酸化アルキレンを有する可溶性酸化アルキレン縮合化合物;及び二価のスズから四価のスズへの酸化を防止又は抑制するために充分な量のジヒドロキシベンゼンの位置異性体を含む前記スズ−鉛電気メッキ電解質溶液

 3 審決の理由

 別紙審決書「理由」写しのとおり

 4 審決の取消事由

 審決の理由の要点は、本願発明は、本出願前に出願され本出願後に公開されたものの願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された発明(以下「先願発明」という。)と同一であるから、特許法29条の2の規定に該当するというにある。

 しかしながら、先願発明の発明者は、本願発明の発明者と同一であるから、審決の認定判新は誤りである。

 すなわち、先願発明の願書添付の明細書には、先願発明の発明者は「オパスカー,ボキサ」(以下「オパスカーら」という。)と記載されているが、オパスカーらは本願発明を知った後これを模倣して先願発明の特許出願をしたのであって、このことは、オパスカーらの DECLARATION(甲第2号証。以下「本件陳述書」という。)によって、疑いの余地がない。したがって、先願発明の発明者と本願発明の発明者とが同一と認定すべきことは当然である。

 ちなみに、本件陳述書に関する被告の主張は、要するに先願発明は本願発明を知らずにされた、いわゆる並行発明であるということに帰着する。しかしながら、同一の発明が互いに無関係に並行して完成することは、理論的にはありえても、現実にはほとんど存在しないことであるし、そもそも、本願発明の実施品である原告の商品「ソルダロン」が1982年に発売されており、その優秀性は、先願発明の優先権主張の基礎となる1985年6月以前に既に周知となっていたのであるから、被告の上記主張は客観的な事実にも反するものである。

第3 被告の主張

 原告の主張1ないし3は認めるが、4(審決の取消事由)は争う。審決の認定判断は正当であって、これを取り消すべき理由はない。

 原告は、先願発明の発明者は本願発明の発明者と同一である旨主張する。

 しかしながら、先願発明の願書添付の明細書の発明者の欄には「ヴィンセント シー オパスカー,ジョージ エス ボキサ」と記載され、一方、本願発明の明細書の発明者の欄には「フレッド アイ ノウベル,バーネット ディー オストロウ,ディヴィド エヌ シュラム」と記載されている。そして、

  a 詐欺の行為により特許を受けた者には懲役などの処罰規定(特許法197条)があること

  b 先願発明は米国においてした特許出願に基づく優先権を主張しているが、米国における特許出願には自らが発明者である旨の宣誓書が必要であることからすれば、オパスカーらを先願発明の発明者と認定すべきことは当然である。

 この点について、原告は、本件陳述書を援用している。

 しかしながら、本件陳述書は、先願発明の優先権主張の基礎となる米国特許出願の手続中に、先願発明の最初の発明者が本願発明の発明者であることを知った事実を述べているにすぎず、先願発明が本願発明を摸倣したものであることを認めたものでない。そして、先願発明は本願発明を模倣したものである旨の原告の主張が認められるためには、原告の商品「ソルダロン」が本願発明の正確な実施品であること、「ソルダロン」を分析することによって先願発明の構成に到達できることが具体的に証明されねばならないが、本件においてはそのような証明は全くされていない。

理由

第1

 原告の主張1(特許庁における手続の経緯)、2(本願発明の特許請求の範囲1の記載)及び3(審決の理由)は、被告も認めるところである。

第2

 そこで、原告主張の審決取消事由の当否を検討する。審決の理由の要点は、本願発明は先願発明と同一であるが、本願発明の発明者が先願発明の発明者と同一であるとは認められないというにある。しかしながら、甲第2号証によれば、オパスカーらの作成に係る本件陳述書には、

  a 先願発明の優先権主張の基礎の一つとしている米国特許出願(以下「シリアル749,176出願」という。)の前に、「アルキルスルホン酸とその添加剤を基にした電気メッキ溶液」が、原告によって商品化されていることを知っていたこと

  b シリアル749,176出願の審査手続において原告の米国特許が引用された結果、自らがシリアル749,176出願に係る発明の最初の発明者でない旨を知ったこと

  c 特に、アルキルスルホン酸を、スズ塩,湿潤剤及びジヒドロキシベンゼン化合物から成る酸化防止剤とともに使用する技術は、フレッド アイ ノウベルほか2名の発明であることを知ったこと

  d そのため、先願発明の特許出願は放棄されたこと

  e 以上の点からすれば、先願発明の真の発明者は、フレッド アイ ノウベルほか2名であるから、先願発明の発明者は本願発明の発明者と同一であること

が記載されていると認められる。

 これらの記載を総合すれば、先願発明の発明者がオパスカ一らではなく、本願発明の発明者であるフレッド アイ ノウベルほか2名であると認定するのが当然である。他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

