Last Modified: 2007年08月16日11時19分 、ウェブ頁当初掲載: 2007年3月28日

弁理士能力担保研修コメント07年分
〜特定侵害訴訟代理業務のための研修の講師としてのコメント〜

By 松本直樹 
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 以下に、07年のコメントを書きます。いただいたご質問への返事のメールと、私の掲示板での議論を、いずれもここに掲載する予定です。

 なお、04年分(メール)はここにあります。また、弁理士能力担保研修の掲示板(04年分)もアップしてあります。05年分および06年分は、このファイルです。

1. これまでの試験問題を見て(07年3月)

 昨日(07年3月27日)、本年の能力担保研修講師の初会合があり、これまでの経緯および経過や今年のやり方などについてお話を伺い、また多少の打合せに加わったのですが、その中で、これまでの試験の問題の実物を拝見し、加えて昨年の問題についての解説を聞きました。それで思ったことを、以下に簡単にメモしておきます。

1.1 試験の答え方

 まず、小問に関しては、問に答えること、が重要です。試験の回答の態度として当たり前の話ですが、とにかく、問題文を良く読むことが肝腎です。たとえば、その状況での和解の意義を問われた場合に、一般論で答えるのでは、ダメです。そこでの話をちゃんと分析しなくてはいけません。

 起案(大問)について思ったのは、かなり定型的だな、ということです。書くことで重要なのは、要するに、イ号の実際と、それのクレーム要件への当てはめ、に尽きます(権利の存在などもありますが、簡単です)。イ号の実際については、その物を説明した何らかの文章が与えられていますから、そこから言葉をとってきて、ただ文章の区分けの仕方をクレームに対応させやすいように工夫して、まとめる、というだけの話ですね。参考とするべき文章がどれなのかは、明確に分かる形で提示されていますから、決して難しくありません。ここでクレームの言葉などを使ってしまうと、おかしなことになります。それだけが重要です。

 訴訟で認定されるものとしては、権利と、事実と、それらの当てはめ、があり、そこからその事件においての具体的な請求権が帰結されるかどうかが、審理され判断されるわけです。それが侵害事件においては、権利のところは簡単な話で、「事実」がイ号に関してのものとして微妙なものです。そしてそこは生の事実を主張する、ただクレームに対応がつくようにまとめる、というのが要件事実的な把握、ということになるわけです。

 昨年までの自分の講義を振り返ると、侵害訴訟での事実の扱いなどについては、いつも意識してお話ししてきたつもりですが、与えられた材料の中からどのようにまとめるのか、という話は、十分にしていなかったような気もしてきます。それをお話しすれば、より実際的だったのかな、と思い直しています(私の担当は最初の導入なので、書き方を話す場面もないのかも知れませんが)。まあそれは、宿題や起案をやって解説を聞いていれば、自ずと把握される話だとは思うのですが。またそういう形で身につけないと、実際に分かったとは言えない、また実際に出来るようにもならない、とは思います。

 請求の趣旨を書かせる起案も、あるにはありますが、これはさすがにやさしいでしょう。

1.2 昨年(H18)の第2問、商標法の問題: 一般条項の考え方

 この初会合のときに、N先生により、昨年(H18)の第2問の商標法の問題についての解説がありました。解説なんですが、ナンカ言い訳しているような話の具合でもありました。それというのは、この問題は随分と出来が悪かったみたいで、この試験の趣旨からすると難しすぎるのではないか、という批判があったみたいです。

 思うに。一般条項での解決を返事させるものですから、確かに難しい面はあるのですね。試験の受験者としては、一般条項を持ち出すのには躊躇するというか、迷うところがあるとは思います。

 でも、商標法だと思うと、これも不思議な話ではないですね。このくらいのことがないと、余りにも、類非の話だけでつまらないことになってしまう可能性があります。また、特許の場合のキルビー抗弁と言うほどの定着ではないにしても、ここで出てきた一般条項の使用は、まあ、登録主義の限界として商標法では定型的とも言える話、とも思います。

