Last Modified: 2006年05月28日16時50分 、ウェブページ掲載: 2005年11月17日(随時加筆予定)

一太郎事件/
特許を無効とした控訴審判決へのコメント
(ヘルプアイコン特許侵害事件、松下電器xジャストシステム、 2005年9月30日の知財高裁判決を読んで)

By 松本直樹 (御連絡はメールでホームページ(http://homepage3.nifty.com/nmat/index.htmの末尾にあるアドレスまで。)

 一言でいうと、もっともな高裁判決と思いました、地裁判決についてこういう話 (3. 有効性の疑問) と思っていましたから。 控訴審: 2005年9月30日知財高裁判決そのキャッシュ

参考・地裁判決: 2005年2月1日地裁判決(キャッシュ)それへの私のコメント さらに参考・2004年8月31日地裁判決 参考文献として、ITmediaの記事が全体について詳しいです。そのキャッシュ1同2

1. 高裁判決の概要など

  地裁の時に比べて先行技術の証拠が追加されて、それで無効になったという格好です。その中で結局根拠になったのは、ヒューレット・パッカード(HP)のニューウェーブでした。

1.1 他の先行技術の問題点

 他の先行技術がどのあたりがダメなのか、裁判所の判断が書いてなくてハッキリしませんが、ヘルプモードになった後で、フィ機能アイコン自体”をクリックすることでその機能アイコンの説明が出るのか、というのが問題のようですね。ヘルプモード中でクリックできるアイコンが、特にそれ用に出ているもの、という方が普通のようです(または、そこがハッキリしない文献)。

 つまり、ヘルプモードに入った後で、機能アイコンそのものをクリックすることでそのアイコンの説明が出るというのではなくて、別のアイコン(でも名前とかデザインとかで機能アイコンと対応が分かるもの)をクリックするようになっているみたいなのです。要するに、ヘルプの中でいろいろ説明を選べるようになっている、その選択の際にアイコンなどをクリックするようになってはいるものの(これはある意味で、ヘルプとして当たり前です)、機能アイコン自体というわけではない、ということですね。

 そうだとすると、ニューウェーブがかなり貴重で、松下も惜しいところだったという感じです。でも私は、既に書いていたように、ヘルプモード先設定が出ている以上は、かなり疑問な特許だったと思うのですが。

 私は、こういう点でも、地裁段階で既に出ていたヘルプキー先押しがかなり近いと思うのですが、画面上ではなくてキーボードだという違いがあるのは事実です。

1.2 ニューウェーブについて

 それから、ニューウェーブについても、ヘルプモードに入るための指示が、いわゆるアイコンではなくてメニューバーからの選択なのですね。この相違は、この当事者間の前の訴訟で絵がついていない場合には(単なる「?」だけなら)アイコンでないとして非侵害としたケースに従えば、間違いなく相違点です。

 しかしそれはクレームでアイコンとの要件を規定しているためでだけで、進歩性を考えるについては、メニューバーからアイコンに変えるのも容易、とされました。

2. ニューウェーブと言えば....

 無効の根拠となったHPのNewWaveは、日本バージョンは無かったと思いますが、私はたまたま記憶があります。日本版が無くて知られていないソフトですが、この文脈では出てきてもおかしくないものののハズ。

 というのは、私のページに、「コンピュータ関係の創作保護についての最近の米国での話題 /(ロータス対ボーランド事件およびアップル対マイクロソフト事件)」というのが掲載してありますが、これのアップルの件で出てくるのです。このアップルの件は、私がカリフォルニアにいた際の事務所が当時担当していたケースですが、マイクロソフトともに特に相手にしていたのが、HPのニューウェーブだったのですよ。

 当時は、ウィンドウズがまだぜんぜん一般的でなかったころで、さらにそこでの環境を整えるソフトであるニューウェーブなんて知らなかったですから、それって何? と、T君(スタンフォード新卒のアソシエイト)に説明してもらったのを思い出します。ウィンドウズの使用環境ソフトで、ランチャーの高度なもの、ということでしょうか。大胆に言えば、昔のウィンドウズ自体もランチャー+αみたいでもありましたから。

3. 大法廷判決の意義は?

 さて、高裁がこの事件を取り上げた意義は、何だったのでしょうか。また、この判決で何を伝えたかったのでしょうか。

 高裁の意図は分かりませんが、これらの結果を見て思うことは、先行例調査を徹底してやることの重要性です。まあ私は、地裁で既に出ていたキーボードでも結構良いとは思っているのですが、それでも、こうして一層近いものが現にあるのですから、早くからもっとちゃんと調査するべきだったのでは、とは言えそうです。

 そうは言っても、ニューウェーブは日本で必ずしも知られていないソフトということもあって、いかにも難しいというのは言えます。良く見付けてきた、という見方もあるかも知れません。

 でも、見方によっては、それほどに珍しいものではないのです(上記のような歴史に鑑みて)。また、ニューウェーブの方が近かったようではありますが、ほかのマックのものもそれなりに良い線は行っていたようなので、そちらもちゃんと調べなかったのは不十分、といわれそうです。

 もっとも、ソフトの昔のものを調査するというのは、結構困難だったりはするのですが。

4. 改版履歴

 2005年11月12日〜17日 ウェブページ掲載。FLIC のメーリングリストで話題になってやっと書きました。

以上
http://homepage3.nifty.com/nmat/IconCom.htm
松本直樹のホームページ(http://homepage3.nifty.com/nmat/index.htm)へ戻る
御連絡はメールでホームページの末尾にあるアドレスまで。
(HTML originally created on 2 Oct 2005 JST
by WZ5.02D with xhtml)