 この点について、被告は、先願発明は本願発明を模倣したものである旨の原告の主張が認められるためには、原告の商品「ソルダロン」が本願発明の正確な実施品であること、「ソルダロン」を分析することによって先願発明の構成に到達できることが具体的に証明されねばならない旨主張する。

 しかしながら、審決が本願発明は先願発明と同一である旨を認定し、かつ、先願発明の願書添付明細書にその発明者として記載されているオパスカーらが、先願発明の真の発明者は本願発明の発明者であることを、前記のように無条件で自認している以上、本願発明が特許法29条の2の規定に該当しないとするために、原告に対して被告が主張する上記のような事項の証明まで求める必要はないというべきである。

 そうすると、本願発明が特許法29条の2の規定に該当するとした審決の認定判断には、明らかな誤りがあるといわざるをえない。

第3

 よって、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は、正当であるから、これを認容することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。

 (口頭弁論終結日 平成10年9月8日)

 東京高等裁判所第6民事部

 裁判長裁判官 清永利亮 / 裁判官 春日民雄 / 裁判官 宍戸 充


<以下は別紙>

理由

1.手続の経緯・本願発明

 本願は、昭和60年12月28日(優先権主張1985年9月20日、米国)の出願であって、その発明の要旨は、特許法第17条の3第1項の規定によって平成6年11月16日付手続補正書によって補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲第1項乃至第10項に記載されるとおりのものと認められ、その第1項に記載された発明は次のとおりである。

 「改良されたスズの酸化に対する抵抗力を有するスズー鉛合金の電気メッキ用電解質溶液であって、水;所定量の可溶性二価スズ化合物及び可溶性二価鉛化合物;実質的に3以下のpHの溶液を与えるのに充分な量の可溶性アルキルスルホン酸;溶液中にすべての構成成分を溶液状に保持して実質的に32℃以上の曇り点を有する電解質溶液を与えるための湿潤剤としての実質的に8モル以上の酸化アルキレンを有する可溶性酸化アルキレン縮合化合物;及び二価のスズから四価のスズへの酸化を防止又は抑制するために充分な量のジヒドロキシベンゼンの位置異性体を含む前記スズー鉛電気メッキ電解質溶液。」
(以下、この第1項に係る発明を本願発明という。)

2.当審の拒絶理由

 一方、当審において、平成7年9 月1日付で通知した拒絶の理由の概要は、次のとおりである。

 本件出願の発明は、その出願の日前の出願であって、その出願後に公開された下記の出願の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された発明と同一であると認められ、しかも、本件出願の発明者がその出願前の出願にかかる上記の発明をした者と同一であるとも、また、本件出願の時にその出願人がその出願前の出願に係る上記特許出願の出願人と同一であるとも認められないので、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。

 特願昭61‐112819号出願

 (特開昭62‐4895号公報参照)

 :昭和62年1月10日特許庁発行参照

[備考]

 引用例には、二価スズ塩及び二価鉛塩と、アルキルスルホン酸を主浴成分とし、界面活性剤であるポリオキシエチレン縮合物と、酸化防止剤としてカテコールを含むスズー鉛電気メッキ電解質溶液(特許請求の範囲第1項及び第16、17項参照)、及び、上記成分にさらに改良成分を添加したものが示され、さらに、これらを用いて電気メッキする技術も記載されている。

 (上記ポリオキシエチレン縮合物は、「有用なものとして、約10モルのエチレンオキサイドと1モルのテトラメチルデシンジオールとの反応によって得られる生成物」(公報第6頁参照)と記載され、或いは、「実施例3及び5等に用いられるエチレンオキサイド」(同第12頁参照)をみれば、これは、本願発明で用いるものと同等のものである。)

 そして、上記事項は、引用例の優先権主張の基礎の1つとなった米国出願749176号(1985年6月26日出願:これは、引用例の優先日となる。)にも記載されている。

3.当審の判断

 請求人の意見書による主張を検討しても、本願発明の発明者が、引用例に記載された発明の発明者と同一であるとは認められない。

<別紙終わり>


これは正本である。

 平成10年9月22日/東京高等裁判所第6民事部/裁判所書記官中村貢(印)


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