2. 法廷での退廷の順序

 ご質問を受けた事項で、ビデオを見直したらすぐ分かったことがあったので、書いておきます(些末といえば些末な話ですが)。

 ビデオの中で、裁判官が退席するよりも先に各代理人が引き上げていってるように見えるけれども、どうしてか? という質問をいただきました。その際には、“別にわざわざではないんじゃないの? ”といった趣旨のご返事をしましたが、ビデオを見直してみたら、これはそうではないですね。少なくとも第1回期日の法廷での場面では、裁判官の方は続けて別の事件があるという積もりのように思います。

 実際、弁論の場合には同一の時刻に数件が指定されていることが珍しくなく(この話はしたかと思いますが)、その場合には代理人が先に来た事件から順番に弁論を次々と行うという、という仕儀になります。その間、陪席裁判官が交替することはあっても、基本的に裁判官がわざわざ退廷したりしません。ビデオでは、そのあとに何をやっているのか今一つはっきりしませんが、弁論または証拠調べが続けてあるという前提で場面を撮影しているように見えます。

 ビデオでの法廷の場面は、もう一つ、準備手続きのあと、証人調べをする際のものがありますが、こちらでは、和解協議の日程を決めたあと、裁判官が先に正面裏側の出入り口から先に退席しています。証人調べの場合は、続けて他の事件が入るということはないですから、こういう具合になるのですね。リアルな演出です。

