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2005年03月19日
社会
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視点:
捜査と自殺 「告白する正義」広めよう

 西武鉄道前社長が自殺した。株の名義偽装をめぐる疑惑を捜査中の東京地検特捜部から、連日のように事情聴取されていたという。

 ロッキード事件での元首相の運転手をはじめ著名人が絡む大事件が起きるたびに、自殺者が出るのはやり切れない。とくに“巨悪”とは考えにくい関係者が犠牲になるのは、痛ましい限りだ。自殺した前社長も官僚出身で、西武グループでは外様的な存在だった。疑惑の核心に、果たしてどこまでかかわっていたのだろうか。

 地検関係者は「無理な調べもトラブルもなかった」としている。そうだろうが、前社長にはつらい面があったに違いない。結果的に事件関係者を死なせてしまった以上、事情聴取する側に、人権や精神面での配慮が乏しかったと考えるのが筋だろう。

 自殺した参考人や被疑者の真情にははかりかねるものがある。前社長の場合も家族あての遺書があったが、詳しい動機は不明だ。だが、一般的には人格やプライドを傷つけられたことから生じる心身の疲労や、秘密を自分の口から暴露したくないとの思い、あるいは暴露したことへの悔悟の念などが作用するといわれている。

 事情聴取や取り調べに際して、これまで以上に絶体絶命の窮地に追い込まぬような配慮と工夫が求められることは言うまでもない。取調室という密室でのやり取りが疑義を生じさせることに照らせば、折から進行中の司法改革でも多くの人々から求められている取り調べの可視化に向けた改革が急務だともいわざるを得ない。弁護士の同席も幅広く認めるべきだ。

 一方で、組織や上司が不正を働いた場合でも、口をつぐむことを是とするゆがんだ忠誠心や義理立てを許さぬ環境を整える必要を痛感する。公益通報者保護法が成立するなど内部告発した者を守る方策も講じられつつあるが、身内の罪や恥を外部に漏らすと裏切り者扱いするような風潮は根強く残る。被疑者、参考人の自殺とも無縁ではない。ひいては社会的損失につながることも、三菱自動車のリコール隠しなどで明々白々だ。

 折も折、富山地裁が内部告発した後、約30年間も社内で冷遇されていた運輸会社員の損害賠償請求を認めたが、警察の裏金作りの実態を明かした愛媛県警の巡査部長は「報復人事を受けた」と訴えている。この際、刑事司法の場から「犯罪や違法行為は人情やしがらみを断ち切ってでも明かすのが正義」とする考え方を広めたい。そのために重大な証言や告白をした者の刑を減免する司法取引の導入を検討すべきではないか。

 司法取引は日本の風土にそぐわない、とされてきたが、実際の捜査現場では一種の取引が行われなかったというわけでもない。法が是とすれば、社会の風潮も変わる。捜査効率を上げるためにも、ルール化すべき時期だと思う。

毎日新聞 2005年2月28日 0時09分

毎日新聞速報から

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