3. 均等論の要件事実、など

日付: 2007/06/03(日) 23:31 件名: 弁理士会能力担保研修に関する質問事項 弁護士 松本直樹 先生 弁理士会の能力担保研修では 大変お世話になりました。 特許法に関する先生のお考えに接することができ、 いろいろ刺激を受けました。 講義をどうもありがとうございました。 特に、クレームの構成要件と 過失における主要事実とのアナロジーには、 大変興味を覚えました。 さて、質問がありますのでよろしくお願い致します。 講義において 均等論の5要件のお話のところで 判例の「本質的でない」では、まだ抽象的過ぎて 要件事実(主要事実)の域に達していないようなことを仰っていたと記憶してお ります。 そこで、 要件事実(主要事実)にたり得るための判断基準を教えていただけますか。 (「本質的でない」をどこまでブレイクダウンすればよいのか) (訴状を書く場合、どこまで記載すればよいのか) 有斐閣 法律学小辞典第4版には 要件事実とは「発生要件に該当する具体的事実」 とあるので、 ブレイクダウンしていき、 具体的な事実になったところで、要件事実にたり得るのでしょうか。 さらにブレイクダウンしたものが間接事実と考えてもよろしいでしょか。 なお法律学小辞典には 「要件事実は法規の要件そのままの抽象的事実であるとして 具体的事実である主要事実と区別する見解もある。」 ともあり、定義が頭の中で多少錯綜しております。 以上、よろしくお願い致します。 -- クラス5 H ------------------------------------------------------------ 日付: 2007/06/05(火) 23:34 件名: 弁理士会能力担保研修: 均等の要件の主要事実とは、その具体性の程度、など  H さん、メール(Sun, 03 Jun 2007 23:31:23 +0900付け)をありがとうございました。松本 です。(6月4日(月)の朝に既に送信したつ もりになっていて、遅くなりました。すいません。) | 特に、クレームの構成要件と | 過失における主要事実とのアナロジーには、 | 大変興味を覚えました。 | | さて、質問がありますのでよろしくお願い致します。 | 講義において | 均等論の5要件のお話のところで | 判例の「本質的でない」では、まだ抽象的過ぎて | 要件事実(主要事実)の域に達していないようなことを仰っていたと記憶してお | ります。  要件に当たる具体的事実、というのに対して、「本質的でない」というこ と自体だけでは違うよね、というのが私の指摘です。本質的でない、という のは、そういう評価というか、結論な訳で、事実としては、その様に言われ るところの具体的な状況というのがあるはずだと思うのです。  それで、それはどういう話になるのかと考えると、例えば、本件発明は xxxxとoooooで出来たこういう構成のooxxであって、ここのところが本質的 部分なんだ、と、それに対して被告製品のクレーム要件と違う部分というの はyyyyの話で、だからそこは本質的部分ではない。……こういうのが具体的 事実を取り上げるということなのだと思うのですよ、この要件について。  証明のプロセスとして考えても、そういう議論をしないと、本質的部分で ないという話を証明できないという意味でも、ご理解いただけると思いますが、 ここで具体的な事実として取り上げられているのは、この発明の内容として の構成の指摘と相違部分の指摘なわけですね。こういうのが具体的な事実が わけであり、本質的な部分でないという要件に合致するべきものというのは ここなのだと思います。  しかしそれにしても、これはこれでいくつか問題はありますね。ご指摘を いただいて改めて考えているところもありますが。  まず、そういう説明、すなわち本質的部分というのを被告の方が特定する べきとはしても、そこが本質的部分だというのを証明する責任があるとはあ まり思えないですね。これは一種の理由付否認のようにでも考えるべきとも 思われます。  それから、そこが本質的部分だということ自体も、これはこれで一つの評 価なわけで、発明の所在というかそういう抽象的な存在というのを事実とし て対象化するにはどうしたらいいのかというのはよくわからないところがあ りますね、確かに。  それでも、単に“本質的部分でない”という題目だけでは、これでは単な る要件であって事実ではなく、要件事実としては、その事案に即した話にな るに違いない、とは思うのです。 | そこで、 | 要件事実(主要事実)にたり得るための判断基準を教えていただけますか。 | (「本質的でない」をどこまでブレイクダウンすればよいのか) | (訴状を書く場合、どこまで記載すればよいのか)  判断基準、というのは、考えつきません。本来は具体的事実自体なのです が、それを表現するについては、あたかも抽象的な話のようになってしまう ので、その程度問題というのが、ご質問の趣旨なのだと思います。これはま ったく程度問題で、或る意味では相対的な問題でもあり、話の場面によって もそれなりに変わってくるかも知れない性質の話だと思っています。  はなはだ、答えにならない答えで恐縮ですが、以上のような話をご理解い ただけるのであれば、それで十分なのだと思います。 | 有斐閣 法律学小辞典第4版には | 要件事実とは「発生要件に該当する具体的事実」 | とあるので、 | ブレイクダウンしていき、 | 具体的な事実になったところで、要件事実にたり得るのでしょうか。  まず、「ブレイクダウンしていき、具体的な事実になったところで」とい う当たりは、若干の違和感があります。まあ、ほかに言いようもないという 面もあるかと思いますが。  具体的な事実こそが要件事実であるから、それを表現する場合には、それ なりにブレイクダウンした話になる、ということなのですね。 | さらにブレイクダウンしたものが間接事実と考えてもよろしいでしょか。  これはちょっと違うと思います。  間接事実は、別の事実です。それがあってもなくても、それだけで要件を 充足したということや要件を充足しないということになるわけではないよう な、そういう別の事実です。  要件事実は、その存否自体が、法律効果を生ずるかどうかをそのまま決し ます。間接事実はそれと違います。或る間接事実があれは、普通はその要件 事実の方もあるよね、とか、ないよね、とかと、経験則的に推測させるとい う関係にあります。 | なお法律学小辞典には | 「要件事実は法規の要件そのままの抽象的事実であるとして | 具体的事実である主要事実と区別する見解もある。」 | ともあり、定義が頭の中で多少錯綜しております。  こういう用語法もあるんですけど、一応、上の方のをご理解になった方が よいと思います。要件そのまま、というのは、要件であって、事実じゃない、 という方がもっともだと思っています。  ・2007年6月5日(火)23時34分24秒 松本直樹 PS こうした問答は、イニシャルに直してウェブページに掲載する予定で すので、ご了解ください。 ------------------------------------------------------------ 日付: 2007/06/06(水) 23:59 件名: Re: 弁理士会能力担保研修: 均等の要件の主要事実とは、その具体性の程度、など 松本直樹 先生 お忙しい中 どうもありがとうございました。 今後ともよろしくお願い致します。 (質問内容をもう少し整理してから また質問したいと思っております) H post scriptum ウェブページへの記載は構いません。

4. 工場内での方法の発明の特許の意義

日付: 2007/06/06(水) 16:09 件名: 特定侵害訴訟研修でお世話になりました 弁護士 松本直樹先生 特定侵害訴訟代理研修クラス5のKともうします。 研修中は貴重な講義をありがとうございました。 そこで、ひとつ質問がございます。 当該研修と直結する質問ではないかも知れませんが、可能であれば教えていただきたいと希望しております。 所属する会社は材料系(非鉄金属等)ですので、他社に特許侵害されたとしても立証困難な場合が殆どです。 社内では最近、特許は持っていても権利行使は難しい・・・との期待はずれ感が生まれつつあります。 特に侵害立証困難な工場内技術(製法や装置)については「出願しない」との方針が増加しつつあります。 立証困難であることは確かですので、私として強い反論はできません。 侵害訴訟で「文書提出命令」を発してもらえれば、立証の助けになるのでは?とも思います。 しかし、「文書提出命令」を発してもらうためにも「ある程度侵害立証が必要」とも言われます。 どの程度の証拠があれば、文書提出命令を出してもらえるのでしょうか? 実施品現物や写真等、分析・解析等がないと無理なのでしょうか? 何かアドバイスいただければ幸いと存じます。 宜しくお願い申し上げます。 ------------------------------------------------------------ 日付: 2007/06/09(土) 11:33 件名: 工場内で実施するなどの発明の特許の意義  K さん、メール(Wed, 6 Jun 2007 16:09:50 +0900付け)をありがとうございました。松本 です。ご返事が遅くなりすいません。 | 所属する会社は材料系(非鉄金属等)ですので、他社に特許侵害されたと | しても立証困難な場合が殆どです。 | 社内では最近、特許は持っていても権利行使は難しい・・・との期待はず | れ感が生まれつつあります。 | 特に侵害立証困難な工場内技術(製法や装置)については「出願しない」 | との方針が増加しつつあります。 | 立証困難であることは確かですので、私として強い反論はできません。  おっしゃるような、工場内の実施が対象となる発明は、侵害を見付けるの が難しいのは否定できないです。  本当に外から分からないような事項であれば、特許によらなくても、自社 の方でもちゃんと秘密を保てるでしょうから、それでマネされることは避け られる理屈でもあります。ですから、特許出願を必ずしもしない、というの も無理もないと思います。  もっとも、特許を取得しておくことの意義は、直接的に侵害を立証して差 止するばかりではないように思います。特許があることで、実際の権利行使 はたとえ難しくても、競合社として回避することはあるはずです。また、他 社に特許を取られてしまうリスクもあります。その場合に、先使用権とかを 考えないといけないとすると、それはかなり不自由な話です。 | 侵害訴訟で「文書提出命令」を発してもらえれば、立証の助けになるので | は?とも思います。 | しかし、「文書提出命令」を発してもらうためにも「ある程度侵害立証が | 必要」とも言われます。 | | どの程度の証拠があれば、文書提出命令を出してもらえるのでしょうか? | 実施品現物や写真等、分析・解析等がないと無理なのでしょうか?  本当に秘密である場合だと、文書提出命令での対処も現実には難しかろう と思います。本来は、秘密である場合こそ、文書提出命令が必要になるので すが。  ただ、その難しさは、命令を発してもらうところにあるのではないと思い ます。命令自体のためには、それなりの蓋然性が示せれば十分で(もっとも、 裁量が広くありそうで、裁判官によって違いそうですけど)、「実施品現物 や写真等、分析・解析等」が必要ということは無いようです。そこまであれ ば、むしろわざわざ文書提出が必要ではないと思います。  一つの問題は、本当に秘密の場合に、営業秘密だとして頑張られた場合、 どうするのか、というところにありそうです。この場合、ただし書きに当た るとして被告が出さないと主張しても、平成16年改正で秘密保持命令を発し て出させることが出来るようなったわけですが、秘密保持命令が異常に不自 由な精度になっているのが問題です。  もっと一般的に、そもそも狙いを付けるのをどう見付けるのか、というこ とです。実際に侵害でないところを取り上げてしまって、上記のような不自 由を押して進めて敗訴、というのは、まずかろうと思います。一般的にも、 特許侵害訴訟の原告勝訴率はとても低いです。  ……なんか、特許実務関係者と思えないような、やる気の出ない話になっ てしまいましたね。困ったな。 ・2007年6月9日(土)11時33分34秒 ・松本直樹 ------------------------------------------------------------ 日付: 2007/06/09(土) 22:14 件名: Re: 工場内で実施するなどの発明の特許の意義 松本先生 丁寧なご返事をありがとうございました。 下に事情を補足いたします。 >特許があることで、実際の権利行使 >はたとえ難しくても、競合社として回避することはあるはずです。 ⇒従来は競合が日本の会社でしたので仰るとおりでした。が、近年アジア メーカーが台頭して来ており、これらアジアメーカーによって特許公報に 記載された発明が模倣されるということを事業部が気にし始めたのです。 模倣されるという疑いが事実かどうか、私はあまり情報を持っておりません。 上記を書いているうちに、問題の所在がハッキリしてきました。 (日本でなくて、外国の工場内実施のことでした。) このような環境に置かれた事業特有の問題であるかも知れません。 先生のご回答についてもじっくり勉強させていただきます。 また、質問をさせていただいたと同時に研修テキストも 当該部分をじっくり読んでみました。 ご返事をいただけるかどうか半信半疑でしたが、返信いただき 感謝しております。 今後とも宜しくお願い申し上げます。 K ------------------------------------------------------------ 日付: 2007/06/11(月) 16:40 件名: Re: 工場内で実施するなどの発明の特許の意義  K さん、メール(Sat, 09 Jun 2007 22:14:47 +0900付け)をありがとうございました。松本 です。 | >特許があることで、実際の権利行使 | >はたとえ難しくても、競合社として回避することはあるはずです。 | ⇒従来は競合が日本の会社でしたので仰るとおりでした。が、近年アジア | メーカーが台頭して来ており、これらアジアメーカーによって特許公報に | 記載された発明が模倣されるということを事業部が気にし始めたのです。 | 模倣されるという疑いが事実かどうか、私はあまり情報を持っておりません。 | | 上記を書いているうちに、問題の所在がハッキリしてきました。 | (日本でなくて、外国の工場内実施のことでした。) | このような環境に置かれた事業特有の問題であるかも知れません。  「外国の工場内実施」というと、いろいろと厄介そうです。  理屈でも、次のような状況が想像されます。まず、工場での単純方法だと、 外国での実施では侵害ではないです(その国の特許を取っていないと)。  生産方法なら、それで出来たものを日本に持ってくると、そこのところで 侵害になりますが、工場での生産自体は侵害ではないですね。  それで、生産者自身が日本で売っているという場合でない限り、日本で売 っている方を訴えることになりますが (たとえそこが同一でも、外国法人だと管轄の問題も一応はある上に、送達 とかも面倒です)、 その場合には、明示義務とか文書提出命令とかは、上手く使えそうにないで すね。被告自身は知らないとか文書もないといわれそうですから。 (条文としては、104条の2は「自己の行為の具体的態様を」としているの で、そもそも当たらないというのか、それともただし書きの方か、など、議 論の余地がありそうですが、なんにしても上手く行かなさそうです。)  それでも、被告が知らないというなら、実際上は原告の言うのをそのまま 認めて貰えそうに思えます。昔の感覚だと、原告がちゃんと特定しないとい けない、ということもありそうですが、近頃だと、もうちょっと強気に裁判 所も認定してくれそうに思います。証明問題であり被告がまともな反証をし ないなら原告の言うように認める、という話になる可能性は十分にあります。 もちろんそのためには、それなりには原告の方の主張および証明(説明的な ものでしょうが)がある必要はあります。  外国がらみの場合は、面倒な面もあるものの(外国人(外国法人)自体を 相手にする場合は、送達など)、水際規制の点では実効性が却って高いはず です。外国工場での生産方法の実施の類型というのは、これから頻繁に使わ れても良いように思います。 ・2007年6月11日(月)16時40分35秒 ・松本直樹 PS お名前やメールアドレス・会社名はイニシャルなどに置き換えますが、 問答をウェブページにケイする予定ですので、ご了承ください。

5. 商標権行使と一般条項

日付: 2007/08/04(土) 11:56
件名: HP3からのメール
Name: S
Address:s
Subject:HP3からのメール

能力担保研修でお世話になったS(クラス5)です。

教えていただきたい点が一つあります。

商標権の侵害事件では、原告側に商標権の取得に際して審議誠実の原則に反する行為があった場合、本来の権利の濫用の理論(宇奈月温泉事件のようなケース)を適用して権利行使ができないと主張することができると考えておりましたが、ハンドブックの商標権侵害の被告主張の欄に記載がありません。もちろん、特許法104条の3の準用については記載があります。

たとえば、商標法4条1項10号の周知とまで言えない未登録商標の使用許諾を含むフランチャイズ契約をしていたフランチャイジーが、フランチャイザーが使用している商標を登録していないことを見て、抜け駆け的に商標登録をして、フランチャイザーに商標の使用禁止やライセンス料の請求をした場合、フランチャイザーは権利濫用の抗弁ができると思いますがいかがでしょうか。

上記の場合には、周知性がないために商標法4条1項10号、17号による無効の抗弁が使えないので、商標法4条1項7号による無効の抗弁も考えられるものの、上記のように権利取得過程に信義に反する点があるため権利の行使が社会通念上著しく不適切であるという意味で権利の濫用の抗弁をすべきと考えます。

さしつかえなければよろしくお願いします。


------------------------------------------------------------ 日付: 2007/08/05(日) 22:57 件名: 商標権と一般条項  S さん、メール(Sat, 04 Aug 2007 11:56:42 +0900付け)をありがとうございました。松本 です。 | 商標権の侵害事件では、原告側に商標権の取得に際して審議誠実の原則に | 反する行為があった場合、本来の権利の濫用の理論(宇奈月温泉事件のよ | うなケース)を適用して権利行使ができないと主張することができると考 | えておりましたが、ハンドブックの商標権侵害の被告主張の欄に記載があ | りません。もちろん、特許法104条の3の準用については記載がありま | す。  手元にハンドブックがないのですが、一般条項の性質からして、おっしゃ るような主張の可能性も、可能性としてはあるとは思います。記載がないと すれば、一般条項なのですから、いつでも可能性はあり、でもそれは補充的 なものなので敢えてあげてない、ということかと思います。 | たとえば、商標法4条1項10号の周知とまで言えない未登録商標の使用 | 許諾を含むフランチャイズ契約をしていたフランチャイジーが、フランチ | ャイザーが使用している商標を登録していないことを見て、抜け駆け的に | 商標登録をして、フランチャイザーに商標の使用禁止やライセンス料の請 | 求をした場合、フランチャイザーは権利濫用の抗弁ができると思いますが | いかがでしょうか。  おっしゃる趣旨は合理的なところもありますが、この場合に一般条項が適 切なのかは、難しいところです。  契約関係での処置を先に考えるべきではないでしょうか。  おっしゃる事案での権利主張を認めないとの理由は、結局は「フランチャ イズ契約」の存在にあるはずです。ならば、一般条項での対処の前に、まず は、フランチャイズ契約の効果として何とかできないかを考えるべきものと 思います。  契約のいずれかの条項の解釈として、何か言えないでしょうか。または、 契約(の終了)についての民法の規定の効果の応用として何か無いでしょう か。そちらの方が、基本的には良さそうに思います。  それでも駄目な場合のための議論としては、一般条項の可能性もあります が、いきなり飛びつくのは疑問です。 | 上記の場合には、周知性がないために商標法4条1項10号、17号によ | る無効の抗弁が使えないので、商標法4条1項7号による無効の抗弁も考 | えられるものの、上記のように権利取得過程に信義に反する点があるため | 権利の行使が社会通念上著しく不適切であるという意味で権利の濫用の抗 | 弁をすべきと考えます。 | | さしつかえなければよろしくお願いします。  商標法の条文によれば権利主張できそうなものを、でも許さない、という のは、そうするべきかどうか、判断が難しいものと思います。「社会通念上 著しく不適切」というものに成るかどうかは、見方を変えればすぐに変わっ てしまいます。  そういう意味でも、一般条項を使うのはかなり難しいものです。  ちょうど昨年の試験では、一般条項による回答を期待された問題だったよ うです。それで、出来がとても悪くて、出題が難しすぎたとも言われたよう です。ただ、この出題に関しては、判例に沿ったものなのですね。  現にその問題では、一般条項を使うことを期待されていたくらいなので、 このご返事メール全体としても、一般条項に全面否定な訳ではけっしてあり ません。でも、気をつけないといけないという話です。  ・2007年8月5日(日)22時57分46秒   ・松本直樹 ------------------------------------------------------------ 日付: 2007/08/06(月) 09:31 件名: RE: 商標権と一般条項 松本先生  早速のご教授ありがとうございます。たしかにフランチャイザー側では予め契約条 項を考慮すべきということですね。  私の理解では、商標事件の場合、当事者同士が知り合いで相互に関係を有する場合 が多いので、 判例でも一般条項の適用が多いと考えています。  このため、項目としてはあげておいた方がよいのではないでしょうか。  ただし、一般条項の判例(ポパイ事件など)としては未登録商標が周知、著名な名 称、図形等であるものが多いので、 周知性のない商標 (とはいっても、たとえば一県内の比較的広い範囲で複数店舗を展開しているといっ た程度の業務上の信用がある場合) において一般条項がどこまで適用されうるのかがよくわかりません。  なお、能力担保研修とは無関係で、できれば以下の点は公開しないようにしていた だけるとありがたいのですが、 (以下略) //////////////////////////////////////////// S特許事務所 弁理士 S //////////////////////////////////////////// ------------------------------------------------------------ 日付: 2007/08/06(月) 12:47 件名: Re: 商標権と一般条項  S さん、メール(Mon, 6 Aug 2007 09:31:01 +0900付 け)をありがとうございました。松本 で す。 |  早速のご教授ありがとうございます。たしかにフランチャイザー側では予め契約条 | 項を考慮すべきということですね。  予め、というか、予め対処があればもちろんベターですが、その問題状況 に至った後の主張としても、一般条項というのは最後のよりどころなのです。 基本的に、契約上の主張で処置されるべきことのように思われます。 |  私の理解では、商標事件の場合、当事者同士が知り合いで相互に関係を有する場合 | が多いので、 | 判例でも一般条項の適用が多いと考えています。 |  このため、項目としてはあげておいた方がよいのではないでしょうか。  一つの定型類型としての一般条項適用の判例(特に最高裁)がある場合、 それは一般条項を使っての立法と思った方がよいです。ただ単に一般条項と いうのとはまったく違います。  それをわきまえた上での話であれば、もちろんOKです。 |  ただし、一般条項の判例(ポパイ事件など)としては未登録商標が周知、著名な名 | 称、図形等であるものが多いので、 | 周知性のない商標 | (とはいっても、たとえば一県内の比較的広い範囲で複数店舗を展開しているといっ | た程度の業務上の信用がある場合) | において一般条項がどこまで適用されうるのかがよくわかりません。  それは、判断が難しい話です。だからこそ、一般条項によらない対処があ るべきでもあるのです。  前回は書き損ねましたが、私は以前に、実際の事案でもこの手の話を手が けたことがあります。いわゆるフランチャイズとはちょっと違いますが、依 頼者は外国メーカーで、その(元)販売代理店が勝手に商標登録をしていた ケースです。販売代理店を変えたために、問題が顕在化しました。  もう昔のことで、細かいことは忘れてしまったのですが(昔々の勤務先で、 事案の途中で私はそこをやめたので最後の決着を知らない)、周知を主張し ての対処と、代理店契約の終了にもとづいての引き渡しの請求などの両方を 主張しました。  一般条項その物を主張するのは、主張としてはオマケです。もちろん、契 約終了に関しての事情として、いかに当方に当然に移転されるべきものかを いろいろと説明することは当然です。 |  なお、能力担保研修とは無関係で、できれば以下の点は公開しないようにしていた | だけるとありがたいのですが、  お書きになっている程度なら、問題を生じない程度の一般的な話になって いると思いますが(...以下略)  ・2007年8月6日(月)12時47分21秒   ・松本直樹
------------------------------------------------------------ 日付: 2007/08/06(月) 15:47 件名: RE: 商標権と一般条項 松本先生  詳細な説明ありがとうございました。一般条項の位置付けが多少なりとも理解でき たように思います。  また何かありましたらよろしくお願い申し上げます。 S
//////////////////////////////////////////// S特許事務所 弁理士 S ////////////////////////////////////////////



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